投稿日 2011/02/27

多様性を希望したい今後の検索サービス

グーグルの公式ブログ:「Official Google Blog」に、2/24付で次のような記事がエントリーされていました。Finding more high-quality sites in search

■グーグルの検索アルゴリズム変更

記事によれば、アメリカ時間の同日に検索アルゴリズムを大幅に変更したとのこと。改訂の目的は、質の低いサイトを検索結果から除外し、質の高いサイトを上位に上げるためというもの。グーグルによれば、質の低いサイトとは役に立たないコンテンツや単に他からコピーしたコンテンツなどを指しています。なお、検索アルゴリズムの変更はまずはアメリカだけのようで、今後は他国にも展開すると記事では言及しています。

ちなみに、今回のアルゴリズム変更前のことですが、グーグルの検索結果が自分の望む情報が得られない状況を批判した記事がTechcrunchに掲載されていました(記事:Search Still Sucks)。この記事の記者によると、旅行先の宿泊ホテルを探す時やガジェット製品レビューを検索する時は、グーグルは使っていないと言っています。つまり、この分野ではグーグルで検索をすれば自分に必要な情報よりも、そうでないサイトばかりが表示されるのだと思います。24日の今回のグーグルの検索アルゴリズムの変更はこうした状況を改善しようというものです。

グーグルが検索アルゴリズムを改善し続けるのは、彼らが次のようなゴールを設定しているからです。Our goal is simple: to give people the most relevant answers to their queries as quickly as possible. (Official Google Blogより) 目指すところは同じですが、ここ最近はグーグルとは異なる方法を取る検索サービスが登場しているのが興味深いです。

■グーグルとは異なる新しい検索サービス

まずはマイクロソフトのbing。これも2/24付のbingのブログによると、検索結果にフェイスブックの「いいね」ボタンの情報を表示させるそうです。どういうことかと言うと、検索結果のサイトに対してユーザーのフェイスブック内の友達が「いいね!」を投稿していれば、URLの下に友達のアイコンが並び、「いいね」としたことが表示されるのです(図1)。

引用:Bing expands Facebook “Liked Results” | bing Community

bingと同じようなことをblekkoという検索サービスがグーグルに挑戦しています。詳細はこちら:Blekko Goes Social, Now Lets You Search Sites Your Friends Have ‘Liked’ On Facebook | Techcrunch

■コンピューターvs人間

グーグルは検索アルゴリズム、すなわち技術を徹底的に追及することで、検索結果向上を目指しています。一方で、上記のbingやblekkoなどは、友達の「いいね」という人の情報を加味した検索結果を返します。

bingについては、表面的にはグーグル対マイクロソフトの対決に見えますが、実は起こっていることはグーグル対フェイスブックだと思っています。これは個人的な見方ですが、グーグルの思想には、あらゆることをコンピューターがするにようなる、という考え方があるような気がします。一方のフェイスブックは、人を中心に置くという思想であることが「フェイスブック 若き天才の野望」という本では、「人間中心型情報構造」という表現で書かれています(p.431)。

■多様な検索サービスを

では、これら検索サービスについてどう考えるのか。個人的には、グーグルの検索システムはこれからも必要であり、フェイスブックのようなSNSによるソーシャルグラフの情報を活用した新しい検索システムもあってもいいと思っています。現在の検索サービス市場のシェアはグーグルが独占している状況です(図2)。

出所:Experian Hitwise

多様な検索サービスがあり、そして実現されるのはグーグルの目指すゴールであってほしいと思っています。Our goal is simple: to give people the most relevant answers to their queries as quickly as possible.

そう言えば今日、あるテレビ番組で次のような言葉を耳にしました。
「人生での無駄な時間は探し物をする時間である。」

探し物が情報である検索にも、この言葉は当てはまるのではないでしょうか。


※参考情報

Finding more high-quality sites in search | Official Google Blog
Search Still Sucks | Techcrunch
Bing expands Facebook “Liked Results” | bing Community
blekko
Blekko Goes Social, Now Lets You Search Sites Your Friends Have ‘Liked’ On Facebook | Techcrunch
Experian Hitwise reports Bing searches increase 21 percent in January 2011 | Experian Hitwise


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投稿日 2011/02/20

リアルタイムウェブとチェックインの可能性を考える

「チェックイン」と言えば、数年くらい前であればホテルへの入館手続きであったり、飛行機への搭乗手続きを表す言葉でした。ところが、ここ最近は、Foursquareなどの位置情報サービスを使って、その場所に訪れたことを指すようにもなってきました。位置情報サービスでは、チェックインをすることでGPSからその場所を特定します。同サービスの特徴は、その情報をツイッターなどのソーシャルメディアを通じて友人に知らせることができたり、訪れたお店にチェックインをすればお店によっては割引クーポンをもらえたりする点、あるいはゲームの要素が取り入れられている点にあります。

