2011/02/05

facebookの理念とこれからを考える

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)「フェイスブック 若き天才の野望」という本を読みました。早くも2011年の読んだ本ベスト5に入りそうなくらいおもしろく、示唆に富む内容でした。

著者のデビッド・カークパトリックによるマーク・ザッカーバーグ(フェイスブックCEO)本人へのインタビュー取材、その他数多くの関係者への取材内容から書かれたものです。特筆すべきは、その取材量の膨大さで、巻末の著者による謝辞にはインタビューをした関係者の名前一覧が載っており、ざっと数えただけでも100人を超える人数です。

■映画「ソーシャル・ネットワーク」との違い

この本のおもしろさには、2つの切り口があると思いました。1つはフェイスブックの歴史と言っていいほど、ハーバード大学での立上げから規模拡大、5億人のユーザー規模に至るまでの経緯が、その間の人間関係などと併せてとてもリアルに描かれていることです(注.2011年2月現在は6億人を超えている)。これは膨大な取材量だからこそ再現できたのだと思います。

この点は1月に日本でも公開された映画「ソーシャル・ネットワーク」と大きく異なる点だと思いました。余談ですが、映画を見た印象を一言で言えば、フェイスブックの1つの側面を描いているにすぎないというもの。これは、フェイスブックの共同創業者であり後にCEOのマーク・ザッカーバーグを訴えることになるエドゥアルド・サヴェリンからの視点が色濃く出ていること、また、映画作成にあたりザッカーバーグへの取材を断られているためザッカーバーグがフェイスブックを通じて何をしたいか(フェイスブックの本質的な部分)があまり描かれていないこと、ストーリーではユーザー数が100万人突破からの先が省略されていること、などが主な理由です。その点、「フェイスブック 若き天才の野望」にはフェイスブックの歴史が忠実に書かれていると思わされたのが印象的でした。フェイスブックに興味のある方は、この映画だけではなく本書「フェイスブック 若き天才の野望」も読んでみてもおもしろいと思います。一読の価値ありです。

■facebookの理念

2点目のおもしろさは、CEOのザッカーバーグがどう考えていたのか・考えているのか、フェイスブックとグーグルの設計思想の比較、フェイスブックにはどのような価値があるのか、今後の可能性など、これからのネットの世界のあり方を示唆する内容が豊富に書かれている点です。

本書を読んで見えてきたのは、フェイスブックの理念は「オープンな世界・透明な世界をつくること」です。これはCEOであるザッカバーグ個人の核となる思想でもあり、本書では何度もこの表現が出てきます。フェイスブック上ではユーザーが自分の名前を実名で登録し、自分の身元に即したプロフィールを公開することがルールになっています。プロフィールには、顔写真、連絡先、生年月日、出身地、学歴、現在の所属先(勤め先など)、趣味・関心、好きな言葉や本・音楽、宗教、政治観、フェイスブックに何を求めているか(情報共有、出会いなど)、といった内容を一通り読むだけで、その人のことある程度わかるようになっています。このようなフェイスブックの厳格なまでの実名主義は、まさにこのオープンで透明な使命を果たすためのものです。

フェイスブックのコンセプトは、本書に書かれている「フェイスブックの本質はソーシャルグラフに基づいて現実世界をデジタル世界に移し替えるものが」(p.496)というザッカーバーグの言葉に表れていると思いました。順番としてリアルな世界での家族・友人・知人という人間関係があり、それをフェイスブックというデジタルなオンライン上の世界に移すという設計思想です。よって、フェイスブックではリアルに近い友人同士などでの信頼関係に基づいたソーシャルグラフ(人間関係)が築かれるのです。

では、なせフェイスブック、もっと言えばザッカーバーグは「オープンで透明な世界」を目指すのでしょうか。それは、透明な世界では個人がより責任をもって行動するという信念を持っており、フェイスブックを通じてそういう世界をつくりたい、そしてよりよい世界にしたい、世界を変えたいと考えているからです。

■オープンとプライバシー

フェイスブックの理念、そしてザッカーバーグの信念は「オープンで透明な世界」です。この考え方に時として相反するのがプライバシーの問題。「フェイスブック 若き天才の野望」を読むと、フェイスブックにはプライバシー問題が常につきまとっていたことがわかります。例えば、自分の近況やあらゆる更新情報が友達のフェイスブック上に表示されるニュースフィードという機能がリリースされた時は、(当初はニュースフィードのメリットが十分に伝わらず)自分が公開を望まない情報までも送られることに何十万人もの反対グループができました。

ザッカーバーグはプライバシー問題をどのようにとらえているのでしょうか。それは、「オープンで透明な世界」という信念が目的であり、プライバシー問題は手段だということ。すなわち、オープンと透明性に至る方法として、プライバシーを位置づけており、だからフェイスブックではプライバシー設定が細かく制御できると書かれています。制御を細かくできることで安心感を与える、ザッカーバーグが期待するのはそうすることで次第にみんながオープンになることのようです。これに関して、前述のニュースフィード抗議グループを立ち上げたベン・パーはある記事でこのように書いていたようです。自分の生活や考えを親しい人に共有することが快適になってきた、それが新しいテクノロジーの発展とザッカーバーグによって。そしてこうも書いています。プライバシーは消えていない、むしろユーザーにとって容易に制御できるようになっており、共有したいことは誰にでも公開する、秘密にしたいことは公開しない、あるいは自分の頭の中にとどめておけばよい、と。

