2011/10/29

高機能一辺倒へのテレビにはあまりワクワクしなくなったので、そろそろ次のテレビに期待したい

先日の24日にスティーブ・ジョブズ公認の伝記が発売されましたが、書かれていた内容で話題を呼んでいたのは、ジョブズがTVへの取り組みに強い意欲を持っていたことです。
Jobs's final plan: an ‘integrated’ Apple TV|The Washington Post

■ジョブズのTVへの熱意

書かれていたことは確かに興味深いものでした。ワシントンポストから引用したものがこちら。
“He very much wanted to do for television sets what he had done for computers, music players, and phones: make them simple and elegant,” Isaacson wrote. (引用者注:Isaacson氏はジョブズ公認伝記の著者)
Isaacson continued: “‘I’d like to create an integrated television set that is completely easy to use,’ he told me. ‘It would be seamlessly synced with all of your devices and with iCloud.’ No longer would users have to fiddle with complex remotes for DVD players and cable channels. ‘It will have the simplest user interface you could imagine. I finally cracked it.’”
これを読むと、ジョブズはコンピューター(Mac)・音楽プレイヤー(iPod)・携帯電話(iPhone)で成し遂げた、シンプルでエレガントなユーザー体験をテレビでも実現したいという熱意を持っていたことがうかがえます。ユーザーが持っているiPhoneやiCloudとも連携させることも構想していたようです。とにかくシンプルで、誰でも使えるようなテレビです。

そして最後にこう言っています。「I finally cracked it(その方法がついにわかった)」。crackというのは、この文脈では「暗号を解読した」みたいなイメージですが、ジョブズがこのように言ったとすればかなり具体的なイメージを描いていたのではないかと思います。ただ、「その方法」がどんな内容なのかは残念ながら、今回のジョブズの伝記には書かれていなかったようです。

■What is "I cracked it" for the next TV?

では、ジョブズはどのようなテレビを思い描いていたのか。上記のジョブズの言葉の中にはTVのリモコンについて不満を抱いていたことがわかります(No longer would users have to fiddle with complex remotes for DVD players and cable channels)。となると少なくともリモコンはもっとシンプルで使いやすいものになるはず。余分なものを徹底的にそぎ落とし、本当に必要なものだけしか残さないジョブズの哲学にも近い考え方です。

とすると、iPodのような本当に必要なボタンだけしかないリモコンになるのでしょうか。確かにそれは十分にあり得ることだと思います。自分の家にあるTVのリモコンを思い浮かべると、本当にたくさんのボタンがあるのに実際に使うボタンは最低限に限られます。中には一度ども押したことのないボタンもある。そういうのを割り切って削っていけば、かなりシンプルなリモコンにできそうなものです。

テレビを操作するのに別にリモコンではなくてもいいのでは、という発想で考えると違ったテレビのコントロールの仕方もでてきます。それがiPhone4Sで搭載された音声認識のSiri。つまり、直接テレビに話すことでコントロールするという考え方です。このSiriについては、実際に海外のブログとかを読んでいると、TVへの統合への期待がかなり高い印象を持ちました。Siriについてはまだ実際に使ったことがなく、YouTubeや使った人の書いたブログとかを読んだ印象ですが、「明日の天気は」「○○に行くにはどう行ったらいい」という質問にも的確に回答するなど、なかなかおもしろそうな機能です。Siriは単に人間の話した言葉を正確に聞き取ることだけではなく、質問やリクエストを理解しその答えを提案するというのは、既存のボイスメモやボイス検索とは大きく異なると思います。テレビにSiriがあれば、「野球が見たい」と言えば野球中継を映してくれ、もしかすると、「ちょっと退屈なので何か笑える番組を見たい」とテレビに話しかければ、ユーザーの好みや過去の視聴履歴などから、その人に合った番組を提案してくれるかもしれません。人によっては漫才などのお笑いかもしれないし、別の人には落語なんてことも。そこには、TV番組欄を見て今の時間に何がやっているかとか、適当にチャンネルを変え見たい番組を探すザッピングなどはもはや不要です。

音声認識のSiri以外だと、アップルは離れたデバイスを動かすのにジェスチャーを使うことを研究しているという話もありました。これも既存のリモコンだけに比べて、テレビの使い勝手を大きく変えてくれるかもしれません。ただ、SiriはすでにiPhone4Sに実装されていることに比べ、こちらはまだ少し先の話になりそうですが。
Apple exploring 3D gestures to control devices from a distance|AppleInsider

