2010/08/28

書籍「死刑絶対肯定論」の内容整理とそこから考えたこと

「死刑絶対肯定論 -無期懲役囚人の主張-」(美達大和 新潮新書)という本を読みました。著者の考察の深さや受刑者達のリアルな実態、また具体的な提言など考えさせられる内容が多く、読んで良かったと思う本でした。

この本の特徴は著者自身が無期懲役の囚人である点です。罪状は二件の殺人。現在は、刑期十年以上かつ犯罪傾向が進んだ者のみが収容される「LB級刑務所」で服役しています。

著者は「死刑絶対肯定論」という本書のタイトル通り、死刑在置論者です。本書では「死刑こそ人間的な刑罰である」とさえ言っています。読み進めていくと、現役受刑者にしか持てない視点で書かれている内容が数多く出てきます。詳細は後述しますが、だからこそ、これだけの説得力のある内容の本だと思いました。


■著者が「死刑絶対肯定」に至った反省しない受刑者達

著者は、自分が服従してみて殺人罪の量刑が軽すぎると痛感したと言っています(p.81)。しかしもともと自分が服従するまでは、そのようには考えていなかったそうです。なぜなら、懲役10年や15年という年月は相当に長く、受刑者は罪を悔い反省し、服従生活を通して改心すると思っていたからです。

ではなぜ著者は、殺人罪の量刑が軽すぎると思うのか。(ちなみにここで言う殺人罪の量刑とは、懲役○年・無期懲役を指していると思われます) 軽すぎると痛感する理由は、「犯罪者はほとんど反省をしない」からです。この点は本書を読んで驚いたことでもありますが、著者が実際に見聞きした受刑者達の実態として以下のような例が書かれています。印象的だったので、本文をそのまま引用します(p.72)。
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務めてみてすぐに気が付いたのは、長期刑務所の受刑者達の時間に対する観念の特異性でした。
「10年なんて、ションベン刑だ」
「12、3年は、あっという間」
「15年くらいで一人前」
「早いよ、ここの年月はさあ。こんなんなら、あと10年くらいの懲役刑なら、いつでもいいね」
「考えていたのと全然違ったよ。こんなに早く時が過ぎるとはねえ」
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そして、この時間認識の特異性に加えて、殺人事件で服従している受刑者のほとんどが、反省や謝罪や改悛の情とは無縁であると指摘しています。自分の罪の意識を持つものは稀であり、むしろ(自分が殺した)被害者に責任を転換し非難する者が多数であり、遺族の苦痛等の心情を忖度する者は極めて少数だとすら書かれています(p.82)。あくまで著者のまわりの受刑者に対する実感ベースとしてですが、反省をしている者は1~2%というのがせいぜいだそうです(p.161)。

このように、受刑者達の時間認識の特異性、また、殺人という罪を犯したことに対して反省すらない受刑者を数多く見てきた著者は、死刑を絶対的に肯定すると主張しているのです。なお著者自身についての補足ですが、二件の殺人を犯したため本人は死刑を求刑したようです。しかし判決は無期懲役であり、生涯に渡り謝罪をしていくことを決め社会復帰は希望していないと書かれています。


■「人間的な刑罰」とは

著者の考えに、「犯した罪に見合った刑罰を科すべきである」というものがあります(p.145)。人の命を奪い、残された遺族に悲しみを与えたにもかかわらず、反省しない受刑者が刑期を終え社会に戻るのを見続けた著者は、不条理だと認識しているためです。

よって、死刑を科されるような罪を犯した者には、適切な時間を定めて執行し自らの命を以って自分の責務を果たすようにすること、それが値しない者には無期懲役を科すことで、刑務所で厳しく改善指導をすることこそ、人間らしい処遇であると説きます。

