2012/07/28

「仕組みの問題」で考えるAmazonと三河屋のサブちゃんの共通点

ものごとの見た目の違いではなく、構造・メカニズムの違いに目を向けると新たな着眼点が見つかることがあります。表面的な事象ではなく、「仕組み」に注目するのです。



■回転寿司の仕組み

例えば、先日に回転寿司に行きましたが、回転寿司ではお寿司が次々にまわってくる中から欲しいネタを自分で自由に選べるのが特徴です。これは普通のお寿司屋さんでは、板前さんがその日のオススメを握ってもらうのとは仕組みが違います。もっとも、回転寿司でも欲しいネタを席から注文し、それを流してもらうという方法もありますが。

回転寿司のメリットは手軽さで、一皿100円くらいからの単価や、気軽にお店に入れ回る寿司を手に取れる点だと思います。回転寿司のチェーン店では、カウンター席以外にテーブル席も用意されていて、この前行った回転寿司ではちょっと早い時間帯だったせいか、小さい子供づれの家族層も結構入ってました。テーブル席があって家族でゆっくりでき、寿司が回ってきて、そこから選んで自分で取れるのも子どもにはおもしろいようで、どのテーブルも家族で楽しそうなのが印象的でした。回転寿司ではないお寿司屋さんだとなかなかこうした層が行くのは敷居が高いように思います。

言いたいのは、どちらの寿司提供形態が優れているかではなく、あくまで仕組みが違うことであり、結果的に手軽さが売りの回転寿司、ネタの新鮮度や板前さんとのコミュニケーションが取れるお寿司屋さんという異なる訴求点が生み出されるということ。

回転寿司は一般的なものになりましたが、おそらく回転寿司という形態が登場したすぐの頃は「お寿司をそんなふうに提供するのはありえない」と思われていたのかもしれません。お寿司は基本ナマモノなので、握ってすぐに食べられるのがおいしいはずで、それを誰が手に取るかもわからないのにベルトコンベアのようなもので流すなんて。誰も取らなければ廃棄になる。とか。でも、「それはうちの業界には当てはまらない」と思っていることほど、やったときのインパクトは大きいのです。業界でみんなが常識と思っているからこそ誰もやっていないことを導入すると、差別化ができる。

■Amazonと三河屋のサブちゃんの共通点

仕組みで考えると、Aで成り立っている仕組みがBでも成り立たないか、という発想ができるようになる(はず)と思っています。

もはや本を買うのは基本Amazonというくらいよく利用していますが、アマゾンが力を入れている1つにレコメンド機能があります。アマゾンでこれまで何を買ったか、欲しいものリストに入れているか、どんな商品を閲覧したかで、そこからその人が買いたくなるであろう商品を「おすすめ」としてレコメンドするものです。正直、レコメンドの精度はまだまだで、ちょっとクリックしただけなのにおすすめ商品が関連するものばかりになる時はマイナスだったりもしますが、ユーザーに欲しい/買いたくなる商品を気づかせてくれるアプローチはもっとよくなってほしいと期待しています。

このアマゾンの仕組みは、購買情報や閲覧情報を全てアマゾンが知っているからこそ実現しうるものです。ちょっと話が飛躍しますが、レコメンドの典型はサザエさんに登場する「三河屋のサブちゃん」だと思っています。サブちゃんの登場シーンで思い浮かぶのは、「そろそろお醤油が切れかける頃だと思って持ってきました」と台所の勝手口に現れるサブちゃん。サザエさんも「ちょうど良かった。お醤油が切れかけてたの。 お味噌もいつものを持ってきてくれるかしら」と、追加で味噌も注文する。これはサブちゃんがサザエさん一家を知り尽くしているからこそなのです。何も言わなくとも一回に頼む醤油の量も、どんな醤油が好みなのか、そろそろ醤油が切れかけていることも把握している。だから、頼まれなくても勝手口に現れて、「そろそろお醤油が切れかける頃だと思って持ってきました」というタイミングの絶妙さです。

