投稿日 2010/08/08

コンテンツとして考える「花火大会」と今後の存続

昨日の8月7日は大規模な花火大会が全国各地で実施されたようです。東京では「江戸川区花火大会」、大阪は「なにわ淀川花火大会」、愛知では「岡崎観光夏まつり」が開催されました。


■花火の歴史

花火についてWikipediaをあらためて見てみると、発祥の地は中国で、一説には、作られ始めたのは6世紀に中国で火薬が使われるようになったのとほぼ同時期だそうです。日本での歴史を見てみると、花火が製造されるようになったのは16世紀の鉄砲伝来以降で、当初は主に戦のためのものでした。

今のように娯楽としての花火は江戸時代になってからで、江戸の庶民にとっては人気があったとされています。ちなみに、「たまやー」とは花火師の玉屋のことで、鍵屋とともに、江戸の時代では二大花火師の地位を築いたと言われています。


■花火大会の集客力

日本人には古くから愛され、夏の風物詩の代名詞とも言える花火大会ですが、ちなみに去年の「江戸川区花火大会」の来場者は139万人だそうです。考えてみれば、わずか1、2時間程度の花火を見るためにこれだけ多くの人が、同じ場所に集まり同じ花火をリアルタイムで楽しむというのは、あらためて花火大会の集客力のすごさを感じます。

同じ場所に・同じものを・リアルタイムに楽しむ、を他に考えてみるとぱっと思いつくのは、プロ野球やサッカーなどのスポーツ観戦、あとはアーティストなどのコンサートがあります。ただ、観客動員数を見ると、スポーツ観戦は日本では最大でも5万人規模であり、ライブとかコンサートでも5-10万人くらいだと思います。花火大会は、入場料などが基本タダ、河川敷や土手など観客スペースが大きい、などの人が集まりやすい条件があるとはいえ、一度にこれだけの人数の人が足を運ぶというのは、コンテンツとしては稀有な存在だと思います。


■花火大会とお金

一方で、花火大会に行くと気になることとして、今後の存続に不安を感じる点です。というのも、前述のように花火大会を見に行っても基本的には入場料などの費用は不要だからです。あれだけ多くの人が来ているにもかかわらず、花火大会へ直接お金がまわっていないのです。

花火大会を開催するためには、花火を製造・打ち上げる花火師の存在は不可欠であり、それ以外にもスタッフや警察による当日の交通規制や警備、あるいは観客場所の整備や仮設トイレの設置も必要です。これらの経費はどこから出ているかというと、協賛金や自治体からの予算であり、おそらく昨今の景気状況を考えれば、予算の確保も難しくなってきているのではないでしょうか。(個人による募金も実施しているようですが、量だけを考えればそれほど期待できないように思います)


■協賛企業としての魅力は

個人の利用料金は基本的に無料で、企業などの協賛金で支えられている代表的なコンテンツには民放テレビがあります。そういえばテレビの影響力・リーチ力の大きさは、ホリエモンこと堀江貴文氏が田原総一朗氏からのインタビューで、「全国民である1億人にリーチできるメディア」と表現しています。これが欲しいために、05年当時に社長を務めていたライブドアでフジテレビを買収したかったと語っています。(このインタビューはおもしろかったです。記事URLは最後に貼ってあります)

では花火大会はどうでしょうか。もちろんテレビと単純には比べられませんが、テレビ番組では協賛企業によるCMがばんばん流れているのに対して、花火大会では協賛企業の存在を意識する場面がほとんどないように感じます。企業が協賛金を出すということは、花火大会を応援したいという気持ちもあるとは思いますが、一方で、企業である以上は投資対効果も求めなければならないはずです。ROI(Return On Investment 投資収益率)においてどこまで効果があるのかを知りたいところです。


