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投稿日 2015/03/25

書評: 戦争プロパガンダ10の法則 (アンヌ・モレリ)




プロパガンダについてあらためて考えさせられたのが、戦争プロパガンダ10の法則 という本でした。



本書の内容


内容紹介の一部を引用します。

第一次大戦からアフガン空爆まで、われわれは政府発表やメディアにいかに騙されたか。気鋭の歴史家が戦争当事国による世論操作・正義捏造の過程を浮き彫りにする。
第一次大戦から冷戦、湾岸戦争、ユーゴ空爆、アフガン空爆まで、あらゆる戦争において共通する法則がある。それは、自国の戦闘を正当化し、世論を操作するプロパガンダの法則だ。
 「今回の報復はやむをえない」
 「ビンラディンは悪魔のようなやつだ」
 「われわれは自由と平和を守るために戦う」
正義はこうして作られる。
これまでに戦争当事国がメディアと結託して流した 「嘘」 を分析、歴史のなかでくり返されてきた情報操作の手口、正義が捏造される過程を浮き彫りにする。ブリュッセル大学で教鞭をとる気鋭の歴史学者が読み解く、戦争プロパガンダの真実。


戦争プロパガンダの10の法則


本書で提示される戦争プロパガンダのための 「10の法則」 は、次の通りです。
投稿日 2015/03/14

書評: 本当は憲法より大切な 「日米地位協定入門」 (前泊博盛)




現在の日本のことを 「日本は他国に支配された占領下にある」 と思う人は、まずいないでしょう。そして、多くの人はこう反論するでしょう。「日本は独立した主権国家である」 と。

今回のエントリーでご紹介する本は、この認識が本当にそうなのかに一石を投じるものです。本当は憲法より大切な 「日米地位協定入門」 という本です。



読み進めると、日本の国としての状況に向かい合わざるを得ないことに気づきます。以下は本書からの引用です。

日本は本当に独立した主権国家なのか。

もしかすると、日本はまだアメリカの占領下にあると言えるのではないか。

この本には、日米地位協定とは何か、その歴史的な経緯、何が問題で、それによりどういった不都合が日本に起こっているかが書かれています。後に述べるように日本の根本に関わることです。
投稿日 2015/02/21

昭和恐慌というデフレからの脱却の歴史がおもしろい




書籍 デフレと円高の何が 「悪」 か の第5章は 「歴史は繰り返す ーー 昭和恐慌から学べ」 です。書かれていた内容が興味深かったのでご紹介します。



本書では、昭和恐慌という歴史的なデフレ発生の経緯、デフレ不況からどのように脱却したかがわかりやすく書かれていました。

「昭和恐慌から学べ」 と章の本書のサブタイトルにあるように、経済評論家である上念司氏は、現在にも示唆に富むものであると指摘します (本書の上梓は2010年) 。
投稿日 2015/02/14

書評: 普天間問題 (小川和久)




2015年2月12日、安倍首相が施政方針演説を行ないました。

【首相施政方針演説全文】 「日本は変えられる。昭和の日本人にできて、今の日本人にできないわけがない」 - 産経ニュース


施政方針演説で普天間基地に言及


演説の中で、沖縄の普天間基地移設についても言及しています。安倍首相は、普天間飛行場 (基地) の辺野古沖移設への実現に、あらためて強い意欲を示しました。

以下は、上記リンク先からの引用です。

現行の日米合意に従って、在日米軍再編を進めてまいります。

3月末には、西普天間住宅地区の返還が実現いたします。学校や住宅に囲まれ、市街地の真ん中にある普天間飛行場の返還を、必ずや実現する。そのために、引き続き沖縄の方々の理解を得る努力を続けながら、名護市辺野古沖への移設を進めてまいります。

今後も、日米両国の強固な信頼関係の下に、裏付けのない 「言葉」 ではなく実際の 「行動」 で、沖縄の基地負担の軽減に取り組んでまいります。


普天間基地の何が問題なのか


普天間基地問題とは、一体何が問題なのでしょうか。

そもそも、普天間基地とはどんな基地なのか?なぜ移設するのか?移設先は沖縄県内なのか県外なのか、それとも国外なのか?

こうした疑問が解消でき、普天間基地についての理解に参考になったのが、書籍 この1冊ですべてがわかる 普天間問題 でした。著者は軍事アナリストの小川和久氏です。
投稿日 2015/02/01

書評: 戦後史の正体 (孫崎享) 。日本の戦後史を、アメリカに対する 「自主独立派」 と 「対米従属派」 の視点で俯瞰する




今年2015年は、終戦70周年という節目の年です。

2015年が始まって1ヶ月、戦後70年ということで注目を集めているのは、安倍首相の 「談話」 がどういった内容になるのかです。

もちろん、時の政権が先の戦争に対してどういったスタンスなのかを注目されるのは当然でしょう。しかし、文言をどうするかなど、あまりに細かい点がフォーカスされすぎています。

戦後70年というタイミングで振り返るべきは、その70年という中身であるべきです。すなわち、1945年から現在までの日本の歩みを総括することです。政治家や政権に任せるのではなく、日本国民の一人ひとりが戦後の歴史を知ることです。
投稿日 2014/02/11

建国記念の日に考える 「日本と日の丸と太陽」




今日、2月11日は建国記念の日です。

なぜ建国記念なのかというと、日本書紀によると、初代天皇である神武天皇が即位した日とされているからです。神武天皇が即位したのは旧暦では1月1日で、明治期に新暦の2月11日と換算されました。

神武天皇が即位したのは紀元前660年、今から2700年ほど前です。大和地方での橿原宮で即位しました。橿原宮は今でも橿原神宮として奈良県に存在しています。

関連エントリー:神話から現代まで:天皇がつながる日本の誇り


日本と太陽


日本という国名は、中国大陸から見ると東に位置することから太陽が昇るので 「日の本」 とされたのが由来のようです。
投稿日 2014/01/25

神話から現代まで:天皇がつながる日本の誇り




2月11日は日本では 「建国記念の日」 です。この日は、日本書紀が伝えるには、初代の天皇である神武天皇が即位した日とされています。神武天皇が即位したのは旧暦では1月1日で、明治期に新暦の2月11日と換算されました。

神武天皇が即位したのは紀元前660年、今から2700年ほど前です。大和地方での橿原宮で即位しました。橿原宮は今でも橿原神宮として奈良県に存在しています。


初代天皇から現代までつながっている


世界の国々と比べた時に、日本の特徴は約2700年の間、天皇制がずっと続いていることです。これは他にはない類まれな歴史です。
投稿日 2014/01/19

世界の歴史を変えた日露戦争




世界の歴史という視点で見ると、15世紀の中頃から始まった大航海時代は、地球規模で大きな変化をもたらしました。


大航海時代以降の世界


それまでは、ヨーロッパはヨーロッパ、アジアはアジアという閉じた世界で歴史が動いていました。もちろん、シルクロードを通じた貿易はあり、モンゴル帝国がヨーロッパ世界に迫る時代もありました。ただ、大航海時代前の世界史では、それぞれの地域で起きた出来事が別の地域に大きな影響を及ぼすことはありませんでした。

ところが、コロンブスのアメリカ大陸発見に象徴されるように、大航海時代以後は世界が一つになったのです。欧米での歴史的事件が、アジアやアフリカにも直接影響するようになりました。
投稿日 2014/01/12

あらためて考える明治維新のすごさ




今回のエントリーは明治維新についてです。明治維新の歴史的な意味、現在の私たちへの示唆についてです。

明治維新がすごかったと思うのは、当時の最高権力である幕府を倒幕しただけではなく、自分たちの手で新しい社会基盤をつくり上げたことです。


過去にも起こった倒幕


倒幕については、明治維新より前の日本の歴史では起こっていたことでした。例えば鎌倉幕府を倒した建武の中興です。

明治維新では、過去に起こった倒幕をもう一度実現するという明確な 「やるべきこと」 のイメージが維新の志士たちにはできていたのでしょう。


倒幕後に何を実現するか?という難しさ


260年続いた江戸幕府を倒すだけでも、明治維新の歴史的なインパクトは大きいです。

それ以上に注目すべきは、明治維新後に大きな社会的な混乱がなく新しい社会をつくったことです。それまでの権力から、別の全く新しい権力に移行させたのです。
投稿日 2014/01/05