購買情報やユーザーの嗜好を知り尽くすことでタイミングよくレコメンドし、+1の商品も買ってもらう。アマゾンと三河屋のサブちゃんの共通する仕組みです。

■課題設定と問題解決も「仕組み」で考える

仕組みに注目するのは、例えば何か仕事上でミスが起こり問題が発生した際にも、問題解決するには有効な発想だと思っています。

ミスや不備が起こった時に、ミスをした当事者を責めてしまいがちです。ただ、原因特定を担当者という個人レベルだけで、対応/改善策もそのレベルだと次もまた同じことが起こる可能性が残ります。ありがちなのはミスを起こしてしまった担当者を変えることですが、もしミス発生原因がそもそもの仕組みの問題だと、新しい担当者も同じことをミスしてしまうかもしれない。

だから、問題が起こった時は個人ではなく「課題」に焦点を当てるべきと思います。そして、原因究明ではなぜそれが起こったのかの仕組みの問題として捉えること、その上で、ミスが起こらない仕組みとミスが発生しても早期に発見できるチェックの仕組みという2つのアプローチで進める。仕組みやメカニズムに着目すると、他の業務プロセスが活用できるのではないかなど、Aで成り立っている仕組みがBでも成り立たないかという発想ができると、1担当者や責任者を責めるより生産的で、ミスを起こした側・起こされた側の双方にとって今後はミスをなくすというWinWinを目指したいものです。

今回のエントリーでは、ここ最近思っていたことをさらっと書きましたが、言いたかったのは冒頭で書いた「ものごとの見た目の違いではなく、構造・メカニズムの違いに目を向けると、新たな着眼点が見つかる」こと。そのためには普段から「メカニズムはどうなっているのか」と考えるクセをつけておきたいなと。

2012/07/22

戦略の本質を考えるための3つのポイント

戦略とは、「あるべき姿」と「現状」の差を埋めるための道筋だと思っています。目的地と現在地を結ぶルートというイメージ。



こうありたいという理想と自分の現状は、企業や自分個人にとってそれぞれ異なり、それを結ぶルート(戦略)も違ってくるはずです。戦略を考える上で重要なのは「強みを活かすこと」。自らの強み/弱みを把握し、強みに焦点を当て活かせる仕組みを考えるのです。

1.強みはあくまで相対的なもの

ただ、難しいのは何が強みで弱みなのかを把握することと、そもそも強みと弱みは相対的なものであり、強みが弱みになったり、その逆も起こるということ。例えば自分の強みはいろんなアイデアが思いつくことだとします。でもそれは自分の身の回りの人たちと比較したアイデアが豊富であり、違う環境にいけばもっと創造的なアイデアを組み合わせる人がいるとすると、そこではもはや強みにはなりません。弱みも同様に、ある人と比べると弱みかもしれませんが、別の集団内では相対的に強みになるかもしれない。

これは企業の競争上でも同じで、競合をどこに設定するかで何が強みかは変わってくる。例えば東京-大阪間の移動手段において、従来の航空機移動に対する新幹線の強みは安さにあったかもしれませんが、今後LCCが普通になると新幹線の値段はむしろ高くなり、強みは快適な車内空間やサービスになる。こんな感じで、強み/弱みはあくまで相対的なもので、対競合だったり、現在と将来の時間軸、環境や競争ルールによって違ってくる。

それと、何が強みかを認識するのはあくまで顧客であるという視点も忘れてはならない点です。自分たちが高い技術と思っていることで実現できるサービスも、それを買う/利用する顧客から見て魅力でなければそれは顧客にとっては強みではないのです。

例えば、テレビ。各社が競う画像の美しさはある程度までいけば(消費者にとっては)遜色はなくなり、結局は価格の安いことが訴求点になっていく。結果、販促費をより積んで店頭価格がより安いテレビが売れる。コモディティ化の典型で、売れば売るほど赤字という状況。顧客である消費者に映る強みは、そこそこきれいでそれなりの画面サイズのテレビが安く買えること。これはメーカー側が認識する、あるいは訴求したい本来の魅力/強みとはずれてしまっているのではないでしょうか。

2.戦略策定と実行は二人三脚

戦略とは「目的地と現在地を結ぶルート」であり、ルートの選び方のポイントは「強みを活かすこと」。戦略策定の難しくもありおもしろいのは一度ルートを決めれば安泰というわけではないところ。強みは対競合や競争環境、時間軸でも変わる。従って、ルートは常に顧客ニーズの変化や競合他社の動きに合わせて見直し、修正や進化し続ける必要があると思っています。

