投稿日 2010/12/18

グルーポンの大幅割引の目的と課題

ビデオリサーチインタラクティブから、グルーポンなどの「クーポン共同購入サイトの動向」が発表されています。自宅PCからの2010年10月度の推定訪問者数は306万人で、わずか2か月前の8月から2倍の規模になったそうです(図1)。8月:159万→10月:308万人。なお、集計対象のクーポン共同購入サイトは、グルーポンやポンパレを含む計92サービスです。

 クーポン共同購入サイト全体の推定訪問者数 時系列推移(2010年4月~10月)(自宅PC)

 出所:ビデオリサーチインタラクティブ

■グルーポンとモラタメ

クーポン共同購入サイトの仕組みは、一言で表現すると「みんなでクーポンを買って割引を共有する」というものです。

グルーポン(Groupon)の語源はGroup+Couponです。もう少し詳細を見ると、各クーポンは締切期限や規定人数が設定されており、期限内にその人数が集まらないとクーポン購入が成立されません。

そこで、購入希望者は成立されるようにクーポン情報を宣伝することになりますが、そこで威力を発揮するのがツイッターやブログなどの個人による情報発信ツール。ある程度まとまった人数で買うとディスカウントが効くこと自体は目新しいものではありませんが、それにネット上にあるツイッターなどのリアルタイム性+ソーシャルがうまくマッチした仕組みだと思います。

クーポン共同購入サイトとはやや仕組みが異なりますが、自分の欲しい商品・サービスが割引されて利用できるサイトに、モラタメサンプル百貨店などがあります。

例えばモラタメは、モラえる+試(タメ)せるからきている名前で、新商品などの商品を無料でもらえたり、送料のみの負担で試せるのが特徴です。送料が有料でもその商品の定価よりは安いので消費者にとっては割引と同じことと言えます。モラタメやサンプル百貨店の特徴は、使用した後にその商品の感想をブログやコメントを通じてモラタメに返す点にあります(図2)。


■なぜ大幅割引や無料なのか

ではなぜグルーポンには大幅な割引があり、モラタメは無料(一部送料のみ負担)なのでしょうか。

まずグルーポンについて、なぜクーポンが大幅に割り引かれる(50%OFFなど)のかを考えてみます。思うに、共同購入クーポンを発券することが、広告やプロモーションとして位置づけられているからではないでしょうか。つまり、大幅な割引で興味関心を引き立たせ、自分たちのサービスや商品を利用してもらう。仮に赤字であっても、その顧客が自分たちのことを認知してくれる、さらにはまた来てくれる(リピート)を期待してのことです。

一方のモラタメ。無料であることのカギは、使用後の商品のフィードバックにあります。つまり、無料の代わりに感想・評価を教えてね、という仕組み。企業にとっては実際に使った消費者の声が手に入るわけで、少なくともモラタメで提供する商品の価格以上に価値があると判断しているからではないでしょうか。消費者からの評価を商品改良の参考にしたり、ターゲットの検討、販促・プロモーション等々に活かしていくのだと思います。

■それぞれの課題を考えてみる

次に考えおきたいのが、グルーポン系とモラタメ系の目的が本当に達成されるのかという点です。

まずモラタメの場合ですが、目的は消費者の声を集めることです。企業にとって価値があるのは実際に使ってくれた人の評価が得られる点にあります。しかし、そもそも評価を送ってくれた使用者が単に無料だからその商品をもらった・試したことも考えられ、時には商品のターゲットとはズレている人たちの評価を集めてしまうかもしれません。つまり、その商品を買ってほしい人の感想が集まらなければ、その評価を次の商品施策に活かしたとしても有効とは言えず、時には逆効果となってしまうことも考えられます。

そしてグルーポン。これはあくまで推測ですが、グルーポンの場合はクーポンを利用するお客が、単にお得だからという理由だけということが考えられます。共同購入クーポンを発券する目的は自社サービスの認知を広げること・リピート顧客を増やすことにあると思っていますが、このようなお客さんはその目的が達成できない可能性があります。であれば、クーポンを提供することは収益を下げる要因にもなり兼ねません。