大切にしたい教育勅語と日本の心




1890年 (明治23年) 10月30日、明治天皇が直接お与えになったのが教育勅語でした。正式名は 「教育ニ関スル勅語」 です。


教育勅語の教え


教育勅語の文章は天皇が自ら国民に語りかける形式をとります。

12の徳目 (道徳) があり、これを守るのが国民の伝統であり、歴代天皇の遺した教えと位置づけ、国民とともに天皇御自身もこれを守るために努力したいと誓って締めくくられています。以下、原文と () 内は現代訳です。
投稿日 2013/01/19

シェール革命から考える人類とエネルギー

変化の激しい世の中です。画期的な技術や仕組みで○○革命と呼ばれることも多いですよね。いろんな革命と表現される中で、個人的に注目しているのが「シェール革命」です。

■シェール革命とは

まずは、そもそものシェール革命とは何かについて。エネルギーの世界の話で、シェールにはシェールガスとシェールオイルの2つがあります。地下深くにあるシェール(頁岩)の隙間に存在する天然ガスがシェールガス、石油がシェールオイルのことです。

何が画期的なのかと言うと、シェール層の岩盤を破砕しガスや石油を取り出す技術がアメリカで開発されたことで、採掘不可能とされた大量の天然ガスや石油が現実的なコストで新たに採掘できるようになったことです。

世界の約4割のシェールガスはアメリカにあるとされており、アメリカはシェールガスの取り出しについて独占的な知財権で固め、発掘から精製までの全ての工法を確立しています。現在はアメリカは石油も天然ガスも輸入国ですが、石油は2030年代に、天然ガスは10年代後半~20年代には輸出国になると言われています。

■シェール革命の影響

シェール革命に注目している理由は、一言で言えば世界のパワーバランスを変える可能性を持っているからです。

最も大きな変化はアメリカの中東産油国依存が下がること。これにより、アメリカの世界戦略に変化が起こります。歴史的にアメリカは中東には多大なコストをかけて安定化を図ってきました。例えばサウジアラビアが典型で、現在のサウジはアメリカの支援を受けたサウード(サウド)家が建国した絶対王政国家です。支援する理由は石油というアメリカの自国の利益を確保するため。

ところが、シェール革命により自国で天然ガスや石油エネルギーがまかなえるとなると、中東に依存する必要はなくなります。これまでアメリカは「世界の警察官」として指導的な役割を担ってきました。その背景の1つにあったのがエネルギー戦略。米国の中東の戦略的な位置づけが変わる影響は大きいと思います。

産油国である中東諸国にしてみると、最大の顧客であったアメリカが離れていってしまうことになります。結果、原油の輸出先は中国などにシフトします。そうなると、中東諸国への中国の影響が大きくなり、原油を運ぶコースであるシーレーンの防衛にも中国は力をより入れるようになっていく。

シェール革命の影響はロシアにも及びます。ロシアは今までは豊富な天然ガスを輸出することで経済を支えていましたが、アメリカのシェールガスによりロシアの優位性はなくなってしまう。豊富な資源を経済成長の原動力にしてきたロシアは危機感を募らせているのです。

■現代社会とエネルギー

今回のシェール革命の話であらためて思うのが、エネルギーの重要性だったり影響の大きさです。エネルギーって、普段の私たちにとっては空気のようなあって当たり前の存在です。スイッチを入れれば電気はつくし、元栓をひねればガスが出てくる。ガソリンで動く自動車が走り、電気で走る電車で移動も簡単にできます。

現代人の生活はあらゆるモノに囲まれています。食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶などのありとあらゆるもの。これらの生産や輸送のために膨大なエネルギーが使われています。日本の場合、モノの生産に全エネルギー消費の約半分が、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2だそうです。参考:書籍「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)

現代文明の特徴として、①都市部への人口集中と、②それを支える高度に組織化された社会システムです。都市部に人口が集中するので、人々に必要な食料を都市部だけでつくりまかなうことはほぼ不可能です。そこで、都市の外部で食料が生産され日々運ばれてくる。生活に必要な資源供給も同様です。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが使われます。

都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な社会システムを支えているのがエネルギーです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っています。安くて安定した大量のエネルギー供給がなければ、私たちの暮らしは一日たりとも維持できないくらいエネルギーに依存しているのです。

■人類とエネルギー

人間も含め動物は、1つの個体が1個体分のエネルギーを獲得/維持することができて、初めてその動物は長期での生存が可能になります。「必要エネルギー=獲得エネルギー」と均等になっている状態。もし「必要エネルギー>獲得エネルギー」という不足が続けば個体数が減りやがては絶滅、「必要エネルギー<獲得エネルギー」の余裕があれば個体数は増加します。

人類の歴史を振り返ると、狩猟⇒定住農耕の変化によって、1人当たり食料エネルギー生産が向上しました。それまでの狩猟生活では1人あたり1人分の食料エネルギー獲得だったために長らく人口は定常状態にあったのが、農業が導入され安定的に食料が獲得でき、1人で1人分以上の食料が得られるようになったのです。

これは何を意味するかと言うと、全員が農業をやらなくても人類は生きていけるようになったということ。農業に従事しない余剰人口が生まれたのです。支配者はこの余った労働力を活かし、例えばピラミッドとかの建設に当てたり灌漑などの土木工事に活かすようになります。

その後の産業革命によりこの流れは加速しました。より効率のよい石炭というエネルギーが大量に使えるようになり、余剰人口がますます増え、それが新たな財やサービスを生むという好循環。これが世界規模で起こった結果、現代の高度な文明に発展したのです。土台となっているのが、エネルギーの大量消費化と効率利用の追及です。

人類の発展は、エネルギーの大量消費化と効率利用の追及の歴史でもあります。

エネルギーの大量消費化について。人類史において、文明化の段階は大きくは農業開始、産業革命、現在の情報革命です(このあたりの話は「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」という本がおもしろかったです)。エネルギー消費で見ると、農業社会に比べ産業革命により3~4倍に増加、さらに産業革命開始時と現在では、エネルギー消費は40倍に増えているのだそうです。(もちろん、この間に人口も増えているので当然社会全体でのエネルギー消費は増えるわけですが、一人当たりエネルギー消費で見ても4倍と増加している)

エネルギーの高効率化について。産業革命前はエネルギー源の主流は薪炭でした。産業革命で石炭が使われるようになり、その後はより効率のよい石油にエネルギー源に移り変わります。エネルギーの効率さを比較するために使われる「エネルギー算出/投入比率」という指標(1単位のエネルギーを取り出すのに何単位のエネルギーが必要になるかという比率)。産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭ではこの比率が2~3倍だったものが、石炭で40~50倍まで効率がよくなりました。石油では中東などの巨大油田ではなんと100~200倍ともなるようです。

参考:書籍「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)



人類はエネルギーをうまく利用することで、多様な食料の安定確保、衛生状態の劇的な改善、衣料や暖房による生活レベルの向上、医療技術/制度の発展、等々で、乳幼児の死亡比率低下、長寿化が実現され、産業革命以降で人口は爆発的に増えました。


 出典:国連人口基金東京事務所・改
 図引用:DIPROニュース

★  ★  ★

シェール革命は、100年や200年に1回あるかないかの革命とも言われています。あれだけグリーンニューディールを叫んでいたオバマ大統領。ここ最近あまり聞かなくなったのはシェールガス/オイルが背景にあります。

シェール革命はアメリカ発の出来事ですが、エネルギーの話は世界中でつながっているのでグローバルで影響します。中東、中国/ロシアなどの新興国、アフリカ諸国、ヨーロッパ、もちろん、エネルギーの大半を輸入に頼っている日本も例外ではありません。

日本では「エネルギー問題=原発をどうするか」にフォーカスされがちです。本来は、エネルギー源の組み合わせの見直し、供給源の安定確保、二酸化炭素削減の環境問題としての側面、発送電のネットワークをどうするか、などの視点に加え、世界ではどんなエネルギー潮流が起こっているかも注目しておきたいと思っています。


※参考情報

シェールガス|Wikipedia
2013年、シェールガス革命で世界は激変する|東洋経済オンライン
エネルギー大変革 ~岐路に立つ日本の資源戦略~|NHKクローズアップ現代
シェール革命とはいうけれど|Newsweek斜め読み(池上彰)
米政府、天然ガス純輸出国となる予想時期を前倒しへ=EIA高官|ロイター