■そろそろフレームを変える時

あらためて考えてみると、今私たちの身の回りにあるテレビへの操作は、ほぼ100%リモコンを使っています(リモコン以外だと主電源のON/OFFくらい)。その状況でいろんな機能が次々に追加される一方でリモコン操作という形式が変わらなかった結果、とても使いにくいリモコンになってしまいました。とにかくボタンが多い割に実際に使うボタンは多くなく、わかりにくく使いづらいのです。

ところが多くのテレビメーカーはそこにはあまり注力していなく、より大きく、高画質な美しい画面、あるいはそれ専用の眼鏡を用意し3Dという立体的に見ることができる画面を実現し、ユーザーに提案してきています。これはよりいい機能を追加するという足し算の発想ですが、本当にそこにユーザーのニーズがあるのかは個人的には疑問です。さらなる高性能よりも利便性なのではないでしょうか。

番組配信の仕方もアップルは変えるのかもしれません。iCloudとも連携するということは、単に放送される番組を見るだけではなく、過去の番組も含めて見たい番組を見たい時に、その状況に適切なデバイスで見られるようになるのでしょう。家で見る時はリビングのアップルTVで、自分の部屋のベッドではiPadで、電車で続きを見る時はiPhoneで、といった感じで、アップルが得意とするユーザーに必要以上の設定をさせることなく、全ての端末が一連となって機能する仕組みです。

直感的な操作性に優れたテレビ、自分の好きな番組を好きなように見られるという、ユーザーにとって何が本当に価値があって、それに対して自分たちが提供できることは何か、これを徹底的に考え抜いた結果、ジョブズの頭にはすでにそのテレビは完成していたのではないでしょうか。

■次のテレビへの期待

こんな情報がありました。次のアップルTVは2012年あるいは13年頃にリリースされるというものです。
Apple Could Release TV Set in 2012 [REPORT]|Mashable
Apple Looking to Launch Siri-Enabled Television Set by 2013|MacRumors

アップル以外にも、グーグルとTVの話題も見かけました。方向性はアップルTVと似ており、シンプルにし利便性を高めるというものです。
An Update on Google TV|Google TV
Google TV gaining Android Market, simpler interface with new update|AppleInsider

昨今はTV離れが言われ、実際にそうしたことを示すデータを見かけることもありますが、少なくとも自分の身の回り、家族だったり、ツイッターやフェイスブックを見ていると、テレビの話題で盛り上がっていることが少なくありません。なんだかんだでテレビって、みんな好きなんだなと感じます。そんなテレビでイノベーションが起こるのか、そしてそれが私たちとテレビの関わりを変えてくれるのか。近い未来にその答えがわかる日がやってくるのかもしれません。


※参考情報

Jobs's final plan: an ‘integrated’ Apple TV|The Washington Post
Apple exploring 3D gestures to control devices from a distance|AppleInsider
Apple Could Release TV Set in 2012 [REPORT]|Mashable
Apple Looking to Launch Siri-Enabled Television Set by 2013|MacRumors
An Update on Google TV|Google TV
Google TV gaining Android Market, simpler interface with new update|AppleInsider


2011/10/22

Amazonに期待したい「書籍+iTunes Match」という読書体験

ようやくという感じですが、ちょっとわくわくするニュースです。日経新聞の報道によると、アマゾンが年内にも日本での電子書籍事業に参入するとのことです。
アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞

日経が単独でスクープをするようなニュースはやや不安になることもあるのですが、記事を見るとPHP研究所とは契約に合意し、小学館、集英社、講談社、新潮社などととも現在交渉中とわりと具体的に書かれており、アマゾンの電子書籍での日本進出が今度こそはと期待できる内容です。

■3層で強みを持つAmazon

すでに日本国内では電子書籍の市場は存在し、少なくない企業が参入を果たしている状況で、具体的には右表のような状況です(引用:上記日経記事)。とは言っても市場規模は650億円程度(10年度)で、書籍・雑誌全体での約2兆円規模に比べるとまだまだ小さい印象です(数字は同じく日経記事から)。

