2015/03/28

書評『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(泉田良輔)

その業界では、何で競争が起こっているのか。つまり、競争ルールとは何か。

競争ルールとイノベーションについて考えさせてくれたのが、『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』という本でした。興味深く読め、一気に読み終わりました。

本書で印象的だったのは、イノベーションは「既存の競争ルールの無効化」でした。以下、本書からの引用です。
「米国の自動車メーカーがトヨタに勝つためにはどうすればよいか」と聞かれれば、何と答えるだろうか。
日本人であれば、「エンジンの燃料効率を改善してシェアを奪う」とか、「工場のキャパシティを拡大して生産台数を増やす」とか、「GMとフォードを足せば、トヨタを超えるのではないか」といった答えが返ってきそうである。
しかし、米国でイノベーションの何たるかを理解した人たちは、「いま自分たちが競っている市場の競争のルールとは何か」を考えるのである。(中略)
市場のリーダーでない場合には、「その競争のルールを無力化する方法」を考える。(中略)
日本人の回答は、競争のルールを理解するところまでは同じだ。しかし、いまある競争のルールの中で器用に走り切ろうとしてしまう。

本書では、自動車のいまの競争ルールを変え、イノベーションが起こるのは「自動運転車」だと言います。

なぜイノベーションが起こるかと言うと、競争ルールをより上位レイヤーに変えるからです。自動車という製品単体(ハードウェアだけ)の競争から、ハードとソフトの競争になり、さらには社会インフラ全体を変えてしまうような上位レイヤーでの競争です。



自動運転車の設計思想には大きく2つがあると説明されます。Autopilot と Self-driving です。

オートパイロットは、あくまで運転の主体者は人間であり、人の運転を機械がサポートする考え方。飛行機でも使われている方式です。テスラ CEO のイーロン・マスクはこの考え方です。

一方のセルフドライビング(自律運転)とは、Google が開発を進めているような最終的には人が運転操作には関与せず、機械だけで運転ができてしまうものです。

オートパイロットとセルフドライビングで、後者の「自律運転」を実現させるためには、単に自律運転車を開発し公道を走らせるようにしただけでは足りません。

なぜなら、自律運転車が移動手段として機能するためには、社会インフラ全体が自律運転車に適用されていないといけないからです。つまり、都市や町全体の、世の中の仕組み自体が大きく変わります。

例えば、自分が車を運転しなくて済むということは、車で移動する感覚として今のタクシーに近いイメージです。行き先を伝えるだけで、あとは勝手に目的地まで運転してくれます。

車内の雰囲気は、今の車の前座席と後部座席にきっちりと分かれるというよりも、もっと家の部屋のようなパーソナルスペースになると思います。そう考えると、自律運転車での移動中は外出というよりまだ家にいる感覚で、目的地に到着して初めて外出したという意識に変わるかもしれません。

自律運転車が普及した時、今までは通勤に電車を使っていた人が自動車通勤に変える人が増えそうな気がします。道路上に自動車が増えることで渋滞をどう緩和するか(自動運転により渋滞最小化をどう実現するか)もさることながら、通勤後の駐車スペースの問題が出てきます。

駐車スペースを解決する手段としては、会社付近の駐車場を増やすよりも、自律運転車で出勤後も駐車せずに、車だけをそのまま道路に走りさせ続け、会社を出る頃に呼び寄せることかもしれません。

日中に車をただ走らせているだけではもったいないので、自分が会社にいる間はタクシーや運搬トラックとしての役割で有料で使ってもらうような有効利用もあり得ます。

いや、車内がよりパーソナルスペース化するならば、他人とシェアしたくない。であれば自律運転車をコンパクトにして、道路や公共スペースにおける一台あたりの占有率を下げることが解決策になるでしょう。



人が運転せずにコンピュータだけで運転が成立すると、他にもいろんな影響や変化が起こります。つまり、自動車における競争が、単に自律運転車の開発だけではなく、都市デザインの競争になるのです。

オートパイロットではなく、Self driving car (自律運転車)を見据えているグーグルは、自分たちで都市そのものを設計するようになっていくのかもしれません。

ちなみに、グーグルの CEO (2015年現在)であるラリー・ペイジは、現在の空港の仕組みに不満を抱いており、自分たちで今とは全く違う空港をデザインできないかを考えていることを示唆しています。(参考:Larry Page Wants Google To Build A Super-Efficient Airport The Rest Of The World Can Copy | Business Insider)

都市デザインだけではなく、都市と都市を結ぶ「都市間デザイン」もグーグルが実現したい未来の1つなのでしょう。

自動車が自動運転車に変わっていくことで、単にハードウェアが変わるだけではなく、人々の移動方法に影響を受けて都市全体が変わる。すなわち、社会インフラという複合システムが変わっていくのです。

本書『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』では、グーグルに対抗できる数少ない存在としてトヨタを挙げています。

自動車がフックになり、社会をどう変えていくのでしょうか。



2015/03/25

書評「戦争プロパガンダ10の法則」(アンヌ・モレリ)