戦略というのは目的地に達するというプランであり、ある意味、この時点では将来への仮説でしかないものです。3C(Customer:顧客、Comany:自社、Competitor:競合)の分析等々や、自分たちの理念・目的・ビジョンから導き出される現時点でのベストの仮説。こう考えると、戦略を実行していくという仮説検証において軌道修正が必要になる。むしろ、戦略は実行をしていく過程で進化させる、と捉えた方がいいのかもしれません。戦略には、策定のために考え立案することが醍醐味で、一度決まれば粛々と実行するだけ、実行は現場に任せておけばよい、というイメージもあるかもしれません。そうではなく、戦略策定と実行はどちらか一方に偏ることなく、トップ、ミドル、現場で一体となり進めていくのが理想なのだと思います。

3.コスト戦略と価値戦略

競争戦略の方向性として大きくは2つあると思っています。どのようにして競合他社に比べて「より」低いコストを実現するか、あるいは「より」高い価値を提供できるかで、前者がコスト戦略、後者が価値戦略です。
  • コスト戦略:違うことをするか、同じことを違うようにやって構造的なコスト優位を構築。その分のコスト差を低価格につなげる戦略
  • 価値戦略:価値を上げることで顧客にとっての魅力度を高め差別化を図る戦略
コスト戦略で混同してはいけないのが、「安い商品の提供」と「商品を安く提供すること」は意味が違うということ。安い商品の提供とは材質の品質を下げたりとか、安かろう悪かろうでもOK、もしくは利益度外視で価格を下げればできてしまうことです。一方の「商品を安く提供すること」はそうではなく、仕組みによりコストを下げ他者より優位なモデルを構築しその分を安い価格にできるので、先にコスト低下がある。コストを下げる仕組みの典型はスケールメリットですが、それ以外にも中間業者をなくしバリューチェーンをシンプルにすることや、アウトソース、ITの活用などでしょう。あとは自分たちの知見や経験値がたまり、より効率良くできることでのコスト低下も。

価値戦略で思うのは、何が価値かは顧客視点で決まるということで、前述の「強みとは、あくまで顧客が魅力と認識するものが強みである」と同じ話です。マーケティングではターゲット顧客を絞るためにセグメントを切り分けますが、なぜセグメントをするかというと価値の認識が顧客によって変わるから。ある人にはAという切り口が価値になりますが、別の人にはBという切り口が価値で、だからAにニーズがある集団とBにニーズがある集団を別のセグメントにする、そんなイメージ。セグメントを分けるのに年齢や性別で区切ることはよくありますが、本来の理想は価値で分けること。同じ20代男性という性別年齢でも環境や考え方・価値観は人によって異なるのだから、求める価値によってセグメントをすべきという考え方です。

もう1つ、価値戦略で思うことに、価値と価格は密接に関係している点があります。同じ価値でも、価値>値段という不等号が消費者の頭の中で成立していれば価値に対するお得感が出る。つまり、値段に対して価値が上回っている状況。これの典型がユニクロだと思っていて、ユニクロが絶妙なのは、値段の割に品質がそこそこ良い点にあると思っています。同じ価格でももう少し品質が下がればダメだろうし、同じ品質でも値段が高ければ、魅力度は下がるように感じます。

今回のエントリーではあらためて戦略について自分の考えを整理したく、書いてみました。戦略を考えるにあたっては、意思決定があり、何かをやると決めるということは一方でやらないことを決めることでもあります。「戦略とは捨てることである」とも言いますが、実はやることを決めるよりも、何をやらないかを決めることのほうが難しかったりする。あれもこれもやる、というのは結局は戦略なき状況でもあるんですよね。


2012/07/14

誰も幸せにしない「自分がやった方が早い病」を克服する仕事の任せ方

書籍「自分でやった方が早い病」

本書では「この仕事は自分でやってしまったほうが早い」と思い、いつの間にか色々と自分が抱えている状況を病と捉えます。

病と見なしたことの原因や治療法、そもそもなぜ克服しなければいけないのか、本当の仕事の任せ方や人の育て方も含め、指南してくれる本です。

「自分でやった方が早い」と考えてしまうことは誰しもがあるでしょう。

本書では特に仕事ができる人に多いとありますが、誰もが一度や二度はそう思ったことはあるはずです。

まわりや部下に任せてみたけど期待通りの結果にならない、返ってくるのが遅い、結局自分で修正したり二度手間だと思ううちに、任せるための説明している時間とかも合わせると、最初から自分でやったほうが早かった。そんな経験です。

