投稿日 2011/03/05

AISASとSIPSから考える検索連動型広告とこれからの広告の方向性

ネット広告の代表的な手法の1つである検索連動型広告について、おもしろい記事がありました。
検索連動型広告がもたらした「悪しき」広告観|Adver Times(アドタイ)

■AISASモデルで見る検索連動型広告の位置づけ

ここで言う悪しき広告観とは、(マスメディアの広告に比べ)検索連動型広告は効果がはっきりと分かり費用対効果がちゃんと出せることだと記事では指摘しています。ネット広告ではクリック数が分かり、検索連動型広告では検索キーワードに連動する広告が表示されることから、一見すると広告効果が高いように思えます。しかし記事では、ここに落とし穴があると言います。

それは何か。落とし穴とは消費者の興味・関心・要求が生まれるプロセスの見落としですが、これを理解するために、AISAS(図1)という消費者の購買行動モデルで考えてみます。なお、AISASとは、Attention(注意)=>Interest(興味・関心)=>Search(検索)=>Action(行動)=>Share(共有)の頭文字をとったもので、電通が考案したマーケティングにおける消費行動プロセスを表す考え方です。具体的には、消費者がある商品を知ってから購入に至るまでは、注意が喚起され、興味;関心が生まれ、関連する情報を検索し、その商品やサービス購入し、そのことを共有する、というプロセスのこと。


話を検索に戻すと、当たり前ですが何かを検索するためにはキーワードが必要です。これはつまり、この時点で自分の興味・関心はそのキーワードに落とし込めているということです。これをAISASで見ると、すでに3番目のプロセスまで進んでいるのです。前述のように、検索連動型広告では、このキーワードに関連する広告が検索結果のページに表示されます。要するに言いたいのは、検索連動型広告で効果があるのは、すでに興味・関心が生み出された後の段階だということなのです。

これは、逆に言うと検索連動型広告では「知りたい」とか「欲しい」といった欲求を生み出すことができないことになります。そこで大事になるのが、記事が最後で問題提起するように「なぜ検索が起きているか」を考えること。AISASで言えば、Searchより前のAttentionやInterest。これが、消費者の興味・関心・要求が生まれるプロセスを見落とす落とし穴なのです。

■広告は目的により役割が違う

広告のその目的により役割が異なります。例えば、商品・サービス・ブランドのことを知らない人に知ってもらうこと(認知)、おいしそう・使ってみたいと興味を持ってもらうこと、機能を詳しく伝え買ってもらうこと、一度買ってもらった人にリピーターになってもらうこと、まわりの友達に進めてもらうこと、などなどです。これらの例はAISASの流れで挙げてみましたが、広告は5段階のそれぞれで役割が異なります。

ここから導かれる考え方として、検索連動型広告も手法としては有効であるが、かと言ってそれだけでは不十分ではないということ。すなわち、すでに検索キーワードレベルで興味・関心を持っている人への広告としての役割を持っている一方で、興味・関心を生み出す役割の広告が別に必要になる。

■セレンディピティと共感

最近読んでおもしろかったキュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる(佐々木俊尚 ちくま新書)にセレンディピティという言葉が出てきます(p.175)。これはserendipityという「偶然に素晴らしい幸運に巡り合ったり、発見をすること」を意味する英単語のことですが、著者の佐々木氏によれば、ネットの世界でのニュアンスとしては、「自分が探していたわけではないけれども凄く良い情報を偶然見つけてしまう」ことだと説明されています。

広告の視点で考えると、従来はこのセレンディピティを生み出していたのは、ブランド露出に貢献するマスメディアが担っていたように思います。TVCMで思いがけないモノを初めて知り(セレンディピティ)、店頭で見つけついつい買ってしまったみたいなプロセスです。個人的に思うのは、日本の広告費:5兆8427億円(日本の広告費2010|電通)のうちTV広告は依然として30%近い1兆7321円を占め、一方のネットは増加傾向とはいえ13%程度(7747億円)なのは、ここにも要因があるのではということです。

となると、ネット広告において、検索連動型では捉えられない「興味・関心を生み出す」ための広告、セレンディピティを生み出すような広告が今のところ足りない要素となります。ここに対するヒントは、同じく電通が2011年1月に発表したSIPSモデル(図2)にあるのではと思っています。

Source:SIPSモデル|電通から引用

電通によれば、SIPSモデルはAISASから進化したソーシャルメディアの視点を重視し、生活者の行動を深掘りした概念と説明されています(注.電通によればSIPSはAISASにとって代わるものではなくAISASはなくならないとしている)。ヒントとはSIPSの、特に「共感する(Sympathize)」の部分。先ほどセレンディピティとは偶然に凄く良い情報を見つけると書きましたが、自分にとってセレンディピティなことは共感につながると思っています。であればいかに消費者の共感を生み出すか、それを広告でできるかが検索連動型広告にはないピースとなります。

