投稿日 2010/11/27

書籍 「ソーシャルメディア維新」

「ソーシャルメディア維新」(オガワカズヒロ マイコミ新書)という本を読みました。今回のエントリーでは、同書で取り上げられているグーグルとフェイスブックを中心に見ていきます。

■「ソーシャルメディア維新」の主題

この本の内容を一言で表現すれば、ウェブトラフィックがグーグルの「検索エンジン」からフェイスブックなどの「ソーシャルメディア」へのシフトです。具体的には、各種ウェブサイトへ行く時に従来はグーグルで検索をしていたのが、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディア経由となっている状況を指しています。ちなみに副題でも、フェイスブックが塗り替えるインターネット勢力図、とあります。

少し古いデータですが、アメリカの調査会社Hitwiseの発表(2010年3月15日)によれば、アメリカでのアクセス数でフェイスブックがグーグルを抜いたようです(図1)。フェイスブックは前年同週比で185%増、一方のグーグルは9同%増としています。


■検索エンジンからソーシャルメディアへのパラダイムシフト

グーグルの検索エンジンからフェイスブックなどのソーシャルメディアへのシフトを見るため、まずはグーグルについて考えてみます。

グーグルは次のようなミッションを掲げている企業です。Google's mission is to organize the world's information and make it universally accessible and useful.(Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである) グーグルがこれまでやってきたことは、まさにこのミッションに従ってのものであり、社会にあるありとあらゆる情報をウェブ上に整理し、検索可能な状況をつくる努力をしてきたのだと思います。

グーグルのすごさは、ネットでの検索エンジンで世界一になり、かつそこから検索連動型などの広告モデルを自分たちの収益に結びつけたことです。グーグルは多くの人がネットを使えば検索も利用されると考えており、だから彼らは検索可能な領域を増やし続けてきたのではないでしょうか。

このようなグーグルとユーザーのWinWinの状況を脅かしつつあるのが、フェイスブックなどのソーシャルメディアの存在です。ツイッターを使っていて実感することに、何かのサイトやコンテンツを知るきっかけがフォローしている人のつぶやく情報だということがよくあります。例えば話題になっているニュースを知るきっかけはツイッターという状況が普通に起こるようになりました。

「ソーシャルメディア維新」ではツイッター上を流れるつぶやきなどの総称をソーシャルストリームと表現し、グーグルのこれまでの情報整理の仕方ではソーシャルストリームのスピードに追いつけていない状況が発生していると言います。というのも、グーグルの考え方はウェブの最小単位をウェブページとし、それらのリンク構造を把握することで正確な検索技術を実現してきましたが、ソーシャルメディアの台頭で、ウェブページよりもその上に流れている情報やコンテンツが重要になってきたからで(図2)、その流れのスピードがグーグルにとって速すぎるのです。「ソーシャルメディア維新」では、このような状況の結果として、グーグルの検索エンジンからソーシャルメディアへのパラダイムシフトを起こしていると指摘しています。



■Facebookが目指すもの

フェイスブックのグーグルに対する優位性に、フェイスブックの5億人を超えるユーザーの人間関係情報(ソーシャルグラフ)があります。さらには、各ユーザーが持つ様々な情報への興味・関心もそうで、例えばLikeボタンにより、これらの興味関心までもユーザー同士でつながります。「ソーシャルメディア維新」という本では、フェイスブックが行おうとしているのは人間関係というネットワークをウェブに移すこと、すなわち人間関係のクラウド化であり、かつウェブ上にある様々なコンテンツとフェイスブック内の人間関係を結びつける「オープングラフ」だと指摘しています。

上記のようにグーグルの捉え方はウェブページとウェブページのリンクでしたが、フェイスブックはユーザーの人間関係や興味・関心のリンクを目指します。グーグルはウェブ上の情報を整理してくれますが、フェイスブックはウェブ上の情報を各ユーザーの自分好みにパーソナライズ化してくれる存在なのです。