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投稿日 2012/12/09

世界と日本の経済を俯瞰しておこう

ちょっと前に読んだ本が野口悠紀雄氏の「経済危機のルーツ ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか」「大震災からの出発 ―ビジネスモデルの大転換は可能か」の2冊。世界と日本の経済の全体像が俯瞰されていて、「なるほど!」と思うことも多く目から鱗とはこのこと、という感じでした。

第二次世界大戦から現在の歴史的な時間の流れというタテの比較、日本だけでなく先進国・新興国のヨコの比較。ようやく自分の理解も追いついてきたのでエントリーしています(書きながら頭の整理ができることを期待しつつ)。

■戦後の世界経済を俯瞰する

書籍「経済危機のルーツ」で印象的だったのは、工業化のシフトと脱工業化の新しい流れでした。ここについては、ちきりん氏のブログがとてもよくまとまっているので引用させていただきます。以下の表は第二次世界大戦後~2010年代までにおける、日本やアメリカなどの主な国の経済状況です。マトリクスにすることで俯瞰できるとてもわかりやすい図です。


引用:戦後の世界経済が俯瞰できる本|Chikirinの日記

戦勝国である米国・英国、敗戦国であったドイツと日本、そして共産国となった中国、ロシア(ソビエト)について、それぞれの時期に何があったかをまとめたのがこの表、グレーはその国の調子がよくなかった時代(濃いほど悪い)、オレンジはその国が調子がよかった時代を示しています。(濃いほど勢いがある時代)
表の手書きの赤丸はちきりん氏によるもので、工業化による経済成長を順に起こっています。イギリス・アメリカで最初に発生し、ドイツ・日本、中国と、それぞれの国で、農業から工業という第一次産業から第二次産業にシフトが起こり、生産性が大幅に改善しました。青い丸は工業化による経済成長を終えた国が、2番目の経済成長のための「脱工業化」プロセスです。

■日本経済の繁栄と苦難

このへんからはもう1冊の「大震災からの出発」に書かれてる内容に入っていきます。

上の表で1970年代と80年代の日本のところは「繁栄の時代!」とあるように、Made in Japanの工業製品が世界を席巻しました。アメリカなどの製品に比べて品質が良く、かつ低コスト生産による価格優位性があったためです。つまり、アメリカvs日本において、日本製品が勝り日本は工業化による経済成長を実現したのです。

ところが90年代以降、世界経済の産業構造はある変化が起こります。中国などの新興国の工業化。「世界の工場」とも呼ばれた中国製品は品質もそこそこ&低価格を武器に、次第に日本製品が負けるようになっていきます。今度は日本vs新興国において日本は優位性が保てなくなっていく。国内ではバブル崩壊の混乱、国外では世界の産業構造変化の荒波に飲みこまれ、それまでの繁栄がうそのように後に「失われた20年」と言われる苦難の時代へ。

90年代以降は自動車や家電、電気製品の工業製品の相手は新興工業国のそれでした。競争の中で起こったことは、低価格に対抗するためのコストを下げることでしたが、次第にコスト減の内容はリストラや非正規雇用への転換に行き着き、雇用や所得の減少を引き起こします。

製造業での失われた雇用の受け皿になったのがサービス業でした。雇用吸収先が製造業よりも低い生産性のサービス業で雇用形態が非正規雇用であったために、ますますの所得減少が起こった、これが野口氏の説明でした。

ちょっと長くなったのでまとめると、
  • 90年代以降の新興国の工業化で、日本製品の競争相手は新興国製品に。価格などの比較劣位から日本は次第に負けていく
  • それでも新興国製品に対抗するために行き着いた施策がリストラや非正規雇用への転換。結果、雇用が失われたり所得が減少した
  • 失われた雇用の受け皿が製造業より低生産のサービス業であったため、さらに所得減少に

■変化しなかった日本、対応したアメリカ

新興国工業化というのは、世界経済の産業構造の大きな変化でした。野口氏が書いていた内容で印象的だったのが、世界の構造変化に対して日本の産業構造は「変化しなかった」、という指摘。

企業のビジネスモデルや産業構造が変わらず、工業製品の輸出という外需依存の状態を続けます。新興国との競争の仕方が対アメリカの時代の競争と基本的に同じでした。本来は、製造業に代わる新しい基幹産業を国内につくり、異なる競争軸を目指すべきだった。でも実際は、政府は円安政策や金融緩和もあり古い産業構造が生き残り続けることに。

ちなみに、新しい競争軸を生み出したのがアメリカやイギリスでした。それが上の表にある青丸で囲まれた「ITと金融で再生」。製造業よりも付加価値の高いサービス業を創出し、脱工業化を実現したのです。

■東日本大震災の影響

新興国工業化による国内製造業の環境悪化に拍車をかけたのが、3.11の東日本大震災でした。短期的には東北地方が絡むサプライチェーンが壊れたことで生産・供給不足を引き起こしましたが、より影響が大きいのは中長期的に発生する電力制約です。

電力制約は2つあって、使える電力量の不足と、電力使用コストが上がること。福島原発事故の影響で、節電による産業に使える電気が強制的に制限されること、原発停止に伴いその分を火力発電で代替し原料をスポットの高い価格で輸入したことによる電気料金の値上げ。

当初は東京エリアを中心に電力制約が起こるはずが、全国的に原発稼働停止の流れで日本中で電力制約が発生、これに対して企業は生産拠点の海外移転を加速。結果、ますますの製造業の雇用減少という構図です。

■日本は産業構造を変化させられるのか

野口氏は著書の中で、本来あるべき姿は比較優位に即した国際分業である、と述べています。製造業は新興国に任せ、先進国は高い技術や専門性に立脚した産業に特化すべきである。重要なのは製造業の海外移転を引き止めることではなく、製造業に代わる産業を国内に作ることである、と。

新たな産業は高生産性サービス業というのが野口氏の意見です。例として、情報通信、金融・保険、不動産、医療福祉、教育・学習支援、など。重要なのは、新産業の生産性が製造業よりも高いこと。そうでなければ雇用の移転が起こって維持されても、所得は下がり日本は貧しくなってしまう。

個人的な意見として、製造業をゼロにすることは現実的ではないし、いきなりの変化は無理でしょう。製造業でも「先進国は高い技術や専門性に立脚した産業に特化」の例として思いつくのはアップルです。

iPhoneの裏にはこんなことが書かれています。Designed by Apple in California. Assembled in China. デザインはカリフォルニアにあるアップル、製造は中国。これは比較優位に即した国際分業の好例だと思います(もちろん、中国での製造は様々なリスクもあるし、これからも比較優位となり続けるかはわかりませんが)。

★  ★  ★

もう1つ、あるべき姿で触れておくべきは政府の役割。期待したいのは「政府が掲げる成長戦略」ではなく、「政府は何もしないこと」。市場に任せ、規制緩和など競争の邪魔をしないこと。既得権や特定産業を優先する施策は競争をゆがめ、めぐりめぐって経済成長が阻害されてしまいます。


※参考情報
戦後の世界経済が俯瞰できる本|Chikirinの日記


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投稿日 2012/11/25

スペイン旅行での発見

この1週間ほど休みを取りスペインに行ってきました。毎年一回は海外に旅行をしたいなと思っていて、旅行とはいえ外国に少しでも滞在すると普段の日常から離れられ、その国その国の考え方や習慣に触れると新しい発見がいくつもある。旅の魅力だと思っています。




■新しい発見と常識

新しい発見をするために旅行をする、と言ってもいいかもしれません。その国でしかできないことを体験しに行く。これが自分にとっての旅行の目的。だから、現地での生活に近いことができるのがおもしろいと思っています。お土産専門店での買いものよりも、地元のスーパーでミネラルウォーターや食べ物を買う、露店に近いようなそのへんの店で新聞とかお菓子を買ってみたり。今回のスペインだと店の人には英語が通じないことも普通で、片言のスペイン語とかジェスチャーで言いたいことを伝える。現地の人とのコミュニケーションも含めて体験する。これがおもしろいんですよね。

旅先での新しい発見は、自分には当たり前な常識をあらためて考えさせられることでもあります。日本での常識は外国では非常識だったりする。自分の「当たり前」が一度壊される感じです。