もう一つ課題。グルーポンなどのクーポン共同購入については、プレイヤーの淘汰および独占による弊害も出てくる可能性があります。日経ビジネスには、市場参入企業は100社を超え競争が激化し、早くも、勝ち組・負け組の構図が鮮明になりつつあるという記事も見られます(図3)。

 出所:日経ビジネスオンライン

そして日経ビジネス(2010.12.20・27号)には、「グルーポンも独占禁止法違反?」という記事が掲載されています。記事によれば、同誌が以前に入手したというグルーポンが飲食店と結んだ契約書の「パートナー義務」規約内に、パートナーは契約期間の終了後24カ月間において、「理由の如何を問わず、国内企業におけるグルーポンと類似のウェブサービス(Piku、KAUPON、ポンパレ、Qponを含むが、これらに限られない)において出稿、掲載等をしない」とする旨の条項が含まれていたそうです。なお、日経ビジネスの取材後にグルーポン側では急きょ規約を変更し現在はないとのこと。これは、公正取引委員会の立ち入り検査があったDeNAと同じ構図です。

モバゲーやグリーなどのゲームやグルーポンなどの新興ネットビジネス市場は先行優位性が大きいと思います。つまり、先行し顧客を取り囲んでしまえば独占して利益を得られる構造なのではないでしょうか。ユーザーにとっては自分の知らないところでいつの間にか独占状態が起こっており、お得だと思っていてもそれによる負担が発生しているのかもしれません。

※参考情報

さらに拡大を見せる、クーポン共同購入サイトの動向|ビデオリサーチインタラクティブ
http://www.videoi.co.jp/release/20101115.html

グルーポン市場、大手寡占へ|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101126/217291/

グルーポンも独占禁止法違反?|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101216/217577/


投稿日 2010/12/15

Twitter利用者率70%は本当か?

トレンダーズ株式会社が運営するPR TIMESは2つの調査結果を発表しました(ともに10年12月6日)。今回のエントリーではそれぞれの調査結果から、データを見る上での注意点を自戒も込めて書いておこうかと思います。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に関する意識調査|PR TIMES
大学生のソーシャルメディア利用実態に関する調査|PR TIMES

各調査の概要を整理すると、以下のようになります(表1)。


■mixiなどの利用率

2つ調査結果では、mixi、Twitter、Facebookの利用率が発表されています(表2)。

表の左のSNS意識調査では、mixiの利用率は96.6%と非常に高い結果が出ています。ですが、調査結果を読んでみると、SNS利用者ベースの数字であることがわかります。つまり、SNSを利用している586人のうちの96.6%ということで、SNS非利用者(230人)は分母に含まれていません。Facebookの12.3%も同様にSNS利用者ベースです。そこで、利用率の分母をSNS非利用者も含めて計算をすると、次のような結果になります(表3)。

こうしてベースをそろえて見ると、mixi、ツイッター、フェイスブック全てにおいて、SNS意識調査のほうが利用率が低いことがわかります。

■利用率の差は実施期間の違い?

では、なぜ同じ利用率を聞いた調査なのに低くなるのでしょうか。2つの調査仕様を見てみると、実施期間が7月と11月で異なることに気づきます。ということは、7月から11月にかけて利用者が増えたことで利用率が増加したのでしょうか。やや乱暴ですがグラフにするとこんな感じです(図1)。


それにしてもこの増加状況は本当なのでしょうか。わずか4か月くらいの間で、例えばツイッターの利用率は3倍、フェイスブックは4倍になっています。mixiですら+10ポイントの伸びを示しています。大学生だけの数字とはいえ、いくらなんでもちょっと増加しすぎな気もします。個人的には、単なる実施期間の違いではないと考えます。

