2012/12/09

世界と日本の経済を俯瞰しておこう

ちょっと前に読んだ本が野口悠紀雄氏の「経済危機のルーツ ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか」「大震災からの出発 ―ビジネスモデルの大転換は可能か」の2冊。世界と日本の経済の全体像が俯瞰されていて、「なるほど!」と思うことも多く目から鱗とはこのこと、という感じでした。

第二次世界大戦から現在の歴史的な時間の流れというタテの比較、日本だけでなく先進国・新興国のヨコの比較。ようやく自分の理解も追いついてきたのでエントリーしています(書きながら頭の整理ができることを期待しつつ)。

■戦後の世界経済を俯瞰する

書籍「経済危機のルーツ」で印象的だったのは、工業化のシフトと脱工業化の新しい流れでした。ここについては、ちきりん氏のブログがとてもよくまとまっているので引用させていただきます。以下の表は第二次世界大戦後~2010年代までにおける、日本やアメリカなどの主な国の経済状況です。マトリクスにすることで俯瞰できるとてもわかりやすい図です。


引用:戦後の世界経済が俯瞰できる本|Chikirinの日記

戦勝国である米国・英国、敗戦国であったドイツと日本、そして共産国となった中国、ロシア(ソビエト)について、それぞれの時期に何があったかをまとめたのがこの表、グレーはその国の調子がよくなかった時代(濃いほど悪い)、オレンジはその国が調子がよかった時代を示しています。(濃いほど勢いがある時代)
表の手書きの赤丸はちきりん氏によるもので、工業化による経済成長を順に起こっています。イギリス・アメリカで最初に発生し、ドイツ・日本、中国と、それぞれの国で、農業から工業という第一次産業から第二次産業にシフトが起こり、生産性が大幅に改善しました。青い丸は工業化による経済成長を終えた国が、2番目の経済成長のための「脱工業化」プロセスです。

■日本経済の繁栄と苦難

このへんからはもう1冊の「大震災からの出発」に書かれてる内容に入っていきます。

上の表で1970年代と80年代の日本のところは「繁栄の時代!」とあるように、Made in Japanの工業製品が世界を席巻しました。アメリカなどの製品に比べて品質が良く、かつ低コスト生産による価格優位性があったためです。つまり、アメリカvs日本において、日本製品が勝り日本は工業化による経済成長を実現したのです。

ところが90年代以降、世界経済の産業構造はある変化が起こります。中国などの新興国の工業化。「世界の工場」とも呼ばれた中国製品は品質もそこそこ&低価格を武器に、次第に日本製品が負けるようになっていきます。今度は日本vs新興国において日本は優位性が保てなくなっていく。国内ではバブル崩壊の混乱、国外では世界の産業構造変化の荒波に飲みこまれ、それまでの繁栄がうそのように後に「失われた20年」と言われる苦難の時代へ。

90年代以降は自動車や家電、電気製品の工業製品の相手は新興工業国のそれでした。競争の中で起こったことは、低価格に対抗するためのコストを下げることでしたが、次第にコスト減の内容はリストラや非正規雇用への転換に行き着き、雇用や所得の減少を引き起こします。

製造業での失われた雇用の受け皿になったのがサービス業でした。雇用吸収先が製造業よりも低い生産性のサービス業で雇用形態が非正規雇用であったために、ますますの所得減少が起こった、これが野口氏の説明でした。

ちょっと長くなったのでまとめると、
  • 90年代以降の新興国の工業化で、日本製品の競争相手は新興国製品に。価格などの比較劣位から日本は次第に負けていく
  • それでも新興国製品に対抗するために行き着いた施策がリストラや非正規雇用への転換。結果、雇用が失われたり所得が減少した
  • 失われた雇用の受け皿が製造業より低生産のサービス業であったため、さらに所得減少に

■変化しなかった日本、対応したアメリカ

新興国工業化というのは、世界経済の産業構造の大きな変化でした。野口氏が書いていた内容で印象的だったのが、世界の構造変化に対して日本の産業構造は「変化しなかった」、という指摘。

企業のビジネスモデルや産業構造が変わらず、工業製品の輸出という外需依存の状態を続けます。新興国との競争の仕方が対アメリカの時代の競争と基本的に同じでした。本来は、製造業に代わる新しい基幹産業を国内につくり、異なる競争軸を目指すべきだった。でも実際は、政府は円安政策や金融緩和もあり古い産業構造が生き残り続けることに。

ちなみに、新しい競争軸を生み出したのがアメリカやイギリスでした。それが上の表にある青丸で囲まれた「ITと金融で再生」。製造業よりも付加価値の高いサービス業を創出し、脱工業化を実現したのです。

■東日本大震災の影響

新興国工業化による国内製造業の環境悪化に拍車をかけたのが、3.11の東日本大震災でした。短期的には東北地方が絡むサプライチェーンが壊れたことで生産・供給不足を引き起こしましたが、より影響が大きいのは中長期的に発生する電力制約です。

電力制約は2つあって、使える電力量の不足と、電力使用コストが上がること。福島原発事故の影響で、節電による産業に使える電気が強制的に制限されること、原発停止に伴いその分を火力発電で代替し原料をスポットの高い価格で輸入したことによる電気料金の値上げ。

当初は東京エリアを中心に電力制約が起こるはずが、全国的に原発稼働停止の流れで日本中で電力制約が発生、これに対して企業は生産拠点の海外移転を加速。結果、ますますの製造業の雇用減少という構図です。

■日本は産業構造を変化させられるのか

野口氏は著書の中で、本来あるべき姿は比較優位に即した国際分業である、と述べています。製造業は新興国に任せ、先進国は高い技術や専門性に立脚した産業に特化すべきである。重要なのは製造業の海外移転を引き止めることではなく、製造業に代わる産業を国内に作ることである、と。

新たな産業は高生産性サービス業というのが野口氏の意見です。例として、情報通信、金融・保険、不動産、医療福祉、教育・学習支援、など。重要なのは、新産業の生産性が製造業よりも高いこと。そうでなければ雇用の移転が起こって維持されても、所得は下がり日本は貧しくなってしまう。

個人的な意見として、製造業をゼロにすることは現実的ではないし、いきなりの変化は無理でしょう。製造業でも「先進国は高い技術や専門性に立脚した産業に特化」の例として思いつくのはアップルです。

iPhoneの裏にはこんなことが書かれています。Designed by Apple in California. Assembled in China. デザインはカリフォルニアにあるアップル、製造は中国。これは比較優位に即した国際分業の好例だと思います(もちろん、中国での製造は様々なリスクもあるし、これからも比較優位となり続けるかはわかりませんが)。

★  ★  ★

もう1つ、あるべき姿で触れておくべきは政府の役割。期待したいのは「政府が掲げる成長戦略」ではなく、「政府は何もしないこと」。市場に任せ、規制緩和など競争の邪魔をしないこと。既得権や特定産業を優先する施策は競争をゆがめ、めぐりめぐって経済成長が阻害されてしまいます。


※参考情報
戦後の世界経済が俯瞰できる本|Chikirinの日記


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