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投稿日 2011/08/07

民放5社×電通のネットテレビは普及するのか?期待したいVODを考えてみる

先日、テレビに関してある発表がありました。民放キー局 5 社と電通が共同でインターネットテレビを来春に実用化するというものです。

電通のプレスリリースでは、「インターネットTV上において、民放各社が主体となった有料課金型のVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスを共同で推進していくことに基本合意」とあります。

参考:民放キー局 5 社と電通が共同でVODサービスを推進|電通


民放5社 × 電通の VOD サービスとは


電通によるリリース内容をもう少し見てみます。

この民放VODは、テレビの価値を向上させるという共通認識のもと、視聴者により多くのテレビ番組への視聴機会を提供することで、テレビ番組の視聴者層を拡大し、テレビ番組のファンを増やそうとするものです。

(中略)

民放VODは、簡単で誰でも使いやすいユーザーインターフェイスを開発し提供することを検討しています。

(中略)

この民放VODを、インターネットTVだけではなく、スマートフォン・タブレット端末などマルチデバイスにも広げ、リアルタイム視聴に繋げる流れを作り出すことにより、テレビの価値の最大化を図っていきます。

リリースでは抽象的な表現にとどめている印象ですが、この方向性は正しいと思います。つまり、TV番組視聴者を増やすために、ユーザーインターフェイスに優れ、TVだけではなくスマホやタブレットPCでも視聴可能としていくというのですから。

もう一つ印象的だったのは、電通が民放5社をとりまとめている点。個人的にこれができるのは電通以外に見当たらないのではと思います。

このニュースを上記のリリース前に報じていたのが日経でした。電子版では同日の午前2時頃に、紙媒体でもその日の朝刊に掲載されていました(テレビでネット動画も自在に 民放5社と電通、来春に|日本経済新聞)。

こちらではVODサービスのイメージ(右図は日経から引用)や課金体系など、少し具体的な内容が報じられています。中身を見ると、少し残念な気持ちになりました。そこに書いてあったのはこの方法で本当に普及するのかという内容だったからです。


普及への3つのハードル


有料課金型VODということでその価格体系ですが、1時間番組が1本300円前後となる予定だそうです。

会員登録をすれば銀行からの引き落としなどで課金されるとのこと。300円を払ってでも見たいような番組がどれくらいあるかというのが、1つ目に感じた普及へのハードルです。

もちろん、関連する動画も見られるという付加価値があるので単純には現在の放送内容との比較はできません。しかし、それにしても番組1本で300円というのはかなり強気な価格設定だと感じます。

サービスを実際に見てみないとなんとも言えませんが、個人的には1ヵ月で10本までは無料、見放題は300円/月くらいのイメージ。これでもVODは使わないかもしれません。

2つ目のハードルがコンテンツです。

日経には、「民放5社合計でドラマやドキュメンタリー、スポーツなど過去に放送した動画は6500本あり、今後増えていく。」とありました。

今後は増えていくことに期待はしたいですが、現時点で5局で番組動画数が6500本というのは少ないです。このVODサービスで期待したいのは、上図にあるようにどれだけ関連する動画と連動するかだと思いますが、コンテンツの量が不足する感が否めません。

コンテンツ数を増やすとともに有料の価値に見合う質も求められますが、個人的には現在TVで放送されている番組の質からすると、300円という価値に見合うかというとちょっと厳しいと感じます。

3つ目のハードルについてです。

現在発売されているテレビではこのサービスを受けられないため、家電数社が来春にも対応機器を発売する方向で準備を進めている点です。TVの買い替えが必須というのは普及には相当にハードルが高いです。

この間、エコポイントやアナログ放送終了に伴う地デジ対応TVの買い替えが大量に発生しています。電通のリリースでは14年度の本格運用を目指しているとありますが、TVの平均使用年数は10年以上というデータもあります(家電リサイクル法の施行状況|経済産業省)

例えば、せめてアップルTVのように既存のTVにつなげるだけでOKとかでないと、この有料VODのためにすぐにTVの買い替えが起きるとはなかなか思えません。

以上3つを整理すると、価格(Price)、コンテンツ(Product)、見るために新しいTVが必要(Place)ということで、マーケティング4Pで言うところのうち、普及には3つのハードルが存在します。(残りのPromotionは、日経がフライング気味で具体的に報じたことで特にネット上で否定的な意見が多いように感じるのはうがった見方かもしれませんが)


なぜ電通はVODサービスに取り組むのか


さて、ここであらためて考えてみたいのが、なぜ電通がこの有料課金型VODを推進するのかという論点です。個人的な印象ですが、民放5社のとりまとめは簡単ではなかったように感じます。それをやってでも電通にとって得られるメリットは何なのかです。

電通のリリースでは「テレビ番組の視聴者層を拡大し、テレビ番組のファンを増やす」とありますが、やはりここにはTV広告を拡大させるという意図があると考えるのが自然だと思います。

そもそもこのVODサービスが純粋に視聴者からの60分番組1本で300円という課金だけで成立するのか、課金+広告というビジネスモデルなのかは現時点では不明ですが、電通が絡んでいることを考えると後者となるように思います。では広告をどんな形で入れてくるのか、実はこのVODのニュース発表の数日前にあるリリースを発表しています。

参考:電通とジュピターテレコム(J:COM) VOD サービスにおける新たな広告モデル『CM 割』を開始|電通


中身を要約すると、JCOMのVODサービスで、企業のCMを視聴すると視聴料が割り引きとなる広告モデル「CM割」を9月1日から3か月間試験的に始めるとのことで、割引は105円。このニュースを報じたAdverTimes(アドタイ)によれば、視聴料は60分のテレビ番組で315円とあります。

参考:CM視聴で視聴料105円割り引き 電通とJCOM、VODで新たな広告モデル|AdverTimes(アドタイ)


60分番組が300円程度。これで電通の意図も見えてくるのではないでしょうか。つまり、これは偶然の一致ではなく、民放5社とのVODを考慮した上での広告モデル構築のためのパイロットテストではないかと思います。

JCOMと取り組んでいる試験サービスでは、既存のTVの広告モデルよりもう一歩踏み込んでいる印象があります。というのは、用意されているCMは60秒~180秒の長尺版で(ジャンルの異なる8つのCMの中から見たいものを1つ選ぶ)、ユーザーは視聴後に簡単なアンケートが用意され、その後に番組視聴となるようです。