■様々なチェックインとその本質

チェックインをするのは場所だけにはとどまりません。チェックインの考え方を応用すれば、例えば自分が買ったものなどにも適用できます。これはすでにSwipelyBlipplyなどのサービスで実現されています。ユニークな存在としては、今飲んでいるビールにチェックインをするというUntappdなんていうのもあります。目の前にあるビールをリストの中から選びチェックインすることで、自分が今ビールを飲んでいることを友人に伝えることができるサービス。実際にUntappdのページを見てみると、たくさんの飲んでいる発信がフィード上を流れています。

では、チェックインという概念の本質はどこにあるのでしょうか。それは、○○に訪れた・△△を買ったという「今自分がしている行為の可視化」だと思います。あるいは趣味嗜好の可視化と言ってもいいかもしれません。

■リアルタイムウェブが成立する3つの要素

それでは、なぜ人はこのようにリアルタイムで情報を発信するようになったのでしょうか。これに関しては、「リアルタイムウェブ-「なう」の時代」(小林啓倫 マイコミ新書)という本で書かれていることが参考になります。この本では情報がリアルタイムに伝わるウェブを「リアルタイムウェブ」とし、リアルタイムウェブが登場した背景には3つの要素があるとしています。3つの要素とは、ウェブ技術の進化、モバイル技術の進化、社会環境の進化(図1)。
出所:書籍「リアルタイムウェブ-「なう」の時代」

ウェブ技術の進化とは、例えば上記のようなFoursquareやSwipelyであったり、あるいはツイッターやフェイスブックもそうです。これらのウェブ技術の進化により、情報発信の速報性は既存のウェブサービスにはないレベルでのリアルタイム性が実現されました。

モバイル技術の進化も大きく寄与しています。いくらリアルタイムで発信できるようなサービスが出てきても、それをリアルタイムで利用できなければ宝の持ち腐れになってしまいます。モバイル技術の進化は、私たちがいつでもどこでもウェブにつながる環境を与えてくれました。位置情報サービスで言えば、その場所でその時に情報を発信することに価値があり、これが家に帰ってからパソコンを立ち上げて「○○へ行ってきた」では遅いのです。モバイルにおいては、スマートフォンによるスムーズな操作性は各種アプリの登場も、リアルタイムの発信を促進したのではないでしょうか。

3点目の社会環境の進化とはなんでしょうか。同書によれば、ポイントは「情報にスピードを求める人々の登場」と「プライバシー意識の変化」。スピードを求めるとはいきつくのはリアルタイムでの情報の送受信です。プライバシーへの意識については、日本でもツイッターやフェイスブックの登場で、それまでなら公にすることはなかった情報まで公開されています。本名、顔写真、経歴、趣味などであり、または自分が訪れた場所、買ったものも然りです。

3つの要素の詳細は本書に書かれていますが、以上のようなリアルタイムでの情報発信・共有ができるウェブサービスの登場、いつでもどこでもウェブにアクセスできるモバイル端末、リアルタイムでの情報共有に価値を見出した人々の増加。こうした条件により、リアルタイムウェブが成立すると、著者である小林啓倫氏は言います。

■メディアチェックイン

チェックインの概念は、まだまだいろんな可能性があると感じます。個人的に興味深いのは「メディアチェックイン」。いずれも海外のサービスですが、テレビ番組へチェックインするというコンセプトのものはいくつか存在します。具体的には、MisoPhiloComcast’s Tunerfishなど。そして最近知ったサービスの「IntoNow」(図2)。これはIntoNowというiPhoneアプリで、テレビを見ている時にアプリ上のボタンを押すことで、音声からアプリが番組を認識し、ツイッターやフェイスブックで共有も可能です。

IntoNowの画面

引用:TechCrunch

■IntoNowの番組認識

IntoNowは、音声からの番組認識がすごいです。同社独自のSoundPrintという技術を使っているようで、簡単に書くとアプリが収集した音声とIntoNow社が独自に構築した番組情報のデータベースと照合し、数秒内に認識させるというもの。このデータベースはリアルタイムで更新され続けており、TechCrunchの記事(IntoNow Can Hear What You’re Watching On TV. The Media Check-In Game Just Changed.)によれば、同社では全米の130チャンネルの番組を24時間365日収集し、そのデータ量は1億4000万分、年に換算すると約266年相当の時間です。このような膨大な量の番組がインデックス化されデータベースに保管されているとのこと。