例えば、水。海外に行った時の飲み水の確保は普段以上に神経を使います。日本では当たり前のようにレストランや飲食店では水はお冷として無料で提供されます。外国ではこのサービスはなく、ソフトドリンクやアルコールなどと同じように、水は買うもの。スペインでも同様で、水の値段は普通のレストランでは2.5-3ユーロくらいで、ジュースやビールとかワインなどと同じだったりします。

考えてみると、水道水をそのまま飲める日本のような国は世界的にはレアです。確か、蛇口から直接水が飲める国は日本も含めて世界で11か国と本で読んだ記憶があります。私たちの水に対する感覚と、スペインでの水に対する感覚はあきらかに違う。水に対する日本の常識と外国での常識。この違いはそれだけ日本の水道水は品質が良く、水自体が日本には豊富にあるという再発見でもあるのです。


アルハンブラ宮殿。貴重な水だからこそ宮殿内で贅沢に使用することで、権力や富を誇示していた様子がわかる


バルセロナ近郊のタラゴナにある「ラスファレラス水道橋」。古代ローマ人により建てられたもの

外国に旅行して新しい発見をする、そこから自分にとって当たり前なこと・常識に気づく、自分や日本のことを客観視でき、相対化できる。外を知ることで内を知ることにつながる。自分の知識や常識はあくまでone of themでしかなく、世の中にはいろんな考え方・見方があり、どれが正しいとかでもない。多様性に触れることができるのが旅行の醍醐味だと思っています。


サグラダ・ファミリア。ガウディが残した傑作の1つ。右はサグラダ・ファミリアの中。外観も内観も圧倒されました

■旅と歴史

もう1つ、旅行の魅力はその国の歴史をよりリアルに感じられるところ。今回の旅行ではいくつかのキリスト教のカテドラル(大聖堂)に訪れましたが、スペインの大聖堂の特徴はキリスト教とイスラム教が共存しているところ。

これは歴史に大きく関係していて、スペインがあるイベリア半島は8世紀にアフリカからイスラム教徒の侵略が起こりました。スペインのほぼ全土まで広がります。その後、キリスト教によるレコンキスタという国土回復運動が起こり、1492年にイスラム最後の都市グラナダを奪還。今でもキリスト教にイスラム教の文化が残るのはこうした背景がありました。

レコンキスタ後、スペインは国内の動乱時代を終え大航海時代を迎えます。1492年というのは歴史に残る年で、コロンブスがアメリカ大陸を発見した年でもあります。レコンキスタを完了したことでようやく世界に目を向けることができた。当時のスペイン女王イサベルがコロンブスの計画を承認できたのも、国内を統一できたから。アメリカ大陸を発見し、スペインはその後、南米大陸へも進出していきます。インカ帝国などを滅ぼし、金銀などの貿易から莫大な資産を手に入れスペインは全盛時代を築きます。

今回のスペイン旅行で、このあたりの歴史に触れておもしろかったのは、去年行ったペルーとつながったことです。ペルーではマチュピチュなどのインカ文明遺産をいくつか見ましたが、インカ帝国を滅ぼしたスペインに今年行って、点と点がつながりました。歴史を大きな流れで捉えられることと、それを現地で当時の遺跡を直接歩きながら実感できるのも旅の魅力です。

去年行ったマチュピチュにて


投稿日 2012/04/21

書籍 「失敗の本質」 に見るガラパゴス化とイノベーション


Free Image on Pixabay


下記の表は、名著 失敗の本質 - 日本軍の組織論的研究 で指摘された太平洋戦争 (大東亜戦争) 時の日本軍と米軍の戦略と組織特性の比較です。


引用:失敗の本質 - 日本軍の組織論的研究


日本軍と米軍のそれぞれの特性を並べてみると、相互に関係していることがわかります。日本軍の特性をまとめると次のようになります。

  • 日本軍は戦略には明確なグランドデザインがなく目的があいまいで、短期決戦を好む傾向にあったこと
  • 短期決戦志向のために戦略オプションでは代替案 (戦況が変化した場合のプラン・対応計画) が乏しかった
  • 組織特性においても、人間関係を重視し成果よりも動機や敢闘精神を重視した集団主義

本書がおもしろいのは、6つの戦い (ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦) から上表のような日本軍と米軍の戦略・組織特性比較を明らかにするだけではありません。

さらに深掘りしなぜ日本軍は失敗したのか、そして現在にも活かせる失敗の教訓を残している点にあります。
投稿日 2011/12/27

複雑な社会変化をシンプルに見せるとっておきのS字波モデル

2011年もいろんなことがありました。つくづく変化の激しい世の中だと思います。一方で変化が早いからこそ、一歩引いて大局的にものごとを見ることも時には必要です。私たちの社会を俯瞰的な視点で捉えるのに、おもしろいモデルがあるので紹介します。「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)という本で提示されているS字波モデルです。

■社会の変化を見るためのレンズ:「S字波モデル」とは

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


横軸は時間、縦軸には社会や技術の発展などの指標と置いた場合、出現・突破・成熟・定着の4つの局面があるというものです。発展の仕方として、1.遅い成長(出現)、2.急速な成長(突破)、3.成熟を経て発展が横ばいに(成熟~定着)、という3つの段階と考えてもいいかもしれません。

本書ではもう1歩踏み込んだモデルが登場します。S字波は小さなS字波に分解できるという考え方。冒頭でS字波モデルは社会を俯瞰的に見るために有用と書きましたが、その心はS字波の分解にあります。本書に出てきた表現で言うと、S字波は社会の流れを観察するための「レンズ」であり、レンズで拡大・縮小することで局所的にも大局的にも捉えることができるのです。

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


■現在は異なる変化が同時に起こっている

それではS字波モデルを使って、まずは大きな視点で見てみます。本書では主に先進国での近代化過程という大きな流れを軍事化・産業化・情報化の3つに分けています。下図のように大きなS字波として近代化過程が、そして、小さなS字波として3つに分解された軍事化・産業化・情報化です。現在はどういった状態かと言うと、図の縦の点線が示す通り、軍事化の定着・産業化の成熟・情報化の出現という3つの局面が同時に起こっていると著者である公文氏は指摘します。

引用:書籍「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」(公文俊平 NTT出版)


本書では、軍事化・産業化・情報化というそれぞれのS字波をさらに分解して詳しく説明されています。少しだけ紹介しておくと、先ほど書いた現在は「産業化の成熟」であり「情報化の出現」という状態がそれで、前者の産業化の成熟局面で見られる現在社会の特徴としては、スマートフォンに代表されるようなちょっと昔では考えられないような高度な出力処理が可能なコンピュータを持ち、クラウド、高速な光/無線通信網、等々が当たり前となりつつある社会です。後者の情報化の出現の特徴としては、ソーシャルメディアに代表されるような新しいコミュニケーション・情報の共有です。ウィキリークスやYouTubeなどへの投稿により、あるいはソーシャルメディアを積極的に活用した政治・市民活動など、社会を変えていくケースは数多く見られます。もっと身近な個人レベルで見ても、自分の行動や気持ち、考え・意見などをツイッターやフェイスブック、ブログ等で積極的にシェアする流れです。このような情報化という新しい変化が「出現」しつつあるという指摘は、これまでの社会とは異質なものだと私自身も感じます。

■「産業の情報化」と「情報の産業化」

本書での産業化の成熟と情報化の出現についての説明でなるほどと思ったのは、「産業の情報化」と「情報の産業化」は異なるという指摘でした。産業の情報化というのは、家電や個人のデバイスなどの様々なものがIT化・ネットにつながると理解しました。すなわち、工業製品などの成熟段階として情報技術を持ち情報通信機械となる変化です。一方の情報の産業化とは、情報それ自体が商品やサービスとして生産・販売される状態です。情報の産業化が出現するということは、これまでは無料であった情報がお金と交換できる価値を持つことなのです。ちなみに、日本語で情報化社会というのは産業の情報化を表すことが多いように思います。別にこれが間違っているわけではないのですが、今回のエントリーでは情報化社会という言葉は使わず、「産業の情報化」と「情報の産業化」は区別しています。

もちろん、産業の情報化と情報の産業化には相互関係があります。具体的にはネットにアクセスする手段が自宅PCだけではなく、タブレットやスマホでより自由になったことで(産業の情報化)、私たちは各個人で情報発信をするようになりました。その結果、ネット上ではそうした情報に基づいて広告が表示されたりしています(情報の産業化)。

