投稿日 2010/07/19

書籍 「トレードオフ」

トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか「愛される商品」となるか、「必要とされる商品」になるか。

成功したければこのどちらかを選択しなければならず、両方を追い求めることは幻想にすぎない。また、決して中途半端ではいけない。

書籍「トレードオフ」(ケビン・メイニー著 プレジデント社)には、このような主張がされています。

この本は、「愛される商品:上質」、「必要とされる商品:手軽」と位置づけ、「上質」か「手軽」のどちらをとるか(トレードオフ)が大事であると説明されています。

■ 上質とは

上質の例として、音楽のコンサートが考えられます。

好きなアーティストのコンサートに行くことで、アーティストの演奏だけではなく、照明や音響効果、観客との一体感、あるいはコンサートに行ったことを知りあいに自慢できることも含め、これらの経験が音楽における「上質」であるとこの本では説明されています。

このように上質であることの要素に「経験」が挙げられますが、上質は以下の式に分解できるとしています。

上質 = 経験 + オーラ + 個性

上質な商品が醸し出す「オーラ」や、自分に合うか・自分らしさを引き立ててくれるかかどうかという「個性」です。これらがそろっていることで上質であると説明されています。

著者は、上質なものを換言すると「愛される商品」かどうかだと言います。

■ 手軽とは

上質とトレードオフにあるのが「手軽」です。

手軽とは、望むものの手に入りやすさ・使いやすさ、つまり、簡単に手に入るという意味としています。音楽の例では、上質はコンサートでしたが、手軽は iTunes でのダウンロードとなります。手軽を要因分解すると、次のようになります。

手軽 = 入手しやすさ + 安さ

上質の式と見比べることで、手軽な商品やサービスには上質の要素である個性やオーラが入り込む余地はほとんどないことがわかります。逆も同様で、すなわち、両者はトレードオフの関係にあり、上質と手軽を天秤にかける必要があることを意味します。

著者は、手軽なものを換言すると「必要とされる商品」かどうかだと言います。

■ トレードオフ

本書には、iPhone、キンドル、スターバックス、COACH、格安航空会社、ATM など、数多くの事例が取り上げられています。中には期待された商品であったにもかかわらず、すぐに廃れてしまったものもあります。著者は、上質と手軽のどちらか一方を極めることが非常に難しいことであると主張します。

なぜ、それほどまでに難しいのか。その理由は2つあります。

(1)上質と手軽の定義は時間の経過とともに変わる
理由の1つ目として、上質・手軽ともにあくまで相対的なものだからです。上質や手軽を引き上げるのは、テクノロジーやイノベーションです。新しい商品やサービスが従来の市場を壊してまったく新しい市場を創造し、上質さと手軽さをめぐる人々の選択を一変させる場合があるのです。

(2)上質か手軽かは企業が自ら判断できない
もう1つの理由は、上質か手軽かの判断はあくまで消費者がするという点です。さらに言えば、同じ商品やサービスでもそれを上質と感じるか、手軽なものだと思うかは人それぞれだということです。ここで示唆されることは、上質と手軽はセグメントごとに考えなくてはならない点です。

■ 個人にあてはめる

本書の最終章は「あなた自身の強み」です。すなわち、上質か手軽かの概念を自分自身の持ち味や強みの考え方にも適用できると書かれています。著者曰く「世の中で活躍著しい人々は、上質または手軽のどちらかをきわめているものだ」。

注意しなければいけないのは、個人の場合でも上記の上質/手軽を極めることが難しい理由が当てはまることです。(1)上質/手軽は時間とともに変わる、(2)上質/手軽の判断は自分でできない。個人的には、(1)に留意したいと思いますし、故に企業や個人に関係なく、ライバルに追い抜かれないためには、成長が欠かせないと言えそうです。


トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
ケビン・メイニー(著) ジム・コリンズ(序文) 内田和成(解説)
プレジデント社
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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。