■Facebookの課題

一方で、「ソーシャルメディア維新」ではフェイスブックが抱える課題についても言及しています。その最も大きな課題がプライバシー問題と言います。先ほどフェイスブックの優位性にユーザー同士の人間関係や興味・関心と書きましたが、実は優位性となる前提としてこれらの情報がオープンに公開されている必要があります。しかし、ユーザーにとっては当然ながら公開したくない情報もあり、それがユーザーとフェイスブックの間に齟齬が起こりプライバシー問題につながってしまうのです。

グーグルが自社の検索技術から検索連動型広告という収益モデルを築いたように、フェイスブックは自分たちが保有する優位性を収益に結び付けるためにこの課題をどう解決するか、世界中にいる5億人のユーザー数とそこから発生するウェブのトラフィックからの換金方法を見出した時、ソーシャルメディアによる維新が起こるのかもしれません。


※参考情報

Facebook Reaches Top Ranking in US (March 15, 2010) | Hitwise
http://weblogs.hitwise.com/heather-dougherty/2010/03/facebook_reaches_top_ranking_i.html

Google's Mission
http://www.google.com/corporate/facts.html


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投稿日 2010/11/23

欧州最大の LCC ライアンエアーに見る戦略ストーリー


Free Image on Pixabay


今週の日経ビジネス2010.11.22の特集記事はアップルを取り上げています ( 「アップルの真実 ジョブズの天下はいつまで続くのか?」 ) 。

個人的に興味深かったのは、このアップルの次に掲載されていた欧州最大の航空会社であるライアンエアーについての記事でした。タイトルは 「『究極の目標は運賃ゼロ』 異端経営で圧倒的安さを実現」 。今回のエントリーではライアンエアーの戦略ストーリーについて考えてみます。
投稿日 2010/11/20

ネットテレビが変えるもの

2010年5月にグーグルはテレビとネットの機能を併せ持つグーグルTVの構想を発表しました。そして10月下旬、グーグルとソニーによる「ソニーインターネットTV」がアメリカで発売されました。

「Android」OSを使ったグーグルTVの特徴は、テレビ画面に表示される検索窓にキーワードを入力することでテレビ番組、ネット上の動画、Webサイトなどを横断的に検索し、その映像を再生することができる点にあります。

■視聴を180度変える

このようにネットテレビはテレビ+パソコンの両方の要素を兼ね備えていますが、単純に1+1=2となるかと言うと個人的にはそれ以上のインパクトがあると思っています。なぜならば、私たちの視聴を180度異なるものにする可能性があると考えているからです。

従来のテレビ視聴は、テレビ局が番組をどの曜日のどの時間に放送するかを決めていました。よって視聴者は見たい番組が放送される時間に合わせてテレビをつけます。もちろん、DVDなどでの録画で見るパターンもありますが、基本的な構図はテレビ局が番組放送をコントロールしています。

一方のネットテレビ。上記のような番組放送も依然として残ると思いますが、前述のグーグルTVの特徴のようにネット上の動画に加え、オンデマンドでの視聴も増えていくはずです(現時点でも一部オンデマンドはありますが)。このように視聴者自らがYouTubeなどの動画やオンデマンドの番組を見るようになるわけで、ネットテレビにおいては視聴者が映像コンテンツを見ることに対して主導権を握ることになります。先ほど視聴を180度変えると表現したのは、主従関係が変わるこの状況を指してのことです(図1)。




ネット上にはYouTubeなどの動画サイトがあり、あるいはおそらく今後はネット上での映画配信や番組のオンデマンドサービスの充実など、ユーザーはテレビ番組放送だけではなく、様々なコンテンツを楽しむことができるようになります。

ところが多くのコンテンツが選択肢になるほど、放送されるTV番組は相対的に今よりも見られなくなるということが起こってくるはずです。良質な番組は今後も視聴者からは支持されるでしょうが、そうでない番組は見てもらえなくなる。ネットテレビによって自分の見たい番組を簡単に探すことができ、オンデマンドで用意されているので、好きな時間に自分の見たいコンテンツを自由に見る楽しさ、つまりコントロールできることをユーザーは覚えてしまうのではないでしょうか。


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。