投稿日 2010/11/13

ソーシャルはユニバースかマルチバースか

11月4日にソフトバンクモバイルとミクシィは、「ソーシャルフォン」サービスの提供を開始すると発表しました。

■ソーシャルがモバイルのベースに

発表内容を見ると、「ソーシャルフォン」サービスは、mixiのさまざまな機能とスマートフォンの機能を連動させることで、友人・知人とのコミュニケーションを、より便利に楽しんでいただけるスマートフォン向けのアプリケーションサービスです、とあり、2011年2月より開始するようです。スマートフォンの電話帳とmixiの友人データが自動的に同期するなど、これまでの「スマートフォン+SNSアプリ」とは異なり、注目に値すると思っています。(とはいえ、買うことはないかと思いますが)

SNS世界最大手のFacebookは、世界でユーザーが5億人を突破し現在も増え続けているようです。CEOのZuckerberg氏はFacebookケータイについてあるインタビューで次のように語っています。(出所:TechCrunch) Our whole strategy is not to build any specific device or integration or anything like that. (中略) Our strategy is very horizontal. We’re trying to build a social layer for everything. (中略) So I guess, we view it primarily as a platform. Our role is to be a platform for making all of these apps more social,  英語部分をすごく簡単に言ってしまえば、Facebookケータイではなくプラットフォームをつくりたいとのこと。

また、別の記事(Scobleizer)によれば、Facebookがソーシャルフォンそのものを開発しないであろう理由として、以下を挙げています。 Facebook is so powerful that mobile companies are forced to build their own Facebook apps, after all, who would buy a phone that doesn’t have Facebook today?  すでにたくさんのケータイにはフェースブックのアプリが入っており、故に、フェースブック自身がケータイを開発する必要がないことを示唆しています(記事ではこれ以外にも開発しない理由が書かれています)。

ソーシャルケータイをリリースするmixi、自らは開発しないと説明するFacebook。どちらの戦略が正しいかは現時点ではわかりませんが、いずれにしてもSNSなどのソーシャルグラフ(人間関係)をモバイルであたかも身に着けるような方向性に進んでいるように思います。上記のmixiフォンではついに、SNSのデータが電話帳に同期します。これまでは、モバイル機能の1つでしかなかったソーシャルが、ソーシャルをベースとしたモバイルの登場です(図1)。



■ソーシャルは1つになるのか?

さて、私たちは複数の人間関係を持っています。家族、彼氏・彼女、友人、バイト仲間、仕事関係、などなどです。ここで、いくつかの人間関係を下図のようなマトリクスで整理してみます(図2)。



リアル世界では、これまでは自分の持つ人間関係は別々に存在していました。しかしSNSなどの登場により人間関係がSNS上でつながり、自分に関係ある人たちがフラットに並びつつあるような気がします。今後ますます多くの人がSNSを利用した場合、そこには仕事の同僚もいれば、幼馴染もいたりとか、1つの大きな人間関係がソーシャル上に存在することになっていくことも考えられます(図3)。いや、もしかしたら、ビジネスライクなSNS、友達用のカジュアルなSNS、などと、複数のソーシャルを持つのかもしれません(図4)。

ユニバース型SNS




マルチバース型SNS



人間は社会的な動物です。人とつながりたいという気持ちは普遍的な感情だと思います。これは何もSNSができたからでは決してなく、大昔からずっとそうだったはずです。人間の三大欲求には含まれませんが、人間の本能に近い欲求なのではないでしょうか。ソーシャルというキーワードはますますいろんなところに入り込んでいきそうです。


※参考情報

「ソーシャルフォン®」サービスを提供開始 (ソフトバンクモバイル株式会社)
http://www.softbankmobile.co.jp/ja/news/press/2010/20101104_03/index.html

Interview With Mark Zuckerberg On The “Facebook Phone” (TechCrunch)
http://techcrunch.com/2010/09/22/zuckerberg-interview-facebook-phone/

Why Mark Zuckerberg would be an idiot to announce a hardware device today (scobleizer)
http://scobleizer.com/2010/11/03/why-mark-zuckerberg-would-be-an-idiot-to-announce-a-hardware-device-today/