著者の主張で印象的だったのは、変化の激しい世の中を俯瞰するためには、産業化の成熟と情報化の出現という異なる2つの変化が同時並行で起こっているという認識が必要というものでした。起こっている出来事がどちらに該当するのか、あるいはどのように相互作用しているのか、という視点です。公文氏は、大切なのは近代化の大きな流れが「情報化の出現」に向かっているという歴史的な意味を捉え、その方向に沿った政策採用や制度設計をすべきであるという意見です。例えば企業のビジネス戦略もソーシャルメディアの普及などの情報化の進展と共存したり、それを支援する方向を目指すべきという考え方です。(参照:本書 p.187)

■情報の産業化という方向性

「情報の産業化」というのは、個人的にもとても興味のある変化です。なので、本書で書かれていた収集される個人情報に対して何らかの謝礼支払いを義務付けてみてはどうか、という著者の主張にも関心があります。著者は、収集する個人情報の有償化により、「情報化の出現」時代に入っても市場規模の拡大が実現できる可能性を指摘します。

個人情報が有償化し、そこから発展するデータを買いたい・売りたいという動きが出るということは、そこには取引の市場ができることも考えられます。データ取引市場なるもので、であれば買い手と売り手をつなげて取りまとめる中間業者のような存在も生まれるかもしれません。やや突拍子もないことかもしれませんが、ゆくゆくはデータ自体があたかも貨幣のように流通する世界になるかもしれない。データをお金を通して売買するのではなく、データそのものの貨幣化、すなわち価値として広く「信用」を得ている存在です。以前にGoogleがデータ取引所の創設する記事があり、そこから考えたことをエントリーしましたが、情報化がますます進展する社会ではこうしたプレイヤーの存在も当たり前のようになるのかもしれません。
Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか|思考の整理日記
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL

情報の産業化に興味があると書きましたが、自分自身の仕事もこの方向です。そして、自分がやりたい、世の中を変えたいのもこの領域だったりします。冒頭で変化の激しい世の中と書きましたが、だからこそ、自分の仕事とやりたいことの軸がブレることなく、時には俯瞰的に見るという複合的な視点も大切にしたいです。本書「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」は非常に示唆に富む良書でした。


情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ
公文 俊平
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投稿日 2011/10/01

目から鱗だったエネルギーの本質

ここ最近読んだものに、「エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う」(石井彰 NHK出版新書)という本があります。この本の趣旨は、3.11の東日本大震災以降に見られる「原発vs再生可能エネルギー」という議論は不毛であり、今後のエネルギー供給の安定性と二酸化炭素削減を両立するのは天然ガスの活用と資源分散型のスマートエネルギーネットワークをいかに確立するか、というものです。

全体的に読み応えのある内容だったのですが、特におもしろかったのが「そもそもエネルギーとは何か」という根源的な部分の話でした。エネルギーが現代社会に果たしている役割や人類の歴史との関係など、エネルギーに関して本質的な論点が取り上げられており、ここがあらためて考えさせられる内容でした。目から鱗な話だったので、今回のエントリーでは本書で書かれていた内容を中心に書いています。

■現代社会とエネルギー

本書の内容は「なぜエネルギーが重要なのか」という問いから始まります。これに対して筆者は次のように説明します。エネルギー供給、特に安くて安定した大量のエネルギー供給がなければ私たちが暮らす現代文明は一日たりとも維持できない。

どういうことかと言うと、現代人の生活はあらゆるモノに囲まれていますが、これらを生産あるいは輸送のために膨大なエネルギーが使われています。ここでいうモノとは食品、衣服、家・建築物、紙、ガラス、化学・薬品、道路・鉄道、車・船舶などのありとあらゆるものですが、本書によると、日本の場合、モノの生産に全エネルギー消費の約半分が、輸送や配送も含めると全エネルギー消費の3分の2という量となるようです。

もう少し現代文明について考えてみます。現代文明の特徴として、都市部への人口集中と高度に組織化された産業システムの2つあると筆者は言います。都市部に人口が集中することで、例えば私たちが口にする食料を都市部だけでつくりまかなうことはほぼ不可能です。生活に必要な資源も同様です。だからどう対応しているかと言うと、都市の外部で食料が生産され、日々運ばれてきています。上下水道や道路網など私たちが当たり前に使っている社会システムを維持するためにもエネルギーが消費される。都市部への人口集中とそれを可能にするこうした高度な産業システムを支えているのがエネルギーなのです。私たちの生活は大量のエネルギーを消費することが前提で成り立っているわけです。

■人類の歴史とエネルギー

本書では、人類の歴史という観点からエネルギーの説明も書かれていました。筆者は文明化とはエネルギーの多消費化であり、かつエネルギー源の高効率化であると言います。

まずは多消費化から。人類史において、文明化の段階はいくつかありますが、大きくは農業開始、産業革命、現在の情報革命です(このあたりの話は「情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ」という本がおもしろかったです)。エネルギー消費で見ると、農業社会に比べ産業革命により3~4倍に増加、さらに産業革命開始時と現在では、エネルギー消費は40倍に増えているのだそうです。(もちろん、この間に人口も増えているので当然社会全体でのエネルギー消費は増えるわけですが、一人当たりエネルギー消費で見ても4倍と増加している)

エネルギーの高効率化について。産業革命前はエネルギー源の主流は薪炭でした。それが、産業革命で石炭が使われるようになり、その後はより効率のよい石油というエネルギー源に移り変わります。本書では、エネルギーの効率さを比較するために「エネルギー算出/投入比率」という指標が用いられています。これは、1単位のエネルギーを取り出す(算出)のに、何単位のエネルギーが必要になるか(投入)という比率です。例えば産業革命以前の主流エネルギー源だった薪炭ではこの比率が2~3倍だったものが、石炭で40~50倍まで効率がよくなります。つまり、1単位の石炭があれば、40~50単位の石炭が取れるということです。これの比率が石油では中東などの巨大油田ではなんと100~200倍ともなるようです。2010年にメキシコ湾で石油会社BPが原油を海に流出させてしまう事故が起こりましたが、これは見方を変えればBPが流出を止めたくても、油田から自ら勝手に噴出してしまうくらいの算出効率の良さであるがために起こったものでした(という記述が本書にありあらためてその算出効率の良さを実感させてくれました)。ちなみに、太陽光のエネルギー算出/投下比率は10倍、風力は15倍程度と説明されています。

■ストックなエネルギーとフローなエネルギー

本書では、以上のようなそもそもエネルギーとは何かという話が、人類の歴史と絡めてあらためて説明されています。それを踏まえ、今後のエネルギー政策をどうするかという論点に移っていきます。このあたりを理解すると、「原発or再生可能エネルギー」という二元論では、私たちの社会を支えているエネルギーの全体像を捉えていないことに気づかされます。つまり考えるべきは原発でも再生可能エネルギーでもない化石エネルギー源の有効活用です。もちろん、長期的には化石エネルギーという過去の地球の資産とも言えるエネルギーの比率を下げ、再生可能なエネルギーでまかなっていくような姿が望ましいでしょう。ただ、現時点で再生可能エネルギーが主流になるのは非現実的であり、原発分の代替にもなり得ません。

現代文明は、前述のように高度に組織化され都市部に人口が集中するという社会システムで、維持するために大量の高効率なエネルギーを投入しています。主流なエネルギー源は石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料で、これは太古の昔から現在にわたって蓄積され濃縮された、いわば貯金のようなストック的なエネルギーです。これに対して水力、バイオ、太陽光・熱、風力などのエネルギーは毎月の収入のようなフローなエネルギーです。貯金に頼らず毎月の収入エネルギーだけで暮らしていた産業革命前と、毎月収入と貯金までも使って築き上げた現代社会。私たちが享受している生活は身分相応以上の贅沢な生活と言えます。しかしだからと言ってもはや産業革命以前の生活に戻れるわけはなく、であるが故に考えるべきは今の主流である化石エネルギーをいかに効率よく使うか(エネルギー供給側での省エネ)、安定的に供給が継続できるような発送電の仕組みのはずです(一方で環境に負荷をかけないという視点も必要)。本書を読むことで、そんなことをあらためて気づかされたように思います。






情報社会のいま ―あたらしい智民たちへ
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投稿日 2011/08/27