■花火文化の存続を

花火は日本では伝統的な文化であり、先述のように夏の風物詩として人々にひと時のやすらぎを与えてくれる存在だと思います。一瞬の輝きに対して歓声が起こり、花火の音の後の静寂に拍手が鳴り響きます。英語では花火をFireworksと言い、火の「work」と表現しますが、日本語では同じものを「花」と表現する文化です。この花が枯れないよう、毎年夏にはこれからも咲き続けてくれることを願うばかりです。


※参考情報

「江戸川区花火大会」 江戸川区ホームページ
http://www.city.edogawa.tokyo.jp/chiikinojoho/event/hanabi8/

花火 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E7%81%AB

東京/花火大会2010 (じゃらんnet)
http://www.jalan.net/jalan/doc/theme/hanabi/13.html

堀江貴文インタビュー vol.2「フジテレビ買収失敗の原因は、実は社内の謀反だったんです」|現代ビジネス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/966


投稿日 2010/08/07

書籍「文明の生態史観」に見るシンプル化

世界を区分する時に、東洋と西洋という分け方があります。この分け方は私たちには当たり前すぎるくらいなんの疑問も持たない区分かもしれません。しかし、「文明の生態史観」(梅棹忠夫 中公文庫)では、これとは全く異なる考え方を提示しています。


■第一地域と第二地域

この本の内容を一言で表現するとすれば、東洋と西洋ではなくA図のような「第一地域」と「第二地域」に分けられるということです。第一地域は西ヨーロッパと日本。第二地域はその間に挟まれた全大陸であるとしています。これが本書の主題です。


このA図について少し補足すると、斜線で表されている大陸を東北から西南に走る大乾燥地帯が存在します。筆者によると、この乾燥地帯は歴史にとって重大な役割を果たしたと説明されています。なぜなら、乾燥地帯は悪魔の巣、すなわち暴力と破壊の源泉だったから。ここから遊牧民その他による暴力が表れ、その周辺の文明の世界を破壊したという歴史です。文明社会は、しばしば回復できないほどの打撃を受けることになりますが、ここが第二地域の特徴です。

第二地域の特徴をもう少し見ると、A図では四つの地域にわかれています。(Ⅰ)中国世界、(Ⅱ)インド世界、(Ⅲ)ロシア世界、(Ⅳ)地中海・イスラム世界。これら第二地域に関して、「古代文明はこの地域から発生。しかし封建制を発展させることなく、巨大な専制帝国をつくった。多くは第一地域の植民地や半植民地となり、数段階の革命をへて、新しい近代化の道をたどろうとしている」と説明されています。

翻って第一地域。その特徴は暴力の源泉から遠く、破壊から守られ中緯度温帯地域の好条件であったとしています。

なお、「文明の生態史観」ではA図から発展する考え方を表したものとして、以下のB図も提唱しています。東ヨーロッパや東南アジアが区分され、西ヨーロッパは日本より高緯度の部分を多く持っているのがA図に比べたB図の特徴です。



■シンプルに考えること

この第一地域と第二地域に分ける考え方は非常にシンプルなものです。もちろん、上記のような図では世界を詳細には説明できるとは思いません。この点は著者も十分承知しており、「この簡単な図式で、人間の文明の歴史がどこまでも説明できるとは思っていない。細かい点を見れば、いくらでもボロがでる」と書いています。個人的に思うのは、この分け方は主にヨーロッパとアジアを中心とするユーラシア大陸の分け方なので、中南米やアフリカ、そしてアメリカを加えると修正点も出てくるかもしれません。特にアメリカについては、ヨーロッパ等に比べるとその歴史は浅いものの、現在を語る上では欠かせない存在です。

ただ、この本を読んで思ったことは、複雑なものごとを捉える時にはシンプルに考えることが大事だなという点です。複雑系をシンプルに表現するということは、物事の枝葉をそぎ落とし本質に迫るということだと思います。逆に言えば、本質を把握できないと正しくシンプルに表現できないのではないでしょうか。