投稿日 2010/11/07

キャリアと適性に見る「鶏と卵」

文部科学省によると、進路指導におけるキャリア教育は次のように説明されています。

「激しい社会の変化に対応し、主体的に自己の進路を選択・決定できる能力やしっかりとした勤労観、職業観を身に付け、 (中略) 社会人・職業人として自立していくことができるようにするキャリア教育の推進が強く求められています」。

まずは自分自身の仕事への適性や考え方を見極め、それに合った仕事を選ぶことを目指す教育です。

■自分の適性は後から開発される

神戸女学院大学文学部教授である内田樹氏はその著書「街場のメディア論」(光文社新書)において、キャリア教育について反対する趣旨の内容を書いています。簡単に書くと、仕事に取り組む中で仕事に対する自分の適性がわかるのであって、決してその逆(キャリア教育)ではない、というものです。

内田氏は、与えられた状況・仕事で最高のパフォーマンスを発揮する中で、自分自身の潜在能力を選択的に開花させることが大事であると説きます。次の図でいうと下のパターン(図1)。「環境が人を育てる」、「ポストが人をつくる」などと言われることにも通じる考え方だと思います。



■「種の起源」に見る環境への適応

ところで、ダーウィンの「種の起源」によると、生物は常に環境に適応するように変化し、種が分岐して多様な種が生じるとしています。この主張の前提になっているのは、種にとって環境は常に変わることであり、それに適応することで生存競争において有利な立場となる、この過程で多様な種が生まれるのです。

上記の内田氏の、その能力が必要になった時にはじめて潜在能力が発揮される(適正が見い出される)という主張は、環境に適応するよう種が変化するという「種の起源」の考え方にも通じるように思います。

■知識社会での環境への適応

ドラッカーはその著書「断絶の時代」において次のように述べています。「知識労働者の台頭や知識社会の出現が最も重要な断絶、すなわち社会の根源的な変化である」。ちなみに断絶の時代が初めて世に出されたのは1968年であることを考えると、あらためてドラッカーの慧眼には驚かされるばかりです。

知識社会に相当する情報社会についてのプロセスについては、「情報の文明学」(梅棹忠夫 中公文庫)で言及されています。それによると、人類産業の転換史は、1.農業の時代、2.工業の時代、3.精神産業の時代という3段階を経たとしています。このプロセスを著者は、食べることから筋肉の時代に、そして精神(情報)の時代へと産業が展開したと述べています。

現在は高度に発達した情報社会であり、かつ情報が国を超えて手に入るグローバル社会でもあると感じます。このような私たちがいる環境では非常に速いスピードで変化します。世の中の変化のスピードが速いことをドッグイヤー、あるいはマウスイヤーなどと表現されたりします(犬は人間の7倍で成長、マウスは18倍の速さで成長することから)。

だからこそ、この変化する環境に適応することが大事になると思います。ダーウィンの「種の起源」で見た、変化する環境に適応しない種は淘汰されるように、個人レベルでも同様なのではないでしょうか。これが内田氏の主張する、与えられた状況・仕事で最高のパフォーマンスを発揮する中で、自分自身の潜在能力を選択的に開花させること、につながります。考えようによっては、惰性ではなくとても刺激的な状況であり、おもしろくやりがいのある世の中だと感じています。


※参考情報
進路指導・キャリア教育について (文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/index.htm


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投稿日 2010/11/03

宇宙の3つの常識がくつがえった

自分の中で今までは当たり前だと思っていた宇宙についての常識がありました。例えば、(1)宇宙にあって多くを占めるのは星や銀河、(2)宇宙の始まりを説明するのはビックバン理論、(3)銀河や地球など全てものがこの宇宙内に存在する、といった内容です。

しかし、宇宙についての本を読んでこれらの常識が自分の中で覆えりました。そこで今回のエントリーでは主に2冊の本、「宇宙は何でできているか」(村山斉 幻冬舎新書)、「インフレーション宇宙論」(佐藤勝彦 講談社)から、自分の常識がどう覆されたかを中心に書いてみます。



■この宇宙の96%を占めるもの

宇宙にある大部分の質量は地球や銀河などによるものだと思っていました。今回知ったこととしては、星と銀河の質量は宇宙のわずか0.5%にすぎないということです。では残りは何で占められるのか。宇宙の質量は以下のような構成となっているようです(図1)。

