投稿日 2010/09/16

世界で増加する「遺伝子組み換え作物」と日本の食料安保

9月14日付の日経新聞朝刊一面に、非遺伝子組み換え作物についての記事がありました。


■全農が米国で非組み換えトウモロコシを安定調達へ

タイトルは、「非組み換えトウモロコシ安定調達 全農、米で契約栽培」。この記事では、全国農業協同組合連合会(全農)が遺伝子を組み換えないトウモロコシを米国で契約栽培し、安定調達につなげると報じています。

なぜ全農は非組み換えトウモロコシを調達する必要があるのでしょうか。同記事ではその理由を、米国では遺伝子組み換え品の作付けが急増しており、非組み換え品の調達難に陥りかねないと判断した、と書いています。その背景として、米国ではガソリンに混ぜるバイオ燃料用のトウモロコシ需要が急拡大しており、農家は栽培に手間がかからず多くの収穫を見込める遺伝子組み換え品に移行していると指摘。ちなみに、米国のトウモロコシ作付面積に占める非組み換え品比率は約1割とのこと。逆に言えば、全農がわざわざ一定量を確保するために調達を図らなければいけないほど、米国では非組み換え作物の栽培が減少していると言えそうです。


■増え続ける遺伝子組み換え作物

遺伝子組み換え作物(Genetically Modified Organism 以下GM作物)については、日経ビジネス2010.7.19の特集記事「食料がなくなる日」でも取り上げられていました。日本にいるとあまり実感はありませんが、世界的に見ると、GM作物の作付けは増加し続けており(図1)、2010年現在で世界25ヶ国、1億3400万ヘクタールとなり、1996年と比較し約80倍に拡大しているようです。

GM作物の作付け面積の推移

出所:国際アグリバイオ事業団(ISAAA)

では一体なぜ、これほどまでに増加しているのでしょうか。さらに言えば、消費者や環境活動家らの反対運動が続くにもかかわらずです。日経ビジネスの記事では、その理由をGM作物により農家の負担が軽減することと、収穫量の増加を挙げています。農家の負担というのは、例えば害虫に耐性のあるGM作物であれば農薬をまく回数が減り、その分の作業負担やコストも低減できます。また、枯れにくいGM作物であれば収穫増も期待できます。それ以外にも、気候変動の影響を受けにくい点も挙げています。このように、なぜGM作物を作るかについて、記事で取材したアメリカのある農家のコメントがそれを象徴しています。「儲かるからだよ」。


■GM作物をめぐる論争

一方で、前述のようにGM作物に対しては、健康や環境に悪影響があるのではないかという意見もあり、こと日本においては遺伝子組み換え食品への意見はこれが主流であるように思います。スーパーで売られている豆腐などは、ほぼ全て「遺伝子組み換えではありません」と記載されています。

GM作物についてWikipediaを参照すると、その論点となっているのは次ようなものがあるようです。「生態系などへの影響」、「経済問題」、「倫理面」、「食品としての安全性」など。そもそもとして、特定の遺伝子組換え作物の安全性を指摘するのではなく遺伝子組換え操作自体が食品としての安全性を損なっているという主張も見られます。


■食料安保と遺伝子組み換え作物

農水省のHPには食料安全保障について、次のような言及がなされています。「食料安全保障とは、予想できない要因によって食料の供給が影響を受けるような場合のために、食料供給を確保するための対策や、その機動的な発動のあり方を検討し、いざというときのために日ごろから準備をしておくことです。」

個人的には、この食料安保を実現するためには、食糧の入手先の多様化だと思っています。つまり、農水省が食料安保と結びつける自給率向上ではなく、輸入も含めた国内外からの食料の担保です。そもそも自給率などという指標を国の政策に採用しているのは日本だけであり、現在カロリーベースで40%ですが、例えば家畜用の飼料を国産のものに切り替えれば数値自体はすぐに上がるような指標です。40%だけ聞くと低いように感じますが、生産額ベースでは70%であり、自給率向上は自国だけで国民の食料をまかなうという考え方で、うがった見方をすれば食料政策において自国さえよければという鎖国をするようなものだと思います。