実名Q&AサイトのQuoraでは、IntoNow社の技術者であるRob Johnson氏が「How does IntoNow recognize shows that are airing live?」(IntoNowは生放送の番組をどのように認識するのか?)という質問トピックに回答しており、その中で、この技術について魔法のようだ(as a little bit of a magic)と表現しています。権利上の問題で新しいDVDの対応はまだのようですが、今後はあらゆる映像コンテンツをその対象としていくはずです。

■メディアチェックインとテレビ

実はテレビとツイッターなどのソーシャルメディアは相性は悪くないと思えるところがあり、というのも、時節ツイッターのタイムラインを見ていると、複数の人がテレビを見ていることや番組内容について、リアルタイムでツイートしている時があります。確かにネットによってテレビ視聴時間は奪われている側面もあると思いますが、一方で、それでも人々がテレビを見る時間は一日あたりでは3時間弱もあります(図3)。
出所:「メディア定点調査 2010」(メディア環境研究所)

また、テレビ広告のマーケットは2009年は1兆7,139億円であり(電通調べ)、減少傾向とはいえ依然として広告費全体の5兆9,222億円の3割弱を占めています。IntoNowは現在のところアメリカだけのiPhone限定アプリですが、メディアチェックインというソーシャル性を活かしTV番組あるいは広告と連動すれば、これまでとは違ったテレビの価値が出てくるかもしれません。もちろん、良質なテレビ番組というコンテンツの提供が大前提ですが。


※参考情報

○ローカルチェックイン
Foursquare

○買ったものへのチェックイン
Swipely
Blipply

○ビールへのチェックイン
Untappd

○メディアチェックイン
Miso
Philo
Comcast’s Tunerfish
IntoNow

○その他
IntoNow Can Hear What You’re Watching On TV. The Media Check-In Game Just Changed.|TechCrunch
How does IntoNow recognize shows that are airing live?|Quora
メディア定点調査 2010|メディア環境研究所
た2009 年(平成 21 年)日本の広告費|電通


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投稿日 2011/02/12

渋滞という視点で見てみる

以下のグラフは、NEXCO東日本が調べた2009年の高速道路の渋滞要因です(図1)。

日本経済新聞 10/12/24より

(どうやって調べたのか・%なので100は何かは個人的に気になりますが)

■サグと渋滞

7割を以上を占めるのが「サグ・上り坂」となっています。日経新聞によれば、次のような説明がされていました。『サグ(sag)は英語で「たるみ」の意味で、緩い下り坂から緩い上り坂に切り替わる地点を指す。上り坂に入ったことをドライバーが認識しづらく、アクセルが遅れて自然と減速してしまう。後続車は前のクルマとの車間距離が縮まるため、ブレーキを踏んで一定の車間を保とうとする。こうしたブレーキが連鎖し、後ろに伝わっていくことで最終的にどこかでクルマが停止し、そこに渋滞が発生する。』(日本経済新聞 10/12/24より)

日本自動車連盟 (JAF)のサイトでは、これを図で説明してくれています(図2)。

引用:日本自動車連盟 (JAF)

■渋滞をASEPモデルで考える

このように、渋滞の発生原因としては、サグ部という物理的な要因と車間距離が短いという人的要因が存在します。車間距離が小さいことで渋滞が起こる様子は、「渋滞学 (新潮選書)」で詳しく書かれていて、次のようなASEP(Asymmetical Simple Exclusion Process、非対称単純排除過程)という確率過程モデル(図3)が使われています。

引用:渋滞学

このモデルでは、丸印が車を表していて、車は一車線の道路を左から右に走っています。一番左の車(図では最後尾)は前の車との車間距離が小さいため、t⇒t+1の時間経過後も、同じ場所にとどまっており、これが渋滞です。もう少しASEPモデルを見てみます(図4)。

引用:渋滞学

左から2番目の車は車間距離を十分に取っていたために、t⇒t+4の間に4マス進んでいます。一方、左から4番目の車は同じ時間で半分の2マスしか進めていないことがわかります。

このASEP(エイセップ)のモデルはとてもシンプルなものです。マスが一次元で並んでおり、マス内には丸印が存在するかどうかの1/0の世界です。そしておもしろいと思うのは、自動車の流れや渋滞という連続的な事象を、1/0という非連続なモデルで表しているところ。すなわち、アナログな世界をデジタルに置き換えているのです。