電通の説明では、「視聴者は複数業種の中から自ら選んだCMを視聴するので好意を持って見てもらえる。また長尺タイプのCMを見てもらうことで、より商品・ブランド理解につながる」とあります。

個人的には、315円から105円の割引があってもまだ高いように気がしますが、広告無しの視聴を追加で課金するのではなく、広告ありを割引するという「引き算」の発想はなかなかおもしろい試みです。


期待したいVODサービス


最後に、VODサービスに関してあらあめて思うことを少し。今回の発表では民放5×電通という組み合わせでしたが、これが電通ではなく例えばニコニコ動画やYouTubeだとどうなったか、これを少し考えてみます。

YouTubeであれば、ユーザー数という規模のメリットがあります。つまり世界中にユーザーがいる。もちろん日本語のTV番組は基本的には日本語なのですが、

Googleには音声翻訳やYouTubeへの自動字幕表示技術があります。もっと技術精度を上げる必要はありそうですが、この当たりをうまく活用すれば日本語番組を自動的にその国の言語で字幕表示させることも可能になることが期待できます。

参考:Google、音声入力で57言語を翻訳できるアプリ『Google Translate』配信開始|Searchina
参考:YouTube、日本語音声を認識して字幕を自動生成・表示する機能を追加|INTERNET Watch

グローバルに日本のTV番組を配信できるとして、アニメなど日本には有力なコンテンツがあります。あるいは四季折々の日本や文化遺産、観光地としてもアピールできるかもしれません。

民放5社、あるいはNHKも含めた日本のコンテンツ資産をグローバルで普及しているYouTubeと組み合わせることで日本の良さを知ってもらえるかもしれません。

あとはYouTube(Google)、TV局、コンテンツプロバイダー、広告主の各プレイヤー間でうまくマネタイズできる仕組みがあり、ユーザーにとっての優れたユーザーインターフェイスがある。これら価値に見合う価格体系。これくらいの構想であればわくわくします。


※ 参考情報

民放キー局 5 社と電通が共同でVODサービスを推進|電通
テレビでネット動画も自在に 民放5社と電通、来春に|日本経済新聞(11年8月3日)
民放5社が新たなインターネットテレビを来春に実用化、専用テレビも同時発売|GIGAZINE
家電リサイクル法の施行状況|経済産業省
電通とジュピターテレコム(J:COM) VOD サービスにおける新たな広告モデル『CM 割』を開始|電通
CM視聴で視聴料105円割り引き 電通とJCOM、VODで新たな広告モデル|AdverTimes(アドタイ)
Google、音声入力で57言語を翻訳できるアプリ『Google Translate』配信開始|Searchina
YouTube、日本語音声を認識して字幕を自動生成・表示する機能を追加|INTERNET Watch

投稿日 2011/05/15

テレビとこれからの視聴率を考えてみる


Free Image on Pixabay


日本でテレビ放送が開始されたのは1953年 (昭和28年) でした。1953年2月1日に NHK が、その後の1953年8月28日に日本テレビ放送網が放送を開始しています。放送開始当初の NHK の受信契約は866件だったようです。

テレビ放送開始|NHK
日本放送協会|Wikipedia
日本テレビ放送網|Wikipedia


テレビのビジネスモデル


テレビのビジネスモデルは50年前も今も基本的には変わっていません。

1953年当初から、NHK は視聴者から受信料を受け取る有料モデル、日本テレビ放送網はスポンサー企業の CM を入れる広告モデル (受信料は無料) でした。ちなみに、日本での初めてのテレビ CM は、日本テレビ放送網の放送初日に流された精工舎の時報だったとのことです。

セイコーホールディングス|Wikipedia


スポンサー企業は50年前も今も、多くの予算を投入しテレビ CM を流しています。スポンサーにとってテレビはそれだけ広告媒体としての価値を見出しています。一つの情報を一度に大量の視聴者に届けることができるという価値です。テレビはこの点で、新聞・雑誌、ラジオ、ネットと比べても優れています。
投稿日 2011/04/23

これからのテレビは多様な視聴スタイルになってほしい

テレビ番組を見るのはどこで、いつ見ることが多いでしょうか?回答はいろいろありそうですが、最も多いのはテレビが設置してあるリビングなどで、その番組が放送している時間に見ることだと思います。放送中にテレビを見られない場合は、ハードディスクなどに録画しておき後から見ることもあるかもしれません。あるいは家のテレビではなく、電車の中で携帯電話のワンセグから見る場合も考えられます。

■時間シフトと場所シフト

録画で放送時間より後から見ることを「時間シフト」、ワンセグなどにより屋外も含めた見たい場所で見ることを「場所シフト」とすると、冒頭の視聴の仕方は次のように位置づけができます。


ワンセグ放送を活用したユニークな商品をソフィアデジタル株式会社が提供しています。アレックス6というチューナーレコーダーで、ワンセグの6チャンネルを24時間自動で録画されます。1テラバイトのハードディスクがあれば2ヵ月くらいの番組データが保存できるとのこと。視聴はLAN経由でPCから、あるいは専用のアプリを使えばiPhoneやiPadからもマルチデバイスで視聴できます(ただし家庭内)。全て録画されているので、放送後翌日に友達やツイッター上で話題になった番組をその後で見るなど、「全て録画する・録画したものから探して視聴する」という新しい視聴スタイルです。

時間シフトと場所シフトで言えば、家庭内とはいえこれまでの視聴方法とはやや異なるポジションです。


■SPIDERのユーザーインターフェイスとソーシャル視聴

番組を全部撮るということを同じようにできるのが株式会社PTPのSPIDERというビデオレコーダーです。1週間分(大容量オプションでは1ヶ月分)のテレビを全て自動録画し、その中からあらゆる番組シーンの検索が可能です。法人向けのSPIDER PROと家庭向けのSPIDER ZEROがあり、地デジ対応のPROは2011年5月23日、ZEROは2011年末に発売されるようです。

実物は見たことないのですが、同社HPの動画や、有吉社長×佐々木俊尚氏の対談記事を見ると、SPIDERでは使いやすさを徹底的に追求しているようです。動作している動画や、とりわけ非常にシンプルなリモコンが特徴です。

