2016/06/16

書評: 和僑 (楡周平)




和僑という楡周平の小説がおもしろかったのでご紹介します。

前作プラチナタウンの続編ですが、前作を読んでいなくても楽しめる内容になっています。テーマは、日本が少子高齢化が特に地方で進む中、地方創生をどう実現するかです。

東北のある田舎町が舞台です。農業を営んでいるのは中高年の独身男性ばかり、10年や20年後のスパンで見ればやがては農業従事者はいなくなってしまう。そうした環境で、農業をどのように再生させるかというストーリーです。

本書で描かれる地方創生プランは、日本の家庭で一般的に食べられている料理や食材を、国内ではなく海外市場に展開することです。海外で、他にはない美味しい食材や料理として差別化を狙います。

このプランに行き着くまでには、様々な問題が発生します。次々に起こる障壁に解決策を考え、人を巻き込み実行していく苦労が丁寧に描かれています。

この本がおもしろく読めたのは、「提供価値は何か」という視点で考えさせられたからです。

序盤のあるシーンが印象的でした。日本の霜降り高級和牛を、あるアメリカ人女性が食べてもらった場面です。主人公たちは、地元の主要産業の一つである高級和牛をアメリカに展開しようと考えていました。

アメリカ人女性は高級和牛を口にし、連れの男性に英語で言いました。「脂肪分が多すぎて、もうこれ以上は食べられない」と。霜降りは日本人にとっては高級な肉のイメージですが、アメリカ人には、脂肪が多く健康的ではない肉になってしまうのです。

主人公は、霜降りをこれ以上は食べられないという言葉を聞きショックを受けます。霜降りの高級和牛を海外に売って、地元産業を救う切り札にできると期待していたからです。

こちらが提供するものに価値を感じるのはあくまで相手であり、提供する側である自分たちではありません。自分たちがおいしいと思っているものでも、相手によっては価値がないという考えさせられるシーンでした。

小説のストーリーでは、霜降り高級和牛よりも、むしろ日本人が日常で食べているもの、具体的にはコロッケやトンカツのようなもので、海外展開を目指すことに切り替えます。

この話で思い出したのは、徳島県の上勝町の「葉っぱビジネス」です。葉っぱビジネスでは、地元で取った紅葉の葉などを日本料理店などに売っています。日本料理の皿に添え物として使われる「つまもの」のためです。

つまものに使用される葉っぱは、上勝町の山には自然に生えているものです。

自分たちには当たり前のような存在でも、高級日本料理の料亭にとっては価値があります。料亭からすると、葉っぱは自分たちがつくる料理の見栄えをよくし、食事客が味だけではなく、季節感などを視覚的にも料理を楽しむという価値をもたらすからです。

小説「和僑」では、日本の食材や料理をアメリカでビジネスにし、地方産業を活性化させることを狙うというストーリーです。

自分たちが良いと思うものでも、相手が感じる価値は、必ずしも自分たちが抱く価値とは限りません。

自分たちが提供しているものは何なのか、それは相手にとってどんなうれしいこと (価値) があるのか。あらためて考えさせられる小説でした。




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