ニーズがあると思われるににもかかわらず普及が進まないのは、1.そもそも電子書籍というコンテンツが少なく、2.電子書籍端末の互換性も十分ではなく、3.購入するマーケットも乱立しているという、コンテンツ・端末・マーケットプラットフォームという3層それぞれでユーザーにとって魅力を感じないからではないでしょうか。結局、紙の本を買う方が総合的には良く、それに比べて電子書籍で読むということにメリットが感じられないのです。

ところが、これがアマゾンであれば違います。もちろん、前述のような幅広い出版社との契約合意が前提ですが、電子書籍は自社サイトを通じて提供されます。それもPCだけではなく、タプレットやモバイルからブラウザかアプリのどちらからでも買えます。端末についても、専用のキンドルがあり、キンドルを持っていなくてもiPhone/iPad、Android用のアプリも提供しているので、幅広い端末から読むことができます。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは端末やサービスを普及させることを重視し、利益の回収は普及後でいいという経営戦略の持ち主と言われます。アマゾンから販売されるタブレットPCであるKindle Fireの定価は199ドルで、実は製造コストはそれ以上の209ドルではないかという情報もあります。これは1台売るごとに10ドルの赤字が発生します。Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
これは1例ですが、日本においても参入すると決めた以上は、コンテンツ・端末・マーケットというアマゾンの電子書籍サービスをまずは普及させるような展開をしてくるはずです。だからアマゾンの国内参入は、ようやく本命がきたかと期待したくなります。

■Appleが提供するiTunes Matchの意味

ところで、これは現在はアメリカのみ利用可能なのですが、「iTunes Match」というアップルのサービスがあります。iTunes Matchは、自分が持っているCDからiTunesに取り込んだ音楽を、iTunesミュージックストアで提供している楽曲と照合させ、マッチすればその曲はiPhone・iPad・iPodなどの全端末でダウンロードできるようになるというものです。つまり、iTunesに入っている自分でCDから取り込んだ曲でも、全てミュージックストアから買ったものとして扱われることになります。

一見するとこのサービスはあまりメリットがないようにも映ります。ダウンロードした曲もCDから取り込んだ曲も、自分が聞く時にはどちらも好きな音楽には違いないのですから。ただ、iTunes Matchが興味深いのはその考え方にあると思っています。というのは、iTunesマッチがなければ、すでにCDで取り込んだ曲でも同じ曲をiTunesミュージックストアから買ってダウンロードする場合、1曲150円とかのコンテンツ料金が発生します。CDもダウンロードも同じ曲にもかかわらずです。ところがiTunesマッチでは、「すでにCDで買っているんだから、同じ曲をミュージックストアからも別途金額は発生せずにダウンロードできますよ」という考え方。同じ曲にCDとダウンロードとに二重でお金を払うのではなく、「その曲を聴く権利を買う」というようなイメージです。

■「書籍+iTunes Match」という読書体験

話がアマゾンの電子書籍からiTunesマッチに逸れていたので、電子書籍に戻します。もしiTunesマッチのような考え方が電子書籍に適用できればどうなるでしょうか。考え方は「その本を読む権利を買う」こと。具体的には、今手元にあり参考にしている「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(本田雅一 ソフトバンク新書)という書籍を紙の本で買えば、電子書籍版でも同じ本が手に入るというイメージです。この本を読む権利を買ったということなので、一度紙で買えば電子版を別途料金で払う必要がなくなる。逆のパターンもあり得るので、電子版を先に買って紙の本を後から無料で入手するという感じです。仕組みとしては、アマゾンの個人IDで紐付し、どの本を買っているかの管理することになります。

電子書籍を読んでいての印象ですが、紙の本と比べメリット/デメリットがあり、どちらの形式が絶対的に良いという感じではありません。紙は持ち運びや本の中から必要な情報を取り出すのに難がありますが、速読性や全体像の把握は紙が勝ります。電子書籍コンテンツや媒体はまだまだこれから仕組みも技術も進化するのでしょうが、それでも紙の本は一定程度は存続するのではないかと思います。将来的には主流は電子書籍になるのかもしれませんが。であれば、上記のような書籍でもiTunesマッチのような仕組みがあれば、一読書好きとしてはかなり魅力があります。大事なのは、読書をするシーンや目的に合った読書の仕方が用意され、各個人それぞれがストレスなく享受できることです。読みたい本を、読みたい時に。アマゾンにはそんな読書体験の実現を期待したいのです。