プロパガンダ(propaganda)の言葉の意味は、次の通りです。
特定の思想によって個人や集団に影響を与え、その行動を意図した方向へ仕向けようとする宣伝活動の総称です。特に、政治的意図をもつ宣伝活動をさすことが多いですが、ある決まった考えや思想・主義あるいは宗教的教義などを、一方的に喧伝(けんでん)するようなものや、刷り込もうとするような宣伝活動などをさします。
要するに情報による大衆操作・世論喚起と考えてよく、国際情報化社会においては必然的にあらわれるものです。
三省堂辞書サイト




プロパガンダについてあらためて考えさせられたのが、「戦争プロパガンダ10の法則」という本でした。

本書の内容紹介から一部を引用します。

第一次大戦からアフガン空爆まで、われわれは政府発表やメディアにいかに騙されたか。気鋭の歴史家が戦争当事国による世論操作・正義捏造の過程を浮き彫りにする。
第一次大戦から冷戦、湾岸戦争、ユーゴ空爆、アフガン空爆まで、あらゆる戦争において共通する法則がある。それは、自国の戦闘を正当化し、世論を操作するプロパガンダの法則だ。
「今回の報復はやむをえない」
「ビンラディンは悪魔のようなやつだ」
「われわれは自由と平和を守るために戦う」
正義はこうして作られる。
これまでに戦争当事国がメディアと結託して流した「嘘」を分析、歴史のなかでくり返されてきた情報操作の手口、正義が捏造される過程を浮き彫りにする。ブリュッセル大学で教鞭をとる気鋭の歴史学者が読み解く、戦争プロパガンダの真実。

本書で提示される戦争プロパガンダのための「10の法則」は、以下です。
  1. われわれは戦争をしたくはない
  2. しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
  3. 敵の指導者は悪魔のような人間だ
  4. われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う
  5. われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
  6. 敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
  7. われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
  8. 芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
  9. われわれの大義は神聖なものである
  10. この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である

本書では、10の法則ごとに章立てで構成されています。そして各法則ごとに過去の戦争で、実際に起こった事例や当時の権力者の発言などが紹介されます。

例えば、1つ目の法則は「われわれは戦争をしたくない」。

戦時国家はまず、自分たちは平和を愛しているということを宣言すると説明されます。ヒトラーの演説にも「平和への意志」が登場します。

2つ目の法則は「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」。お互いが相手に対して主張し、それぞれが敵側を悪者にします。

敵のイメージをより具体的にするため、3つ目の法則が使われます。「敵の指導者は悪魔のような人間だ」と、国ではなく敵国の指導者という顔を出すのです。

本書では、第一次大戦、冷戦、湾岸戦争、ユーゴ空爆、アフガン空爆などの過去事例が、1つ1つの法則ごとにいくつも紹介されています。10の法則が実際にどう適用されていたかが具体的にわかります。

ただし、読んでいて思ったのは、あまり個別の発言意図を探るよりも、様々な戦争に共通するプロパガンダの法則を知り、今後の自分の情報判断にどう活かすかがポイントだと思いました。

つまり、本書の目的は、10の法則について過去の戦争で1つ1つを検証するものではなく、読者の情報判断能力に気づきを与えること。メディアリテラシーを高めてくれる1冊です。

興味深かった1つは、戦争報道における言葉の使われ方でした。

例えば「空爆」。

第二次大戦では「空襲」という表現が使われます。しかし、同じ行為でも現代は空爆と言います。確かに、日々のニュースで今起こっている戦争に対して「空襲」という単語は聞いたことはありません。

これ以外にも、自国の陣営について語る場合、領土の解放 / 民族の移動 / 墓地 / 情報という言葉が使われます。

一方、相手の陣営については同じ事象でも、占拠 / 民族浄化 / 大量虐殺 / 死体置き場 / プロパガンダという言葉に置き換えられます。相手国についてはネガティブな響きを持つ言葉が使われるのです。

ちょっとした言葉の選択ですが、受け手への印象操作に無視できない役割を持ちます。

本書で紹介される10の法則は、戦争をテーマに国と国でのレベルのものです。本質的なところは、自分自身の正当化と相手に対する憎悪の醸成です。この手法は、戦争だけにとどまらず、政治論争や個人の喧嘩のレベルでも、当てはまるのではないでしょうか。




2015/03/21

書評「都市は人類最高の発明である」(エドワード・グレイザー)

「都市は人類最高の発明である」という本がおもしろかったのでご紹介します。

このタイトルは邦題で、原題は「Triumph of the City: How Our Greatest Invention Makes Us Richer, Smarter, Greener, Healthier, and Happier」。直訳すると「都市の勝利」です。

内容紹介から引用すると、
無秩序に広がる都市こそが、人類にとって最も必要なものなのだ!
都市が人類の進歩に果たしてきた役割を分析し、その重要性を明快に指摘する新しい都市論。
著者は、「健康面でも文化面でもインフラの効率面でも環境面でもきわめて優れていて、都市こそは人類最高の発明である」、「都市を高層化・高密化させて発展させることが人類の進歩につながるのであり、その足を引っ張るような現在の各種政策はやめるべきである」と主張する。




■都市は人類の強みを最大限に活かせる

なぜ都市は「人類最高の発明」なのか。

本書の主題を一言で言うと「都市は人類の強みを最大限に活かせる場所」だからです。

都市の特徴は、人や企業の間に物理的な距離が小さいことだと著者は言います。都市の緊密性や密度である、と。

都市では人と人との距離が近いことで、人同士のつながりが生み出されます。

これにより、人々は協力し、お互いから学び合います。著者は、お互いから学び合うことこそが、人類の本質的な特徴だと言います。人類の協力があるからこそ、都市は文明の成功に寄与し、人々が協力しあう状況が、都市が存在する最大の理由であると。

