投稿日 2010/04/10

インターナルマーケティングの実践

2010年4月9日(金)付の日経新聞朝刊に、経済教室「日本企業のマーケティング向上策」という記事がありました。

記事の投稿者は、マーケティングを専門とする早稲田大学・木村達也教授。内容はマーケティングというよりも、企業活動における部門間コラボレーションの必要性について書かれてる印象でしたが、これは今の自分の仕事に必要な部分であり、自分の頭の整理のためもあり、以下にまとめておきます。



■記事での問題提起

記事の冒頭で、次のような課題提起がされています。「市場のグローバル化が進む中で、日本の企業が『技術で勝ってビジネスで負ける』というパターンが目立つ」。例として、ガラパゴス化といわれ独自の技術的成長を遂げた携帯電話機を挙げています。

(注)個人的に、携帯のガラパゴス化の要因は、日本の携帯メーカーや通信会社のビジネスモデル以外に、SIMロックや割り当てられている周波数などいわゆる国の規制も問題だと思っています。ただ今回の主題とは異なりますので、経済教室で取り上げられている問題提起に沿い、「企業」に限定して話を進めます。



■「技術で勝ってビジネスで負ける」要因

なぜ、「技術で勝ってビジネスで負ける」のか。その理由として、以下の状況が指摘されています。
・ 多くの企業がいつの間にか部門間や部門内に高い壁をつくり、目の前にある自分たちの小さな庭しか見ようとしなくなった
・ 意思疎通はメールでのやり取りで済まされ、結局部分最適と責任回避の姿勢に陥った



■本来目指すべき姿

記事では例として、サムソンやグーグルが取り上げられています。例えばサムソンでは、製品企画段階から技術者とマーケッター、そしてデザイナーが意見交換しながらプロジェクトを進めることを得意としている点を挙げています。

この「うまくいっている」企業と「そうではない」企業をもう少し詳しく見ていくと、「うまくいっている」企業はコラボレーションから市場開発力への関係性が強い、と主張されています。ここで言うコラボレーションとは、社内における社員同士や部門間の連携、マーケティング部門の活性度を表し、例えば次のような状態です。
・ 社内で自由闊達な議論ができている
・ 新しい発想やアプローチを取り入れる空気がある
・ 部門横断的にプロジェクトを進める仕組みがある
・ 製品企画などを主導するマーケティング部門が他部署と円滑に調整を行っている



■インターナルマーケティング

ここまでの話を一旦整理しておきます。
・ 日本の企業が『技術で勝ってビジネスで負ける』というパターンが目立つ
・ 要因として、部門間に高い壁をつくり、目の前にある自分たちのことしか見ていない
・ 本来目指すべきは、企業内のコラボレーションから市場開発力につなげること

コラボレーションをいかに実現するかが記事のキーワードでもある、「インターナルマーケティング」の実践なのです。インターナルマーケティングとは、一般顧客ではなく社員対象に働きかけるマーケティングのこと。インターナルマーケティングでの顧客は社員であり、対象とする商品は仕事そのものです。
(記事では、「組織がその目標を中長期的に達成することを目的として実施する、内部組織の協働のための一連のプロセスあるいはコミュニケーション」と定義されている)

インターナルマーケティングの前提となるのは、企業が自社のサービスを顧客に売るにはまず商品やサービス自体の意義や価値などを従業員が理解する必要性がある、という考え方です。従って、アプローチの目的は、社員に仕事を喜んで買ってもらい、買い続けてもらう点にあります。その結果、付加価値に優れた製品やサービスが市場に提供され、最終顧客の満足を獲得することができると、記事では書かれています。



■インターナルマーケティングの実践

最後に、、インターナルマーケティングの実践例として、グーグルの例と、経営者がすべきことを記載しておきます。

○グーグルの例
・ 自由な発想を大切にして仕事をおもしろがり、製品やサービスで利用者との高い親和性の実現を追求している
・ フラット(上下関係のなさ)、リスペクト(相互尊重)、フェア(公平)という価値観が徹底されている
・ 彼らのオフィスには間仕切りは一切なく、どこでも自由に意見が交わされる
・ 優れたアイデアはみんなから称賛され、尊重されるので、社員は知恵を振り絞って働く