■調査手法による回答者の偏り

もう一度、それぞれの調査仕様を確認すると、調査手法に違いがあることがわかります。すなわち、アンケート自記入法とインターネット調査。前者はおそらく紙に直接回答するアンケート、後者はネット上で回答するアンケートです。

ここで注意すべき点は、調査方法が違えば回答する人たちもまた異なるということです。何か当たり前のように聞こえるかもしれませんが、この違い認識は結構重要だと思っています。あいにくこれを示すデータは用意していませんが、ネットでのアンケート調査は紙上でのアンケート方法に比べて、ネット利用度の高い人たちが回答をする傾向があります。もちろん、ネットの利用頻度が低い回答者も存在しますが、回答者全体で見るとネット利用度は相対的に高くなります。このイメージを図にすると以下のようになります(図2)。


記入式調査の回答者はネット利用度が低い人の割合が大きくなり、逆にネット調査の回答者は高い人の比率が高くなるのです。このような状況を専門的な表現では、「バイアス(偏り)が発生する」と言います。例えるならば、イタリアンレストランで食事している人と焼き鳥屋で食事している人それぞれに、「あなたはパスタが好きですか」と聞けば、前者のほうが「好き」と答える人が多い傾向にある、ということです。もちろん、数人レベルではわかりませんが、100人とか数百人単位で聞けば、おそらくそのような傾向が見られるはずです。

話を2つの調査における利用率の違いに戻します。ネット調査である「ソーシャルメディア利用実態意識調査」のほうが、総じて利用率は高いという結果でした(図3)。その理由として考えられることは、図2のような回答者に偏りの発生です。要するに、そもそもネット調査の回答者の中にはネット利用者が多くいた、故にツイッターやフェイスブックなどの利用率が相対的に高い結果になったのではないか、ということです。


当然これは単なる推測にすぎず、これを科学的に説明するデータは用意していません。ただ、ここで言いたいのは、どんな調査結果でも回答者の偏りは少なからず発生してしまうということです(例外は全数調査ですが実施は非現実的)。

■真実とのかい離は必ず発生する

では、どちらの結果が正しいのでしょうか。あえて言うならば、「どちらの調査結果も正しく、どちらの結果も間違っている」のだと思います。何か身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、どんな調査でも手法や回答する対象者の選び方で「真実」とのかい離は発生します。その前提条件(手法・回答者)を踏まえてデータを解釈するのであれば「正しい結果」であるし、一方で真実とかい離があるという意味では「間違った結果」になるのです。

今回の例で言えば、(ネット利用者は相対的に少ないであろう)首都圏の大学生に対しての記入式調査であればツイッター利用率は20%超、(ネット利用者は相対的に多いであろう)首都圏大学生へのネット調査であれば70%になる、ということです。だからこそ重要なのは、様々な調査手法や対象者の違いから発生するであろう偏りを認識した上で「何を知りたいか」を見極め、適切な調査手法・対象者を選択すること、あるいは結果のデータを見ることではないでしょうか。(そもそも、今回取り上げた2つの調査は目的である「知りたいこと」が同じではなさそうなので、それぞれの結果を並べて比較すること自体にあまり意味がないかもしれません)

■まとめ

最後に、ポイントをまとめておきます。
・パーセント(%)を見る時は何をベースにした数字なのかを要確認 (分母に注意)
・調査には手法や対象者により、少なからず「真実からのかい離」が発生する (調査バイアス)
・それを前提に、「何を知りたいか」を見極め、適切な調査手法・対象者を選択し、結果のデータを見ることが大事


投稿日 2010/12/12

00年代ヒット商品グランドチャンピオンから考える「消費者のコレを変えた」

日経トレンディの2010年12月号に、「2000~2009年 ヒット商品グランドチャンピオン」という企画が掲載されていました。ゼロ年代のヒット商品を発表するという企画です。同誌では毎年12月号でその年のヒット商品ベスト30を発表しており、2000~09年の10年間に発表されたベスト30の計300アイテムから選ばれています(メーカー等の商品企画・開発に関わる208人へのアンケート調査)。その結果は以下の通りです。

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。