前述のように受刑者は反省をしないとされていますが、一方で死刑囚には、反省し改悛の情を示す者が想像以上にいるという印象を著者は語っています。死刑により自分の死と向き合うことで、このような状態になるのかもしれません。死刑と無期懲役の差はここにあるように思いました。また、本書で取り上げられていた法廷でのある遺族の、次の言葉が印象的でした。「(死刑が)執行されても赦さないが、納得する。新しい人生を歩いていく区切りになる。」

殺人事件では被害者は二度と生き返ることはありません。殺人という犯罪行為の責任を取るため加害者も自らの命を以って責務を果たすことが、著者の言う「人間的な刑罰」なのではないかと思いました。


■著者の提言

以上を踏まえ本書で提言されているのは、「不定期刑」と「執行猶予付き死刑」です。不定期刑とは、服役年数の上限・下限を決めておき、服役中の受刑者の態度・行動によって刑期を調整するというものです。執行猶予付き死刑というのは、現在の死刑はそのまま残し、別に定めた条件を満たさない場合は死刑とするものです。

執行猶予付き死刑の考え方は受刑者に自らの罪に向き合わせることに根ざしており、その具体的な方法として、字数(4000~6000字)を指定したレポート作成を受刑者に提出させることが提言されています。課題例として、まずは「自分の罪とは何か」、「何故そうなったか」、「自分の生活と事件の関係」等、レポート課題により自分について深く考察することを促します。次の段階として、「命を奪われるとはどういうことか」、「被害者の最期の様子」、「自分が被害者であればどう感じるか」、「償い・謝罪とは」等々、徹底的に「死」と向かい合うような状況をつくるのです。

一方で、著者は死刑基準の再設定も求めています。被告人の境遇や将来するかわからない更生の可能性よりも、罪という行為こそを重視し刑を科すことが望ましいとします。また、被害者がたとえ一人であっても場合によっては死刑を適用するよう基準を変えるべきと主張しています。


■そもそも刑罰とは何か

ここまで、本書の内容や著者の主張を自分なりに整理したつもりです。冒頭で、本書の特徴は著者が無期懲役の囚人であると言及しましたが、逆に言えば、本書から伝わる受刑者の実態や具体的な提言は、この著者でなければ及ぶことができないリアルな内容だと感じました。

ではあらためて刑罰について考えてみると、刑罰を科す目的とは何でしょうか?この本を読んで、加害者が自分の犯した罪を向き合い罪を償うことと、殺人などの刑事事件を発生させない抑止力にあると思いました。

前者は、まさしく著者の本書を通じた主張です。ここでは、後者の抑止力について少し考えてみます。抑止力というは、初犯を起こさないことと、前科のある者が再び罪を犯さないことへの2つがあります。今回の書籍「死刑絶対肯定論」では、著者は囚人であるが故に自分の経緯や立場、また他の受刑者の実態を考慮しての提言となっています。つまり、本書の提言が当てはまるのは、刑罰による2つの抑止力のうち、特に後者である再発防止だと思うのです。

同じテーブルに並べることに抵抗を感じますが、マーケティングでは消費者の購買行動を、初めてその商品を買う「トライアル」と、気に入ったから次もまた買うなどの「リピート」に分けることがよくあります。例えば、期間限定商品などはトライアル購買を狙っており、定番商品はリピート購買が安定しているからこそのロングセラーという感じです。

話を犯罪への抑止力に戻すと、上記の著者の提言は再犯防止には効果があるのかもしれませんが、初犯を未然に防ぐという意味では、どこまで影響を与えられるかと思ってしまったのが正直なところです。(もちろん、その具体的な方法は持っていませんが)


本書は、死刑在置論と廃止論において一石を投じるものとなる、またなってほしいと思わせる内容でした。受刑者の立場からの視点で書かれており、かつ具体的な提言がされています。本書は(賛成・反対問わず)一読の価値があるのではないでしょうか。