■渋滞を社会に応用する

書籍「渋滞学」では車の渋滞という現象をシンプルに表現することで、そこから様々なものに渋滞を応用しています。有名なレストランに並ぶという人の渋滞であったり、アリの行列、電車の運行、航空機、エレベーター、などなど。

電車に関しては例えば山手線に乗っていると、「後続の電車が遅れており、時間調整のため当駅に3分ほど停車します」というアナウンスが流れることがあります。なぜこのような措置を取るかについてもその理由が書かれています。後続の電車が遅れているということは、その電車が駅に到着する頃にはその分だけたくさんの乗客がホームで待つことになります。多くの乗客を乗せるにはその分だけ時間がかかり、この状況が重なっていくと、遅れている電車のダイヤがますます乱れてしまいます。よって、あえて駅に電車を停車させることで、全体の電車と電車の車間距離を最適化しているのです(もっとも乗っている乗客からすれば、停車せずに早く出発してくれとついつい部分最適な考えを抱いてしまいますが)。

本書でのここまでの渋滞事例は、渋滞を「悪」として捉えられていますが、一方で渋滞を「善」とする事例も紹介されているのが興味深かったです。具体的な事例は森林火災と伝染病。森林火災の場合は火を車・木を道路に、伝染病の場合は病原菌を車・人を道路に当てはめれば、いかに渋滞させるか、つまり拡散しないかを考えることが重要になります。

「渋滞学」という本は、高速道路では車間距離がおよそ40m以下になると渋滞が発生するという知識が得られるだけではなく、渋滞×○○という感じで様々なものを渋滞と掛け合わせているのが、「なるほど」と思わせてくれます。

ところで著者である西成活裕氏は、なぜ一見異なる事象を渋滞と結ぶ付けられるのでしょうか。そのヒントは日経ビジネスにありました(2010.10.4号)。「渋滞学者、数学で社会救う」記事では、同氏がある遊びを披露しています。『箱にたくさんの単語を書いた紙片を入れておく。毎晩2枚を取り出して、それらを論理的に結びつけるという「紙切れ連想術」だ。3~4年続けるうちに「野良犬と三角関数でも結びつけられるようになった」』。また、次のようにも書かれています。『数学や物理の理論を学んでいると、いくら高度な研究を発表しても社会に成果を還元できているという実感は持ちづらい。西成は専門である流体力学を何らかの社会問題の解決に使えないかと相性の良さそうな対象を実社会の中で探すようになった。』

■ネットと渋滞

渋滞という視点で考えた時に、個人的に今後気になるのはインターネットでの渋滞です。ここ最近、IPv4アドレスの枯渇が話題になっています。何が起こっているかの概要はニュースをマンガで紹介してくれている「漫画の新聞」がわかりやすいですが、簡単に言うと、ネットに接続するPCやモバイルなど1つ1つに割り当てられているIPアドレス(IPv4)が、底をつきそうだというものです。IPv4のアドレス数は約43億個ですが、近年の特にモバイルの世界的な普及により43億では不足するのだそうです。そこで、IPv6という次のバージョンに移行させるとのことで、これは全世界の人にアドレスを1万個割り当てても枯渇しないくらいのアドレス数みたいです。(詳しくは:「ASSIOMA」で解説されています)

自動車で例えるならば、IPv4アドレスは車のナンバーです。車が増えすぎたことで、「あ11-11」というナンバーでは組み合わせの数が足りなくなり、これからは「あ112-112」という新しいナンバーを導入する、と考えればイメージしやすいかもしれません。なお、引き続きIPv4は使用できるなので、今使っている(すでにアドレスが割り当てられている)PCやモバイルへは影響はないようです。ナンバーの例で言えば、「あ11-11」というナンバーの車はこれからも道路を走れるけれど、今後発売される新しい車は「あ112-112」となるということ。

とはいえ、車が増えるということはその分だけ道路が増えないと渋滞が発生してしまいます。これと同じことがネットの世界でも起こる可能性もあります。増大する通信料をまかなえるだけの回線や周波数を広げる必要があるのだと思います。まさに、車の渋滞を緩和するために道路の幅を広げるのと同じなのです。


※参考情報

対談:万物は流れ、渋滞する──創発的ASEPアーバニズムにむけて|10+1 web site

渋滞学者、数学で社会救う|日経ビジネス2010.10.4号

【ニュースの裏】IPv4枯渇問題|漫画の新聞

遂にIPv4アドレスが枯渇。IPv4アドレス枯渇の原因とこれからを解説します。|ASSIOMA


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。