※参考情報

アマゾン、年内にも日本で電子書籍 出版社と価格詰め|日本経済新聞
Amazon’s $199 Kindle Fire Costs $209.63 to Make [STUDY]|Mashable
Appleの「iCloud」と「iTunes Match」でできること|ITmedia エンタープライズ
「黒船」アマゾン来襲を前にして日本の電子書籍は壊滅状態|エコノMIX異論正論


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2011/10/16

TVのながら見とマルチタスク

アメリカ調査会社のニールセンがある調査結果を発表していました。
40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen

■TV視聴中のスマホやタブレット使用状況

それによると、タブレットPCを持っている人のうちおよそ4割の人がTVを見ながらタブレットを同時に使用しているそうです。スマートフォン所有者も同様で、一方で、TV視聴中に使ったことがないのは12-13%程度という結果になっています。

引用:40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen

なお、数字だけ見るとなかなか興味深い結果が出ているのですが、この調査がどういう人たちから得られたデータなのか(たぶんアメリカ人だとは思いますが)、母数が何人なのか、年齢や男女構成比など、詳細情報が載っていなかったのが残念です。これらの基本情報以外にも、そもそも毎日TVを見る人がどれくらい存在するのか、タブレットやスマホの所有率など、上記の数字を見るにあたっての前提もあるとよかったなと思います。詳細情報は個別での問合せフォームが用意してあるので、そこから入手できるのかもしれませんが。

というわけで、調査結果の数字を見るうえで前提情報が不足していてやや気持ち悪い感は残るのですが、上記グラフの下段の横棒グラフでは、タブレット&スマホ所有者がTVを見ながら実際に何をしているかの結果が出ています。最も多いアクションとして、TV番組やCM中にメールをチェックすることが挙がっており、次いで番組やCMと関係ないサイト等を見ていたり、SNSを使っていたりするようです。

これらに比べて比率としては小さいのですが、番組に関する情報検索が29%、流れたCMの商品についての情報検索が19%となっているのには少し驚きました。特に、後者の見たCMに興味を持ち、詳しい情報を探すのが2割弱もいる。この人たちがその後にどういった行動を取るのか、例えば詳細情報を見ただけで終わるのか、見つかった情報をSNS等でシェアするのか、あるいは記憶に残り実際に買うことになるのかは気になるところです。

■TVのながら見とマルチタスク

ニールセンの調査は、TVを見ながらタブレットやスマホを使うという「マルチタスク」がどれくらいされているかの調査です。自分自身のことを振り返ってみると、ノートブックPCだけだったころは、そういえばTVとPCという状況はそんなにありませんでしたが、TVを見ながらiPhoneやiPadを使うという行動はかなり普通にするようになりました。ただ、正確に言うと手元でiPadを使っている時はTVからの音はあまり頭に入っておらず、実際のところは本当に「マルチタスク」かと言うと、ちょっと疑問だったりもします。感覚的には、TVの内容と関連のあることならまだしも、番組やCMとは無関係な情報をiPhoneやiPadで見ている場合はほぼシングルタスクと言っていい状況に思います。

このマルチタスクについて、Dener大学のJim Taylor博士によると以下の2つが満たされる場合は有効であるとしています。
・どちらか一方のタスクは集中する必要がない
・各タスクを行なうために使う脳の部分が異なること
Technology: Myth of Multitasking|Psychology Today

どういうことかと言うと、例えば、クラシック音楽を聞きながらの読書は効果があるものの、歌詞のある音楽を聞きながらの読書では、どちらも脳の言語処理が必要になるためにマルチタスクにはならないそうです。もっとも、個人的な感覚としては歌詞付きの曲でも歌詞の部分も単なる音として(歌詞の意味をほとんど気にしない状況)聞いている状態では、読書の邪魔にはならないようにも思いますが。

ニールセンの調査結果に話を戻しますが、このマルチタスクへの指摘を踏まえると、番組やCMの最中にTVはついていても実際はメールチェックや無関係なサイト閲覧をされるというのは、一見マルチタスクな状態かもしれませんが、実質的にTVを視聴されていないのと同じ状況です。TV番組制作側やTVCM広告主にとっては望ましい視聴状態ではないことは言うまでもありません。コンテンツ配信側としては、いかに視聴者の興味を引き付けられるか、あるいは、放送内容と関連するフェイスブックやツイッター等のSNSとの連携をいかに設計でき、TVだけで終わらない水平展開が今まで以上に必要になってきそうです。