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2010/08/22

春夏連覇の興南高校と「もしドラ」に共通する組織マネジメント

今年の甲子園は沖縄の興南高校が県勢初の夏の甲子園制覇、そして松坂大輔擁する98年の横浜高校以来の春夏連覇で幕を閉じました。

昨日の決勝戦は興南の強力なバッティングが目立ちましたが、個人的には我喜屋監督の存在も忘れてはいけないなと思っています。同監督の組織マネジメントついて、日経ビジネス2010.6.14号が記事で取り上げていました。記事のタイトルは「組織マネジメント  企業流改革で日本一に」。勝つ組織を短期間で作り上げる秘訣を、監督の語録から探っていくというものです。


■我喜屋監督の組織マネジメント

我喜屋監督の組織マネジメントのベースには、興南高校卒業後の社会人野球選手や監督以外にも、サラリーマンとしての職務の経験があるようです。

2010/08/18

Appleはスマート自動車iCarをつくれるか?

アップル製品の情報を取り扱っている「Patently Apple」というブログがあります。今年の8月5日付で、アップルが自転車の特許を申請したと報じており、米国特許商標庁が公開した設計図のような図も掲載されています(図1)。


 出所:www.patentlyapple.com


■iBikeはアップルによるスマート自動車iCarへの布石?

このアップルによる特許申請の記事について日本のYUCASEE MEDIAは、以下のように説明しています。「車輪、ハンドルなど様々な部位に、さらにはナイキのシューズにセンサーを入れて、そこから出されるデータをiPodで集計する。これによって、速度はもちろんのこと、風速 、距離、時間、高度、標高、傾斜、減少、心拍数、消費電力、変速機などの基本データが分かる。さらには、予想進路、心拍数をパワーとスピードなども分かる。」

アップルのスマート自転車(iBike?)の記事を見た時に、始めは唐突な印象がありました。しかし自分なりにいろいろ考えると、これはスマート自動車iCarの布石なんじゃないかなと思えてきます。


■スマート自動車iCarへの布石だと考える理由

これまでは個人におけるネットとの接点はPCが主でした。そしてここ数年の潮流としてモバイルや最近はiPadなどのスレート媒体にシフトしつつある状況です。一方で、今後のネット接続デバイスとして利用が増えていくのはテレビなどの家電と自動車だと思っています。つまり、今以上に「いつでもどこでもネット」という環境で、我々がネットの存在に気づかないくらい私たちの生活はますますネットと密着するようになるのではないでしょうか。

現在の自動車業界を考えると主流なのはガソリン自動車で、今後もそう簡単にガソリンを動力とする車はなくならないと思いますが、ガソリン車から電気自動車(もしくは燃料電池車)への流れは少しずつとはいえ確実に進んでいます。例えばブレーキも電子制御システムが採用されるようになり、これは換言すると要は車の電子化で、そうなるとネットとの親和性が高くなるはずです。

そう考えると、上記で挙げたPC・モバイル・TVなどの家電・自動車の4つのデバイスにおいて、最後の自動車でもアップルがスマート自動車であるiCarを考えているとしても、違和感なく話が入ってきます。

話をiBikeに戻すと、アップルはスマート自動車iCarを開発するにあたり、いきなりスマート自動車の開発はリスクも伴うので、まずは自転車のiBikeというスモールスタートのための特許申請なのではないかと思ったのです。


■アップルのスマート自動車iCarとは

仮にアップルがスマート自動車iCarを開発するとして、iCarとはどのような自動車になるのでしょうか。iBikeがiCarへの布石であるとするならば、前述の速度・風速 ・距離・時間・消費電力などの基本データは踏襲されそうです。

さらには、これまでのiPodやiPhoneが登場した時のインパクトを考えると、既存の自動車とは一線を画すような予感もします。既存の自動車をあらためて考えてみると、車を運転するとは「ハンドル、アクセル、ブレーキで車をコントロールすること」です。もう少し詳細に見れば、ギアチェンジ(あるいはバック/停止)の操作、ミラーで周囲を把握し、スピードメーターで速度が、カーナビで行先や現在位置が確認できます。iCarでは、これら既存の自動車とは異なるユーザーインターフェイスを持つことも想像できます。もしかしたら、アクセルを踏むという操作はなく、iPhoneやiPadに見られるようなもっと直観的に操作できる車かもしれません。(一方で、既存の運転方法とあまりに変えすぎると、交通事故の要因になりかねませんが)