■都市での密集性と多様性

都市では、人々が密集していることで相互作用の機会が生まれます。つまり、各自のアイデアやお互いの技術が組み合わされやすい状況です。そこから、新しいアイデアやイノベーションが生じるのです。

アイデアは何もないゼロからではなく、多くは既存のアイデアや技術などの組み合わせで生まれます。この考え方は、例えば名著「アイデアのつくり方」などで述べられています。

ここでポイントになるのが「多様性」です。

アイデアが組み合わさるとき、似たようなアイデア同士では新しいアイデアが生まれにくいでしょう。だからこそ、重要になるのが多様なアイデアがあること。本書の文脈で言えば、多様な産業や文化が都市にあることが大切なのです。

都市にはお互いが接触し、混ざる機会が数多くあること。そのための条件が「密集性」と「多様性」の2つであり、都市が発展していくために必要な2つの要素だと著者は言います。

■多様性を失った都市が衰退した事例 (デトロイト市)

本書では、古今東西の様々な都市が各テーマの事例として紹介されています。

その中に、都市の多様性という視点で興味深い事例が書かれていました。アメリカのデトロイト市です。

20世紀、デトロイトは世界有数の自動車産業が中心の工業都市でした。自動車という単一の産業に強く依存し、労働者の多くも自動車産業で働く人々でした。一方で、自動車以外の産業が育成されませんでした。

多様性を失ったデトロイトは、自動車産業が傾くと、それとともに衰退していきます。

かつてデトロイトが発展できたのは、フォードが開発した自動車大量生産方式があったからでした。興味深い指摘だったのが、大量生産方式が開発できたのは、その当時のデトロイトには自動車以外の多様性のある都市だったから。

多様性があったから生み出された自動車大量生産方式。その方式により、自動車産業という単一産業都市となってしまい、多様性が失われ、デトロイト市は衰退していったのです。

★  ★  ★

本書はタイトルで「都市は人類最高の発明」と言っています。

なぜ都市が最高なのかを通して示唆するのは、人間は、共に考え、共に働き、そして共に生きる存在であること。これこそが、都市は最高の発明であるためのベースとなっている要素です。




2015/03/17

Google グローバルマーケティング担当 上級副社長が語る「マーケターは仲人たれ」

Google の上級副社長の1人で、グローバル マーケティング担当責任者である Lorraine Twohill (ロレイン トゥーヒル)。 ※役職は2015年現在

彼女は、2003年にグーグルへ入社。2009年からグーグルのグローバルマーケティングの責任者となり、2014年から上級副社長に就いています。

Lorraine が McKinsey とのインタビュー対談で、マーケティングをテーマについて語っていました(2015年2月)。自身の経験も踏まえ、マーケティングについて多岐にわたっての対談となっています。

How Google breaks through | McKinsey & Company



特に印象深いコメントが、マーケターはどうあるべきか、についてでした。以下、インタビューからの Lorraine が語った部分の引用です。

The way I think about marketing—and the way I tend to talk to my team about it—is “knowing the user, knowing the magic, and connecting the two.”
Knowing the user means understanding who your consumers are, who your customers are. Not just knowing who they are, but what they need, what are their deep insights, and understanding how we can help them.
Knowing the magic means knowing what’s in the hearts and minds of your engineers and your product managers, and what they’re building.
Connecting the two means bringing the magic built by engineers to the world in a way that is relevant, meaningful, and compelling to the everyday consumer. So we create something that the world will be excited about.

彼女のマーケティング観とも言えるものです。マーケティングとは、「knowing the user」「 knowing the magic」の2つをつなげるものである、と。

knowing the user とは、生活者やユーザーを理解すること。何を望んでいるのか、理解する過程で得られたインサイトは何か、そして、彼ら/彼女らに対して自分たちがどう役に立つかを理解することです。

knowing the magic とは、生活者/ユーザーに提供する自分たちのサービスや商品を深く知ること。それはつまり、サービス/商品をつくる人たちの思いまで理解することです。

そして、マーケターとは、Connecting the "knowing the user" and “knowing the magic”、生活者と商品/サービスを結びつける存在であれ、と。

マーケターが仲介者であるというのは示唆を与えてくれます。

例えば、こんな解釈もできます。マーケターは、生活者と商品/プロダクトの間を取り持つ仲人である。つまり、マーケターがお見合いの席でやたらと自分自身を売り込むことは必要なく、結婚するのはあくまで消費者と商品という考え方です。

仲睦まじい夫婦になるために、仲人はお互いの両方をしっかりと理解することが大切になります。片方の男性側だけを知っていて、女性側のことを知らないのに、男性側の人柄や良さばかりをうるさく宣伝する。無理やり仲人をしたのでは、2人が幸せに結ばれない可能性もあるわけです。

A marketer is connecting the "knowing the user" and “knowing the magic”.


