投稿日 2010/12/12

00年代ヒット商品グランドチャンピオンから考える「消費者のコレを変えた」

日経トレンディの2010年12月号に、「2000~2009年 ヒット商品グランドチャンピオン」という企画が掲載されていました。ゼロ年代のヒット商品を発表するという企画です。同誌では毎年12月号でその年のヒット商品ベスト30を発表しており、2000~09年の10年間に発表されたベスト30の計300アイテムから選ばれています(メーカー等の商品企画・開発に関わる208人へのアンケート調査)。その結果は以下の通りです。

「2000~2009年 ヒット商品グランドチャンピオン」 ベスト10
1位  ユニクロ
2位  Wii
3位  冬のソナタ
4位  ブログ
5位  プリウス
6位  動画共有
7位  旭山動物園
8位  mixi
9位  ニンテンドー DS
10位 キリン フリー

このランキング見ていてあらためて思ったのは、消費者や利用者の利用シーンであったり意識を変えたこと。今回は、上記のヒット商品それぞれが消費者の何を変えたかをテーマに書いてみたいと思います。

まず始めに、今回の内容を簡単にまとめておきます(表1)



1位 ユニクロ

ユニクロが何を変えたかを考えたときに、品質の高い衣服を低価格で買えると実感させたことだと思います。2000年代より以前の頃を思い出した時、服って品質においてはほぼ価格と比例してたような気がします。逆に言えば、「安かろう悪かろう」なもの。でもユニクロの服は、最高品質ではないけど価格に対しての品質が、他のアパレルの同じ価格の服よりも良い。つまり、同じ金額を払ってもユニクロの服には品質という価値での満足感が高く、かつフリースやヒートテックな次々にヒット商品を出し続け、その価格対品質の良さを消費者は継続的に実感することができた。個人的にこの点においてユニクロはすごいなと思っています。

ゼロ年代の1位がユニクロというのに少し驚きましたが、よく考えてみればこの10年で国民的なブランドとしての地位を確立したのではないでしょうか。SPAと呼ばれる製造小売業というビジネスモデルとそれを支える中国など人件費の安い新興国での生産によるコスト削減。デフレ自体の象徴と言えそうです。


2位 Wii

Wiiが変えたことは、利用者層の拡大と利用シーン(場所)の拡張です。利用者の拡大については、それまでゲームと言えばざっくりと言えば若い男性がターゲットだったけど、Wiiは直観的な簡単な操作やゲーム内容も懲りすぎていないなど、老若男女が誰でも遊べるようにしたのではないでしょうか。利用シーンの拡張は、利用者拡大の影響もあり、マリオパーティなど家族で楽しめ、かつ場所がリビングで遊べるゲーム機です。Wiiは家族一緒にリビングで遊ぶゲーム機、これがWiiの特徴だと思います。

TVゲームというのはWii登場までは、親から「もうそろそろやめなさい」と注意されるものでした。でもWiiの位置づけは「やめなさい」ではなく、「家族で一緒にやろう」というものなのではないと思います。つまり、母親をも取り込み家族の新しいコミュニケーションツールとなった。この発想の転換を実現したのがWiiです。


3位 冬のソナタ

当時は社会現象とまでなった冬のソナタ。中高年女性によるヨン様フィーバーによる韓流ブームとなりました。従来、日本人が注目する外国文化は欧州がほとんどだったと思います。でも冬のソナタの流行で、日本人の韓国文化を見る目を変えたのではないでしょうか。冬のソナタで韓国に旅行する人が増えたり、冬のソナタ以外でも東方神起だったり、最近では少女時代やKARAなどのK-POPという音楽の1つのジャンルを確立しました。日経トレンディでは冬のソナタを選んだある商品開発担当者の言葉が印象的でした。「100の日韓外交より1つのドラマと感じた」。


4位 ブログ

ブログがもたらしたものは、普通の人という個人の情報発信を可能にしたことです。日本ではブログと言えば日記を公開するイメージがありますが、ブログ登場前は日記は自分だけのための非公開が一般的だったように思います。他人に見せる場合でも、交換日記などごく少数で、かつ日記の内容を見る人もあらかじめ想定されている範囲で、書く内容も非公開が前提。しかし、ネット上に自分の文章を公開することで、情報発信をするのはマスメディアを通じた一部の著名人だけではなくなったのです。さらに、ブログ上やブログを通じてユーザー同士がコミュニケーションをとるようになった、今ではブログの内容が企業でも本格的に消費者行動を知るマーケティングツールになりました。