安全面ではどうでしょうか。今以上の車の安全性向上にも期待したいところです。もしアップルがiCarというスマート自動車を出してくる際は、これまでにない使いやすさ+安全性についてスティーブ・ジョブズは相当にこだわってくるような気もします。


■そもそもアップルはスマート自動車の開発は可能なのか

とは言いつつも、アップルはスマート自動車の開発は本当に可能なのかという懸念は残ります。なぜかと言うと、ここ最近見られるアップルのクローズドな姿勢を考えると、iCarもアップル独自開発となりそうで、果たしてアップルだけでそもそも自動車が作れるのかというのが疑問だからです。

自動車のデザインや機能、ユーザーインターフェイスはアップルらしい斬新なものが出来上がるかもしれませんが、設計や動力システムの構築などの基幹部分は今のアップルの力だけでは難しいような気もします。

よく言われるのが、アップルのiTunesやApp Store、iOSによる一社クローズドな姿勢に対して、グーグルはアンドロイドOSやクロームの提供、グーグルTV開発状況を見てもオープンな姿勢です。グーグルはすでにGoogle Maps等の車との相関性の高そうなサービスを提供していることも考えると、もしかすると、スマート自動車開発はグーグルにこそ相応しいのかもしれません。

他方、これとは違う可能性として、いっそのことアップルとグーグルともう一社くらい(テスラとか?)での合弁会社からスマート自動車を開発したらどうか、なんてこともあるかもしれません。自動車市場であればアップルとグーグルが組んだとしても、例えばモバイル広告のように独占禁止法に抵触することもなく、アップル+グーグルによるスマート自動車はなかなかおもしろい存在になりそうです。

果たして、iBikeの今後やその先の可能性はどのようなカタチで進むのでしょうか。


※参考情報

Apple Introduces us to the Smart Bike (Patently Apple)
http://www.patentlyapple.com/patently-apple/2010/08/apple-introduces-us-to-the-smart-bike.html

アップルが「スマート自転車」の特許申請 (YUCASEE MEDIA)
http://media.yucasee.jp/posts/index/4368


2010/08/15

梅棹忠夫とドラッカーから考える情報革命のこれから

今回のエントリー記事では、梅棹忠夫、ドラッカーのそれぞれの著書から情報革命にいたる歴史を大きな流れで整理し、あらためて情報革命について考えてみます。


■人類の産業の展開史 (梅棹忠夫)

梅棹忠夫の著書「情報の文明学」(中公文庫)によると、人類の産業の展開史は次の三段階を経たとしています。(1)農業の時代、(2)工業の時代、(3)精神産業の時代(以下、情報産業とします)。「情報の文明学」がおもしろいのはここからさらに進めて、この3つの時代の生物学的意味を考察している点です。ここで言う生物学的意味というのは、受精卵が発生から自らが展開していく過程のことで、具体的には人間の体が形成されるまでの、内胚葉、中胚葉、外胚葉の3つの胚葉です。以下、本書から抜粋してみます。

(1)農業の時代
生産されるのは食糧であり、この時代は人間は食べることに追われている。農業の時代を人間の機能に置き換えれば、内胚葉からできる消化器官系統の時代であり、三分類で言えば内胚葉産業の時代である。(p.133)

(2)工業の時代
工業の時代の特徴は生活物資とエネルギーの生産。人間の手足の労働を代行し、これは筋肉を中心とする中胚葉諸器官の機能充足の時代を意味する。よって、工業の時代とは中胚葉産業の時代である。(p.133)