○経営者がすべきこと
・ 理念やブランドの意味を簡潔に示し、それを社員全員に徹底させる
・ 仕事をプロジェクトに分け、顧客の経験にかかわる複数の部門から人を集めてチームをつくる
・ 顧客満足など日々の仕事の成果自体が報酬となるような仕組みをつくる
・ 現場に多くのリーダーを育て、そのもとで自由に直接的な意見交換ができるような環境をつくる
・ トップは現場だけに任せるのではなく、現場に行ってその場で顧客や社員と対峙することで、どのような支援ができるか真剣に考える


投稿日 2010/04/04

書籍 「知的生産の技術」

最近読んだ書籍の中で、非常に感銘を受けた本があります。「知的生産の技術」(梅棹忠夫著 岩波出版)。なぜ印象的だったのか、その理由は次の2点に整理できます。

  1. 情報について本質的な内容が記述されている
  2. 初版が40年以上も前の1969年である。これは、情報の本質は現在においても陳腐化していないことを示唆している


■「知的生産」の定義

この本の中身に入る前に、まずは書籍の題名にもなっている「知的生産」の定義に触れておく必要があります。著者の言葉をそのまま引用すると、知的生産とは「頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら-情報-を、ひとにわかるかたちで提出することなのだ、くらいにかんがえておけばよいだろう。」(p.9より引用)と説明されています。

あえて超ざっくりと表現すると、情報処理・解釈と言えるかもしれません。自分自身の解釈としては、「様々な一次情報・二次情報を人間が処理・意味付けをし、新たな付加価値(新しい情報)をつくり出すこと」と認識しています。

■書籍内容の構成

さて、本書の構成ですが、大きく2つに分けることができます。前半部分(1章~5章)では、手帳、ノート、カード、ファイルなど、知的生産における各種ツールについて取り上げています。後半(6章~11章)は、主に「読み書き」について、つまり、知的生産におけるインプットとアウトプットについて触れています。

情報を扱うための各ツールについては、書かれていることをそのまま実行するよりも、IT技術によりもたらされている現在のツールに置き換えたほうがいいと思います。例えば、インターネットがまさにそうであり、携帯電話、PC、メール、ブログ、SNS、ツイッターなどのミニブログなど、まだまだ他にも多数存在します。しかし、ここであらためて考えたいのは、単にこの本にかかれている情報ツールが今の時代に合わないなどと表面的な話ではなく、ベースとなっている情報の考え方についてです。

■情報の本質

では、ベースとなっている情報についての考え方とは何か。これがまさに冒頭で述べた「感銘を受けた」ことであり、個人的に「情報における本質」だと思っているものです。著者は次のように述べています。
----------------------------------------------------------------------
ひとびとは、情報をえて、整理し、かんがえ、結論をだし、他の個人にそれを伝達し、行動する。それは、程度の差こそあれ、みんながやらなければならないことだ。(p.12より引用)
----------------------------------------------------------------------
自分の中での解釈としては、情報は「目的」ではなくインサイトや意思決定、または次の行動への「手段」であると考えています。例えば、同じ情報でも、どういう問題意識からその情報に接し、意味付けをし体系立てるか、そしてそこから得られるもの、ひいては次の行動に大きく影響すると思います。これは、情報収集や分析を単に「目的」と位置づけていただけでは、到達できないことではないでしょうか。

もう一つ、印象的だった内容は、情報整理についての考え方です。著者の主張をそのまま引用すると、以下のような考え方です。
----------------------------------------------------------------------
ものごとがよく整理されているとうは、みた目にはともかく、必要なものが必要なときにすぐとりだせるようになっている、ということだとおもう。(p.81より引用)
----------------------------------------------------------------------
これも、情報整理を目的ではなく、手段と捉えている考え方だと思います。著者は、見た目が単に良い状態である「整頓」ではなく、必要な際にすぐ取り出せる「整理」をするべきであると説きます。