出所:SPIDER ZEROの機能紹介ページより引用

もう一つSPIDERで興味深いのが、ソーシャル視聴を目指している点です。SPIDERの中に「みんなの感想」という機能があり、気になるシーンにコメントを投稿することができるとのこと。この投稿はSPIDERユーザーの誰もが見ることができ、ユーザーの「おもしろい!」がみんなで共有されます。(個人的にはニコニコ動画などのようにツイッター、あるいはフェイスブックとの連携を目指した方がいいようにも思いますが)

■ソーシャル視聴の効果

ソーシャル視聴というと何か新しいような響きがありますが、やっていることはみんなでわいわい同じ番組を見ることだと思っています。従来は家族や友人同士で集まって見ることだったのが、TwitterやSNSを使うことでソーシャル視聴と言われる所以です。

個人的にソーシャル視聴のおもしろさを感じたのは、昨年のサッカーW杯でした。日本の活躍ももちろんですが、ゴールシーンではツイッターのタイムライン上に流れるコメントを見ると、同じ場所にはいないもののテレビ画面とiPhoneやPC画面の両方を見ることで、あたかもみんなで一緒に見ているような感覚になったのを覚えています。

テレビのソーシャル視聴の効果は実際の数字にも表れているようで、例えば2010年2月にアメリカで開催されたアメリカンフットボールの第44回スーパーボウルでは、放送された中継の視聴者数が1億5000万人で例年は1億人程度であることから大幅増加したとのこと。この要因の1つはソーシャル視聴にあるようです(参考:「スマートテレビで何が変わるか」(山崎秀夫 翔泳社) p.86)

では、なぜソーシャル視聴で視聴者数が増えるのでしょうか。あくまで推測ですが、友人・知人がTV番組について盛り上がっているのをSNSなどで見つけ、いつもは見ないような人まで呼び込んだ結果なのではと思っています。

■これからのテレビの視聴スタイル

このように番組を見つけるきっかけがSNS上などでの話題性がある一方で、今後はインターネットとテレビが融合するスマートテレビでは、これまで以上に番組を「検索する」することも増えてきそうです。先ほどのSPIDERでは、リモコンの十字キーだけで芸能人などの名前、番組名、商品名、企業名から簡単に検索できるようになっています。これ以外にも、「昨日の午前8時20分」のようなあいまいな検索方法や、Wikipediaから探すWikipedia検索、CMソングの曲名からCMの検索も可能のようです。

テレビCMと言えば、録画ではCMをスキップする人が9割もいるという調査結果がありますが、一方で話題となっているCMをあえて見たいというニーズもあるはずです。あるいは30秒や15秒のCMしか見たことないけど、60秒のバージョンが見たいというニーズもありそうです。

いかに番組、CMというコンテンツと出会えるか。そしてそのコンテンツを楽しめるか。このアプローチが、例えば、ひとまず全部撮って後から探すというアレックス6やSPIDER、ソーシャル視聴、これまでのテレビとは違うスマートテレビなのだと思います。

スマートテレビが本格的に普及してゆけば、あらゆる番組がクラウド化され、「見たい時にいつでもどこでも見る」という視聴スタイルになるはずです。アレックス6やSPIDERも完全なクラウドではないものの、考え方の本質はクラウド化と同じ方向性を持っていると思います。

今年の7月24日正午にテレビのアナログ放送が終了し、地上デジタル放送に切り替わります。とは言え、現時点での地デジ化のメリットは単に「アナログよりも画面がきれいになった」程度や番組表が表示されるくらいにすぎません。放送電波をデジタル信号にすることで、ネットとの相性もよくなり、今後はテレビとネットの融合はきっと起こってくると思います。

テレビのクラウド化によって時間シフトと場所シフトの自由度が上がり、見たい時にいつでもどこでも見られるようになること。ユーザーインターフェイスに優れた検索やソーシャル視聴により、おもしろいコンテンツが見られること。これからのテレビにはこんな視聴スタイルを期待しています。


※参考情報

アレックス6
SPIDER PRO
SPIDER ZERO
2011年、SPIDERが変えるテレビの「未来」と「可能性」 有吉昌康(株式会社PTP社長) 第1回|現代ビジネス
「ソーシャル」こそが再びテレビを甦らせる 佐々木俊尚×有吉昌康(株式会社PTP社長) 第2回|現代ビジネス
もう一度、「戦後」から始めれば、新しい時代の本田宗一郎や盛田昭夫が生まれてくる 佐々木俊尚×有吉昌康(株式会社PTP社長) 第3回|現代ビジネス
「録画視聴ではCM飛ばす」9割―首都圏調査|JCASTテレビウォッチ


スマートテレビで何が変わるか
山崎 秀夫
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投稿日 2011/02/20

リアルタイムウェブとチェックインの可能性を考える

「チェックイン」と言えば、数年くらい前であればホテルへの入館手続きであったり、飛行機への搭乗手続きを表す言葉でした。ところが、ここ最近は、Foursquareなどの位置情報サービスを使って、その場所に訪れたことを指すようにもなってきました。位置情報サービスでは、チェックインをすることでGPSからその場所を特定します。同サービスの特徴は、その情報をツイッターなどのソーシャルメディアを通じて友人に知らせることができたり、訪れたお店にチェックインをすればお店によっては割引クーポンをもらえたりする点、あるいはゲームの要素が取り入れられている点にあります。

■様々なチェックインとその本質

チェックインをするのは場所だけにはとどまりません。チェックインの考え方を応用すれば、例えば自分が買ったものなどにも適用できます。これはすでにSwipelyBlipplyなどのサービスで実現されています。ユニークな存在としては、今飲んでいるビールにチェックインをするというUntappdなんていうのもあります。目の前にあるビールをリストの中から選びチェックインすることで、自分が今ビールを飲んでいることを友人に伝えることができるサービス。実際にUntappdのページを見てみると、たくさんの飲んでいる発信がフィード上を流れています。

では、チェックインという概念の本質はどこにあるのでしょうか。それは、○○に訪れた・△△を買ったという「今自分がしている行為の可視化」だと思います。あるいは趣味嗜好の可視化と言ってもいいかもしれません。