プライバシーに関して思うのは、自分の情報に対する公開/非公開の判断は、自分自身で判断するしかないということです。上記のようにフェイスブックではプライバシー設定により、確かにある程度の自由度が公開/非公開のききます。ただ、仮に自分のプロフィールや連絡先情報を「友人のみ」と限定した場合でも、ネット上に公開していることには限りなく、その友人から情報が流れる可能性はゼロではありません。であるならば、これを前提として理解した上で、公開のメリットを楽しめばいいのではないかと思います。mixiなどでは匿名のニックネームでの登録・公開も多く見られ、一見すると自分の知っている友達かどうかの判断に迷うことがあります。一方のフェイスブックでは実名や経歴、あるいは写真などのプロフィールから、よりリアルな友達とつながりやすい環境を提供しています。そのためにも、ネット上での自己データ公開リテラシーを各自それぞれが自分の基準で持つべきではないでしょうか。

■facebookのこれから

ユーザーが多ければそれだけ利便性が高まる「ネットワーク効果」。ネットワーク効果により、ナンバー1の位置を確保すれば、ますますユーザーが増えていくという好循環が起こります。この典型がGoogleでしょう。SNSの世界では、フェイスブックでそれが起こりました。ただ、本書を読むとフェイスブックはまだまだいろんな可能性があることを感じさせます。

すでに多数の企業がフェイスブック上に自社のフェイスブックページ(ファンページから名称を変更)を設け、プロモーションやマーケティングに活用しています。広告媒体としての価値も認められつつあります(参照:Nielsen調査)。フェイスブックのある幹部の発言である「モバイルこそ本質的にソーシャルである」からも読み取れるように、2011年の今年はモバイルにも注力していくようです(参照)。

それ以外の大きな動きとしては、独自通貨であるフェイスブッククレジットです。TechCrunchの記事によれば、フェイスブックは2011年7月以降にフェイスブック上のゲーム開発者に対して、フェイスブッククレジットの利用を義務付けるとのこと。ソーシャルゲームの収益構造の特徴にアイテムなどの課金モデルがあり、これにフェイスブッククレジットが利用されることになります。まずはゲームの世界ですが、今後はコンテンツだけでなくモノを買う場合にもこのクレジットが使われるようになるのでしょう。すでに6億人を突破したフェイスブックは、中国とインドに次ぐ第三の国と表現されることもありますが、フェイスブッククレジットに信用が伴えばリアルの通貨と同様の価値が生まれるかもしれません。国を越えた決済に必ず発生する為替が、フェイスブッククレジットでは存在しないことも、旅行やもしかしたら輸出入にも利用されるなんてこともありそうです。もう一つ、現在のフェイスブックの収益へはBtoBビジネスである広告からが最も寄与していると思いますが、ユーザーから直接の収益を上げることができれば、BtoCにもマネタイズ領域を広げられそうです。

フェイスブックが誰でも使うようなインフラ、あるいはザッカーバーグの「公共事業」という表現が現実になれば、国民と政府や国との意見交換の場としても使われることも考えられます。そこでは実名や身元のあるプロフィールに伴う参加者の議論が交わされ、これこそがフェイスブックの理念である「オープンで透明な世界」を体現することになり、ザッカーバーグの描く「よりよい世界」がつくられるのかもしれません。

前述のように、フェイブックはリアル社会での友人知人関係を映した鏡のようなものです。それに加えて、リアルな世界にある時間的・空間的な制約がずっと小さいというネットの特徴を活かせば、それは友人とのつながりは鏡以上の頻度や新密度となり得ます。「フェイスブック 若き天才の野望」という本の原題は「The facebook Effect」です(個人的には「野望」という訳にやや違和感ありますが)。フェイスブックの人間を中心としたソーシャルグラフが引き起こす効果はどんな未来をつくるのでしょうか。


※参考情報

映画「ソーシャル・ネットワーク」 - オフィシャルサイト
http://www.socialnetwork-movie.jp/

Nielsen/Facebook Report: The Value of Social Media Ad Impressions|nielsenwire
http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/nielsenfacebook-ad-report/

Facebook CTO Bret Taylor: “Mobile Devices Are Inherently Social”|TechCrunch
http://techcrunch.com/2011/01/25/facebook-cto-bret-taylor-mobile-devices-are-inherently-social/

Facebook CTO Bret Taylor: “Mobile is the primary focus for our platform this year.”|Inside Facebook
http://www.insidefacebook.com/2011/01/25/bret-taylor-facebook-platform-mobile/

Facebook、ゲームデベロッパーに独自仮想通貨Facebook Creditsの利用を義務付けへ|TechCrunch JAPAN
http://jp.techcrunch.com/archives/20110124facebook-to-make-facebook-credits-mandatory-for-game-developers/


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