5位 プリウス

エコというのは無駄にしないなど節約するというイメージがありますが、プリウスはエコ商品を持つことが最先端でかっこいいと認識させるものだと思います。なんとなくですが、「ハイブリッド」という言葉の響きもいいように感じます。それはさておき、エコカー減税などの政策も手伝い、2010年の新車販売ランキングでは1位を獲得しただけではなく、これまでの日本の年間販売台数を更新する見通しであるとの報道もありました(日本経済新聞12/7)。1990年のカローラの30万8千代を抜くことが確実になったとのことです。


6位 動画共有

映像って、以前はほぼテレビが独占してような気がします。ネットで動画を見ることが当たり前すぎて、それ以前のことが思い出せないくらいです。それが例えばYouTubeが登場したことで、自分の見たい映像やテレビでは見られない映像はネットにいくらでもあるような状態になりました。動画は発信・検索・共有するものと消費者の認識を変えたのです。動画が企業のプロモーションにも使われるようになったりもしています。イギリス人歌手スーザンボイルなど、ネットで発信され世界中で共有されたなど、動画の影響は非常に大きいと感じます。


7位 旭山動物園

旭山動物園が提供してくれたものは、誰もが一度は見たことがある動物の新しいおもしろさなのではないでしょうか。動物の普段の生活を見せるという行動展示は、初めて旭山動物園に行った時は驚いたのを覚えています。普通の動物園では白くまはずっと寝ていたりペンギンは氷の上を立ったままというイメージがあったので、白くまの水中へのダイビングや水中トンネルから見るペンギンの泳ぎは今でも印象に残っています。既存のものでも、魅せ方の工夫次第で価値が全く違うということを実績で示した点、最近では日本人だけではなくアジアを中心とした観光客にも人気な場所だそうで、その功績は大きいと思います。


8位 mixi

ネット上の環境に、自分のいろんな友人知人がフラットに並んでいるという感覚はSNS登場前は考えられないことでした。小学校や中学校を卒業以来、久々にmixi上で再会したり、高校卒業後にお互いの近況はmixiから知るなど、なんて言うか、遠すぎず近すぎずというゆるい人間関係がmixiにはあるように感じます。前述のブログと同様、自分の日常を日記としてmixiに公開し、そこからコミュニケーションが発生します。リアル世界でも会う友達だけど、同じ友人なのに現実とはまた異なるやりとり。ネットで会うという新しいコミュニケーションスタイルを提供したのではないでしょうか。


9位 ニンテンドーDS

画面が2つあったり、ハード上のボタンではなくタッチペンでの操作など、既存の携帯ゲーム機にはないおもしろさ、遊び方を子供たちにもたらしました。子供だけではなく、大人の男性やさらには女性も、例えば電車内でゲームをしている姿を普通に見かけるようになりました。2位のWii同様に大人から子供まで遊べ、「脳トレ」などこれまでにはないソフトも多く提供しています。また、赤外線を通じて通信対戦やすれ違い通信など、新しい遊び方もあります。DSは従来にはないゲームソフトと遊び方・コミュニケーションにおいて消費者を変えたと思います。


10位 キリン フリー

アルコール0.00%のノンアルコール飲料。それまではノンアルコール飲料と言っても実はアルコールはゼロではなく人によっては酔ってしまうこともあったようですが、キリンフリーは飲酒後も運転ができることを訴求し、この後車を運転する人や運転中でも気軽に飲めるようになりました。会社の同僚の人で出勤前に飲んだり、残業中の気分転換に飲めると言っていたのですが、ビール好きの人の飲用シーンを増やしたことも見逃せません。キリンフリーが変えてくれたものは、これまではソフトドリンクで我慢していたようなアルコールを飲みたくても飲めない人への新しい選択肢だと思います。

再掲になりますが、最後に今回の内容を簡単にまとめておきます(表1)。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。