■リアルタイムウェブが成立する3つの要素

それでは、なぜ人はこのようにリアルタイムで情報を発信するようになったのでしょうか。これに関しては、「リアルタイムウェブ-「なう」の時代」(小林啓倫 マイコミ新書)という本で書かれていることが参考になります。この本では情報がリアルタイムに伝わるウェブを「リアルタイムウェブ」とし、リアルタイムウェブが登場した背景には3つの要素があるとしています。3つの要素とは、ウェブ技術の進化、モバイル技術の進化、社会環境の進化(図1)。
出所:書籍「リアルタイムウェブ-「なう」の時代」

ウェブ技術の進化とは、例えば上記のようなFoursquareやSwipelyであったり、あるいはツイッターやフェイスブックもそうです。これらのウェブ技術の進化により、情報発信の速報性は既存のウェブサービスにはないレベルでのリアルタイム性が実現されました。

モバイル技術の進化も大きく寄与しています。いくらリアルタイムで発信できるようなサービスが出てきても、それをリアルタイムで利用できなければ宝の持ち腐れになってしまいます。モバイル技術の進化は、私たちがいつでもどこでもウェブにつながる環境を与えてくれました。位置情報サービスで言えば、その場所でその時に情報を発信することに価値があり、これが家に帰ってからパソコンを立ち上げて「○○へ行ってきた」では遅いのです。モバイルにおいては、スマートフォンによるスムーズな操作性は各種アプリの登場も、リアルタイムの発信を促進したのではないでしょうか。

3点目の社会環境の進化とはなんでしょうか。同書によれば、ポイントは「情報にスピードを求める人々の登場」と「プライバシー意識の変化」。スピードを求めるとはいきつくのはリアルタイムでの情報の送受信です。プライバシーへの意識については、日本でもツイッターやフェイスブックの登場で、それまでなら公にすることはなかった情報まで公開されています。本名、顔写真、経歴、趣味などであり、または自分が訪れた場所、買ったものも然りです。

3つの要素の詳細は本書に書かれていますが、以上のようなリアルタイムでの情報発信・共有ができるウェブサービスの登場、いつでもどこでもウェブにアクセスできるモバイル端末、リアルタイムでの情報共有に価値を見出した人々の増加。こうした条件により、リアルタイムウェブが成立すると、著者である小林啓倫氏は言います。

■メディアチェックイン

チェックインの概念は、まだまだいろんな可能性があると感じます。個人的に興味深いのは「メディアチェックイン」。いずれも海外のサービスですが、テレビ番組へチェックインするというコンセプトのものはいくつか存在します。具体的には、MisoPhiloComcast’s Tunerfishなど。そして最近知ったサービスの「IntoNow」(図2)。これはIntoNowというiPhoneアプリで、テレビを見ている時にアプリ上のボタンを押すことで、音声からアプリが番組を認識し、ツイッターやフェイスブックで共有も可能です。

IntoNowの画面

引用:TechCrunch

■IntoNowの番組認識

IntoNowは、音声からの番組認識がすごいです。同社独自のSoundPrintという技術を使っているようで、簡単に書くとアプリが収集した音声とIntoNow社が独自に構築した番組情報のデータベースと照合し、数秒内に認識させるというもの。このデータベースはリアルタイムで更新され続けており、TechCrunchの記事(IntoNow Can Hear What You’re Watching On TV. The Media Check-In Game Just Changed.)によれば、同社では全米の130チャンネルの番組を24時間365日収集し、そのデータ量は1億4000万分、年に換算すると約266年相当の時間です。このような膨大な量の番組がインデックス化されデータベースに保管されているとのこと。

実名Q&AサイトのQuoraでは、IntoNow社の技術者であるRob Johnson氏が「How does IntoNow recognize shows that are airing live?」(IntoNowは生放送の番組をどのように認識するのか?)という質問トピックに回答しており、その中で、この技術について魔法のようだ(as a little bit of a magic)と表現しています。権利上の問題で新しいDVDの対応はまだのようですが、今後はあらゆる映像コンテンツをその対象としていくはずです。

■メディアチェックインとテレビ

実はテレビとツイッターなどのソーシャルメディアは相性は悪くないと思えるところがあり、というのも、時節ツイッターのタイムラインを見ていると、複数の人がテレビを見ていることや番組内容について、リアルタイムでツイートしている時があります。確かにネットによってテレビ視聴時間は奪われている側面もあると思いますが、一方で、それでも人々がテレビを見る時間は一日あたりでは3時間弱もあります(図3)。
出所:「メディア定点調査 2010」(メディア環境研究所)

また、テレビ広告のマーケットは2009年は1兆7,139億円であり(電通調べ)、減少傾向とはいえ依然として広告費全体の5兆9,222億円の3割弱を占めています。IntoNowは現在のところアメリカだけのiPhone限定アプリですが、メディアチェックインというソーシャル性を活かしTV番組あるいは広告と連動すれば、これまでとは違ったテレビの価値が出てくるかもしれません。もちろん、良質なテレビ番組というコンテンツの提供が大前提ですが。


※参考情報

○ローカルチェックイン
Foursquare

○買ったものへのチェックイン
Swipely
Blipply

○ビールへのチェックイン
Untappd

○メディアチェックイン
Miso
Philo
Comcast’s Tunerfish
IntoNow

○その他
IntoNow Can Hear What You’re Watching On TV. The Media Check-In Game Just Changed.|TechCrunch
How does IntoNow recognize shows that are airing live?|Quora
メディア定点調査 2010|メディア環境研究所
た2009 年(平成 21 年)日本の広告費|電通


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投稿日 2010/12/23

Netflixのビジネスモデルとユーザーの利便性

アメリカにネットフリックス(Netflix)というDVDレンタル会社があります。日経ビジネス2010.12.20/27号でネットフリックスが取り上げられていました。記事内にあったネットフリックスの2010年度の数字を引用しておきます(いずれも見込数で、2010年よりカナダにも進出)。

・会員数:1900万人
・売上高:21億5000万ドル(約1800億円)
・純利益:1億4600万ドル(約120億円)