「自分でやったほうが早い」と思う要因は大きくは2つあるといいます。

  • まわりよりも自分がデキてしまうから、自分でやったほうが早い
  • お願いするのが上手くなく任せるのも相手にも悪いと思ってしまい、自分でやったほう早い

本書のそもそもの出発点となる問題意識は、

  • 自分でやったほうが早いスタイルを続けていてもいずれ限界がくること
  • 単に成長が鈍化するだけでなく仕事を抱え込みすぎることで、いずれは心身に支障をきたしまわりにも迷惑かける恐れがある
  • たとえ自分一人で成功を収めたとしてもそれは本当に幸せな人生なのか

読みながら考えさせられたのは、本書は単にまわりに仕事を振るノウハウやテクニック的な話では終わらないことです。

なぜ「自分でやったほうが早い病」を克服しなければいけないのか。そのためにはどう考え方を変えていかなければならないのか。病を克服したあるべき姿(What)に対して、理由と(Why)マインドを変える処方箋(How)が書かれていた点にあります。

■ Why:なぜ「自分でやったほうが早い病」を克服しなければいけないのか

20台前半の仕事をとにかく覚える時期や転職後間もない時期などは、まずは自分でやるという姿勢は大切です。

自分でやってみて失敗もし、そこから学んでいくことで成長していくからです。

本書のターゲット層は、ビジネスパーソンとしてある程度は一人前になってきて、これからはリーダーだったりマネージャーの役割も担う人です。

著者は、リーダーにとって「自分でやったほうが早い」と思うことは失格と言います。

なぜならいつまでも1プレイヤーとしての一人分の仕事しかできない状態が続くからです。

自分が本来やるべきこと以外にも一人で抱え込むことは、まわりのメンバーも含めたチームの成長が望めないばかりか、リーダー自身の成長も止まってしまうからでもあります。

リーダーのまわりのメンバーからすれば、自分に仕事を任せてもらえない不満がたまっていきます。一方のリーダーは自分だけがこんなにがんばっているのに(しかし終わらない)、という悪循環にもつながりかねません。

この状態が続くと本人の精神/健康状態にも悪影響が及んでいきます。

■ How:どうやって克服するのか

「自分でやったほうが早い病」の根本には、利己主義があると著者である小倉広氏は言います。

いい仕事をしてほめられたい。結果/成果を出して上司やまわりから認められたい。

任せたくても相手に悪いと思うこともあり、仕事が多すぎて他の人に任せる余裕すらないという状況もあるでしょう。

ただし、それでも自分でやったほうが早いとつい考えてしまう状況は脱したほうがよいです。

私自身の場合は、今まではチームの中でわりと自分が一番下だったので雑務含めやってきたのが、今のプロジェクトでは後輩というか下のメンバーも少しずつ増えてきました。

また、全部自分一人でやっているととてもプロジェクトがまわらないという状況になってきました。

当初はまわりに仕事を振ってみても、期待するものでなかったり、スピード感が違ったりというのがあり、二度手間を考えると結局自分でやったほうがと思うこともよくありました。