(3)情報産業の時代
外肺葉系の諸器官は皮膚や脳神経系、感覚諸器官を生み出す。情報は感覚、脳神経に作用し、情報産業の時代は外肺葉産業の時代である。(p133-134)

以上について著者の梅棹忠夫は、食べることから筋肉の時代へ、そして精神の時代へと産業の主流が動いてきたとし、三段階を経て展開する人類の産業史は、「生命体としての人間の自己実現の過程」とも捉えることができると総括しています。(p.134)


■産業革命とIT革命 (ドラッカー)

次はドラッカーです。ドラッカーは著書「ネクスト・ソサエティ」で産業革命とIT革命について比較し、次のような内容を書いています。

(2)産業革命
産業革命が、実際に最初の50年間にしたことは産業革命以前からあった製品の生産の機械化だけだった。鉄道こそ、産業革命を真の革命にするものだった。経済を変えただけでなく、心理的な地理概念を変えた。(p.75-76)

(3)IT革命
今日までのところ、IT革命が行なったことは、昔からあった諸々のプロセスをルーティン化しただけだった。情報自体にはいささかの変化ももたらしていない。IT革命におけるeコマースの位置は、産業革命における鉄道と同じである。eコマースが生んだ心理的な地理によって人は距離をなくす。もはや世界には1つの経済、1つの市場しかない。(p77-79)


■インターネットの2つの特徴

梅棹忠夫の言う情報産業、あるいはドラッカーの言うIT革命を語る上で、欠かせない存在はインターネットだと思います。もはや自分の生活や仕事においてなくてはならない存在ですが、私はインターネットの特徴は「双方向性」「個の情報発信」だと考えています。この2つの特徴の例としては、例えばmixiやFacebookのようなSNSやツイッター、あるいはソーシャルゲームなどで、ネットによりこれまでにはなかった「つながり」が実現しています。


■これまでになかった「つながり」とは

これまでになかった「つながり」をもう少し掘り下げてみます。例えば前述のSNS。SNS上では、過去から現在に至る自分の人間関係がフラットに並んでいます。例えば、小中学校時代の友達、高校や大学の友達、社会人になってからの知人もいれば、趣味を通して知り合った友人もいます。また、お互いに会ったことがない人でも、SNS上でつながることもでき、これら友人・知人がSNS上に並んでいます。SNSや携帯がなかった時には、中学校を卒業すれば次に会い近況を話す・知る時は5年後の成人式だったかもしれませんが、SNSでつながっていれば、(全てではないですが)お互いの状況を確認することもできます。

SNSが長い時間軸にわたる人間関係が並び情報がストックされるイメージな一方で、ツイッターはリアルタイムでその時その瞬間でつながるフローのイメージです。お互いがツイッターを使っているという前提はありますが、ツイッターで「○○なう」とつぶやけば状況が、楽しいやおいしいとつぶやけば感情が瞬時に伝わります。もしネットがなければ、「昨日、××を食べておいしかった」などとなり、おいしいという感情がその場にいない友人にリアルタイムでつながることはできないでしょう。


■情報革命のこれから

上記のドラッカーが言及するIT革命も考慮すると、eコマースでは買い手と売り手の距離をなくしましたが、ネットによる「つながり」ではこれまでにはなかった人と人との距離感を生み出しているように思います。やや大げさかもしれませんが、既存の人間関係の距離感を破壊していると感じます。

ここまでは「つながり」について人と人との場合を見てきましたが、「双方向性」と「個の情報発信」は何も人だけとは限らないと思います。モノと人やモノとモノのつながりも考えられます。例えば、デジタル家電と人がネットを媒体につながることや、異なる複数の家電が情報のやりとりをする可能性も十分にあります。単なる想像ですが、外部から携帯で連絡すれば、冷蔵庫と台所と電子レンジが連携し勝手に料理を作ってくれるとか、自動車と自動車がつながれば車同士の交通事故が無くせるかもしれないなど、いろんな可能性があります。