■ネットフリックスのビジネスモデル

同社ではDVDレンタルだけでなく、ストリーミングでも利用可能です。ストリーミングというのは動画などの重いファイルを受信しながら再生する技術で、YouTubeなどでも採用されています。ネットフリックスは無店舗経営であり郵送とストリーミングでの提供に特化しています。返却について日本語のWikipediaには、「アパートなどの集合住宅以外は、郵便物は自宅の郵便受けに入れておけば配達員が配達のついでに回収して行くため、返却も容易である。」と記載されています。

料金は全て月定額制で、例えば月額7.99ドルでストリーミングが無制限に、9.99ドルでDVDレンタルとストリーミングで映画が見放題。また、店舗型のDVDレンタルにある延滞料金は存在しません。実はこれ、同社のリード・ヘイスティングス(Reed Hastings)CEOがネットフリックスを創業したきっかけにもつながります。Fortuneの記事には、レンタルした「アポロ13」のビデオの延滞料金が40ドル発生してしまい、この時に感じた理不尽さから郵送で貸し出すビジネスモデルのアイデアを思い付いたエピソードが紹介されています。これは1997年当時のこと。その後1999年に、現在の月定額での料金モデルに変更し一気に人気を博しました(参照:Wikipedia)。

■ネットフリックスの利便性

DVDをレンタルする時に自分でお店に足を運ばなくてよいというのは、アメリカでは日本以上にメリットが大きいように思います。というのは、子どもの頃に少しアメリカに住んでいたことがあるのですが、ニューヨークとかロサンゼルスなどの一部大都市を除けば、アメリカにはすぐ近所にコンビニが、車社会なので最寄の駅にツタヤがあるという日本のような環境ではありません。だからお店へレンタルしに行こうとすると、車で出かけて選んで帰ってくるだけで1時間とかかかってしまうかもしれません。そう考えると、ネットフリックスのように郵送レンタルやストリーミングでの提供に日本以上のユーザーメリットがあるように思います。

ネットフリックスのHPを見てみると、ストリーミングで見られる端末が充実していると感じました。PCで再生できるのはもちろんのこと、ゲーム機では、プレステ3をはじめ、WiiやXbox360にも対応しています。さらには、ソニーやパナソニック、LG、サムスンなどからはネットフリックス内臓のテレビが発売されているようです。ブルーレイプレイヤーにも入っています。モバイルにも対応しており、iPhoneやiPadへはネットフリックスアプリを提供しています。

以上のような、「映画をレンタルするのに出向く必要がない」、「見られる端末が充実していること」はユーザーにとってすごく便利だなと感じます。コンテンツを見たい時に手に入れることができ、見る端末環境の選択肢がある。これって言われれば当たり前のような状況かもしれませんが、日本ではまだまだこのような環境は整っていないのではないでしょうか。ようやくApple TVなどの登場しましたが、映画のレンタルはお店に出向くというスタイルが一般的だと思います。

■見たい時に見たいものを見る

理想を言ってしまえば、映画だけではなくテレビ番組や音楽PVなどあらゆるコンテンツを「見たい時に」「見る環境に合った端末で」見ることができることです。これが実現するためには、対応する端末、ストリーミング配信や課金制度が整ったプラットフォーム、豊富なコンテンツなど、3層それぞれでの整備・充実が不可欠です。最近、Apple TVの販売台数が100万台と突破するという報道がありましたが、ストリーミングでの視聴はますます一般的になるはずです。となれば、日本でもネットフリックスのようなビジネスモデルが普及していくのを期待したいです。

※参考情報

Netflix
http://www.netflix.com/

Netflix|Wikipadia
http://en.wikipedia.org/wiki/Netflix

ネットフリックス|Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9

How Netflix got started|Fortune
http://money.cnn.com/2009/01/27/news/newsmakers/hastings_netflix.fortune/

Netflix対応デバイス
http://www.netflix.com/NetflixReadyDevices?cid=Game+Consoles

Apple TV、今週中に100万台突破の見込み―iTunesのTV、映画ストリーミングの利用も急上昇|TechCrunch
http://jp.techcrunch.com/archives/20101221new-apple-tv-sales-to-top-1-million-this-week-itunes-tv-show-and-movie-rentals-soaring/

Reed Hastings: Leader of the pack|Fortune
http://tech.fortune.cnn.com/2010/11/18/reed-hastings-leader-of-the-pack/

Fortune 2010 Business Person of the Year: Netflix CEO Reed Hastings|WebNewser
http://www.mediabistro.com/webnewser/fortune-2010-business-person-of-the-year-netflix-ceo-reed-hastings_b9689


投稿日 2010/11/20

ネットテレビが変えるもの

2010年5月にグーグルはテレビとネットの機能を併せ持つグーグルTVの構想を発表しました。そして10月下旬、グーグルとソニーによる「ソニーインターネットTV」がアメリカで発売されました。

「Android」OSを使ったグーグルTVの特徴は、テレビ画面に表示される検索窓にキーワードを入力することでテレビ番組、ネット上の動画、Webサイトなどを横断的に検索し、その映像を再生することができる点にあります。

■視聴を180度変える

このようにネットテレビはテレビ+パソコンの両方の要素を兼ね備えていますが、単純に1+1=2となるかと言うと個人的にはそれ以上のインパクトがあると思っています。なぜならば、私たちの視聴を180度異なるものにする可能性があると考えているからです。

従来のテレビ視聴は、テレビ局が番組をどの曜日のどの時間に放送するかを決めていました。よって視聴者は見たい番組が放送される時間に合わせてテレビをつけます。もちろん、DVDなどでの録画で見るパターンもありますが、基本的な構図はテレビ局が番組放送をコントロールしています。

一方のネットテレビ。上記のような番組放送も依然として残ると思いますが、前述のグーグルTVの特徴のようにネット上の動画に加え、オンデマンドでの視聴も増えていくはずです(現時点でも一部オンデマンドはありますが)。このように視聴者自らがYouTubeなどの動画やオンデマンドの番組を見るようになるわけで、ネットテレビにおいては視聴者が映像コンテンツを見ることに対して主導権を握ることになります。先ほど視聴を180度変えると表現したのは、主従関係が変わるこの状況を指してのことです(図1)。




ネット上にはYouTubeなどの動画サイトがあり、あるいはおそらく今後はネット上での映画配信や番組のオンデマンドサービスの充実など、ユーザーはテレビ番組放送だけではなく、様々なコンテンツを楽しむことができるようになります。