※参考情報

40% of Tablet and Smartphone Owners Use Them While Watching TV|Nielsen
How People Use Smartphones and Tablets While Watching TV [STUDY]|Mashable
Technology: Myth of Multitasking|Psychology Today
Why Multitasking May Make You Less Productive|Mashable


2011/10/10

あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観




2011年10月5日、スティーブ・ジョブズが亡くなりました。

おそらく多くの人がそうであったように、第一報を知った時はにわかには信じられませんでした。

ツイッターのタイムラインはジョブズのことで埋まり、海外のニュースやブログも次々に報じてました。そしてアップルが同社の HP 上に掲載した内容を見た時、ようやく現実だとわかりました。「Steave Jobs 1955-2011」と終止符が打ってあったからです。

その日以来、ジョブズに関する様々なブログやニュース記事を読みました。普段は通勤中などある程度まとまった時間がある時は本を読んでいます。先週後半はジョブズ関連の記事が中心でした。それくらいいろんな人たちがジョブズについてあらためて取り上げていたので、目にとまりました。

読んだものとしては海外のものが多かったですが、日本語でもIT系のブログではそれまで自分が知らなかったジョブズのエピソードがいくつか書かれていました。あらためてジョブズのことを知ることができる記事もよかったです。

多くのジョブズ関連の記事や動画の中で、最も印象に強く残っているのが、2005年に米国スタンフォード大学卒業式の祝賀式で卒業生に向けて行われたジョブズのスピーチでした。

Text of Steve Jobs' Commencement address (2005) |STANFORD UNIVERSITY

■ Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005

スピーチ内容は、ジョブズの生き方や考え方のベースになっている人生観そのものだと思います。上記のリンクはスタンフォード大のHP上に掲載されているスピーチ原稿です。できれば英語原稿のまま一読されることをおすすめしますが、日本語の字幕付き動画や日本のブログでも日本語訳が取り上げられているので、こちらでもいいかもしれません。

Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(1)|YouTube(日本語字幕付き動画1)
Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(2)|YouTube(日本語字幕付き動画2)
スティーブ・ジョブスの魂。STAY HUNGRY, STAY FOOLISH|ASSIOMA(スピーチの日本語訳)

このスピーチは相当有名なのでご存知の方も多いと思いますが、内容を自分なりに整理すると次のようなものです。

  • 起:点と点をつなぐ(バラバラの経験であっても将来それが何らかのかたちで繋がる)
  • 承:好きなことを仕事にする
  • 転:ジョブズの死生観
  • 結:卒業生へのメッセージ 「Stay hungry, stay foolish.」

■ ジョブズの死生観

このスピーチの中で最も強い印象に残ったのが、ジョブズの死生観でした。

ジョブズは17才の時、次の言葉を知り衝撃を受けたと言います。「来る日も来る日もこれが人生最後の日と思って生きるとしよう。そうすればいずれ必ず、間違いなくその通りになる日がくるだろう」。

その後、ジョブズは毎朝欠かさずに鏡の中の自分と対話をするようになります。「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日の予定は、本当に私のやりたいことだろうか?」と。この質問に対する答えが「No」という言う日が続くと、そろそろ何かを変える必要があると考えたそうです。

スピーチでは、すい臓ガンを患い発見した際には医師たちから余命が3-6ヵ月であると告げられたことも触れています。これをジョブズは「死の支度をしなさい」と受け取ります。しかし、その後の診断で、この時のジョブズの腫瘍は極めて稀な形状で手術をすれば治せるものだったようで、無事に成功しています。

ジョブズの死への考え方が印象に残ったのは、「死は我々全員が共有する終着点」と捉えており、さらには「死はおそらく生が生んだ唯一無比の最高の発明品」としていたからです。死によって、古きものを一掃して新しきものに道筋を作っていく働きのあるものと言います。

毎朝、今日という日を人生最後の日だと考える、つまり、自分が死と隣り合わせにあることを忘れずに思うこと。ジョブズはこれまで人生を左右する重大な選択を迫られた時には常に、決断を下す最も大きな助けになったとスピーチで語っていました。