2015/03/14

書評『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(前泊博盛)

現在の日本のことを「日本は他国に支配された占領下にある」と思う人は、まずいないはずです。

そして、多くの人はこう反論するでしょう。「日本は独立した主権国家である」と。

『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』という1冊の本があります。この本を読み進めると、上記の問い、すなわち、日本の国としての状況に向かい合わざるを得ないことに気づきます。
日本は本当に独立した主権国家なのか。
もしかすると、日本はまだアメリカの占領下にあると言えるのではないか。

■日米地位協定とは何か

書籍『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』では、日米地位協定とは何か、その歴史的な経緯、何が問題で、それによりどういった不都合が日本に起こっているかが書かれています。それら問題は、後に述べるように日本の根本に関わるものです。

そもそも地位協定とは、二国間における国民の役割や権利などの地位を規定する協定です。

日米地位協定とは、日本とアメリカにおける権利等を規定するものです。この呼称からだけではわかりませんが、主に在日米軍の日米間での取り扱いなどを定めた協定です。



日米地位協定の歴史的な経緯は以下の通りです。Wikipedia からの引用です。
1951年(昭和26年) - 日本国との平和条約、同条約第6条a項により占領軍のうちアメリカ軍部隊にのみ引き続き駐留を許す日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約(旧安保)締結
1952年(昭和27年) - 旧安保に基づく具体的取り決めとして日米行政協定に調印
1960年(昭和35年) - 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(新安保)締結に伴い、日米行政協定を日米地位協定として改正。正式に条約とする。
つまり、大きな枠組としては、
  • 日本国との平和条約 (サンフランシスコ講和条約)
  • 日米安全保障条約
  • 日米地位協定 (1952年に日米行政協定として始まり、1960年以降は日米地位協定に)
という3つで構成されています。


■日米地位協定の何が問題なのか

本書から、日米地位協定の位置づけをいくつかピックアップして引用してみます。
在日米軍が独立から60年たった今日でもなお、占領期とまったく変わらず行動するためのとり決め、それが「日米地位協定」なのです( (中略)「米軍地位協定」と呼んだほうが本当は正しいでしょう)。
日米地位協定の本質とは、すでにのべたとおり「アメリカが日本に、望む数の兵力を、望む場所に、望む期間だけ駐留させ、なんの制約もなく行動する権利を確保する」ところにあるからです。
「アメリカが占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるためのとり決め」
「日本における、米軍の強大な権益についてのとり決め」
日米地位協定の本質は、そうした主権国家どうしが結んだ対等な条約の細則という側面にはなく、1945年、太平洋戦争の勝利によって米軍が日本国内に獲得した巨大な権益が、戦後70年たったいまでも維持されているという点にあるのです。

では、米軍が日本で獲得した強大な権益とは何か。

本書では「米軍には大きな治外法権が保障されている」と指摘されています。それにより、日本国民の生命 / 財産 / 権利が侵害されていると言います。具体的には、
  • 米兵たちは罪を犯しても、ほとんど裁かれることがない
  • 日本には米軍の財産についての捜索 / 差し押さえなどを行なる権利を持たない
  • 日本の航空法で禁止されている市街地上空での超低空飛行訓練を行なっている
  • 日本の領土内にあるにもかかわらず、米軍基地内は環境保護の規定もなく汚し放題
  • 米兵でも当然払わなければならない税金や公共料金を払っていない
  • 「思いやり予算」のように日米地位協定に決められていないことまで、「思いやり」という名で超法規的なお金が流れる

例えば、1点目の「米兵たちは罪を犯してもほとんど裁かれることがない」について。

なぜこのようなことが起こるかと言うと、次のようなことが日米地位協定で決められているからです(第17条 [刑事裁判権])。
  • 公務中(仕事中)の米軍関係者は、どんな犯罪であっても日本側に裁判権はない
  • 公務外の米軍関係者についても、犯人の身柄が米軍側にある場合(例: 犯行後に基地内に逃げ込む)、日本側起訴するまでは身柄を引き渡さなくてよい。
身柄を引き渡さなくてよいということは、日本側は逮捕できないことを意味します。逮捕できなければ起訴するのは困難です。また、起訴する前に日本から出国してしまえば、もはやどうすることもできません。

本書では「米軍には大きな治外法権が保障されている」ことで、米軍には次のような状況が与えられていると言います。
米軍はなにも制約されない。日本国内で、ただ自由に行動することができる

■日米地位協定は日本国憲法よりも優先される

本書のタイトルは『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』です。

日米地位協定は、憲法より大切であると言っているのです。

端的に言うと、1959年のある最高裁判決より以降は、(日米地位協定などの)アメリカとの条約が、日本国憲法よりも上位の法体系として存在している、と指摘されます。

この最高裁判決は「砂川判決」と呼ばれ、2014年の集団的自衛権行使容認の議論でも度々登場しました。事件や裁判の詳しい経緯は Wikipedia 等に譲りますが、最高裁は、次の判決を下しました。
憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。
他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない。

この判決のポイントは大きく2つです。

前半で、在日米軍の駐留は日本国憲法(第9条)には反しないことを言っています。

後半で言っている内容が、砂川判決の最大の特徴です。「日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約は、憲法判断はできない」と最高裁が認めているのです。(「一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り」という条件はあるが)