ところが多くのコンテンツが選択肢になるほど、放送されるTV番組は相対的に今よりも見られなくなるということが起こってくるはずです。良質な番組は今後も視聴者からは支持されるでしょうが、そうでない番組は見てもらえなくなる。ネットテレビによって自分の見たい番組を簡単に探すことができ、オンデマンドで用意されているので、好きな時間に自分の見たいコンテンツを自由に見る楽しさ、つまりコントロールできることをユーザーは覚えてしまうのではないでしょうか。


投稿日 2010/10/16

次世代ネットTVとこれからの視聴率

TV番組の人気を知る指標の1つに、視聴率があります。

■視聴率の意義

日本では2000年3月以降、「ビデオリサーチ」(以下、VR)の調査結果がそのまま世帯視聴率となっており、同社のHPには視聴率を調査する意義として、以下の点が挙げられています。
・スポーツ番組や大事件が起きた時の特別番組などの視聴率から「国民の関心の高さを探る」
・視聴率の移り変わりから「社会の動きを知る」
・テレビ局や広告会社等が広告取引をする際に、テレビの媒体力や広告効果を測るため
・視聴者がテレビをよく見る時間帯やよく見る番組を知ることで、番組制作・番組編成に役立てる

■VRの視聴率調査

視聴率には「世帯視聴率」と「個人視聴率」の2つがあり、VRが集計をしているのは世帯をベースにした世帯視聴率です。例えば、視聴率が10%の番組というのは、テレビ所有世帯のうち10%の世帯でそのテレビ番組がつけられていた、ということになります。

少し専門的な話になりますが、視聴率の調査方法は大きく3つあります。1.PM(ピープルメータ)システム、2.オンラインメーターシステム、3.日記式アンケート(詳細はビデオリサーチHP)。現在のVRの視聴率調査仕様は以下の通りです(図1、表1)。







なお、VRでは視聴率の対象となるのは、地上波放送、BS放送、CS放送、CATVなどのテレビ放送で、VTRやDVRの録画・再生、テレビゲーム、パソコンによるテレビ放送の視聴などは視聴率に含まれません。

■Apple TVとGoogle TV

今年になって、アップルとグーグルのネットTV発売が話題になっています。アップルTVの特徴は、保存機能をなくしストリーミング放送に特化している、本体価格は99ドル、コンテンツレンタル料金はHD映画を4.99ドル・テレビ番組を99セント、などにあります。

一方で、グーグルTVの特徴は、TVとWebの融合で、TV番組から提携コンテンツやネットまでキーワードで検索できるという点にあります。例えば、TV番組を見ていて、最近気になる商品のCMが流れたので、関連情報をYouTubeや商品のウェブサイトをチェック。あるいは、ブログ、アマゾンや楽天市場、比較サイトなどで口コミや価格を調べる。場合によっては、ツイッターやSNSで友達にシェアしたりなどが、グーグルTVで全部できてしまいます。

おそらく、アップルTVとグーグルTVはそれぞれiOSとアンドロイドOS(あるいはクロームOS)で動くので、モバイルなどの周辺端末とも相性がいいはずです。具体的には、リビングで見ていた番組の続きを、外出先でモバイルで見ることなどの連携ができそうです。

■次世代ネットTVのコンテンツ

このように、特にグーグルTVにおいては従来のTVで視聴できるよりもコンテンツの種類が大きく増えます。動画系のコンテンツとそれ以外のコンテンツに分けて整理してみました(図2、図3)。



 

それぞれ、ぱっと思いついたままに挙げていますので厳密な意味ではないかもしれませんが、ここで強調して言いたいのは、グーグルTVのような新しい価値を提供する次世代ネットTVでは、従来のテレビで見られる番組と比べ多様なコンテンツを楽しむことができるという点です。

■これからの「視聴率」

日本の広告費は約5億2000億円で、うちテレビが約1兆7000億円、一方のネット広告は7000億であり、まだまだテレビのほうが1兆円ほど大きい状況です(2009年の電通調べ)。上記のように、ネットTVが普及し、テレビとネットの広告費は2つの相乗効果が認められればこれらの数字を単純に足し合わせた水準にとどまらず、合計額以上の規模になるかもしれません。

そう考えた時に、上記のような幅広いコンテンツを楽しむことを前提にした場合、冒頭で触れた視聴率では正しく知る指標としては物足りないような気がします。あるいは、前述の視聴率の意義を十分に果たせなくなるように思います。視聴率もまた変わらなければならないのではないでしょうか。

例えば、視聴「率」ではなく、視聴人数や視聴回数などの絶対数のほうが広告効果を測りやすいかもしれません。あるいは、視聴者はどういうリンクをたどり情報を得たのかも気になるところです。多くのコンテンツがオンライン上にあり、また各端末がアンドロイドなどのOSがベースになれば、現在の視聴率調査とは全く異なる新しい手法によりこれらのデータが得られることが期待できそうです。


※参考情報

○視聴率関連

視聴率について (ビデオリサーチ)
http://www.videor.co.jp/rating/wh/index.htm

視聴率 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%96%E8%81%B4%E7%8E%87

消費動向調査 - 平成22年3月実施 (内閣府)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/2010/1003honbun.pdf

○Google TV / Apple TV

今度こそテレビとWebの統合なるか 「Google TV」は従来のWebテレビと何が違うのか? (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/news/201005/21/tv.html

グーグルTVでテレビはどう変わる? 広告主は歓迎、安いコストでテレビ広告が可能に (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100528/214662/

Apple TVなんて目じゃない、ソニーが「Google TV」採用した理由 (Tech Wave)
http://techwave.jp/archives/51511941.html

早く日本にもやって来い! 新発売のApple TVに驚きの絶賛評価が続出中... (GIZMODE)
http://www.gizmodo.jp/2010/10/apple_tv_review.html

やはりアップルはインターネットテレビを出してきた (大西 宏のマーケティング・エッセンス)
http://ohnishi.livedoor.biz/archives/51124653.html

Apple TV対Google TV、勝つのはどちらか (ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1009/10/news011.html

○広告

2009年の日本の広告費 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


投稿日 2010/04/25

3Dではないテレビのイノベーション


仕事をしてて最近ふと考えたことですが、イノベーションには2種類あるように思います。イノベーションというと少し大げさかもしれませんが、「よりよくするもの」として以下の2つの方向性があります。

