投稿日 2010/08/07

書籍「文明の生態史観」に見るシンプル化

世界を区分する時に、東洋と西洋という分け方があります。この分け方は私たちには当たり前すぎるくらいなんの疑問も持たない区分かもしれません。しかし、「文明の生態史観」(梅棹忠夫 中公文庫)では、これとは全く異なる考え方を提示しています。


■第一地域と第二地域

この本の内容を一言で表現するとすれば、東洋と西洋ではなくA図のような「第一地域」と「第二地域」に分けられるということです。第一地域は西ヨーロッパと日本。第二地域はその間に挟まれた全大陸であるとしています。これが本書の主題です。


このA図について少し補足すると、斜線で表されている大陸を東北から西南に走る大乾燥地帯が存在します。筆者によると、この乾燥地帯は歴史にとって重大な役割を果たしたと説明されています。なぜなら、乾燥地帯は悪魔の巣、すなわち暴力と破壊の源泉だったから。ここから遊牧民その他による暴力が表れ、その周辺の文明の世界を破壊したという歴史です。文明社会は、しばしば回復できないほどの打撃を受けることになりますが、ここが第二地域の特徴です。

第二地域の特徴をもう少し見ると、A図では四つの地域にわかれています。(Ⅰ)中国世界、(Ⅱ)インド世界、(Ⅲ)ロシア世界、(Ⅳ)地中海・イスラム世界。これら第二地域に関して、「古代文明はこの地域から発生。しかし封建制を発展させることなく、巨大な専制帝国をつくった。多くは第一地域の植民地や半植民地となり、数段階の革命をへて、新しい近代化の道をたどろうとしている」と説明されています。

翻って第一地域。その特徴は暴力の源泉から遠く、破壊から守られ中緯度温帯地域の好条件であったとしています。

なお、「文明の生態史観」ではA図から発展する考え方を表したものとして、以下のB図も提唱しています。東ヨーロッパや東南アジアが区分され、西ヨーロッパは日本より高緯度の部分を多く持っているのがA図に比べたB図の特徴です。



■シンプルに考えること

この第一地域と第二地域に分ける考え方は非常にシンプルなものです。もちろん、上記のような図では世界を詳細には説明できるとは思いません。この点は著者も十分承知しており、「この簡単な図式で、人間の文明の歴史がどこまでも説明できるとは思っていない。細かい点を見れば、いくらでもボロがでる」と書いています。個人的に思うのは、この分け方は主にヨーロッパとアジアを中心とするユーラシア大陸の分け方なので、中南米やアフリカ、そしてアメリカを加えると修正点も出てくるかもしれません。特にアメリカについては、ヨーロッパ等に比べるとその歴史は浅いものの、現在を語る上では欠かせない存在です。

ただ、この本を読んで思ったことは、複雑なものごとを捉える時にはシンプルに考えることが大事だなという点です。複雑系をシンプルに表現するということは、物事の枝葉をそぎ落とし本質に迫るということだと思います。逆に言えば、本質を把握できないと正しくシンプルに表現できないのではないでしょうか。


■現場の情報

もう一つ、この本を読む中で考えさせられたことは、自分の目で現場を見ることの大切さでした。本書の冒頭で、著者は次のように説明しています。「私が旅行したアジアの国々についての印象。もう一つは、私のアジア旅行を通してみた日本の印象を書こうと思う」。実際に本書では著者が訪れたアジアを中心とする多くの国々のことが書かれており、それは自分の目で見た世界でした。これらの情報を踏まえての第一地域と第二地域が説明されており、説得力を感じます。

自分の目で見る、直接触れるなどの体験は、大切にしたいものです。


文明の生態史観 (中公文庫)
梅棹 忠夫
中央公論社
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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。