すなわち、これにより、日本の法体系において、
(日米地位協定などの)アメリカとの条約 > 日本国憲法
という構図となったのです。

もう1つの問題点として、「日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約」というあいまいな表現もあります。「日米安全保障条約のように」という表現なので、安保条約だけを言及しているわけではなく、何を持って「高度な政治性」とするかもわかりません。

この点について、本書からの引用です。
砂川裁判の判決を読めば、少なくとも「国家レベルの安全保障」に関しては、最高裁は憲法判断ができず、この分野に法的コントロールがおよばないことは、ほぼ確定しています。
おそらく昨年(2012年)改正された「原子力基本法」に、こっそり「わが国の安全保障に資することを目的として」という言葉が入ったのもそのせいでしょう。これによって今後、原子力に関する国家側の行動はすべて法的コントロールの枠外へ移行する可能性があります。どんなにメチャクチャなことをやっても憲法判断ができず、罰することができないからです。

原子力基本法は、2015年3月時点での最終改正は2014年6月で、第1章第2条(基本方針)において、次のように謳われています。
第2条 原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。
原子力基本法の全文

★  ★  ★


最後に、やや長いですが、本書『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』からの引用です。
敗戦によって駐留を開始したはずの米軍が、サンフランシスコ講和条約によって「主権国家」となった日本の国内に、すでに70年近くも駐留しつづけています。あきらかに異常な「平時における外国軍の長期駐留」に対し、「米軍の [法的] 地位を明確に律するため地位協定が必要になった」と、「日米地位協定の考え方」(増補版)は地位協定が結ばれた経緯を説明しています。
しかし肝心の「米軍の撤退時期」についてはなにも書かれていません。
そのうえ、すでにふれたように「在日米軍」については、実は「安保条約や日米地位協定上なにも定義がない」ことを、外務省の作成した「日米地位協定の考え方」自身が認めているのです。そのため本来、厳重な規制の対象であるべき在日米軍は、解釈次第でどのような権利ももてる、まさに超法規的存在となっているのです。




2015/03/10

三越伊勢丹の「店頭販売員の行動データ」分析がおもしろい

三越伊勢丹ホールディングスと富士通で、協働で行なわれた取り組みが興味深かったのでご紹介します。2011年のものですが、店頭販売やサービス力をどう強化するかの事例です。

接客力を科学的に分析することで、お客様へのサービスの質を向上 (株式会社三越伊勢丹ホールディングス様)|富士通




■調査方法/結果が課題解決につながらない

背景としてあった問題意識がこちらです。
百貨店も商品力だけでは生き残れない時代。将来にわたって安定的な収益をあげていける構造に転換する必要があり、そのためには従業員一人ひとりが夢とほこりをもって働ける企業風土を醸成していかなければならない。接客販売力を強化することで、販売力を競争力に変えていく必要がある。

では、どうやって接客販売力を強化するのか。三越伊勢丹ホールディングスの課題だったようです。

優秀な販売員の売上は、一般的な販売員の何倍にもなるとのこと。接客販売力は経験やノウハウなど個人の力量に依存しがちな能力だけに、その差がどこにあるのか解明することは非常に難しい現状でした。

優秀販売員のノウハウの体系化は幾度となく実施してきましたが、できることには限界があったとのこと。三越伊勢丹ホールディングスによれば、
どれくらい店頭に立っていたか、どのくらい接客していたかを目視で確認したり、アンケートを採って調査をしてみても、『ホスピタリティが大事』といった抽象的な結論は出るものの、定量的な調査・データ分析には時間や労力がかかるため、具体的な施策への『仕組み化』には至りませんでした。
課題は見えているものの、それを解決するはずの調査方法/結果が課題解決につながらない。故に、具体的なアクションにできないケースです。

■販売員の行動データ収集し「優秀な店員 vs 一般的な店員」を比較した調査

三越伊勢丹ホールディングスと富士通が行なったのは、店頭販売員の店頭での「行動データ」を収集し、優秀な店員と一般的な店員で比較分析をすることでした。

販売員の接客回数、接客時間、動線といった販売員の実行動データをスマートフォンを使って測定。データから見える化することで、たくさん売れる販売員と一般的な販売員の動きの特性の違いがわかったそうです。
  • 優秀な販売員:普通の店員に比べて動きは明らかに少なく、売り場を見わたせる位置でじっくり全体を見ている。「いける」と思った時に動き接客
  • 一般的な販売員:店内をまんべんなく動き回っているが、無駄な動きが目立つ。入ってきた顧客を見逃すことが多かった

接客力を科学的に分析することで、お客様へのサービスの質を向上 (株式会社三越伊勢丹ホールディングス様)|富士通


■調査から、課題解決となるアクションへ

この調査結果からの発見で興味深いと思ったのは、優秀な販売員と一般的な販売員の違いが、単に行動量の多さだけの違いで終わっていないことです。

なぜ、優秀な店員はあえて動かないのか。

動かずに売り場全体を常に見ているという、一歩踏み込んだ言及がされているのが、良い分析結果だと思いました。ここがポイントであり、課題解決となる具体的なアクションにつなげているからです。

単に行動データを集計しただけでは、得られた結論として「優秀な販売員は店内を動かない。だからあまり移動しないようにしよう」という課題解決策をミスリードする可能性もでてきてしまいます。