■情報整理の方法

情報整理をどのように行えば必要な時にすぐに取り出せるようになるのでしょうか。何かてっとり早く整理できる方法がないものかと、つい思ってしまうかもしれません。これについての自分の答えは、「ない」と考えています。正確に言うと、誰にも使える唯一絶対的な方法はない、というものです。情報整理については、人それぞれで百人いればそれこそ百通りの方法が存在するものであるというのが個人的意見だからです。

さらに言うと、人それぞれということに加え、時代ごとにその方法も常に変わるものではないでしょうか。例えば、今でこそ日本人のほぼ1人に1台が持っている携帯電話も、ほんの10~15年くらい前は、持っている人のほうが少ないという状況でした。もう少し時代を戻すと、インターネットがない時代も確かにあったのです。従って、携帯やネットがない時とある時では、情報整理の方法も全く違うのです。

ちなみに、著者の主張も同様です。
----------------------------------------------------------------------
くりかえしていうが、今日は情報の時代である。社会としても、この情報の洪水にどう対処するかということについて、さまざまな対策がかんがえられつつある。個人としても、どのようなことが必要なのか、時代とともにくりかえし検討してみることが必要であろう。(p.15より引用)
----------------------------------------------------------------------

情報整理の追及は、おそらく一生続く課題になると思っています。一生かかっても未完のままである可能性すらあります。これからも、上記で考えた、
・情報は目的ではなく手段
・整理の目的は、必要なものが必要な時ににすぐ取り出せるようになっていること
については見失わないようにしたいものです。

知的生産の技術 (岩波新書)


知的生産の技術 (岩波新書)
梅棹 忠夫
岩波書店
売り上げランキング: 918


投稿日 2010/04/03

「かわいい子には旅させよ」

日経ビジネス2010.4.5の記事で、「今こそ『かわいい子には旅』」という記事が掲載されていました(p.112)。元東京大学工学部長であり現在は海陽中等教育学校 校長である中島尚正氏による投稿です。

この記事は「かわいい子には旅をさせよ」という言葉を、新入生・新入社員を迎えるこの季節に考えてみる、というものです。内容を簡単にまとめておくと、同氏は旅の効用とは異質なものと交わることだとする一方で、若者が同質な人ばかり付き合ったり、留学を希望する学生が減っているなど、若者が目の前のもので満足する傾向にある状況から、このままではリーダーが育たなくなるのではないか、と懸念を示しています。



そこで、今回の記事では「かわいい子には旅をさせよ」という言葉について少し考えてみたいと思います。

なぜ旅をさせるかの理由は、上記の通り異質なものと交わることで様々な体験ができる、それが成長を促すのだと思います。では異質なものとは何か、それは、(1)異なる文化、(2)異なる人、(3)異なる環境、だと思います。これらの非日常的な体験を強制的に経験することであえて厳しい状況に身を置く。そうすることで、強くたくましくなるのだと思います。

「かわいい子には旅させよ」については、自分自身にも言えることだと思っています。また、異質なものとの交わりは、何も旅だけから体験できるものではありません。例えば仕事においても、ちょっとした意識するかどうか、また自らそのような状況に飛び込むかどうかだと思います。ちょうど年度が変わりましたが、この気持ちはこれからも持ち続けていきたいです。



もう一つ、厳しい状況になった場合にどう考え、行動するか。これもその状況にどう向き合うかで、そこから得られるものに大きな差がつくように思います。では、どういった意識で望むか。自分に言い聞かすためにも、以下の3つを念頭に置いておきたいです。

・ 主体的に行動する
・ チャレンジ (失敗を恐れない)
・ 本質を捉える


ちなみにこの3つは、うちの会社のコンピテンシーの中にもあるものですが、今後も意識し行動に移したいものです。


最新記事

Podcast

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。