■ 死への絶望という記憶

私自身はここまで明確な死生観を持っているとは思いません。それでもジョブズのスピーチの中で印象に残り、かつ共感した部分は間違いなく死についてのところでした。

日常生活のちょっとしたタイミングで自分の死を意識することがあります。朝玄関を出た時に、ふと今日自分が死ぬともうこの家には帰ってこないと思ったりするといったようにです。

初めて死を意識した幼稚園か小学校に入学した頃くらいの時でした。ちょうどその前に、「人は死ぬともう二度と生き返ることはない」ということを教わりました。

それよりも以前は死ぬことについては知っていたものの、なんとなく時が立てば生き返るものだと勝手に思っていました。それが、死んでしまうと、どれだけ時間がたっても永遠に生き返ることはない、この「永遠に」という時間に終わりがないという意味が幼いながらに分かった時に、初めて絶望的な気持ちになったことを今でもよく覚えています。

しばらくは自分の親や兄弟、友達とか先生には絶対に死んでほしくなかったし、何よりも自分がいつか死んでしまうことがとても怖かったです。夜になるとついそのことを考えてしまい、朝方まで寝られなかったことは一度や二度ではなかったように記憶しています。

それでもまだ小さい子どもだったので、学校が楽しかったりだとかでいつの間にか深刻に思いつめることはなくなりましたが、ふとしたタイミングで思い出すのは前述の通りです。

ジョブズがスピーチで言った、自分の死を意識することで人生の岐路に立った時に決断する手がかりになるということはわかります。人生は一度きりであり、変な迷いがなくなり、そう思うことで吹っ切れます。

だから、ジョブズのスピーチが印象に残ったのです。さらに、ジョブズが亡くなった直後というタイミングでした。ジョブズの死生観の部分が最も印象的だったのは必然だったのかもしれません。

■ Focused on his family first

ジョブズは毎朝欠かさずに鏡の中の自分に問いていました。「もし今日が自分の人生最後の日だとしたら、今日の予定は、本当に私のやりたいことだろうか?」と。ジョブズが亡くなった後に読んだいくつかの記事の中に、以下がありました。

Steve Jobs knew his time was short, focused on family first|AppleInsider

そこには、自分の余生が残り少ないことを悟ったジョブズは、その時間を最も大切なこと-ジョブズの最愛の妻と子どもたちと過ごす時間に費やしたと書かれていました。ジョブズに残されていた時間が愛する家族との素晴らしい時間だったことを願うばかりです。


※参考情報
Remembering Steve Jobs|Apple
Thanks, Steve|jonathan mak
Text of Steve Jobs' Commencement address (2005) |STANFORD UNIVERSITY
Steve Jobs Stanford Commencement Speech 2005|YouTube
Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(1)|YouTube
Apple創始者・スティーヴ・ジョブスの伝説のスピーチ(2)|YouTube
スティーブ・ジョブスの魂。STAY HUNGRY, STAY FOOLISH|ASSIOMA
「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳|日本経済新聞
Steve Jobs knew his time was short, focused on family first|AppleInsider
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記


2011/10/01

目から鱗だったエネルギーの本質

ここ最近読んだものに、「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)という本があります。この本の趣旨は、3.11の東日本大震災以降に見られる「原発vs再生可能エネルギー」という議論は不毛であり、今後のエネルギー供給の安定性と二酸化炭素削減を両立するのは天然ガスの活用と資源分散型のスマートエネルギーネットワークをいかに確立するか、というものです。

全体的に読み応えのある内容だったのですが、特におもしろかったのが「そもそもエネルギーとは何か」という根源的な部分の話でした。エネルギーが現代社会に果たしている役割や人類の歴史との関係など、エネルギーに関して本質的な論点が取り上げられており、ここがあらためて考えさせられる内容でした。目から鱗な話だったので、今回のエントリーでは本書で書かれていた内容を中心に書いています。

■現代社会とエネルギー

本書の内容は「なぜエネルギーが重要なのか」という問いから始まります。これに対して筆者は次のように説明します。エネルギー供給、特に安くて安定した大量のエネルギー供給がなければ私たちが暮らす現代文明は一日たりとも維持できない。

どういうことかと言うと、現代人の生活はあらゆるモノに囲まれていますが、これらを生産あるいは輸送のために膨大なエネルギーが使われています。ここでいうモノとは食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶などのありとあらゆるものですが、本書によると、日本の場合、モノの生産に全エネルギー消費の約半分が、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2という量となるようです。