話を食料安保に戻すと、そのためにはGM作物も論点に入ってしかるべきだと思っています。農水省のGM作物の取組みを見てみると安全性評価を続けていますが(管轄は農水省以外にも環境省や厚生労働省など複数の省庁が絡んでいる)、国民の関心はあまり高くないように感じます。

農水省が表明するように、海外で生産された飼料用のトウモロコシや油糧用のダイズ・ナタネなどの遺伝子組み換え農作物はすでに輸入され利用されているのが現状です。世界ではGM作物が増加している中、本当に日本は今後も遺伝子組み換え作物=Noというままでいいのか。国民も含めた議論がもっとあってもいいように思います。


※参考情報

記者が見た米国農家の今 「人が食べる遺伝子組み換え作物を植え始めた」 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100716/215463/

遺伝子組み換え作物、事実上の勝利 安全性への懸念をよそに栽培農家は世界中で急増 (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20071214/143127/

遺伝子組み換え作物 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E7%B5%84%E3%81%BF%E6%8F%9B%E3%81%88%E4%BD%9C%E7%89%A9#.E8.AB.96.E4.BA.89

食料自給率の部屋 (農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/index.html

「遺伝子組換え農作物」について pdf (農林水産省)
http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/information/pdf/gm_siryo.pdf


投稿日 2010/09/11

ホリエモンの「拝金」は今まで読んだことのない小説

ホリエモンこと堀江貴文氏の小説「拝金」。以前から気になっていたものの、なかなか買うまでには至りませんでした。

そんな中、Business Media 誠の記事に拝金について堀江氏へのインタビュー記事が掲載されており、結果から言うとこのインタービュー記事を読み買うことを決めました。その理由は、インタビュー記事の中で語られていた拝金について感じた、今までにない小説形式。具体的には、「間延びさせないストーリー展開」と「フィクションのハイブリッド化によるノンフィクション形式」です。


■間延びさせないストーリー展開

「拝金」はライブドア事件を題材にしているので、主人公はITベンチャー企業を立ち上げ、数年で上場。時価総額を急激に拡大させていき、そしてプロ野球チームや放送局の買収を試みるというストーリーです。しかし、この小説の特徴として、1~2時間程度でさらっと読めてしまう点があり、それでいて上記のようにポイントはいくつもありかつ中身が薄いようには思いませんでした。

これは、インタビューで堀江氏自身も語るようにあえて間延びさせないようなストーリー展開を図っているからで、その意図を次のように語っています。
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芝居や映画を見に行っても思うことなのですが、ボリュームを増やすためなのか、役者の出番を作るためなのか、2時間ものにしたいからなのかよく分からないのですが、つまらないシーンが結構続くんですよね。あれが本当に必要かと言うと、いらないと思うんです。僕はそういうことを一切やりたくなかったので、どこを読んでも間延びしないようにしています。それが本来の小説なんじゃないかなと思っています。商売として考えた場合は、間延びさせた方がいいのかもしれないですが、一読者の立場からすると、間延びしない世界の方が正しいんです。
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全体のストーリーの中に枝葉の部分が少なく、ここは賛否両論だと思いますが個人的には同意する考え方です。


■フィクションのハイブリッド化によるノンフィクション形式

インタビュー記事では、なぜこの小説を書こうと思ったかについて触れています。堀江氏は「ハゲタカ」という小説について「ITベンチャー企業像に違和感を持った」と指摘しています。社長室にある神棚やITベンチャー企業社長がピストルで殺されそうになるシーンなどがそれです。また、島耕作シリーズについても暴力団がたびたび登場することについても同様の指摘をしています。このように主人公がピストルで殺されそうになるようなあり得ない設定がなくとも、実際にあった自分が経験した面白いエピソードをつなぎ合わせるだけで、いいものが書けるはず。これが小説を書く動機の最も大きい要素と語っています。

小説に登場する人物やお店、または主人公と主要人物との出合うシーンや、上場の様子など、これらはまったくの作り話はほとんどないようです。一方で100%本当の話でもなく、これらは著者が体験したことをモチーフに組み合わせたり一部分だけ変更させたりすることでつなぎ合わせ小説にしたと言っています。

結果的に本書の最後に、本作品はノンフィクションであると書かれていますが、実際は複数のフィクションのハイブリッド化なので読み手にとって、なかなかにリアルな印象を与えてくれました。


