2017/08/28

羽生善治に学ぶ 「適切なリスクをいかにとるか」


Free Image on Pixabay


勝負哲学 という本は、将棋の羽生善治氏とサッカーの岡田武史氏の対談本です。



将棋とサッカーの違う立場から、勝負というテーマでの2人の対談は興味深く読めます。


いかに適切なリスクをとるか


印象的だったのがリスクをどう取るかの話でした。羽生氏はリスクについて、次のように話しています。

羽生:そのとき、考えの真ん中にあるのは 「いかに適切なリスクをとるか」 ということです。リスクとの上手なつきあい方は勝負にとってきわめて大切なファクターです。

将棋が急に弱くなることはありませんが、少しずつ力が後退していくことはあって、その後退要因としていちばん大きいのが 「リスクをとらない」 ことなんです。リスクテイクをためらったり、怖がったりしていると、ちょっとずつですが、確実に弱くなっていってしまうんですよね。

私は強い将棋よりも、いい将棋を指したい気持ちが強いタイプの棋士ですけど、だからといって弱い将棋でいいとは全然思っていませんから、必要なリスクは果敢にとりに行っているつもりです。


リスクを取らないと少しずつ弱くなる


羽生氏の発言である 「リスクテイクをためらったり、怖がったりしていると、少しずつ確実に弱くなる」 を受け、対談相手の岡田氏は、もう少し掘り下げて話をしてほしいと促します。引用を続けます。

岡田:リスクテイクができるかどうかが勝者と敗者を分ける。これはよくわかる話ですが、そのリスクをとらないと少しずつ弱くなるということの意味をもうちょっと掘り下げてもらえますか。

羽生:長くやっていると、過去の成功体験、失敗体験が経験則として積み重ねられてきますよね。それは危機と安全の境界を見きわめる頼りがいのある測定器である反面、安全策の中に自分を閉じ込めてしまう檻 (おり) にもなります。

経験を積むと、この戦法ではこのくらいのリスクがあるということがかなり正確に読めるようになってきて、リスクの程度や影響度が計算できるようになるんです。すると、どうしても危ない橋は渡りたくなくなります。

つまり勝ちたいがために、リスクをとるより、リスクから身をかわすことを優先するようになる。でも、周囲はいつも変化し、進歩もしていますから、安全地帯にとどまっていると、その周囲の変化にだんだん取り残されてしまいます。

結果、安全策は相対的に自分の力を漸減させてしまうんです。それがイヤなら、積極的なリスクテイクをしなくてはならない。だから私は、経験値の範囲内からはみ出すよう、あえて意図的に強めにアクセルを踏むことを心がけているつもりです。

リスクを取らないと弱くなるのは、周囲は常に変化しているにもかかわらず、自分はリスクを取らなければ自身は変わらないままで、周りに取り残されてしまうからです。リスクを取らないと、周囲の進歩に付いていけなくなるからです。


羽生善治のリスクテイクからの示唆


羽生氏のリスクテイクの考え方を整理すると、次のようになります。

  • リスクとの上手なつきあい方は勝負にとって大切な要素。だから 「いかに適切なリスクを取るか」 を考える
  • 将棋で少しずつ力が後退していく最も大きな要因は、リスクを取らずに安全策にとどまること。リスクを取らずにいると、周囲の変化に取り残され、進歩に付いていけなくなる。結果、自分の力が弱くなっていく
  • 弱くなることを避けるために積極的なリスクテイクが必要。必要なリスクは果敢に取りにいくことを心がけている

羽生氏のリスクテイクの考え方から、示唆は2つあります。

  • リスクはやみくもに避けるべきものではない。リスクと正しく付き合うことが大事という認識に変える
  • いかに適切なリスクを取っていくか


リスクを少しずつ取る


では、適切にリスクを取るためにはどうすればいいのでしょうか。

岡田氏との対談で、羽生氏は 「リスクを少しずつ取るようにしている」 と言っています。該当箇所を引用します。

岡田:さっき、「いかにリスクを適切にとるか」 とおっしゃいましたが、「より安全なリスクテイク」 の方法として何か工夫されていることはありますか。

羽生:とりたててアクセルの踏み方が上手になったわけではありませんが、ただ、リスクを少しずつとるようにはしています。たとえば、トータルでこれくらいのリスクをとろうと目安を決めたら、それをいっぺんに引き受けるのではなくて、そのときの自分が消化できるサイズにまで小分けして、毎回少しずつとっていくんです。

適切なリスクテイクのヒントは、一か八かでリスクを一度に大きく取るのではなく、少しずつ取ることです。リスクを分散して取れば、仮に失敗したとしてもマイナスを小さくて済みます。

逆に言えば、失敗しても許容できる範囲でリスクを少しずつ取ることです。


リスクを取った自分に納得できるか


羽生氏は、リスクテイクの判断基準は、リスクを取って起こった結果ではなく、リスクを取った自分自身に納得できたかと言っています。

羽生:リスクテイクの是非を、なるべく成功、失敗の結果論では測らないようにしています。

結果的にうまくいったか、いかなかったではなく、そのリスクをとったことに自分自身が納得しているか、していないかをものさしにするようにしているんです。

後悔をするなら、リスクをとらなかった後悔より、とったことの後悔のほうがはるかにましだと思うからです。そう考えることで、リスクテイクするときの恐怖感もかなり減らせるような気がします。

リスクを取るとどうなるかは、不安に思うこともあるでしょう。

どのような結果が起こるか、起こった結果からリスクテイクの評価をするのではなく、リスクを取ったこと自体に納得できているかです。この視点は、リスクを取ることのためらいを減らしてくれます。


リスクを取らないことがリスク


羽生氏のリスクテイクについての考え方で興味深かったのは、「今リスクを取ることは、未来のリスクを最小限にできる」 でした。

羽生:リスクを避けていてはいい勝負はできないし、次へのステップにもなりません。よくいわれるように、リスクをとらないことがリスクなんです。リスクをとることこそリスクから逃れる最高のすべです。

だから、いまリスクテイクすることは未来のリスクを最小限にすると、私は自分に言い聞かせています。

リスクを今とらないことが、将来へのリスク (不確実性) を大きくする、であるならば、未来のために今リスクを取れば、長い目で見ればトータルでの不確実性は下げられるという考え方です。


まとめ:適切にリスクを取るために


いかに適切にリスクを取るかについて、羽生氏からのヒントをまとめます。

  • リスクはやみくもに避けるべきではない。リスクと正しく付き合う認識が大切
  • 一度に大きなリスクを取るのではなく、小さく、少しずつリスクを取る
  • リスクを取って起こった結果ではなく、リスクを取った自分自身に納得できたかに目を向ける
  • リスクを取らないことがリスクになる。変化しないリスクよりも、変化するリスクを取る

リスクを取るとは、変化を自分からつくることです。変わらなければ、変化する周囲や自分のいる環境から置いていかれます。


最後に


リスクと聞くと、リスク = 危険 = 避けるべきもの、とイメージしてしまうかもしれません。

リスクとは、正確には不確実性の尺度です。マイナスに振れることもあればプラスにも振れます。リスクが高いとは、プラスかマイナスの結果予想が見えにくく、結果の振れ幅も大きいことです。

許容できるマイナスであれば、リスクはやみくもに避けるものではなく、正面から向き合い適切に取っていくことが大切ということをあらためて考えさせられました。



最新エントリー

多田 翼 (書いた人)