日本の1万年の人口増減とFacebookのネクストステージ

先日、ツイッター上である先輩が「Facebookがそろそろ潮時かもしれない」というツイートをされていました。飽きたとか単純な理由ではなさそうだったので、ちょっと気になりReplyをすると、次のような状況からでした。
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色々な「友達」が増えすぎてなんとなく投稿がしにくくなった。フェイスブックには最近できた友達から中学時代の友人までいるので、投稿内容を妙に意識してしまう結果、無難なことしか書けない。今は不特定多数の人に見られるtwitterのほうが逆に気軽に投稿しやすい。
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■なぜFacebookでは無難な投稿内容になるのか

上記のリプライをもらった時に、確かにそうだなと思いました。フェイスブック(以下、FB)上にはいろんな「友達」がいます。地元の友達や大学の友人、仕事でお世話になっている方、等々です。FBに投稿するとき、どこかで見られることを意識してしまいます。例えば、投稿内容が特定のグループにしか意味・背景が通じないことだったりする時は書き込むのを結局やめたり、あるいはどこかで自分のことを良く見せようという気持ちがあるような気がします。つまり、書き込み内容にフィルターがかかってしまい、結局フィルターを通るのは無難な内容になってしまうのです。最大公約数的な感じで。

一方のツイッターの場合、気軽にできるのは不特定多数の人というところがポイントだと思っています。というのも、不特定多数だと投稿内容から自分がどう思われてもある程度構わないという意識があり、だからFBほど投稿内容にフィルターがかからなく、無難なことでなくてもアップできる。もちろんその中にはFBと同じように知り合いや友達、同僚もいるわけで、ツイートする/しないのフィルターをかけますが、それでも気楽にツイートできてしまいます。

■Facebook上の友達が増えるとどうなるか

FBに話を戻しますが、FB上で友達の数が増えることで次第に投稿内容がPersonalな内容が少なくなるという記事がありました。
Do Growing Friend Lists Mean Shrinking Facebook Use?|All Facebook

以下の図は同記事の元記事からの引用ですが、それによればFB上でつながっている友達の数により、より個人的なネットワークであるPersonal Networkから、Social Network、Professional Networkの3つに分かれると指摘しています。

NETWORK OVERLOAD: WHY FACEBOOK IS SINKING UNDER ITS OWN POPULARITY (WARNING TO GOOGLE+)|GREAT FINDSから引用

記事では同じ内容でも、Personal、Social、Professionalの3つで表現が次のように変わると言います。「週末をJaneと過ごしてとても楽しかったよ」(Personal)、「楽しかったハワイ旅行から今戻ってきた」(Social)、「ハワイで有意義な時間を過ごした」(Professional)。

もちろん、人により様々だとは思いますが、友達が増えるということは冒頭で書いたように色々な人間関係がFB上にできるので、個人的な内容やプライベートの話が中心だったものが、人数が多くなることでより公なメッセージになるというこの記事での指摘は理解できるものだと思います。

この引用記事のタイトルは「Do Growing Friend Lists Mean Shrinking Facebook Use?」(友達が増えることでフェイスブックの使用が減る?)です。確かに、フェイスブック疲れというか、フェイスブック離れみたいなものもちらほらと聞いたり、ネット上でも見かけるようになりました。(理由は様々で一概に友達の人数とは限らないことだと思いますが)

■1万年間の日本人口の趨勢からの示唆

「2100年、人口3分の1の日本」(鬼頭 宏 メディアファクトリー新書)という本をちょっと前に読んだのですが、そこにおもしろいことが書かれていました。2005年をピークに日本が人口が減少期に入ったと言われていますが、本書によると縄文時代以来の約1万年間において、日本では少なくとも4回の人口増加期と減退期があったようです(p.47-48)。

人口が増加するのは、海外から新しい技術や物産・社会制度が導入され新しい文明システムへと転換していく時代、一方で人口減退が起きるのはそれが定着して社会が成熟し発展の余地がなくなる時代だと言います。一例を引用します。狩猟採集社会であった縄文時代、人口密度は狩猟採集で成り立つ社会として世界一と考えられてるようですが、一方で生活は環境に左右され縄文時代後半は寒冷化も進んだことで人口は減少したようです。ですが、人口減退に歯止めをかけたのが稲作文化の流入でした。日本に水稲農耕が定着すると人口増加期に入ったようです。つまり、原始的な狩猟社会に稲作という新しいシステムが外部から入ったことで、新しい段階に移ったのです。 

人口から読む日本の歴史から引用

■外部からの「変化」がFacebookに何をもたらすのか

個人的に思うのが、これと同じようなことがフェイスブックにも起きているのではないかということ。もちろん全然仮説レベルなのですが、FBも転換期にあり、これまでのユーザー数が爆発的に増大しているフェーズから次の段階に移りつつあるんじゃないかなと。さっきの日本での人口増加・減退の歴史を参照すると、FBが次のフェーズに入り、さらに成長するためには外部からの新たな文化・システムが必要ということになります。それは何なのか。

そのきっかけになるのでは思っているのが、つい最近FBが発表した複数のアップデートです。その中には投稿の公開範囲を制限するのが簡単になるとあります。ユーザーが投稿を下書きしている時点で公開範囲のオプションが表示され、Friends(友だち), Public(一般公開)、Custom(カスタム)と選べるようです。
Making It Easier to Share With Who You Want|The Facebook Blog
Facebook、友だちがタグ付けした写真を事前に承認できるようになった―その他改良多数発表|TechCrunch JAPAN

これの発表内容を見た時に連想させられたのがGoogle+のCircleです。G+とFBの違いの特徴として、G+はサークル機能により投稿内容が指定しやすくなっていることがあります。G+では他のユーザーをフォローする時にそのタイミングでどのサークルに含めるかを決めますが、FBではこれまではリストはあまり有効に使われていない印象でした。それが、今回のFBの発表でG+のシステムを意識した変更のように思えました。

この変更がFBや私たちユーザーに何をもたらすのか。投稿の公開範囲が選びやすくなったことで、冒頭で書いたような無難な投稿内容にとどまらなずより活発なコミュニケーションができるようになるのでしょうか。今後の様子を見る必要がありそうですが、次のフェーズに入るための「外部からの新しい文化・システム」になるのか、興味深いところです。


※参考情報

Do Growing Friend Lists Mean Shrinking Facebook Use?|All Facebook
NETWORK OVERLOAD: WHY FACEBOOK IS SINKING UNDER ITS OWN POPULARITY (WARNING TO GOOGLE+)|GREAT FINDS
Facebook Sees Big Traffic Drops in US and Canada as It Nears 700 Million Users Worldwide|Inside Facebook
人口から読む日本の歴史
Making It Easier to Share With Who You Want|The Facebook Blog
Facebook、友だちがタグ付けした写真を事前に承認できるようになった―その他改良多数発表|TechCrunch JAPAN
Facebook、プライバシー機能をアップデート--投稿の公開先指定やタグ付けの承認などで変更|CNET Japan


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投稿日 2011/03/31

「商売の日本史」から考えるヤマヒコの復興とウミヒコの復興

歴史を学ぶ意義はどこにあるのでしょうか。このことをあらためて考えさせてくれた本が『ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義 (PHPビジネス新書)』でした。本書にはこのように書いてあります。「歴史を学ぶ意味は、過去の人々の営みから今に役立つさまざまな教訓を引き出すこと」(p.102)。あらためて思ったのは、歴史をただ単に過去の出来事で終わらせてしまうのは、歴史の価値を半分も享受できていないのではないかということです。

■経済から見る新しい歴史観

この本は、書かれている視点がとてもユニークです。だからおもしろかった。どうユニークかと言うと、日本史をお金の動き、すなわち経済という切り口で書かれています。

思い返してみると、小学校から歴史の授業が始まり、中学、高校と日本史を学びましたが、教科書や授業で習ったのは、ほぼ政治史という観点での歴史だったことに気づきます。例えば、鎌倉幕府から室町幕府への流れは、歴史で教わったのは、足利尊氏らが反乱を起こし、鎌倉幕府と時の政権を握っていた北条氏を滅ぼして室町幕府を開いたということでした。武力と選挙という手段は違えど、これは現代で言う「政権交代」です。実際はここに経済も関連していたはずですが、そんな話は習った記憶があまりなく、少なくとも印象に残っていません。