 宇宙の質量構成比

特に今回初めてその存在を知ったのは、23%を占める暗黒物質(ダークマター)と73%の暗黒エネルギー(ダークエネルギー)でした。

暗黒物質とは、我々地球を含む銀河を銀河たらしめるもの、すなわち、もし暗黒物質が存在しなければ銀河が今の形を構成できずバラバラになると考えられています。また、暗黒エネルギーとは、宇宙を加速膨張をさせているエネルギー。実は宇宙は現在も膨張し続けており、さらに言うとその膨張する加速度は大きくなり続けているようです。詳しい話は省略しますが、宇宙の加速膨張を理論的に説明するために考えられているのが暗黒エネルギーの存在なのです。



■宇宙のはじまりを説明するインフレーション理論

これまで信じていたことに、宇宙のはじまりはビックバンという現象の発生があります。ビックバン理論の概要は、宇宙の最初は「火の玉」であり、その後に膨張していく過程で次第に温度が下がりガスが固まって星が生まれます。そこから銀河が形成され現在に至るというものです。

しかし、実はビックバン理論では説明できないことがあります。「インフレーション宇宙論」の著者である佐藤勝彦氏によれば、例えば「なぜ火の玉からなのか?」や、「火の玉の前はどのような状態だったのか?」などであり、ビックバン理論では、特異点という「神の一撃」の存在を許すことにもなるようです。つまり特異点から始まった宇宙がなぜ火の玉になったかが説明できません。余談ですが、著者は物理学者として、神の存在を用いることなく物理法則だけで宇宙の創造を語りたいものだ、としています。

ここでインフレーション理論の登場です。まずインフレーション理論はビックバン理論を補完する理論です。インフレーション理論を簡単に説明すると以下のようになります。

インフレーション理論では、宇宙は真空のエネルギーが高い状態で誕生し、このエネルギーによって急激な膨張が起こりました。これは宇宙誕生直後の10のマイナス36乗秒後から10のマイナス34乗秒後までの極めて短い時間。宇宙が最初から火の玉として生まれてそのエネルギーで膨張したわけではなく、真空のエネルギーが宇宙を急激に膨張させることで相転移により熱エネルギーに変わる、この時点でようやく「火の玉」になったのです。

■宇宙はユニバースではなくマルチバース?

最も驚かされたのがこれです。宇宙は英語でユニバース、つまり、1つのという意味のユニ(uni)が使われていますが、宇宙は1つではなく多数存在するマルチバース(multiverse)という考え方です。

マルチバースの考え方では、今私たちが存在する宇宙は数ある宇宙の中のone of themでしかないということになります。マルチバースのイメージは下図のようになり、たくさんある1つ1つの球体のようなものがそれぞれ宇宙を表しています(図2)。


マルチバースのイメージ

マルチバースの考え方は、前述のインフレーション理論から説明されており、インフレーションの発生の順番で、親宇宙、子宇宙、孫宇宙、・・・、というように宇宙が次々できるとしています。無から生まれる宇宙は、私たちが存在する宇宙だけとは限らずいくらでも別の宇宙ができる可能性があるということです。

ただ、現在のところマルチバースというのは理論的に予言されているだけにすぎず、実際に科学的に証明されたわけではなく、あるいは観測されたものではありません。ましてや仮にその存在が証明されたとしても、この宇宙から抜け出し別の宇宙に行くことがどうやってできるのか、宇宙は膨張しているのでいずれ2つの宇宙が衝突するのか(あるいは重なるのか)、などと考え出すとなんともわけがわからなくなってしまいます。

■考えさせられたこと

「宇宙は何でできているのか」および「インフレーション宇宙論」を読んでいて感じたこととして、フロンティアというものはどれだけでも広がるということがあります。読み進めていく中で、1つ新しい理論ができれば新しい矛盾が生まれる状況が多くありました。何か新しいことを知れば次の疑問が生まれ、それにより自分には知らないことがまたでてくる、ということだと思います。

これは何も物理学者などの科学者だけによらないと思っています。例えば、何か新しいことを学んで知れば、それに関連する新しいことをさらに知りたくなる、という感じです。仕事も然りで、何か新しいことに挑戦すれば、次はもっと難しいことにチャレンジしたくなります。こういった知的好奇心やチャレンジ欲はいつまでも持ち続けたいものだなとあらためて思いました。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。