(1)「不満」を解消するもの
(2)今までになかった「便利」をもたらすもの

(1)は認識していた「不満」を解消し、(2)は新しい「便利」を創造するもの。数学的な感覚で言うと、前者:マイナス⇒0、後者:0⇒プラス という感じです。例えば(2)の事例は携帯電話。携帯電話が存在する前というのは、電話は決まった固定の場所(家、公衆電話など)からかける・受けるもので、そのこと自体に特に不満はありませんでした。ですが、電話を「携帯する」という新しい概念が登場しさらには電話以外の様々な価値が付加され、今では携帯電話なしの生活が考えられないようになりました。



■身近なイノベーションをマトリクスで整理

(1)不満解消、(2)便利創造 をもう少し具体的に考えるために、ぱっと思いついた自分の身の回りのモノ・サービスをマトリクスで整理してみます。(図1)



○不満解消×ネット
Amazonは自分の消費行動を大きく変えました。例えば本を買いたい時に書店へ行っても、欲しい本が店内ですぐに見つからなかったり、そもそも置いてなかったりします。ですが、Amazonなら検索で一発で探し出せ、かつ在庫状況もその場でわかります。こういった自分の不満をネットにより解消してくれたのがAmazonです。

○不満解消×ネット以外
Amazonとも関連しますが、朝注文した商品が当日届くのもありがたいサービスです。これはAmazonや宅配会社による物流網による恩恵です。また、個人的な事例ですが、住んでいるマンションには「宅配Box」というものがあります。これは留守中に荷物が配達された場合、セキュリティのしっかりした宅配Boxに入れておいてもらえる仕組みです。これにより留守による再配達という不満は解消されます。

○便利創造×ネット以外
電子マネーが登場する以前は、小銭で支払うこと自体に不満を感じていたわけではありませんでした。ですが、コンビニなどでのちょっとした買い物では、電子マネーで支払うと小銭を出すという余計な手間も省け便利です。

○便利創造×ネット
ツイッターを使う前は、「つぶやく」こと自体にあまり意味がないように思っていました。しかし一度使ってみると、もはやなくてはならないくらい便利なものです。詳細は触れませんが、ツイッターにより情報収集の利便性が飛躍的に増しました。



■マトリクス上の3Dテレビの位置づけ

さて、最近よく話題になる3Dテレビ。先週21日、ついに日本でも発売されました。日本のメーカーだけではなく、サムスン電子など世界中のメーカーが3Dテレビ開発・販売にしのぎを削っており競争が激しくなっています。

しかしです。自分だけかもしれませんが、3Dテレビがそこまで価値のあるものなのか、と思ってしまいます。その理由を述べる前に、まずはテレビにおける3D映像を、先ほどのマトリクスで確認すると、以下のようになります。(図2)





つまり、今ある2D映像に抱く「不満」の解消ではなく、三次元のより迫力のある映像を楽しむことができるイノベーションだと思います。



■3Dではない今後のテレビへの期待

では、なぜ各社が一斉に3Dテレビを投入することに対して違和感を感じているのか。それは、自分のテレビへのニーズをマトリクスに当てはめることで整理できました。(図3)



○不満解消×ネット
地デジにより、テレビ画面からも番組表を確認できるようになりましたが、まだまだ自分の見たい番組を見つけやすいとは言えないレベルです。結局、各チャンネルを順番に変えたほうが早いという、今までと全く変わらない状況です。(もっと早く見たい番組を探す方法を自分が知らないだけ?)

○不満解消×ネット以外
リモコンにも不満があります。あらためて手元のリモコンに目をやると、たくさんのボタンがついています。地デジ対応テレビになりさらにボタン数が増えていますが、結局よく使うボタンは電源・チャンネル・音量の御三家で、今も昔も変わりません。現代のリモコンを使いきれていない自分が悪いのかもしれませんが、もっとシンプルかつ使いやすいリモコンは作れないものなのでしょうか。

○便利創造×ネット以外
(3Dテレビなので省略)

○便利創造×ネット
ここの象限は期待したいところです。例えばパナソニックの「ビエラ」がスカイプ内蔵のテレビを出すようですが、このサービスは結構便利だと思います(さらに無料)。またテレビから直接買い物がもっとしやすくなれば、「テレビで買いたいものが見つかる⇒ネットで検索⇒購入」という無駄なステップを踏まずにすみます。そして最も期待したいのは、オンデマンド配信の充実。現在でもNHKオンデマンドなど一部サービスがありますが、まだまだ物足りない印象です。完全な一視聴者としての意見を言うと、YouTubeやユーストリームなどと連携することで、テレビ局都合の番組配信(番組表)によらない、「自分が見たい時に見たい番組を見る」という視聴を期待したいのです。(現実的には、一方的な視聴者意見なので実現は難しいと思いますが)



■最後に

3D映像もカテゴリーによってはおもしろいと思うので、決して否定するつもりはありません。映画やスポーツなどは二次元では表現できないコンテンツになるからです。しかし、各社横並びの3Dテレビ競争にはなんとなく腑に落ちないところもあり、結局上記の自分のニーズを解消してくれるのは、以下の記事に出てくるような企業からの全く新しい端末なのかもしれません。

※Google TVの発表で、Apple TVが「趣味」以上になる
http://jp.techcrunch.com/archives/20100318google-tv-apple-tv/

投稿日 2010/01/30

iPadに期待すること

米Apple(アップル)のタブレット型パソコン「iPad(アイパッド)」が発表されました。ニュースなどで見た印象としては、iPhoneが大きくなった感じです。これ1つで、ネット・メール・電子書籍・テレビ・ゲームなど、いろんなことができるようです。

かつて、音楽と言えば家やコンサートなどで聴くものでした。それがソニーのウォークマンによって外で聞けるようになり、iPodによってより自由に音楽を持ちだせるようになりました。iPodについてもう1つ忘れてはならないのが、音楽配信サービスのiTunesStore(以下iTunes)よって音楽の流通も変わったこと。つまり、それまではCDの最低単価がシングルの1000円程度だったものが、曲単位でしかも100~200円くらいの値段でダウンロードできるようになったのです。