本書にもあるようにこの状態では形としては仕事を振っているものの、本当に相手を信頼して任せているわけではないことに気づきました。

例えば期待値やスピード感がずれていたということは伝える側の自分にも理由があったわけです。時には同じことを繰り返してでも丁寧に伝える必要がありました。

本書で印象的だったことに、仕事を任せることの3つの勘違いがありました。

  • 「任せる」は失敗が前提
  • 「任せる」は「丸投げ」ではない
  • 他人に任せても楽にはならない

つまり、任せたとしても短期的には自分の仕事は減らないという前提で、それでも任せないといけないのです。

あるいは任せ方を色々試す時には失敗しながらも、任せる側の自分が成長しないといけないわけです。

任せることで信頼関係を築く。任された側の成長を促す。結局のところ「自分がやったほうが早い」から脱するためには、単に仕事を振るテクニックを知ることではありません。

自分だけの成長ではなくまわりの成長も一緒に考えるという、人としての成長が求められるのではないでしょうか。

詳細は割愛しますが、任せるためのマインドチェンジとして書かれていたものをご紹介します。

  • 任せるとは失敗させる権利を与えることである
  • 仕事と責任をセットにして任せる
  • 自分がではなく、まわり(部下)をヒーローにする
  • PDCAのうち計画と検証は一緒に、実行のみは一人でやってもらうことが仕事を任せること
  • 任せた後も、ティーチング(教える)とコーチング(自ら気づかせる)の両方から後方支援
  • 任せてもいい人の特徴:信頼性と責任感のある人

■ What:「自分でやったほうが早い病」を克服したあるべき姿

以前のエントリー:何のために働くか?-「働き方革命」を自分ごと化してみるで、ご紹介した「働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法」という本には、こんなことが書かれていました。

働くことは、傍(はた)を楽(らく)にすること。妻・子・家族・友・社会を全ての他者を楽にさせることが働くである。

これは著者である駒崎さんの考え方のベースとなっているものです。働くほど他者への貢献が増え、ひいては世の中が楽になる方向へシフトさせたいという意志です。

働くほど、自分やまわりを犠牲にすることとは逆の考え方です。

自分がやったほうが早いと考え抱え込むことで一見、他者を楽にさせているように映るかもしれません。それでリーダーが本来やるべきチームが進む方向性を示せなかったり、メンバーとの信頼性が築けず連携も悪くなる、あるいはリーダー自身の精神的/肉体的悪影響が出てしまっては、傍(はた)を楽(らく)にしている状態とは言えません。

「自分がやったほうが早い」と思うのは、デメリットの方が多く、はじめは任す・任される両方で失敗が予想できるからです。

しかし長い目で見れば、そこから素直に学びお互いが仕事を進める上でも人としても成長する。それが「自分でやったほうが早い病」を克服したあるべき姿です。




※参考情報
何のために働くか?-「働き方革命」を自分ごと化してみる|思考の整理日記


自分でやった方が早い病 (星海社新書)
小倉 広
講談社
売り上げランキング: 926


働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)
駒崎 弘樹
筑摩書房
売り上げランキング: 4895


2012/07/07

勝ち続ける意志力:目的は「勝つこと」ではなく「成長し続けること」

最近読んだ本でよかったのが「勝ち続ける意志力」でした。サブタイトルに世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」とあるように、著者の梅原大悟氏はプロ格闘ゲーマー。ちなみに、ギネスで「最も長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー」と認定されています。なお、梅原氏の得意とするゲームは対戦型格闘ゲーム。ゲームセンターにあるストリートファイターとかです。



■「勝つこと」と「勝ち続けること」は根本的に違う

本書のタイトルは「勝ち続ける意志力」で、ポイントは勝ち続けることに重きを置いている点です。冒頭のプロローグで次のように書かれています。
「結果を出す」ことと、「結果を出し続ける」ことは根本的に性質が異なる。勝つことに執着している人間は、勝ち続けることができない。

正直、いきなり先制パンチを食らった感じでした。なぜなら結果を出すことを1つずつ積み重ねることで結果を出し続けられる、と思っていたから。結果を出すことの延長線上が結果を出し続けられるという認識が、梅原氏によれば2つは根本的に異なるもの、という。読む前の自分の考えが否定されたわけですが、こういう本は新しい発見につながるので興味が出て、前のめりに読むことができるんですよね。

■「勝ち続ける意志力」とは

「勝ち続ける意志力」とは何か。結論から先に言うと、勝ち続ける意志力とは、勝つことではなく「自分が成長し続けること」を目的とすることです。勝つ、あるいは結果を出すというのは一地点でのことにすぎず、成長し続けるというのはその意思や向上心がある限りは終わりなきもの。梅原氏の言葉がとても印象的でした。
僕にとって生きることとは、チャレンジし続けること、成長し続けることだ。成長を諦めて惰性で過ごす姿は、生きているとはいえ生き生きしているとは言えない