■実際に「拝金」を読んでみて

例えばアマゾンのレビューを見てみると、「拝金」について低評価を与えている読者もいます。その理由で一番目立つのが文章表現が稚拙だという指摘です。確かに、小説で使われるその著者独特の言い回しやうまい言い方だと思わせる表現がほとんどなかったように思いました。しかし、個人的には文章への細かい部分の表現にこだわっていない(?)からこそ、スピード感を持って読めました。つまり、人によっては拝金の文章表現が低評価につながりましたが、自分にはそうはならなかったのです。むしろ、短時間でさくっと読めてよかったとさえ思っています。

特に印象的だったのは、主人公(というか堀江氏)のメディアへの意見です。特筆すべきは、ライブドアがニッポン放送の株式を取得することでフジテレビを買収しようとした05年の頃に、おそらく堀江氏が持っていた意見が現在でもそのまま当てはまることです。ネタバレになるので、これ以上は書きませんが、この部分については現代ビジネスの記事で堀江氏と田原総一朗氏の対談記事でも書かれていますので、参考に下記にリンクを付けておきます。ちなみに、拝金を読んでからこのインタビュー記事を読むとよりリアルに感じられおもしろかったです。


※参考情報

これがITベンチャーのリアル――堀江貴文氏が語る、小説『拝金』の裏側 (Business Media 誠)
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1008/24/news011.html

堀江貴文インタビュー vol.2「フジテレビ買収失敗の原因は、実は社内の謀反だったんです」(ページ8~9) (現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/966

堀江貴文インタビュー vol.3「堀江さんと孫さんとはどこが違うんですか?」(ページ1~3) (現代ビジネス)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1027


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投稿日 2010/09/05

「アップルvsグーグル」 3つの論点とその先

常に革新的な製品・サービスを提供してくれるアップルとグーグル。書籍「アップルvsグーグル」(小川浩・林信行 ソフトバンク新書)には両者の状況がうまく整理されており、いくつかのおもしろい論点が書かれていました。


■クローズドなアップルvsオープンなグーグル

これは両者の思想の違いであり、相容れない考え方です。アップルの一社クローズドな状況とは、例えばハードを制御するOSに見ることができます。Mac用のMac OS XやiPhone/iPad用のiOSはアップルの製品にしか搭載されていません。アプリなどのソフトや電子書籍等のコンテンツも然りで、アップルはこれらを自社のiTunesやApp Storeでしかユーザーは手に入れることはできません。

一方のグーグル。同じOSでもグーグルのアンドロイドは他社にも解放しています。だからスマートフォンの1つであるアンドロイド携帯と言っても、様々なメーカーがつくっておりグーグルはアップルのように管理する姿勢は見られません。

iPhoneやiPadが売れれば売れるほど、その売上はアップルに入ってきますが、アンドロイド携帯はそうではありません。アンドロイド携帯の売上はそれをつくったメーカーのもので、グーグルは直接売上を手にするわけではないのです。

これはグーグルが掲げるミッションに由来しています。彼らは次のような使命をかかげています。
Google's mission is to organize the world's information and make it universally accessible and useful. (Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである)
つまり、グーグルの考え方はアンドロイドも含めてグーグルの諸サービスを一人でも多くの人に使ってもらい、そうすれば「世界中の情報整理」に少しでも近づけるというものです。故に、極論を言ってしまえば、このミッションのためにはアンドロイド携帯の売上よりもアンドロイドが広く使われることが彼らにとっては重要なのだと思います。そういう意味では、グーグルというのは、そのミッションに実に忠実に運営されている組織なのです。


■アップルは道具vsグーグルは素材

アップルとはどのような企業なのでしょうか。一言で表現するのは難しいですが、特徴は人々に驚きを与える製品をつくっていることだと思います。特に最近の動きを見ていると、ユーザーの予想を超えるものを次々に打ち出している印象があります。具体的には、iPadの発売後すぐにiPhone4が、また先日9月1日(現地時間)に新しいiPodとiTunes10への音楽SNS機能追加、そしてApple TVなどです。もう少し言うと、アップルの製品は洗練されたソフトと美しいデザインを有し、個人が手で実際に直接手で触れて、時には持ち歩くこともできます。