行動データを収集し、集計し分析/考察をした調査結果として、「売り場全体を観察する」「顧客が入ってきたことを見逃さない」ことがインサイトとして重要であり、店内を無駄に動かないのは、これらを実践したからにすぎないのです。

三越伊勢丹ホールディングスでは、優秀な販売員のノウハウを体系化するために、従来はアンケート調査をやったもの、抽象的な答えしか得られず、打ち手につながらない背景がありました。

アンケートという被験対象者への意識データではなく、行動データを非常にうまく活用し、問題解決を試みたおもしろい事例です。

行動データでファクトを見つける。(今回の事例ではやっていないかもしれませんが)行動データでわかったこと/仮説を、アンケート調査という意識データで補完する。

こうした行動データ+意識データの組み合わせは、色々と応用範囲がありそうです。


2015/03/07

書評「振り込め犯罪結社 - 200億円詐欺市場に生きる人々」(鈴木大介)

2000年代の前半頃より社会問題として続く「振り込め詐欺」。

当初は「オレオレ詐欺」と呼ばれ、その後 2004年に「振り込め詐欺」と名称が変わりました。




認知の徹底、警察や金融機関での対策がなされるものの、被害は減るどころか、むしろ依然として増え続けている状況です。

2014年の被害総額は、振り込め詐欺が約376億円。振り込め詐欺以外の特殊詐欺は約184億円で、合わせて特殊詐欺全体では、被害額は約559億円となったようです。2014年は初めて年間500億円を超えたとのことで、前年に比べ被害額は70億円(14%)も増えていることになります。(振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の被害概況)

さらに、2015年に入り1月の特殊詐欺被害額は約38億円。これは前年の14年1月よりも8億円増えています。(「特殊詐欺」被害 1月だけで38億円に|NHKニュース)

被害額は増え続けています。

【図解・社会】振り込め詐欺など特殊詐欺の被害額推移

09年に被害額が一度減っています。背景は、警察の広報活動と詐欺組織摘発を強化し、銀行も振り込み額の上限(ATMでの現金振り込みの限度額は10万円に)を設けるなど、様々な対策を講じた結果でした。被害額を約50億円まで抑えられています。

しかし、その後は一転して増加し続けています。

また、2014年は未然に阻止した額が296億円でした。阻止額も増え続けているのは、それだけ対策が進んでいると言えます。

一方で、被害額が阻止額の2倍近くあり、仮にもし阻止できずに被害にあっていたとしたら、被害額は単純計算で860億円となっていたことになります。

■詐欺加害者への取材から、実態を描いた書籍「振り込め犯罪結社」

振り込め詐欺はなぜ撲滅できないのか。

10年以上も社会問題として認知され、警察や金融機関での対策も続けられています。しかし、被害額だけを見ると減るどころか増え続けているのが現状です。

振り込め詐欺の実態を、詐欺加害者(犯行側)への取材から明らかにしているのが、「振り込め犯罪結社 - 200億円詐欺市場に生きる人々」という本です。

著者の鈴木大介氏が、振り込め詐欺をやっている/いた多数の人たちに取材をした内容をベースに書かれています。

もっとも、これが全容ではないでしょうし、この本が上梓された13年末から1年あまりが経ち、15年初めの今とは状況が違っている部分もあるでしょう。

例えば、ここ最近は、犯行グループが現金を受け取る手段として宅配便やレターパックを使う「送付型」が激増しているとのこと。これは本書では出てこなかった受け取りパターンです。

それでも、振り込め詐欺の実態は、一般的な報道等で知ることができる内容よりも、非常に多くのことが書かれています。

■振り込め詐欺の卓越した組織化

振り込め詐欺の犯行側の特徴を一言で表すと、キーワードは「組織化」です。本書を読むと、それも非常に高度に洗練された組織だとわかります。以下は本書の紹介文からの引用です。
振り込め詐欺実行犯の正体は、裏の金融ビジネスとしてフランチャイズ化された「犯罪結社」である。
その組織は、集金係である「ダシ子・ウケ子」、電話専門部隊「プレイヤー」、組織を統括管理する「番頭」、出資金のかわりに配当を受け取る「金主(オーナー)」という役職に分かれており、あくまで利益を追求する理念や組織論は、もはや一般企業がぬるいと思えるほどに卓抜したものだった。

振り込め詐欺は、(やろうと思えば)単独での犯行もできてしまいます。自分で電話をかけ、自分の口座に振り込ませる、もしくは直接会ってお金を受け取ったり、指定した宛先に送金してもらう。

しかし、実態は単独犯ではなく、犯行プロセスでの各種役割が明確になり、高度な組織ができていました。

本書では、卓越した組織になっていったのは、犯行グループが「いかに自分たちが捕まらない」ようにするために、あらゆる手段を尽くした結果であると指摘します。

組織の構図はピラミッドになっていて、各層の役割がありました。
  • 金主(オーナー):自らの資金 / 経験 / 人脈を使い、犯罪を行なうための事務所、道具に使うレンタル携帯等、振り込ませる口座、電話をかける名簿を提供する。犯行から得たお金を「番頭」と折半
  • 番頭:電話担当のプレイヤーを確保し、育成し管理する。事務所の店長や中間管理職のような存在。金主と得たお金を折半
  • プレイヤー:電話担当。複数の役割があり、「おれだけど」と最初に子や孫の役割であるアポインター、警察/弁護士や被害者側を装って振り込ませるクローザーなど、プレイヤー内でも役割がある
  • 出し子/受け子:集金担当。口座に振り込ませたお金をATMから引き出す「出し子」、被害者から直接お金を受け取る「受け子」。対面に強く演技力が求められる受け子に対して、使えないと判断されると出し子として扱われる
  • 道具屋:名簿、他人名義の携帯電話、口座等の振り込め詐欺に必要な道具を取りまとめ提供
  • 研修講師:プレイヤー育成の専門家。電話のかけかたなどのマニュアルを教える