■現場の情報

もう一つ、この本を読む中で考えさせられたことは、自分の目で現場を見ることの大切さでした。本書の冒頭で、著者は次のように説明しています。「私が旅行したアジアの国々についての印象。もう一つは、私のアジア旅行を通してみた日本の印象を書こうと思う」。実際に本書では著者が訪れたアジアを中心とする多くの国々のことが書かれており、それは自分の目で見た世界でした。これらの情報を踏まえての第一地域と第二地域が説明されており、説得力を感じます。

自分の目で見る、直接触れるなどの体験は、大切にしたいものです。


文明の生態史観 (中公文庫)
梅棹 忠夫
中央公論社
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投稿日 2010/08/06

書評: リ・ポジショニング戦略 (ジャック・トラウト / スティーブ・リブキン)

「リ・ポジショニング戦略」(ジャック・トラウト、スティーブ・リブキン 翔泳社)という本を読みました。リポジショニングやリデザインは、今の自分の仕事におけるテーマと言っていいものです。


■ポジショニングとリ・ポジショニング

両者を簡単に説明すると以下のようになります。

ポジショニング : 潜在顧客の脳の中にあるあなた自身のイメージを、ほかと差別化すること
リ・ポジショニング : ポジショニングイメージの刷新

ちなみにリポジショニングについては、本書では次のように説明されています。「市場の消費者の心を変えるのではなく、消費者の心の中の認識を少しずつ調整していくものだ」。一度消費者が持ったイメージというのはなかなか変わらないというのは同意できる考え方です。著者は、リポジショニングにおける大事な点は一貫性であり、あきらめずに同じことを何度も続ける必要があるとしています。


■「戦略BASiCS」に見る一貫性

書籍「経営戦略立案シナリオ」(佐藤義典 かんき出版)では、戦略策定のための「戦略BASiCS」というフレームが紹介されています。BASiCSはそれぞれ以下の要素の頭文字をとったものです。

◆Battlefield(戦場・競合)
どこで戦うか。戦場は顧客の心に中に存在する選択肢。よって、競合を決めるのは顧客である。

◆Asset(独自資源) & Strength(強み・差別化)
戦略は、自らの強みを活かして差別化していくことが基本。差別化するとは、競合より高い価値を顧客に提供することである。差別化を長期的に支えるのが「独自資源」。つまり、独自資源と差別化は連動する。

◆Customer(顧客)
顧客の価値に合わせ、経営戦略も顧客の視点で考える。

◆Selling Message(メッセージ)
「価値」を伝えるメッセージ。差別化ポイントを価値に翻訳して顧客に伝えるもの。

この戦略BASiCSを考える際には、5つの要素の「一貫性」が非常に大切であると著者は説明します。例えば、顧客を絞ると、戦場(市場)や顧客が決まります。同時に、自らの強みが差別化され、強みは独自資源によるものでなければいけません。また、顧客へ届けるメッセージも差別化が顧客にとっての価値を表現する必要があります。


■リ・ポジショニングと戦略BASiCS

「リ・ポジショニング戦略」を読んでいて、ふと「戦略BASiCS」が頭に浮かびました。リポジショニングは「言うが易し行うが難し」だと思いますが、リポジショニングを考える際には戦略BASiCSがヒントになるかもしれません。例えば、独自資源や強みにそぐわないリポジショニングであれば、いずれはその地位は失われるはずです。自社の強みに合ったリデザインであっても、そもそもとして顧客にとっての価値は少なく魅力的でなければ、単に自社の強みを自慢したいだけにしか映りません。

ポジショニングをすることで顧客に選ばれたとしても、いつかは陳腐化してしまいます。リポジショニングに成功したとしても、一度くらいではいずれ陳腐化するのでしょう。

「リ・ポジショニング戦略」の帯には、次のような言葉が書いてありました。「マーケティングは人々の認識との戦いである」。今思うのは、戦いの修飾語に「終わりのない」という言葉がつくのかもしれないということです。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。