2015/08/15

書評「エスキモーに氷を売る」(ジョン・スポールストラ)




マーケティングの本でおすすめの1冊が「エスキモーに氷を売る―魅力のない商品を、いかにセールスするか」です。

本書の商品説明からの引用です。
なかなかおもしろいタイトルだが、その内容は営業のノウハウというよりは、マーケティングよりである。

著者のジョン・スポールストラは、NBA(全米バスケットボール協会)で観客動員数最下位だったニュージャージー・ネッツを、27球団中チケット収入伸び率1位にまで導いた人物である。

本書の魅力は、このスポーツビジネスを通して彼が商品を売るためにとった数々のマーケティング手法を、そのドキュメンタリーのなかで学ぶことができるところにある。

サブタイトルは「魅力のない商品を、いかにセールスするか」。本書ではそれが NBA チームのニュージャージーネッツでした。著者はネッツの社長兼 CEO として、マーケティング施策を展開します。

その内容は奇をてらったものではなく、基本に忠実に1つ1つを実行していった印象を受けました。

■魅力のない商品に付加価値を

顧客にとって、自分たちが提供するものにどのような価値があるかを明らかにすること。これが本書の一番最初に書かれている内容です。

ネッツの場合は、自分たちの対戦相手でした。対戦相手が人気チームで、マイケル・ジョーダンやシャキール・オニールなどの NBA を代表するスターがいるチームを、ネッツのホームゲーム観戦で見られることに価値を見出したのです。

著者の言葉を借りれば「ネッツを売り込むのではなく、対戦相手を売ろうとした」わけです。

他にも興味深かった付加価値事例は、知名度の高い講演者のゲストスピーチをバスケットの試合前に行ない、講演 + バスケットゲームをセットにしたチケットでした。講演の追加料金は不要にし、対戦相手に魅力がないゲームでもゲストスピーチという付加価値を売ったのです。

結果は完売。著者曰く、講演者がネッツや対戦相手の魅力がないことを目立たなくした、とのこと。

もう1つ、おもしろいと思ったのは、値下げではなく別の価値をつけて価格を維持するやり方でした。同じコストでも値下げに使うのではなく、別のものを追加することにお金を使うアイデアです。

具体的には、チケットを値下げするのではなく、帽子やバスケットボールなどのネッツのグッズをチケットと一緒に売る。値段はチケットだけのときと同じです。もちろん、チケット +α でも赤字にはならない範囲でです。

■誰に売るか

ターゲットにした顧客は「ネッツに関心のある人たち」でした。著者はこのセグメントを重視し、「ただ一つのセグメント」と表現します。

著者がネッツの社長に就任した当時、前年のシーズンチケット購入者リストが社内でデータベース化がされていませんでした。

そのため、過去にチケットを買ってくれた顧客であるにもかかわらず、アプローチがうまくできなかった。この状況に対して著者は、既存顧客一人ひとりにあと少しだけ買ってもらうという「カンフル策」が大切だと説明します。

顧客を新規顧客と既存顧客に分けたときに、まずは既存顧客に適切にアプローチをすること。「誰も欲しがらない商品」に対して、
  • 顧客にとっての価値を見出し、買わずにはいられない商品にする
  • 顧客が買いたがる商品だけを売るように努めよ
  • 顧客が買いたがるより少しだけ多く売るように努めよ

一方で新規顧客に対しては、社長自らが率先して動いたエピソードが紹介されます。ただし、既存顧客に対して新しい顧客を獲得するのは難しいと言います。時にはクレイジーな予算も投入する必要性を説きます。

■投資対効果を常に見る

著者が本書で何度も強調していたのは、その費用コストや投資に対して、何ドルの収益を得られたかを明らかにすることの重要性でした。

1ドルの投下に対して、直接の収入が何ドル得られたのか。

マーケティングアイデアに対して、まずは小さく実行し投資対効果を見る。例えば、広告掲載費用1ドルに対して少なくとも4ドルを超えれば、実施規模も大きくする、といった投資判断です。

★  ★  ★

本書のタイトルは「エスキモーに氷を売る」です。この表現はあくまでたとえで、エスキモーや氷そのものをどう売るかのことは本書では書かれていません。(本来はイヌイットと表現すべきですが、このエントリーでは本書に合わせてエスキモーとしています)

ポイントは、相手にとっては一見すると何の価値もない商品を、そのまま無理やりに売るのではなく、顧客視点で価値をつくり、それを魅力と思う顧客に適切にアプローチする。

そんなエピソードが書かれている本です。やり方はマーケティングの基本に忠実です。だからこそ、読み手にとって応用の効く内容になっています。

最後に1つ。マーケティングのたとえとして「エスキモーに氷を売る」と似た表現で「エスキモーに冷蔵庫を売る」があります。

冷蔵庫のほうは何を意味しているかというと、冷蔵庫に入れておけば凍らないことに価値があるというもの。例えば、生の肉を凍らせずに新鮮なまま冷蔵庫で保存できる価値です。

北極圏は普通にモノが凍るほど寒い世界なので、その環境下での冷蔵庫の価値は、私たちの冷蔵庫への利用価値と違うのです。

「氷を売る」「冷蔵庫を売る」はそれぞれ違ったマーケティングの意味をたとえで表しています。ただ、顧客視点で価値を提供するという本質は共通しています。




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