投稿日 2010/09/11

ホリエモンの「拝金」は今まで読んだことのない小説

ホリエモンこと堀江貴文氏の小説「拝金」。以前から気になっていたものの、なかなか買うまでには至りませんでした。

そんな中、Business Media 誠の記事に拝金について堀江氏へのインタビュー記事が掲載されており、結果から言うとこのインタービュー記事を読み買うことを決めました。その理由は、インタビュー記事の中で語られていた拝金について感じた、今までにない小説形式。具体的には、「間延びさせないストーリー展開」と「フィクションのハイブリッド化によるノンフィクション形式」です。


■間延びさせないストーリー展開

「拝金」はライブドア事件を題材にしているので、主人公はITベンチャー企業を立ち上げ、数年で上場。時価総額を急激に拡大させていき、そしてプロ野球チームや放送局の買収を試みるというストーリーです。しかし、この小説の特徴として、1~2時間程度でさらっと読めてしまう点があり、それでいて上記のようにポイントはいくつもありかつ中身が薄いようには思いませんでした。

これは、インタビューで堀江氏自身も語るようにあえて間延びさせないようなストーリー展開を図っているからで、その意図を次のように語っています。
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芝居や映画を見に行っても思うことなのですが、ボリュームを増やすためなのか、役者の出番を作るためなのか、2時間ものにしたいからなのかよく分からないのですが、つまらないシーンが結構続くんですよね。あれが本当に必要かと言うと、いらないと思うんです。僕はそういうことを一切やりたくなかったので、どこを読んでも間延びしないようにしています。それが本来の小説なんじゃないかなと思っています。商売として考えた場合は、間延びさせた方がいいのかもしれないですが、一読者の立場からすると、間延びしない世界の方が正しいんです。
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全体のストーリーの中に枝葉の部分が少なく、ここは賛否両論だと思いますが個人的には同意する考え方です。


■フィクションのハイブリッド化によるノンフィクション形式

インタビュー記事では、なぜこの小説を書こうと思ったかについて触れています。堀江氏は「ハゲタカ」という小説について「ITベンチャー企業像に違和感を持った」と指摘しています。社長室にある神棚やITベンチャー企業社長がピストルで殺されそうになるシーンなどがそれです。また、島耕作シリーズについても暴力団がたびたび登場することについても同様の指摘をしています。このように主人公がピストルで殺されそうになるようなあり得ない設定がなくとも、実際にあった自分が経験した面白いエピソードをつなぎ合わせるだけで、いいものが書けるはず。これが小説を書く動機の最も大きい要素と語っています。

小説に登場する人物やお店、または主人公と主要人物との出合うシーンや、上場の様子など、これらはまったくの作り話はほとんどないようです。一方で100%本当の話でもなく、これらは著者が体験したことをモチーフに組み合わせたり一部分だけ変更させたりすることでつなぎ合わせ小説にしたと言っています。

結果的に本書の最後に、本作品はノンフィクションであると書かれていますが、実際は複数のフィクションのハイブリッド化なので読み手にとって、なかなかにリアルな印象を与えてくれました。


■実際に「拝金」を読んでみて

例えばアマゾンのレビューを見てみると、「拝金」について低評価を与えている読者もいます。その理由で一番目立つのが文章表現が稚拙だという指摘です。確かに、小説で使われるその著者独特の言い回しやうまい言い方だと思わせる表現がほとんどなかったように思いました。しかし、個人的には文章への細かい部分の表現にこだわっていない(?)からこそ、スピード感を持って読めました。つまり、人によっては拝金の文章表現が低評価につながりましたが、自分にはそうはならなかったのです。むしろ、短時間でさくっと読めてよかったとさえ思っています。

特に印象的だったのは、主人公(というか堀江氏)のメディアへの意見です。特筆すべきは、ライブドアがニッポン放送の株式を取得することでフジテレビを買収しようとした05年の頃に、おそらく堀江氏が持っていた意見が現在でもそのまま当てはまることです。ネタバレになるので、これ以上は書きませんが、この部分については現代ビジネスの記事で堀江氏と田原総一朗氏の対談記事でも書かれていますので、参考に下記にリンクを付けておきます。ちなみに、拝金を読んでからこのインタビュー記事を読むとよりリアルに感じられおもしろかったです。


※参考情報

これがITベンチャーのリアル――堀江貴文氏が語る、小説『拝金』の裏側 (Business Media 誠)
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1008/24/news011.html

堀江貴文インタビュー vol.2「フジテレビ買収失敗の原因は、実は社内の謀反だったんです」(ページ8~9) (現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/966

堀江貴文インタビュー vol.3「堀江さんと孫さんとはどこが違うんですか?」(ページ1~3) (現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1027


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。