投稿日 2011/04/16

マキアヴェッリとドラッカーのリーダー論

先日、お酒の席で上司がこんなことを言っていました。

「自分が社会人になった頃は、課長⇒部長と上がるほど仕事はハンコを押すだけとか、もっと楽になると思っていた。そんな仕事ができるのを思い描いていた」。もちろん半分冗談での話ですが、現実は昇進するほど、責任が重くなっている状況を踏まえての話でした。

■ 戦時におけるリーダー

これを聞いて思い出したのが、「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」(中公文庫)という本に次のように書かれていたことです。

仕事はきまったことのくりかえし、長老は頭の上に載せておく帽子代わりでよい、というのは平和時代のことである。戦時には、トップこそ豊富な経験と知恵の上に想像力と独創性を働かせ、頑健な身体と健全なバランス感覚で、誤りのない意思決定をしなければならなかった。(p.377 より)

現在の日本では戦争中というわけではありません。業界内での企業間の戦い、あるいは既存の業界の枠を超えた新しい競争が頻繁に起こる今の時代では、この意味において「戦争中」と言えるのかもしれません。

であるならば、上記で「失敗の本質」で引用した「戦時にはトップこそ」という指摘は、違和感なく入ってきます。

■ マキアヴェッリの「君主論」に見るリーダー像

ところで、「君主とはかくあるべし」というリーダーが歩むべき道を示したものに「君主論」があります。

著者はニコロ・マキアヴェッリで、16世紀のイタリアで書かれたものです。16世紀のイタリアには統一国はなくいくつもの都市国家群が領土の拡大を争っていた乱世の時代でした。そんな時代にフィレンツェで官僚として働いたマキアウェッリは、各国の君主との交渉や出会いを通じて、宗教や道徳などの倫理から切り離した現実主義的な政治理論を展開しています。

マキアヴェッリは君主論の中で、「リーダーは慕われるよりも恐れられるほうを選べ」と言っています。

この理由として、人間は利己的で偽善的なものであり、従順であっても利益がなくなれば反逆することがあるため、故に君主を恐れている人々はそのようなことはないという、現実的な論理からなのです。

マキアヴェッリがこうした考えを抱くようになったのは、やはり時代背景が大きかったのでしょう。前述のように当時のイタリアは混乱の時代であり、それを一人の官僚として肌で感じたこと・実務からの経験から、リーダーは優しいだけでは成り立たないという思いからです。

君主論は全部で26の章から成り立っており、第21章では、

尊敬を得るためにはどのように行動したらよいか」、という主題に対して次のように書かれています。「偉大な事業をなし、比類のない模範を自ら示すことほど君主に対する尊敬をもたらすものはない。」(「君主論」(講談社学術文庫) p.172から引用)

つまりは、リーダーは結果を出すこと、そして人々の模範となることで尊敬を得られるとしています。

■ ドラッカーのリーダー論

このマキアヴェッリの考えと同じようなことをドラッカーが言っていました。著書「The Essential Drucker」において、以下のような言及をしています。

All the effective leaders I have encountered – both those I worked with and those I merely watched – knew four simple things: a leader is someone who has followers; popularity is not leadership, results are; leaders are highly visible, they set examples; leadership is not rank, privilege, titles, or money, it is responsibility.

私が出会った印象的なリーダーは、(リーダーシップについて) 4つのシンプルなことを知っていた。1. リーダーのまわりには従う者がいる。2. リーダーシップにとって大事なことは人気ではなく成果である。3. リーダーは目立つ存在であって、他の人たちの模範となるべきものである。4. リーダーシップとは地位、特権、称号、富などではなく責任である。

リーダーには成果・結果が求められ、かつ人々の模範でなければならない。また、リーダーシップには責任が伴う。これがドラッカーが見てきたリーダーたちの共通点だったのでしょう。

■ 最後に

今回はリーダーについて少し整理してみましたが、一方で世の中には様々なリーダーがいることもまた事実です。個人的には、今の会社に入社以来、毎年のように上司が変わってきたこともあり、それぞれの強みは違いました。

あるいは歴史を見ても、戦国時代後期においては、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という3人のリーダーがいましたが、3人の性格は全く異なるものだったとされ、あの有名なホトトギスへの対応に象徴されています。

だから思うのが、リーダーシップをとるときには人の真似をするだけでなく、自分の性格や強みも加味したリーダー像を築くことが大事なのではということです。

もちろん、これは言うが易しですが、その時に心に留めておきたいのが、上記で引用した、「失敗の本質」で書かれたリーダーの行動、マキアヴェッリやドラッカーが求めたリーダー像です。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。