梅棹忠夫は先述の「情報の文明学」において、工業の時代になり農業は飛躍的に生産性が向上し、情報産業の時代でも工業だけでなく農業も大発展を遂げた書いています。ネットによるこれまでにない人と人、人とモノ、モノとモノがつながることで、情報革命はこれからも進化が続きそうです。


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2010/08/08

コンテンツとして考える「花火大会」と今後の存続

昨日の8月7日は大規模な花火大会が全国各地で実施されたようです。東京では「江戸川区花火大会」、大阪は「なにわ淀川花火大会」、愛知では「岡崎観光夏まつり」が開催されました。


■花火の歴史

花火についてWikipediaをあらためて見てみると、発祥の地は中国で、一説には、作られ始めたのは6世紀に中国で火薬が使われるようになったのとほぼ同時期だそうです。日本での歴史を見てみると、花火が製造されるようになったのは16世紀の鉄砲伝来以降で、当初は主に戦のためのものでした。

今のように娯楽としての花火は江戸時代になってからで、江戸の庶民にとっては人気があったとされています。ちなみに、「たまやー」とは花火師の玉屋のことで、鍵屋とともに、江戸の時代では二大花火師の地位を築いたと言われています。


■花火大会の集客力

日本人には古くから愛され、夏の風物詩の代名詞とも言える花火大会ですが、ちなみに去年の「江戸川区花火大会」の来場者は139万人だそうです。考えてみれば、わずか1、2時間程度の花火を見るためにこれだけ多くの人が、同じ場所に集まり同じ花火をリアルタイムで楽しむというのは、あらためて花火大会の集客力のすごさを感じます。

同じ場所に・同じものを・リアルタイムに楽しむ、を他に考えてみるとぱっと思いつくのは、プロ野球やサッカーなどのスポーツ観戦、あとはアーティストなどのコンサートがあります。ただ、観客動員数を見ると、スポーツ観戦は日本では最大でも5万人規模であり、ライブとかコンサートでも5-10万人くらいだと思います。花火大会は、入場料などが基本タダ、河川敷や土手など観客スペースが大きい、などの人が集まりやすい条件があるとはいえ、一度にこれだけの人数の人が足を運ぶというのは、コンテンツとしては稀有な存在だと思います。


■花火大会とお金

一方で、花火大会に行くと気になることとして、今後の存続に不安を感じる点です。というのも、前述のように花火大会を見に行っても基本的には入場料などの費用は不要だからです。あれだけ多くの人が来ているにもかかわらず、花火大会へ直接お金がまわっていないのです。

花火大会を開催するためには、花火を製造・打ち上げる花火師の存在は不可欠であり、それ以外にもスタッフや警察による当日の交通規制や警備、あるいは観客場所の整備や仮設トイレの設置も必要です。これらの経費はどこから出ているかというと、協賛金や自治体からの予算であり、おそらく昨今の景気状況を考えれば、予算の確保も難しくなってきているのではないでしょうか。(個人による募金も実施しているようですが、量だけを考えればそれほど期待できないように思います)


■協賛企業としての魅力は

個人の利用料金は基本的に無料で、企業などの協賛金で支えられている代表的なコンテンツには民放テレビがあります。そういえばテレビの影響力・リーチ力の大きさは、ホリエモンこと堀江貴文氏が田原総一朗氏からのインタビューで、「全国民である1億人にリーチできるメディア」と表現しています。これが欲しいために、05年当時に社長を務めていたライブドアでフジテレビを買収したかったと語っています。(このインタビューはおもしろかったです。記事URLは最後に貼ってあります)

では花火大会はどうでしょうか。もちろんテレビと単純には比べられませんが、テレビ番組では協賛企業によるCMがばんばん流れているのに対して、花火大会では協賛企業の存在を意識する場面がほとんどないように感じます。企業が協賛金を出すということは、花火大会を応援したいという気持ちもあるとは思いますが、一方で、企業である以上は投資対効果も求めなければならないはずです。ROI(Return On Investment 投資収益率)においてどこまで効果があるのかを知りたいところです。