もう少し現代文明について考えてみます。現代文明の特徴として、都市部への人口集中と高度に組織化された産業システムの2つあると筆者は言います。都市部に人口が集中することで、例えば私たちが口にする食料を都市部だけでつくりまかなうことはほぼ不可能です。生活に必要な資源も同様です。だからどう対応しているかと言うと、都市の外部で食料が生産され、日々運ばれてきています。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが消費される。都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な産業システムを支えているのがエネルギーなのです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っているわけです。

■人類の歴史とエネルギー

本書では、人類の歴史という観点からエネルギーの説明も書かれていました。筆者は文明化とはエネルギーの多消費化であり、かつエネルギー源の高効率化であると言います。

まずは多消費化から。人類史において、文明化の段階はいくつかありますが、大きくは農業開始、産業革命、現在の情報革命です(このあたりの話は「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」という本がおもしろかったです)。エネルギー消費で見ると、農業社会に比べ産業革命により3~4倍に増加、さらに産業革命開始時と現在では、エネルギー消費は40倍に増えているのだそうです。(もちろん、この間に人口も増えているので当然社会全体でのエネルギー消費は増えるわけですが、一人当たりエネルギー消費で見ても4倍と増加している)

エネルギーの高効率化について。産業革命前はエネルギー源の主流は薪炭でした。それが、産業革命で石炭が使われるようになり、その後はより効率のよい石油というエネルギー源に移り変わります。本書では、エネルギーの効率さを比較するために「エネルギー算出/投入比率」という指標が用いられています。これは、1単位のエネルギーを取り出す(算出)のに、何単位のエネルギーが必要になるか(投入)という比率です。例えば産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭ではこの比率が2~3倍だったものが、石炭で40~50倍まで効率がよくなります。つまり、1単位の石炭があれば、40~50単位の石炭が取れるということです。これの比率が石油では中東などの巨大油田ではなんと100~200倍ともなるようです。2010年にメキシコ湾で石油会社BPが原油を海に流出させてしまう事故が起こりましたが、これは見方を変えればBPが流出を止めたくても、油田から自ら勝手に噴出してしまうくらいの算出効率の良さであるがために起こったものでした(という記述が本書にありあらためてその算出効率の良さを実感させてくれました)。ちなみに、太陽光のエネルギー算出/投下比率は10倍、風力は15倍程度と説明されています。

■ストックなエネルギーとフローなエネルギー

本書では、以上のようなそもそもエネルギーとは何かという話が、人類の歴史と絡めてあらためて説明されています。それを踏まえ、今後のエネルギー政策をどうするかという論点に移っていきます。このあたりを理解すると、「原発or再生可能エネルギー」という二元論では、私たちの社会を支えているエネルギーの全体像を捉えていないことに気づかされます。つまり考えるべきは原発でも再生可能エネルギーでもない化石エネルギー源の有効活用です。もちろん、長期的には化石エネルギーという過去の地球の資産とも言えるエネルギーの比率を下げ、再生可能なエネルギーでまかなっていくような姿が望ましいでしょう。ただ、現時点で再生可能エネルギーが主流になるのは非現実的であり、原発分の代替にもなり得ません。

現代文明は、前述のように高度に組織化され都市部に人口が集中するという社会システムで、維持するために大量の高効率なエネルギーを投入しています。主流なエネルギー源は石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料で、これは太古の昔から現在にわたって蓄積され濃縮された、いわば貯金のようなストック的なエネルギーです。これに対して水力、バイオ、太陽光・熱、風力などのエネルギーは毎月の収入のようなフローなエネルギーです。貯金に頼らず毎月の収入エネルギーだけで暮らしていた産業革命前と、毎月収入と貯金までも使って築き上げた現代社会。私たちが享受している生活は身分相応以上の贅沢な生活と言えます。しかしだからと言ってもはや産業革命以前の生活に戻れるわけはなく、であるが故に考えるべきは今の主流である化石エネルギーをいかに効率よく使うか(エネルギー供給側での省エネ)、安定的に供給が継続できるような発送電の仕組みのはずです(一方で環境に負荷をかけないという視点も必要)。本書を読むことで、そんなことをあらためて気づかされたように思います。






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