書籍、新聞、雑誌、テレビとの関係について、このiPodとiTunesで起こったように同じことがPadでも起こるのかもしれません。例えば、本や雑誌は電子書籍でダウンロードで購入し、新聞は毎朝定時に自動配信される。これら全てのデータは自宅のハードディスクに保管か、あるいはクラウド上の個人サーバーに置いておければ個人的にとても助かります。

なぜなら、新聞記事や読んだ本から、もう一度読みたい部分は検索で一発で探せるし、場所を取る本棚がいらなくなるからです。テレビについても同様で、今のような決まった時間に番組が提供されるのではなく、見たい番組をその場でダウンロードもしくはサーバーから直接視聴できるようになってほしいです(現在もNHKオンデマンドなど、一部にそういうサービスがありますが)。



思えば、テレビ放送が開始されて50年以上経ちますが、番組の提供方法は当時と変わっていません。あらかじめ決められた時間に放送され、視聴者はその時間はテレビの前にいる必要があります。ビデオの登場で多少改善はされていますが、「20~21時はこの番組をやるので家でどうぞ見てください(録画してください)」という感じは今も変わらないのではないでしょうか。

もちろんこの半世紀の間、モノクロからカラーになり、アナログからデジタル、デジタルハイビジョン、今後の3D放送など、映像自体はとてもきれいになっています。ただ、極論を言ってしまうと、これらの技術よりもそもそもの今の番組放送の仕組み自体を変えてほしいです。平日なんかはテレビを見る時間がないことが多く、録画やワンセグで対応もできますが、やっぱり今の番組提供形態では当たり前のことが、個人的にとても不便だと思っています。マーケティングでいうプロダクトアウト的な発想。

現在のオンデマンドは課金されますが、今は民放はテレビさえあれば無料で見られるので、全ての番組を1つのサーバーに置いておいて、見たい時に自由に取りにいくようになってほしいものです。(現実的には、著作権や広告などなどの利権がいろいろからみそうですが・・)



こういった書籍、新聞、テレビで感じているような3つの不満、

1.本は紙で、保管に本棚が必要。また読み返したい部分を探すのに手間がかかる
2.新聞は毎朝紙で配達される。読み終わった新聞は基本的に捨てる。
3.テレビは決まった時間に放送される。それ以外の時間に見たい場合は自分で録画するなど手間がかかる

について、

1.本は電子情報で保存。探す時は検索ですぐに見つかる
2.新聞は定時配信。捨てる必要なくデータとして保存。検索も容易
3.テレビ番組はサーバーにあり、自由にその場で視聴

ことができる、つまり、「欲しい時・見たい時に手に入る」ようになる。こんな感じで解決され、しかも1台で全て機能する。今回のiPad発表の記事を読んでいてそう期待してしまいます。


※参考情報
http://www.gizmodo.jp/2010/01/all_about_apple_ipad_2.html


投稿日 2010/01/23

ネットインフラ社会

インターネットにアクセスするツールとして、パソコン(PC)や携帯電話(モバイル)があります。
その他にもアクセス目的を限定すれば、ゲーム、音楽プレイヤー、キンドルなどの電子書籍などもそうです。個人的には、現在の主なアクセスツールはPCとモバイルを使っています。ただどちらも、まだ制約があるのが正直なところです。
・ PC: 立ち上げに時間がかかる
・ モバイル: 画面が小さい、通信速度が遅い

総務省調べ(09年)では、日本のネット普及率は75.3%(人口ベース)のようですが、ネットへのアクセス環境はまだまだ改善の余地があるように思います。



少し古いですが、今年の元旦の日経新聞の記事に「次の10年へ 未来を読む」という特集がありました。その中の1つに、「買い物のデジタル化加速」というタイトルの記事には次のような内容が書かれていました。
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デジタル技術の発達により、ネットによる買い物は今よりもっと便利になる。

例えば
・ ネットが見られるテレビ(ROBRO-TV
・ 拡張現実(AR:Augmented Reality)
・ 次世代通信技術(LTE:Long Term Evolution
・ 電子マネーによる支払方法多様化

これらの例から、ネット消費はますます増えていくと示唆しています。
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ちなみに、上記のROBRO-TVの特徴は、「リモコンでテレビのチャンネルを変えるのと同じようにWebページを閲覧することができ、テレビ番組だけでなく、豊富なインターネットコンテンツを楽しむことができます」(カデンザHPより)とのことで、パソコンよりももっとネットがより身近になっていくはずです。



では、「ネットがより身近になる」とはどんな環境になるのでしょうか。ここからは個人的な勝手な妄想も含まれますが、あらゆるものがネットにつながっている社会だと思っています。
普段の日常生活で、(PCのように)ネットがつながっていればもっと便利なのに、と思うものとして、例えば車(特にカーナビ)があります。ちょっと前にカーナビを利用した時には、カーナビの検索でなんとか調べ、携帯で詳細を検索するという二度手間が発生しました。
これをPC並とまではなくても、もっとサクサクと情報が調べられれば、ドライブもより快適になると思います。最近、携帯電話でもカーナビのようなサービスがありますが、逆に言えば、携帯が参入するのはカーナビの機能がまだ不十分だということを物語っているのかもしれません。

これ以外にも、便利だと思うものとして、
・ 台所: クックパッドなどのレシピを見ながら料理ができる
・ 冷蔵庫: 足りない食材をその場でネットから注文。また外出時に携帯からアクセスし、スーパーの買い物時に足りないものをチェック。
・ 風呂: お風呂に入りながらネットを見る。(動画、ブログ、など)
があります。



こんな感じで考えていくと、家がまるごとネットにつながっている状態が「普通」になるかもしれません。
無償のネットブラウザを活用し、クラウドコンピューティング、スマートグリッドなども駆使すれば、そんな社会が実現できるかもしれません。その時は、ネットが今以上に「インフラ」になるのでしょう。(ただし、その大前提として、セキュリティ強化は必須)

個人的には、家電の説明書とかあらゆるものが電子化され、自宅そのものに取り付けられたハードディスクに保管してあれば、「あの説明書どこいったっけ?」という時に、すぐに検索できるととても便利です。

このあたりは国が各メーカーのとりまとめを行なって、推進してほしいものです。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。