■花火文化の存続を

花火は日本では伝統的な文化であり、先述のように夏の風物詩として人々にひと時のやすらぎを与えてくれる存在だと思います。一瞬の輝きに対して歓声が起こり、花火の音の後の静寂に拍手が鳴り響きます。英語では花火をFireworksと言い、火の「work」と表現しますが、日本語では同じものを「花」と表現する文化です。この花が枯れないよう、毎年夏にはこれからも咲き続けてくれることを願うばかりです。


※参考情報

「江戸川区花火大会」 江戸川区ホームページ
http://www.city.edogawa.tokyo.jp/chiikinojoho/event/hanabi8/

花火 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E7%81%AB

東京/花火大会2010 (じゃらんnet)
http://www.jalan.net/jalan/doc/theme/hanabi/13.html

堀江貴文インタビュー vol.2「フジテレビ買収失敗の原因は、実は社内の謀反だったんです」|現代ビジネス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/966


2010/08/07

書籍「文明の生態史観」に見るシンプル化

世界を区分する時に、東洋と西洋という分け方があります。この分け方は私たちには当たり前すぎるくらいなんの疑問も持たない区分かもしれません。しかし、「文明の生態史観」(梅棹忠夫 中公文庫)では、これとは全く異なる考え方を提示しています。


■第一地域と第二地域

この本の内容を一言で表現するとすれば、東洋と西洋ではなくA図のような「第一地域」と「第二地域」に分けられるということです。第一地域は西ヨーロッパと日本。第二地域はその間に挟まれた全大陸であるとしています。これが本書の主題です。


このA図について少し補足すると、斜線で表されている大陸を東北から西南に走る大乾燥地帯が存在します。筆者によると、この乾燥地帯は歴史にとって重大な役割を果たしたと説明されています。なぜなら、乾燥地帯は悪魔の巣、すなわち暴力と破壊の源泉だったから。ここから遊牧民その他による暴力が表れ、その周辺の文明の世界を破壊したという歴史です。文明社会は、しばしば回復できないほどの打撃を受けることになりますが、ここが第二地域の特徴です。

第二地域の特徴をもう少し見ると、A図では四つの地域にわかれています。(Ⅰ)中国世界、(Ⅱ)インド世界、(Ⅲ)ロシア世界、(Ⅳ)地中海・イスラム世界。これら第二地域に関して、「古代文明はこの地域から発生。しかし封建制を発展させることなく、巨大な専制帝国をつくった。多くは第一地域の植民地や半植民地となり、数段階の革命をへて、新しい近代化の道をたどろうとしている」と説明されています。

翻って第一地域。その特徴は暴力の源泉から遠く、破壊から守られ中緯度温帯地域の好条件であったとしています。

なお、「文明の生態史観」ではA図から発展する考え方を表したものとして、以下のB図も提唱しています。東ヨーロッパや東南アジアが区分され、西ヨーロッパは日本より高緯度の部分を多く持っているのがA図に比べたB図の特徴です。



■シンプルに考えること

この第一地域と第二地域に分ける考え方は非常にシンプルなものです。もちろん、上記のような図では世界を詳細には説明できるとは思いません。この点は著者も十分承知しており、「この簡単な図式で、人間の文明の歴史がどこまでも説明できるとは思っていない。細かい点を見れば、いくらでもボロがでる」と書いています。個人的に思うのは、この分け方は主にヨーロッパとアジアを中心とするユーラシア大陸の分け方なので、中南米やアフリカ、そしてアメリカを加えると修正点も出てくるかもしれません。特にアメリカについては、ヨーロッパ等に比べるとその歴史は浅いものの、現在を語る上では欠かせない存在です。

ただ、この本を読んで思ったことは、複雑なものごとを捉える時にはシンプルに考えることが大事だなという点です。複雑系をシンプルに表現するということは、物事の枝葉をそぎ落とし本質に迫るということだと思います。逆に言えば、本質を把握できないと正しくシンプルに表現できないのではないでしょうか。