ある意味、本書での主張はチャンピオンになることよりも、チャンピオンベルトの防衛について書かれたもの。ただし、「防衛」というその言葉にはどこかベルトを守る、チャンピオンというポジションを守るというニュアンスが含まれますが、本書を読み進めていくと梅原氏には「守る」という意識はほとんどないことがわかります。成長し続けることが目的と断言する梅原氏にとっては、生きることとはチャレンジし続けることなのです。

象徴的なエピソードが、ゲーム大会で優勝した翌日ほどゲームセンターに行くようにしている、というもの。理由は、チャンピオンという満足感をあえて払拭するため。満足すると成長は止まる、チャンピオンに満足している自分自身を受けいれたくないから。だからチャンピオンになった翌日ほどゲームセンターで閉店まで対戦を繰り返すそうです。

すると、対戦では勝ったり負けたりする。チャンピオンが常に勝てるとは限らない、チャンピオンになることよりも、勝ち続けること・成長し続けることに価値がある、翌日にあえてゲームセンターに足を運ぶことでそのことをあらためて思い知り慢心が消え、またチャレンジャーの気持ちを持てるといいます。世界大会優勝後の帰国翌日は、時差や移動による疲れもあるにもかかわらず、翌日はゲームセンターに行く。まさに「勝ち続ける意志力」だと思いました。

■その努力は10年続けられるか?

成長し続けるためにはどうすればよいか、梅原氏の考えはシンプルで、変わり続けること、チャレンジし続けることだと言います。そして努力すること。

どれくらい努力をすればいいのか。これに対する梅原氏の考え方がユニークでした。自分にとって努力の適量を考える時に「その努力は10年続けられるものなのか?」と自問自答するそうです。10年継続できる努力というのが、甘すぎず厳しすぎるわけではないちょうどいいものだそうです。

もう1つおもしろかったのが、「自分を痛めつけるだけの努力はしてはいけない」。自身の経験上、自分を痛めつけることと、努力することは全然違うと言います。あと、正しい努力とは変化することと書かれています。成長し続けるためには変化・チャレンジし続けるとあって、そこと努力は1つのセットなのだと思います。

■成長し続けるという価値観

生きる目的は成長し続けるという考え方は、人生における価値観とも言え、万人受けするものではないと思います。成長のためにはチャレンジし続けないといけないし、その分失敗も多く経験するはず。失敗は誰にとっても目を背けたくなるものでしょう。一方で失敗しないということはチャレンジしていないとも言えると思っているので、失敗するということは前進している指標だと理解しています。

本書を一気に読めたは、成長し続けるという価値観が自分の持っている価値観の1つのそのままだからです。自分自身の人生を生きる上での価値観は3つくらい明確に持つようにしていて、その1つが「いつまでも成長すること」だったりします。年齢を重ねると肉体的な衰えも起こると思いますが、経験や考え方、精神的なものも含めトータルで、昨日より今日、今日より明日で成長していたい、そんな価値観です。

■背水の逆転劇

最後に、梅原氏のある大会での対戦動画を載せておきます。これは「背水の逆転劇」というもので、ストリートファイターをやったことがある方にはわかると思いますが、すごいの一言です。梅原氏のケンと対戦相手であるジャスティン・ウォンの春麗の試合で、最後、ケンの体力ゲージはもう1メモリしかないところまで追いつめられる。こうなるといわゆる「削り」をされてもKO負けする状況。その状況で春麗は「鳳翼扇」(連続でキックを繰り出すスーパーアーツ)という技を出してきました。

ここからが「背水の逆転劇」の始まりで、ケンは春麗の必殺技を全てブロッキングします。ちなみに、これ、超難易度の高い技術のようで、相手の必殺技の発動エフェクトを見てからのブロッキング猶予時間はわずか60分の1秒。梅原氏はこのブロッキングで春麗の蹴りを全て完璧にブロックします。その直後、梅原氏が操るケンは飛び蹴り、足払い、昇竜拳、そしてスーパーアーツの疾風迅雷脚を叩き込んで逆転KO。鮮やかすぎる逆転劇。

1分くらいの動画なのでぜひ。背水の逆転劇が始まるハイライトは20秒くらいからです。

Evo moment #37|YouTube



※参考情報
梅原大悟|Wikipedia
Evo moment #37|YouTube


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多田 翼 (書いた人)