2017/07/11

コロコロコミックの 「うんこちんちん原理主義」 にマーケティング戦略を学ぶ


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IT media に 「コロコロコミック」 の編集長へのインタビュー記事がありました (2017年6月28日) 。

出版不況なのに、『コロコロコミック』が80万部も売れているヒミツ - ITmedia ビジネスオンライン

インタビュー内容は、2つの視点で興味深く読めました。

  • マーケティングにおける提供価値。自分たちは商品やサービスを通して顧客にどんな価値を提供しているのか
  • ターゲット顧客をどう設定するか。価値と思ってもらえる人が顧客になる。価値と思ってもらえないセグメントは追わない

示唆に富むインタビュー記事でしたので、今回のエントリーでご紹介します。

「うんこ・ちんちん原理主義」


インタビュー記事の冒頭で、和田編集長から 「うんこ・ちんちん原理主義で喜んでもらっている」 という話が出てきます。コロコロコミックの主な読者である小学生の男子は 「うんこ」 と 「ちんちん」 を楽しんでいるという説明です。

以下はインタビュー記事から、ITmedia ビジネスオンラインの土肥記者と和田編集長とのやりとりです。

土肥:『コロコロ』の読者ターゲットは、小学4~6年生の男子なんですよね。この層は150万人ほどいるのに対し、雑誌の発行部数は80万部。つまり、2人に1人は読んでいる計算になるのですが、どういったところにチカラを入れているのでしょうか?

和田:小学4~6年生の男の子は、女の子と比べて成長が遅いですよね。女の子は恋愛やオシャレなどに興味があるのに、男の子は漫画に 「うんこ」 や 「ちんちん」 が登場すると、ものすごく喜ぶ。時代が変わってもこうした傾向は同じで、編集部ではこのことを 「うんこ・ちんちん原理主義」 と呼んでいます。

(中略)

土肥:なぜ小学生の男の子はこの2つが好きなのでしょうか?

和田:学校に行くと、勉強が大変ですよね。塾に行くと、たくさんの宿題が出ますよね。このほかにも、子どもたちは友人関係や親子関係などで窮屈だなあと感じているのかもしれません。

そうした気持ちをどのようにしたらやわらげることができるのか。どのようにしたら開放的な気分にさせることができるのか。そのひとつに 「うんことちんちん」 があるのではないでしょうか。もちろん、漫画には感動的なシーンがあったり、戦うシーンなどがあったりしますが、うんこ・ちんちんを描くことで子どもたちは前向きになれると思うんですよね。

印象的だったのは、想定読者 (小学4~6年生の男の子) に対して自分たちは何を提供しているかを、読者の目線で、読者の言葉で語られていることです。

あえて上の年代に読者層を広げない


コロコロコミック編集部の方針で興味深いと思ったのは、ターゲット読者についての考え方です。あえて読者の平均年齢を上げないようにしていることです。

ターゲットとなる主な読者層を男子小学生に設定し、無理にその上の年代 (中学生や高校生) を狙わないという考え方です。

思春期になると離れてしまう


インタビュー記事からの引用です。

和田:先ほどもご紹介したとおり、男の子はうんこやちんちんを楽しんでいる。なぜ楽しめるかというと、思春期に突入していないから。つまり、自我に目覚める前の段階で雑誌を読んでいる。

ただ、大人びた男の子は、恋愛やオシャレ、音楽などに興味を示し始めます。例えば、女の子に興味をもつと、『コロコロ』に掲載されている漫画を幼稚に感じるんですよね。

前月まで何度も繰り返して読んでいたはずなのに、今月は手にも取らない。昨日まで雑誌の中で夢を見ていたのに、急に目覚めてしまうような感覚ではないでしょうか。

(中略)

ほとんどの男の子が離れます。そして中学生や高校生になると、『コロコロ』は最も遠い存在になるのではないでしょうか。

インタビューでの文脈で言えば、コロコロが読者に提供し、メイン読者である男子小学生が楽しんでいるのは 「うんことちんちん」 です。ただし、楽しめるのは思春期に入る前です。思春期に入ると男の子の興味は、恋愛・ファッション・音楽などになります。

読んでいて自分でも納得がいったのは、こうした興味対象が変わった途端に、これまでおもしろいと思ったコロコロコミックの内容が急に幼稚に感じることです。

この状況をマーケティングの観点で言えば、自分たちコロコロコミックが提供したい価値と、顧客である読者が価値に思うことでズレている状況です。

読者層を広げない理由


コロコロコミックは、コロコロを卒業した読者を無理に追わないと言います。再びインタビュー記事からの引用です。

和田:『コロコロ』は読者と一緒に成長してはいけないんですよ。

土肥:成長してはいけない?どういう意味でしょうか?

和田:『コロコロ』の読者は、うんちが好き、ちんちんが好き、ゲームが好き、オモチャが好きなのですが、人間は必ず成長します。成長して次の段階に入れば、『コロコロ』を卒業して、違う雑誌を読んでいただきたい。

(中略)

和田:成長した読者にしがみついてしまうと、下の世代が興味をもちそうな漫画を掲載できなくなるんですよね。そうすると、新しい読者を増やすことができなくなる。

(中略)

読者の平均年齢が上がらないように、私たちはあえて卒業生を追いかけません。男の子にはどんどん恋愛をしてもらいたいし、音楽を好きになってもらいたいし、オシャレに興味をもってもらいたい。

そして、私たちはどうするのか。新入生に、うんこ・ちんちんのシャワーを浴びせます。そうすれば、必ず新しい読者が増えると信じています。

思春期に入った男の子を追わない理由は2つに整理できます。

  • 提供する価値と受け手が感じる価値にズレが生じてしまい、彼らを楽しませることができないから
  • 思春期に入った年代に合わそうとすると、本来のメインターゲットである男子小学生が求めている価値を自分たちが提供できなくなるから

コロコロコミックから学べるマーケティング戦略


コロコロコミックのアプローチは、マーケティングの視点で学びがあります。

1つ目は、ターゲット顧客の深い理解です。具体的には、自分たちのメイン読者である小学生男子が何を楽しいと思うかを、小学生の言葉で語れることです。単に、こういうマンガを連載すれば読んでもらえるというだけではなく、学校や塾、親子関係なども含めた生活環境までを含めて把握しています。

2つ目は、そんな小学生男子におもしろいと思ってもらえるために、自分たちは何をするかを明確にすることです。インタビュー記事では 「うんこちんちん原理主義」 と表現されていました。言葉だけを見るとフザケているように映りますが、自分たちが読者に価値だと思ってもらえるために何を提供するかが、読者の言葉で、編集部内で共有されています。

3つ目は、自分たちと顧客 (読者) との両思いの関係を構築することです。

たとえ自分たちが相手に価値を感じてもらえると思っていたとしても、その相手が実際に価値だと思ってもらえるかは別の話です。相手が価値だと思ってもらえない片思いの状態では、いくら自分たちが価値があると信じていても、相手にとっては価値は存在していないのと同じです。

コロコロコミックで、もしターゲットを男子中高生や女子小学生にまで広げれば、コロコロと読者とでは提供価値を共有する相思相愛にはなれません。「うんちやちんちん」 を純粋におもしろいと思うような、自我に目覚める思春期に入る前の男の子だけにターゲットを絞っているからこそ、両思いの関係が成立するのです。


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多田 翼 (書いた人)