投稿日 2017/05/27

書評: アゴを引けば身体が変わる - 腰痛・肩こり・頭痛が消える大人の体育 (伊藤和磨)


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アゴを引けば身体が変わる - 腰痛・肩こり・頭痛が消える大人の体育 という本をご紹介します。



エントリー内容です。

  • 本書の概要、本書からの学び
  • 人間の身体は椅子に合っていない
  • 正しい座り姿勢をサポートする椅子


本書の概要


本書に書かれているのは、タイトルにあるアゴのことだけではありません。体全体の姿勢、正しい呼吸法、靴や椅子などの道具 (正しい選び方や座り方) 、身体の痛みを引き起こす原因と対処法・トレーニング方法についてです。

読むと、現在の日本人がいかに身体に悪い姿勢で歩き、座ったりしているかが、文章と図の説明でよくわかります。

著者の主張で納得感が得られたのは、日常生活での姿勢や動作を正しくすることこそが、重要であることです。ストレッチやトレーニングは補間的なもので、大事なのは日々の姿勢の保ち方、動作の積み重ねです。

具体的には、座り方、歩き方、かがみ方としゃがみ方、物の持ち上げ方などです。

身体から発生する痛みは、結果であり原因ではありません。本質的な原因は、身体に負担を掛けている姿勢や動作フォームにあると書かれています。本書の発想は、目先の痛みを取り除くことではなく、その痛みの原因となった悪い習慣 (姿勢や動作) を改善していくというものです。


本書からの学び


この本を読んで、いくつかの学びがありました。

1つ目は、アゴ (頭部) が上がると、身体に連動して姿勢が悪くなることです。座っている時が特にそうで、アゴが上がり頭部が前に出る分、バランスを維持するために骨盤が後ろに傾きます。骨盤の後傾によって、背中や腰が丸くなり、肩こりや腰痛の原因になるのです。

体の一部が本来の位置よりもずれると (例: アゴや頭が前に出る) 、身体全体のバランスを維持するために他の部位がそれぞれ連動するというのは、ある意味で人間の身体は良くできています。しかし、そのしわ寄せが肩や腰に来ます。骨や関節・血管が圧迫されて痛みが発生します。

2つ目は、人間の骨盤は身体の横から見ると逆三角形で、坐骨の先端は尖っていることです。椅子の座るところは平面なので、逆三角形のために前後に、特に後ろに傾きやすい構造になっています。背中が曲がっている状態では骨盤は後ろに傾いています。

椅子に座るときに骨盤が立っていると、座面には坐骨という2つの点で座るイメージになります。これが姿勢という観点では椅子の正しい座り方です。


人間の身体は椅子に合っていない


3つ目の学びは、一般的な椅子は人間の骨格の構造にそもそも合っていないという指摘です。座る面が平面な椅子よりも、人間工学の観点から人にとって理想的な座る状態になれるのは、馬の鞍に跨っている乗馬の姿勢だそうです。椅子の座面も鞍のような形状がよく、座るというよりも跨る姿勢がよいとのことです。

2つ目の学びと関連しており、坐骨という2点で平面に座るのは物理的に不安定です。安定さを考えれば、3つ以上の点、あるいは面で座るほうがよいでしょう。人間の骨格に合っていない椅子に座るという、人間が椅子に合わせる状況になってしまい、結果として姿勢を悪くなっています。本来は逆で、椅子の形状を人間に合わせ、座面が平面の椅子よりも跨るような椅子が良いという考え方です。


正しい座り姿勢をサポートする椅子


4つ目は、著者が勧める椅子です。本書では2つが紹介されています。

バンバック・サドル・シートです。乗馬の鞍をヒントに開発された椅子です。コンセプト動画はこちらです。



値段は、サイトには、日本国内向けバンバック・サドル・シート製品価格は 「税別で各モデルと10万円以上より」 と書かれています。

もう1つ紹介されていた椅子は、アーユル チェアーです。坐骨で座り、骨盤を立てて姿勢をよくするという考え方で作られています。脚を開き、またいで座るので、腰が立ち、自然に背筋が伸び正しい姿勢で座ることができる設計です。



紹介動画はこちらです。




本書でこれら2つの椅子が紹介された後に、次のようなことが書かれています。

以前、大手椅子メーカーの方に、鞍の形をした椅子を量産すべきではないかと提案したら、 「あの座面を認めてしまったら、これまでの椅子を全て否定することになってしまう。だから、生産ラインには乗らないでしょう」 という答えが返ってきた。

それを聞いて、日本の椅子づくりは、この先も変わらないだろうとガッカリしたのを覚えている。

座面が平面の椅子が当たり前で、この本を読むまでは問題意識はありませんでした。本当に利用者のことを考え、人間の骨格に合った姿勢を良くできる椅子が、もう少し手の届く価格で普及することを期待したいです。


最後に


本書は2年以上かけて何度も書き直したそうです。著者は 「日本から腰痛をなくす」 ことを使命として13年間、のべ1万6000人以上の患者と向き合いながら知識と経験を培ってきました。本の全体を通して、丁寧に記述されており、わかりやすく読めます。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。