だからこの本を読むと、色々と新しい歴史の見方を与えてくれます。詳しくは本書に譲りますが、印象深かったものを1つだけ紹介しておきます。武士として初めて律令の最高位である太政大臣となった平清盛の話です。

平清盛は現代にも通じることを先駆的に行ないました。瀬戸内海を支配し、物流とそこでのマネーサプライを握ったのです。貿易のための港を整備し、当時の中国・宋との日宋貿易から多額の富を生み出します。今っぽく言えば、瀬戸内海というプラットフォームを構築したのが平清盛でした。平家は、貿易から様々なものを輸入しました。宋銭、陶磁器、薬品、香料、書籍など。これらが日本の文化に与えた影響は大きかったはずです。

中世に琵琶法師が語り継いだ「平家物語」で、その中の源平の戦いでは平清盛は悪役として語られています。多くの人の印象も実際にそうでしょう。しかし、このように「経済」という視点で見ると、平清盛の印象はがらりと変わりました。

■ヤマヒコとウミヒコ

さて、本書のキーワードに、「ヤマヒコ」と「ウミヒコ」があります。古事記や日本書紀に登場する兄弟の神さまの名前で、2人は対照的な性格をしています。本書では、ヤマヒコを内向きのエネルギーの総称、ウミヒコを外向きのエネルギーの総称とし、日本史を大きな流れで見ると、時代時代でヤマヒコの性格が強い日本、ウミヒコの性格が強い日本と、それぞれの特徴が交互にスイングするかのように現代に至るまで歴史を重ねてきたことが書かれています。

ヤマヒコとウミヒコの時代・特徴を本書から引用すると、以下のようになります。

出所:ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義 (PHPビジネス新書)から引用

日本人は、その時代ごとにヤマヒコとウミヒコそれぞれの特徴を持ちながら、時に内向きを志向し日本独自の文化や内需を盛り上げ、またある時は外向きな志向から自らの命の危険を顧みず海を越え異国の地を目指し、様々な文化・知見を持ち帰ったのです。

■著者はヤマヒコからウミヒコに変わると予想しているが

それでは、現在はヤマヒコとウミヒコのどちらの要素が強いのでしょうか。本書で述べられていたのは、昭和から平成になった現在の特徴はヤマヒコが強いということでしたが、著者の主張として、今後はウミヒコの側面がもっと出てくる・出てきてほしいというものでした。ウミヒコが強くなる時代は中国の影響が強いと述べられていましたが、確かに、昨年はGDPで中国が日本を抜いたことがほぼ確実視されるなど、以前にも増して政治・経済の両方で中国の影響を感じます。

ところが、です。2011年3月11日、マグニチュード9.0という日本観測史上最大の地震が発生しました。地震だけではなく、津波、福島原発、電力エネルギー不足と、日本だけでなく世界中に大きな影響を与えています。

そして今後の課題ですが、短期的な課題は被災地での救援活動や原発からの放射線・放射線物質漏れを封じ込めること、中期的には計画停電や節電による電力供給不足をどうしのぐか(特に今年の夏や冬)、あるいは復興への財源をいかに確保するか(補正予算、国債?復興税?寄付への税額控除?)、長期的には抜本的なエネルギー供給の検討(原発・新エネルギー・周波数の問題など)と被災地の復興です。

■ヤマヒコの復興とウミヒコの復興

報道などで震災後の現地の状況を見ると、家などの建築物、道路や堤防、水道、電気・ガスなどの社会基盤から破壊されてしまっています。ということは、復興はインフラレベルでの整備が必要になり、これはつまりは内需のエネルギーが強いヤマヒコの要素です。

一方の関東より西の西日本はどうでしょうか。これまで政治・経済の中心は東京が担ってきましたが、最近では一部でこの一極集中の是非を問うような議論も見られます。それはともかく、企業によってはすでに本社機能の一部を西日本に移転させているところもあるようです。また、震災前の状況を思い返してみると、名古屋では減税を掲げる河村市長が再選、大村知事が当選し、大阪でも橋下知事が大阪都構想を提唱しています。関西などの西日本が元気になり、そして、中国が今後少なくとも数年は2桁に近い経済成長を続けることを考えると、中国の影響をこれまで以上に強く受けるようになります。これはまさに、ウミヒコの要素です。

日本の現状を見れば、大変な状況です。復興にはそれなりの時間がかかるはずで、今後は上記のように、関東や東北地方ではインフラ整備というヤマヒコ的な復興が、中部や西日本ではそれぞれが発展し、外需も積極的に取り込むようなウミヒコ的な活動が必要です。特に、関東や東北が大変な時だからこそ、中部・関西・九州などではこれまで以上の経済活動から日本を盛り上げることが重要です。

まとめると、これからの日本ではヤマヒコの復興とウミヒコの復興の両方が必要になり、それこそ私たち日本人の1人1人が日本を引っ張っていく気持ちが大切になってくるのではないでしょうか。

海の向こうの歴史的な大統領が、当時こんなフレーズで国民と自らをも鼓舞していました。ちょっと今さらな感じもしますが、今こそ私たち自身に対しても使ってもいいのかもしれません。

Yes We Can.



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投稿日 2011/03/25

今こそ政治リーダーに求められるものとは

ここ最近の日経新聞の経済教室は、「大震災と日本経済」というテーマで連載が続いています。識者が様々な提言・主張を述べており、毎日記事を楽しみにしているくらい興味深い内容です。

その中でも特におもしろく示唆に富んでいたのが、3月23日の山内昌之東京大学教授の記事でした。記事では、日本で起こった3つの大きな震災を取り上げ、そこから政治リーダーに何が求められるかを提言しています。過去の歴史を振り返ることで得られる知見と、そこから導かれる示唆がとても印象的な記事でした。そこで今回のエントリーでは、備忘録の意味も込めて、3/23の経済教室:「官僚機構、再編し活用せよ」の内容整理を中心に書いています。

■関東大震災と阪神大震災に見るリーダーシップ

記事で取り上げられている3つの大震災は、関東大震災(1923年)、阪神・淡路大震災(1995年)、そして、日本史上最大の災害とも言われる江戸時代に発生した明暦の大火(1657年)。これらの災害を著者が取り上げた意図は、災害後の復興においてその時のリーダーがどういった姿勢・スタンスで臨んだかを見るためです。

関東大震災後の復興には、内務大臣であった後藤新平が強烈なリーダーシップを図ったようです。地震の5日後には「帝都復興の議」を提案しており、賛否両論があったものの東京が焦土と化したこの悲惨な状況を逆に絶好の機会と考えるべきだとの考えのもと、東京の復興を進めたようです(参考:東京が抱える都市問題-長期的プランを目指して-)。

阪神・淡路大震災では、当時の村山首相が官僚などの専門家を信頼し、仕事を任せることで復興に取り組みました。とはいえ、災害発生後の初動は遅かったことで、内閣支持率の急落に繋がりましたが(参考:村山富市|Wikipedia)、ただ、やがて対応の遅れの全貌が明らかになるにつれ、そもそも法制度をはじめとする当時の日本政府の危機管理体制の杜撰さが露呈したようです。

■明暦の大火に見るリーダーシップ

明暦の大火は、近代以降の東京大空襲などの被害を除けば、日本史上最大の災害と言われています。1657年1月18日に発生した大火で、その被害は江戸市街の6割を焼失し、「むさしあぶみ」などによれば死者は10万人を越えたとされています。江戸城も西の丸以外は全焼し、武家方と町方を問わず市中は焦土と化したとのこと。そのうえ、災害後のには急激な気温の低下吹雪によって被災者から凍死者が相次いだというから、悲惨な状況であったはずです。

このような大惨事においてリーダーシップを発揮したのは、4代将軍徳川家綱を補佐した保科正之(会津藩主)でした。経済教室で説明されていた保科正之の対応策は次の大きく2つです。

第一に、将軍を焼失した江戸城から移そうとする意見を退け、焼かれた本丸跡に陣屋を建てて江戸城を動くべきではないと決めたことです。これには、幕府が中央にどっしりと構え政策決定や指揮を一元化する狙いがあり、民衆が混乱している時に最高権力者がみだりに動いては、人心を乱しひいては治安悪化への影響を懸念してのことです。

