投稿日 2017/06/06

ツイッターとテレビのリーチ比較から考える、データ分析で何と何を比べるかの重要性 #AWAsia 2017


Free Image on Pixabay


アドバタイジングウィーク アジア 2017 というイベントが、2017年5月29日から6月1日の日程で日本で開催されました。会場は六本木の東京ミッドタウンでした。アジアでの開催は去年に引き続き2回目です。

今回のエントリー内容です。

  • テレビと Twitter のリーチ比較
  • Twitter が過大評価されている比較方法
  • 望ましい比較方法


Twitter のセッション


去年のアドウィークでは、私も講演する機会がありました。今年は純粋にオーディエンスとして参加し、いくつかの基調講演やセッションを聞いてきました。

最終日の6月1日に、Twitter 社からのセッションがありました。タイトルは 「Win with “Fastest and Conversational” Marketing ( 「最速・会話形式」 のマーケティングで勝つ) 」 です。


テレビと Twitter のリーチ比較


セッションでは、最初にツイッターのメディアとしての数字がいくつか紹介されました。

そのうちの1つが、ツイッターとテレビのリーチを比較する以下のグラフでした。ツイッターとテレビ局の4系列で、人口の 20% にリーチするまでの時間を比較したものです。リーチの % の分母は、関東・関西・中京の3エリアに住む男女15-69歳で、自宅にテレビがあり、スマホを利用する人です。


ツイッターが最も早く情報を届けられるメディアと説明されているが、後述のようにツイッターとテレビの比較がそろっていない。引用:Advertising Week Asia 2017 より (7分14秒)


データソースはインテージ社のシングルソースパネル i-SSP です。なお、テレビ視聴率として通常使われるビデオリサーチの視聴率データは世帯がベースです。一方、i-SSP からのテレビデータは個人視聴率です。

20% リーチ到達時間は、ツイッターが 9.0 時間とのことでした。4つのテレビ局と比べて 20% リーチに到達する時間は、ツイッターが最も早かったと説明されました。

しかし、私はこの結果を見て、にわかには信じられませんでした。マスとしてのツイッターのリーチが、テレビの局レベルよりも到達力があるとは思っていなかったからです。


Twitter が過大評価されている比較方法


グラフが示されたスライドの左下にソース情報で、その謎が解けました。

一言で言えば、ツイッターとテレビの比較方法が正しいとは思えず、自社メディアであるツイッターのリーチが過大評価されていたからです。逆に言えば、リーチの定義 (集計方法) は、テレビが過小に評価されてしまうものでした。

左下のソース情報は以下のように書かれています。

2016年12月1日 午前5:00 を起点とした集計でのメディア接触率。
「接触」 の定義は、テレビ局は1分以上の視聴、Twitter (モバイルブラウザ、アプリ) は1秒以上の起動ログに基づく。
エリア:関東・関西・中京 / 対象:15-69才男女 / パネル:TV & スマートフォン (Android + iOS)
ウェイトバック:3エリアの TV & インターネット人口に合わせて実施 / サンプル数:1517s

比較の仕方として正しくないと考える根拠は2つです。

1つ目は、テレビとツイッターで接触の定義が異なることです。Apples to Apples なリーチの比較ではありません。

  • テレビ:1分 (60秒) 以上の視聴
  • ツイッター:1秒以上、スマホのブラウザまたはアプリで利用

テレビを60秒とする一方、ツイッターが1秒なのはフェアな比較とは言えません。テレビは30秒しか見なければ、ユニークリーチとしてカウントされませんが、ツイッターを30秒でも利用すれば接触者として含まれます。

ツイッターのほうが有利な比較方法であり、ファーストパーティとして自社メディアを過大評価するやり方は中立的ではありません。

2つ目の根拠は、20% リーチ到達時間の起点が1つしかないことです。2016年12月1日 (木) の朝5時を開始点にしています。うがった見方をすれば、恣意的にこのタイミング選び、比較していると見えてしまいます。


望ましい比較方法


では、公平な比較方法はどのようなやり方があるのでしょうか。上記の2つを、それぞれ次のようにすればよいと考えます。


1. リーチの定義をそろえる

テレビを1分、ツイッターを1秒と変えずに定義をそろえるべきです。

技術的にテレビを1秒での接触判定が難しければ、両方ともを1分にするか、ツイッターの1回あたりの利用時間を考慮するなら、30秒や15秒でもよいでしょう。いずれにせよ、同じ時間の定義で 20% リーチ到達時間を算出し比較します。


2. データを12月1日 AM 5:00 起点の1つではなく、複数データでメタアナリシスをする

リーチの定義をそろえた上で、複数の起点からの 20% 到達時間で比較するやり方です。例えば平均値でツイッターとテレビのリーチ到達時間を比べます。

具体的には、朝の5時だけではなく、0時スタート、1時スタート、… 、23時スタートと、一日における複数の時刻から到達時間を集計します。

また、テレビは平日と休日では見られ方が異なるので、少なくとも平日と休日の両方を使います。可能ならば、12月を使うなら1日だけではなく、12/2、12/3、… 、と対象日を増やすほうがよいです。ただし、クリスマス以降の特に年末時期は特殊なので、集計対象から除外するとよいでしょう。


以上のような、リーチ定義をそろえ、複数データによるメタアナリシスからツイッターとテレビの 20% 到達時間を比較して、テレビのリーチ力に対してツイッターのリーチがどうなのかを言うべきです。


セッションの動画


今回取り上げたアドバタイジングウィークアジア 2017 のツイッターのセッションは、以下のリンク先から動画で見られます。

「最速・会話形式」 のマーケティングで勝つ (Twitter)|Advertising Week Asia 2017 - Tokyo [June 1]

デフォルトの音声は英語吹き替えです。日本語に変更するには、動画プレイヤーの右下にあるヘッドフォンアイコンで Japanese を選ぶと、日本語の講演音声に変わります。

最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。