■現場の情報

もう一つ、この本を読む中で考えさせられたことは、自分の目で現場を見ることの大切さでした。本書の冒頭で、著者は次のように説明しています。「私が旅行したアジアの国々についての印象。もう一つは、私のアジア旅行を通してみた日本の印象を書こうと思う」。実際に本書では著者が訪れたアジアを中心とする多くの国々のことが書かれており、それは自分の目で見た世界でした。これらの情報を踏まえての第一地域と第二地域が説明されており、説得力を感じます。

自分の目で見る、直接触れるなどの体験は、大切にしたいものです。


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2010/08/06

「リ・ポジショニング戦略」

「リ・ポジショニング戦略」(ジャック・トラウト、スティーブ・リブキン 翔泳社)という本を読みました。リポジショニングやリデザインは、今の自分の仕事におけるテーマと言っていいものです。


■ポジショニングとリ・ポジショニング

両者を簡単に説明すると以下のようになります。

ポジショニング : 潜在顧客の脳の中にあるあなた自身のイメージを、ほかと差別化すること
リ・ポジショニング : ポジショニングイメージの刷新

ちなみにリポジショニングについては、本書では次のように説明されています。「市場の消費者の心を変えるのではなく、消費者の心の中の認識を少しずつ調整していくものだ」。一度消費者が持ったイメージというのはなかなか変わらないというのは同意できる考え方です。著者は、リポジショニングにおける大事な点は一貫性であり、あきらめずに同じことを何度も続ける必要があるとしています。


■「戦略BASiCS」に見る一貫性

書籍「経営戦略立案シナリオ」(佐藤義典 かんき出版)では、戦略策定のための「戦略BASiCS」というフレームが紹介されています。BASiCSはそれぞれ以下の要素の頭文字をとったものです。

◆Battlefield(戦場・競合)
どこで戦うか。戦場は顧客の心に中に存在する選択肢。よって、競合を決めるのは顧客である。

◆Asset(独自資源) & Strength(強み・差別化)
戦略は、自らの強みを活かして差別化していくことが基本。差別化するとは、競合より高い価値を顧客に提供することである。差別化を長期的に支えるのが「独自資源」。つまり、独自資源と差別化は連動する。

◆Customer(顧客)
顧客の価値に合わせ、経営戦略も顧客の視点で考える。

◆Selling Message(メッセージ)
「価値」を伝えるメッセージ。差別化ポイントを価値に翻訳して顧客に伝えるもの。

この戦略BASiCSを考える際には、5つの要素の「一貫性」が非常に大切であると著者は説明します。例えば、顧客を絞ると、戦場(市場)や顧客が決まります。同時に、自らの強みが差別化され、強みは独自資源によるものでなければいけません。また、顧客へ届けるメッセージも差別化が顧客にとっての価値を表現する必要があります。


■リ・ポジショニングと戦略BASiCS

「リ・ポジショニング戦略」を読んでいて、ふと「戦略BASiCS」が頭に浮かびました。リポジショニングは「言うが易し行うが難し」だと思いますが、リポジショニングを考える際には戦略BASiCSがヒントになるかもしれません。例えば、独自資源や強みにそぐわないリポジショニングであれば、いずれはその地位は失われるはずです。自社の強みに合ったリデザインであっても、そもそもとして顧客にとっての価値は少なく魅力的でなければ、単に自社の強みを自慢したいだけにしか映りません。

ポジショニングをすることで顧客に選ばれたとしても、いつかは陳腐化してしまいます。リポジショニングに成功したとしても、一度くらいではいずれ陳腐化するのでしょう。

「リ・ポジショニング戦略」の帯には、次のような言葉が書いてありました。「マーケティングは人々の認識との戦いである」。今思うのは、戦いの修飾語に「終わりのない」という言葉がつくのかもしれないということです。


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