第二に、被災者への食糧配布です。米や、寒さに震える人々におかゆを提供したようです。また、家を失った人々には救助金を与えました。幕府には財政不安を危惧する意見もあったようですが、保科正之はこんな言葉を残しています。「こうした時こそ官の貯蓄は武士や庶民を安心させるものだ。支出もせずに残しているだけでは貯蓄しないことと同じであり、前代未聞のこの状況では、むしろ出費できる力がある国を大いに喜ぶべきである。」

■政治リーダーに求められるのは「決断と責任」

このような保科正之の振る舞いから学ぶこととして経済教室の著者である山内教授は、最高指揮者は指揮所からみだりに動くべきではなく、たとえ善意の督励であっても現場に出かけるには時機を見計らい慎重でなければならないとしています。また、いかに重要であっても個別の事象にのめりこんで他の重要な課題を忘れてはいけない、すなわち、菅首相に問われるのは、政策的総合力と全体判断力であり、そのためにも必要なのはリーダーとしての決断と責任を取ることである、と。

■最後に

3月11日の地震発生後、喫緊の課題は被災者・避難者の救済でした。その後の福島第一原発・一号機で水素爆発が起こってからは、原発からの放射線漏れ対策も緊急かつ重要な課題になりました。

一方で、これらと並行して考えなければいけないのが復興対策です。それも、単に地震以前の状態に戻す復旧ではなく、関東大震災後に後藤新平が進めた東京の復興に見るような、復興のビジョンを示すことだと思います。被災した東北地方を中心にどういった方向で復興を進めていくのかという絵は、最終的にはリーダーである菅首相が描き、そのビジョンの下で、担当大臣や官僚を組織し、さらには復興機関を整えることではないでしょうか。これこそが、リーダーに求められる「決断と責任」なのではないかなと。

短期的には被災者・避難者救済と原発対策、中長期的には復興対策、これらを同時に見ることが、今回取り上げた経済教室が主張する「政策的総合力と全体判断力」だと思います。リーダーシップと一言で言っても、その性格は色々であり、実際に経済教室で取り上げている後藤新平と保科正之、村山富市とでは大きく異なります。ただ、リスクから逃げないこと、決断をすること、責任は自分が負うことなどは共通する点なのではないでしょうか。ぜひ菅さんには国難を乗り切るためにリーダーシップを発揮してほしいところです。木を見て森を見ずというようなことなく。


※参考資料

後藤新平|Wikipedia
関東大震災を振り返る|どこへ行く、日本-日本経済と企業経営の行方
東京が抱える都市問題-長期的プランを目指して-
村山富市|Wikipedia
保科正之|Wikipedia
明暦の大火|Wikipedia
明暦の大火(丸山火事、振袖火事)
明暦の大火による江戸の大改造|シリーズ 江戸建設 開府400年


投稿日 2010/08/15

梅棹忠夫とドラッカーから考える情報革命のこれから

今回のエントリー記事では、梅棹忠夫、ドラッカーのそれぞれの著書から情報革命にいたる歴史を大きな流れで整理し、あらためて情報革命について考えてみます。


■人類の産業の展開史 (梅棹忠夫)

梅棹忠夫の著書「情報の文明学」(中公文庫)によると、人類の産業の展開史は次の三段階を経たとしています。(1)農業の時代、(2)工業の時代、(3)精神産業の時代(以下、情報産業とします)。「情報の文明学」がおもしろいのはここからさらに進めて、この3つの時代の生物学的意味を考察している点です。ここで言う生物学的意味というのは、受精卵が発生から自らが展開していく過程のことで、具体的には人間の体が形成されるまでの、内胚葉、中胚葉、外胚葉の3つの胚葉です。以下、本書から抜粋してみます。

(1)農業の時代
生産されるのは食糧であり、この時代は人間は食べることに追われている。農業の時代を人間の機能に置き換えれば、内胚葉からできる消化器官系統の時代であり、三分類で言えば内胚葉産業の時代である。(p.133)

(2)工業の時代
工業の時代の特徴は生活物資とエネルギーの生産。人間の手足の労働を代行し、これは筋肉を中心とする中胚葉諸器官の機能充足の時代を意味する。よって、工業の時代とは中胚葉産業の時代である。(p.133)

(3)情報産業の時代
外肺葉系の諸器官は皮膚や脳神経系、感覚諸器官を生み出す。情報は感覚、脳神経に作用し、情報産業の時代は外肺葉産業の時代である。(p133-134)

以上について著者の梅棹忠夫は、食べることから筋肉の時代へ、そして精神の時代へと産業の主流が動いてきたとし、三段階を経て展開する人類の産業史は、「生命体としての人間の自己実現の過程」とも捉えることができると総括しています。(p.134)


■産業革命とIT革命 (ドラッカー)

次はドラッカーです。ドラッカーは著書「ネクスト・ソサエティ」で産業革命とIT革命について比較し、次のような内容を書いています。

(2)産業革命
産業革命が、実際に最初の50年間にしたことは産業革命以前からあった製品の生産の機械化だけだった。鉄道こそ、産業革命を真の革命にするものだった。経済を変えただけでなく、心理的な地理概念を変えた。(p.75-76)

(3)IT革命
今日までのところ、IT革命が行なったことは、昔からあった諸々のプロセスをルーティン化しただけだった。情報自体にはいささかの変化ももたらしていない。IT革命におけるeコマースの位置は、産業革命における鉄道と同じである。eコマースが生んだ心理的な地理によって人は距離をなくす。もはや世界には1つの経済、1つの市場しかない。(p77-79)


■インターネットの2つの特徴

梅棹忠夫の言う情報産業、あるいはドラッカーの言うIT革命を語る上で、欠かせない存在はインターネットだと思います。もはや自分の生活や仕事においてなくてはならない存在ですが、私はインターネットの特徴は「双方向性」「個の情報発信」だと考えています。この2つの特徴の例としては、例えばmixiやFacebookのようなSNSやツイッター、あるいはソーシャルゲームなどで、ネットによりこれまでにはなかった「つながり」が実現しています。


■これまでになかった「つながり」とは

これまでになかった「つながり」をもう少し掘り下げてみます。例えば前述のSNS。SNS上では、過去から現在に至る自分の人間関係がフラットに並んでいます。例えば、小中学校時代の友達、高校や大学の友達、社会人になってからの知人もいれば、趣味を通して知り合った友人もいます。また、お互いに会ったことがない人でも、SNS上でつながることもでき、これら友人・知人がSNS上に並んでいます。SNSや携帯がなかった時には、中学校を卒業すれば次に会い近況を話す・知る時は5年後の成人式だったかもしれませんが、SNSでつながっていれば、(全てではないですが)お互いの状況を確認することもできます。

SNSが長い時間軸にわたる人間関係が並び情報がストックされるイメージな一方で、ツイッターはリアルタイムでその時その瞬間でつながるフローのイメージです。お互いがツイッターを使っているという前提はありますが、ツイッターで「○○なう」とつぶやけば状況が、楽しいやおいしいとつぶやけば感情が瞬時に伝わります。もしネットがなければ、「昨日、××を食べておいしかった」などとなり、おいしいという感情がその場にいない友人にリアルタイムでつながることはできないでしょう。


■情報革命のこれから

上記のドラッカーが言及するIT革命も考慮すると、eコマースでは買い手と売り手の距離をなくしましたが、ネットによる「つながり」ではこれまでにはなかった人と人との距離感を生み出しているように思います。やや大げさかもしれませんが、既存の人間関係の距離感を破壊していると感じます。

ここまでは「つながり」について人と人との場合を見てきましたが、「双方向性」と「個の情報発信」は何も人だけとは限らないと思います。モノと人やモノとモノのつながりも考えられます。例えば、デジタル家電と人がネットを媒体につながることや、異なる複数の家電が情報のやりとりをする可能性も十分にあります。単なる想像ですが、外部から携帯で連絡すれば、冷蔵庫と台所と電子レンジが連携し勝手に料理を作ってくれるとか、自動車と自動車がつながれば車同士の交通事故が無くせるかもしれないなど、いろんな可能性があります。

梅棹忠夫は先述の「情報の文明学」において、工業の時代になり農業は飛躍的に生産性が向上し、情報産業の時代でも工業だけでなく農業も大発展を遂げた書いています。ネットによるこれまでにない人と人、人とモノ、モノとモノがつながることで、情報革命はこれからも進化が続きそうです。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。