このように道具をつくるのがアップルだとすると、グーグルがつくるのは素材であると本書では表現しています。あらためて考えてみると、グーグルが提供してきたサービスはどれも私たちが直接手で触れることができるものではなく、身体性を伴わない情報ばかりです。グーグルの検索サービス、グーグルドキュメント、グーグルマップなど、私たちに情報という素材を提供してくれるものです。

前述のグーグルのミッションを考えると彼らのやるべきことは、(1)誰もが使ってくれる技術を生み出すこと、(2)それを誰でも使えるように提供すること(オープンに配信)、の2つではないでしょうか。


■アップルのゴミをつくらない戦略vsグーグルの数打てば当たる戦略

アップルの戦略はとても美しく、ワクワクさせてくれるものだと思っています。なぜなら、自分たちの戦略が最大限に効果を発揮するセグメントを見つけ、そこに彼らの叡智であり技術を集中させるからです。また、彼らの製品にはアップル(というかジョブズ)自身が満足し、自身を持っている製品だけを提供していると思います。

それではグーグルはどうでしょうか。彼らのやり方は、その時点では世の中にはなかったりおもしろいと思ったものをとりあえず試して、その中で目途が立ちそうなものを事業として形成していくと考えられます。例えば、グーグルストリートビューは、あれば便利ですが実際に道路に専用の車を走らせて映像を撮るという発想は、グーグルにしかできないことだと思っています。グーグルブックも同様で、世界中の書籍をスキャンし電子化するということは、考えただけでも途方もないことのように感じます。しかし、それを実際に実行に移しているのがグーグルなのです。話をグーグルの戦略に戻すと、彼らのやり方はある程度は流れに任せて進化させており、民主的な方法だとも言えそうです。


■グーグルの使命を阻むもの

今回取り上げている書籍「アップルvsグーグル」では、グーグルのミッションを妨げているものは大きく3つある(あった)としています。(1)企業のイントラネット、(2)モバイルインターネット、(3)クローズドなメガSNS。

(1)企業イントラネットについては、最近では日本企業でもグーグルのGmailを業務用に使って
いたり表計算ソフトやワープロソフトを導入する事例を聞くようになりました。また、(2)モバイルインターネットは、iPhoneという強力な壁があるもののアンドロイド携帯で巻き返しを図ろうとしています。

では、(3)クローズドなメガSNSはどうでしょうか。個人的には、この領域はグーグルにとって頭の痛いものであるように思います。具体的にはFacebookやTwitterであり、日本ではmixiやモバゲー、GREEなどのソーシャルゲームのSNSも含まれます。

フェースブックがクローズドな点やツイッターも含め、ユーザーは情報をリアルタイムで共有しかつ次々に伝搬していきます。最近になって、グーグルはリアルタイム検索をリリースしましたが、それでもまだグーグルはこれらの中の情報を整理しきれていない印象があります。例えば、フェースブックのLikeボタン(いいね!ボタン)などの情報です。


■今後はどうなるのか

一方でアップルについてこれらメガSNSとの関連を見てみると、アップルと彼らの相性はいいように思います。というのは、アップルはツイッターやフェースブックのアプリを配信しており、iPhoneというモバイルとSNSやツイッターは連携がとれており、とても使いやすい道具だと感じるからです。

個人的に思うのは、アップルとグーグルというのはある領域によっては対決の構図があるものの、一方で、相互に依存していることです。グーグルにとって、アップルのiPhoneが売れるほど他の競合であるメーカーがアンドロイド携帯の開発を加速させてくれます。またアップルにとっては、iPhoneにグーグル検索やグーグルマップが使われていることを考えると、どこか協力体制も築いているとも見えます。(もちろんネットTVなど、新しい対決も発生するでしょうが)

しばらくは、アップルとグーグルだけの対決ではなく、そこにフェースブックやツイッター、Foursquare(フォースクエア)などの位置情報サービス、Groupon(グルーポン)などのクーポン系サービスといった、新しいソーシャル系サービスが複雑に絡む状態が続くような気がしています。結末はどうなるかは予想がつかないですし、そんな時代に生きることは幸運であり、そのプロセスを体験できることにワクワク感があります。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。