組織内の縦のラインとして「金主 - 番頭 - プレイヤー - 出し子/受け子」があり、横のつながりとして「道具屋」と「研修講師」がいる構図です。

著者は、自らの取材を通して、振り込め詐欺組織の実態が明らかになり、次のように書いています。同じく本書からの引用です。
徹底的なセキュリティ意識やプレイヤーの育成と選抜のシステムは、完全に会社組織である。それどころか高度に管理された、「伸びる企業」そのものだ。
(中略) それにしてもどこぞのビジネス誌に紹介したいような、管理・人材育成・人心掌握のコンビネーションではないか。

振り込め詐欺グループで特徴的なのは、こうした縦と横の直接のつながりが、意図的に分断されていることです。

具体的には、最上位の「金主」が直接やりとりをするのは「番頭」のみです。金主は、実際に犯行電話をかける「プレイヤー」や集金担当の「出し子/受け子」とは一切の直接のやりとりはありません。プレイヤーも、出し子/受け子とは直接関係は持たないよう分断されています。

出し子/受け子が集めたお金も、直接番頭には渡りません。例えば、出し子 → 出し子の管理者 → 私設私書箱に送金 → 番頭、と言った流れです。さらには、間にコインロッカーを使ったりと、複雑な経路をたどります。

これがまさに、犯行グループがいかに自分たちが捕まらないためにあらゆる手段を尽くした結果。

捕まるリスクが最も高いのは、組織の下位の層である「出し子/受け子」です。上位層はそこからのつながりを断つことで、組織の末端だけが捕まり、自分たち上は決して捕まらない。いかにして生き延びるかを突き詰めてできあがった組織でした。

著者は次のように記します。
この構図を理解したとき、僕は絶望的な気分になった。振り込め詐欺の組織化は、とんでもない「悪しき構造」を日本に作り出してしまったのだ。
振り込め詐欺は、何度でも蘇る。最も逮捕リスクの高い集金役が逮捕され、プレイヤーが逮捕され、最悪番頭までもが逮捕されたとしても、頂点である金主たちが逮捕されない限りは、組織の再構築は可能だ。
一般人までもがプレイヤーに流入し、集金役は社会の貧困層や累犯者などをいくらでも用意でいる。当たり前の話で、組織の中低層の人員は、みな「仕事と収入」を求めて、詐欺に加担するからだ。

■「いかにして捕まらないか」から「騙すための手口の過激化」へ

冒頭で詐欺被害の推移を見た時、被害額は今なお増え続けている状況でした。

著者は犯行グループへの取材を通して、振り込め詐欺の業界自体が常に進化していることを聞きます。他の組織のやり方を常にチェックし、お互いの情報が流れる中でパクリ合い洗練されていく。他が捕まれば反面教師とする。こうして全体がレベルアップする、と。

本書では、振り込め詐欺を高度な組織化にした世代を「第二世代」と呼んでいます。第二世代の特徴は「いかに捕まらないか」を追求した帰結としての組織化でした。

それをさらに進化されたのが第三世代です。彼らが推し進めたのは「騙すための手口の進化」でした。

例えば、名簿情報から電話をかける相手の情報として、電話番号だけではなく住所や、さらには子や孫の住所と電話番号、勤務先や所属部署まで把握するようです。

住所情報から家を直接下見し、時には自宅に押しかけ脅す。車で拉致し銀行へ直行し、その場でお金を引き出させる手口。

さらには、同じ相手から何度も被害に合わせることも厭わない。被害者は自分が詐欺にあっていると認識しているが、それでも暴力が恐いために金を引き出せる。これは詐欺というよりも恐喝に近い手口です。

★  ★  ★

本書を読み進めていくうち、振り込め詐欺については「これだけ社会問題になってもなお被害に合うのは、騙されたほうが悪い」などとは決して言えない実態があると思えてきます。

電話をかける時の手口(詳細なマニュアル)、ターゲットを定め下見/直接自宅まで来られ、恫喝/脅迫され、暴力によってお金を取られる。

こうした現実が積み重なり、今なお詐欺の被害額が増加し続けているのです。被害者の中には、報復を恐れ被害届すら出せない方もいるのではないでしょうか。だとすると、被害実態はわかっている以上に大きいことが予想されます。

本書のあとがきで、著者が鳴らす警鐘です。
虐待家庭に育った者、貧困の中で小学校にまともに通わせてもらえなかった者、施設に育ち親を知らぬ者。詐欺の末端層や初期のオレオレ詐欺のプレイヤー層は、まさにその「阻害された者たち」だった。
だが、詐欺の現場には徐々に現役大学生、大卒者、そして一般企業の経験者までもが流入してゆき、その様相は初期とは一変した。もはや振り込め詐欺は「進路」「転職先」の一つですらあるように感じる。
それほどまでに、日本は貧しい国になってしまったのだろうか。
改めて思う。詐欺組織の隆盛の背後にあるのは、日本の格差社会、高齢者に偏重する資産、末端まで行き及ばぬ経済回復や、伸び悩む雇用、そして軽視される社会的弱者や子どもたちへの福祉だ。
振り込め詐欺「結社」。そんなものを生活の場としなければならないような人々がいることそのものが、日本の真の闇なのだと思う。




2015/03/01

Facebookのクロスメディア広告効果調査に、あえてツッコんでみる

Facebook Japan が、自社広告を含むクロスメディア広告効果調査を発表しました(2015年2月22日)。

花王エッセンシャルでFacebook広告が驚きの効果! | Facebook for Business




花王のシャンプーブランド「エッセンシャル」が、2014年8月に行なったキャンペーンの広告効果調査とのことです。広告はフェイスブックを含む、TV / 店頭POP / Web / 雑誌 / OOH に展開した大規模なキャンペーンだったようです。

上記の発表タイトルで「Facebook 広告が驚きの効果」とあるように、いくつか紹介されている結果自体は興味深いものでした。

一方で、Facebook からの発表のスタンスそのものに、「??」なところがいくつもありました。上記のリンク先で調査結果が発表されていますが、ケースをまとめた4分ほどの動画と、「まとめ」として5つが箇条書きであるのみです。

今回のエントリーでは、Facebook のクロスメディア調査発表について、あえて批判的な考察からツッコんでみます。

■調査手法が不明

そもそものところで疑問を感じるのは、広告効果を測った「調査手法」が全くと言っていいほど開示されていないことです。

「Facebook for Business」のエントリー上では、いくつかの結果が箇条書きされているだけです。詳しくはご覧くださいとあるケーススタディ動画でも、具体的な調査方法については全く触れられていません。

調査方法として言及されているのは、「世界的な調査機関であるミルウォードブラウン社のクロスメディア調査で、各媒体の効果を検証しました」と言っている程度です(動画 0:32 から10秒程度)。

この手の検証やスタディは、どういう方法で実施したかが調査結果とともに大切な情報です。

調査手法を開示することで、どういった前提による調査結果なのかがわかります。「誰に」「どんな方法」で聞いた調査したのか。それにより、どんなバイアス可能性が考えられるか。その結果、調査結果を見る際に何に注意する必要があるのか。

こうした情報がすっぽりと抜けている今回の Facebook の発表は、調査報告としての情報開示が不十分です。

もちろん、調査方法自体がノウハウ(資産)でもある調査会社からすると、調査方法を100%オープンにすることは難しい一面もあるでしょう。それでも、一定範囲の情報は明らかにすべきです。

調査を行なったのがミルウォードブラウンで、また、調査結果から得られた数字からなんとなく調査方法は予想できますが、調査手法情報なき調査結果は、本来は何も語っていないのと同じです。

■ターゲット層や広告効果指標が不明確

調査結果の Facebook 広告効果として出ていた数字も、「?」な点がいくつかありました。

ピックアップすると、
  • 「全メディアの平均と比較して Facebook 広告が約7倍の費用対効果」と言っているが、「費用対効果」が具体的に何を指しての効果なのかわからない。広告出稿コストに対する購入意向なのか、利用意向、ブランド認知、あるいは広告想起なのか
  • 比較自体も、単純な FB vs 全メディア平均(FB, TV, 店頭POP, Web, 雑誌, OOH の平均)ではなく、各メディアとの比較結果を出すべき(全平均 vs FB vs TV vs … )
  • 「Facebook 広告は少ない投資額でターゲットユーザーの態度変容を生み出した」について、①ターゲットユーザーは誰なのか、②態度変容は具体的に何を指しているのか、がいずれも不明瞭
  • 「全体のわずか1.5%の投資額で、ターゲット層の20%にリーチ」も、ターゲット層が何かわからないので、20%の分母が不明。特にターゲット層が FB ユーザーに絞っているのかどうか重要な点だが、わからない
  • 「新商品のトライアル促進には、Facebook広告と店頭POPの組み合わせが最も効果的」と効果の数字として19%と出しているが、この19%が何を指した数字なのかが不明。FB と店頭 POP の両方を見た人の19%が使ってみたいと答えた?そもそも、何をもって「最も効果が高い」と言っているのかも不明確

花王と協力した調査であり、動画内に登場する花王関係者のコメントを聞く限りは、調査結果からフェイスブック広告が効果的であったことが見て取れます。ですので、調査自体はしかるべき方法で実施されたのだと思います。

しかし、Facebook からの調査結果発表のスタンスや中身が情報として十分ではなく、読み手としては解釈しづらい内容でした。

★  ★  ★

Web 広告効果調査をすると、その広告の対象商品/ブランド・広告クリエイティブ・キャンペーンプランによっては、効果が有意に出ないケースもあります。

花王エッセンシャルのキャンペーンでは、Facebook 広告の効果がはっきりと出たようです。だからこそ、誰にどんな方法で聞いた調査だったのか(調査方法)、何を持って効果があったと言えたのか(ターゲット層と広告効果指標)、が知りたかったです。


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