ただ、共感を生むのは必ずしも広告である必要はなく、それは前述の佐々木氏の言う、膨大な情報から選び意味づけをしてくれるキュレーターかもしれず、単に友人のお勧めなのかもしれません。そういえば、「フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)」(デビッド・カークパトリック 日経BP社)という本にはこんな記述がありました。『グーグルのアドワーズ検索広告は「要求を満たす」。対照的に、フェイスブックは要求を生み出す。(ザッカーバークたちの)グループはそう結論を出した。』(p.379)。AISASのモデルに当てはめると以下のイメージです(図3)。


要求を生み出すためには多数ある広告手法をどう組み合わせるか(クロスメディア)、あるいは従来の広告の概念とは違う、例えばソーシャル性を取り入れていくのか、企業側だけではなく消費者をどう巻き込んでいくのか(SIPSの「参加する(Participate)」)。このあたりは個人的にもとても興味がありますし、今後どう進化していくのかが興味深いところです。


※参考情報

検索連動型広告がもたらした「悪しき」広告観|Adver Times(アドタイ)
日本の広告費2010|電通
SIPSモデル|電通


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投稿日 2011/02/27

多様性を希望したい今後の検索サービス

グーグルの公式ブログ:「Official Google Blog」に、2/24付で次のような記事がエントリーされていました。Finding more high-quality sites in search

■グーグルの検索アルゴリズム変更

記事によれば、アメリカ時間の同日に検索アルゴリズムを大幅に変更したとのこと。改訂の目的は、質の低いサイトを検索結果から除外し、質の高いサイトを上位に上げるためというもの。グーグルによれば、質の低いサイトとは役に立たないコンテンツや単に他からコピーしたコンテンツなどを指しています。なお、検索アルゴリズムの変更はまずはアメリカだけのようで、今後は他国にも展開すると記事では言及しています。

ちなみに、今回のアルゴリズム変更前のことですが、グーグルの検索結果が自分の望む情報が得られない状況を批判した記事がTechcrunchに掲載されていました(記事:Search Still Sucks)。この記事の記者によると、旅行先の宿泊ホテルを探す時やガジェット製品レビューを検索する時は、グーグルは使っていないと言っています。つまり、この分野ではグーグルで検索をすれば自分に必要な情報よりも、そうでないサイトばかりが表示されるのだと思います。24日の今回のグーグルの検索アルゴリズムの変更はこうした状況を改善しようというものです。

グーグルが検索アルゴリズムを改善し続けるのは、彼らが次のようなゴールを設定しているからです。Our goal is simple: to give people the most relevant answers to their queries as quickly as possible. (Official Google Blogより) 目指すところは同じですが、ここ最近はグーグルとは異なる方法を取る検索サービスが登場しているのが興味深いです。

■グーグルとは異なる新しい検索サービス

まずはマイクロソフトのbing。これも2/24付のbingのブログによると、検索結果にフェイスブックの「いいね」ボタンの情報を表示させるそうです。どういうことかと言うと、検索結果のサイトに対してユーザーのフェイスブック内の友達が「いいね!」を投稿していれば、URLの下に友達のアイコンが並び、「いいね」としたことが表示されるのです(図1)。

引用:Bing expands Facebook “Liked Results” | bing Community

bingと同じようなことをblekkoという検索サービスがグーグルに挑戦しています。詳細はこちら:Blekko Goes Social, Now Lets You Search Sites Your Friends Have ‘Liked’ On Facebook | Techcrunch

■コンピューターvs人間

グーグルは検索アルゴリズム、すなわち技術を徹底的に追及することで、検索結果向上を目指しています。一方で、上記のbingやblekkoなどは、友達の「いいね」という人の情報を加味した検索結果を返します。

bingについては、表面的にはグーグル対マイクロソフトの対決に見えますが、実は起こっていることはグーグル対フェイスブックだと思っています。これは個人的な見方ですが、グーグルの思想には、あらゆることをコンピューターがするにようなる、という考え方があるような気がします。一方のフェイスブックは、人を中心に置くという思想であることが「フェイスブック 若き天才の野望」という本では、「人間中心型情報構造」という表現で書かれています(p.431)。

■多様な検索サービスを

では、これら検索サービスについてどう考えるのか。個人的には、グーグルの検索システムはこれからも必要であり、フェイスブックのようなSNSによるソーシャルグラフの情報を活用した新しい検索システムもあってもいいと思っています。現在の検索サービス市場のシェアはグーグルが独占している状況です(図2)。

出所:Experian Hitwise

多様な検索サービスがあり、そして実現されるのはグーグルの目指すゴールであってほしいと思っています。Our goal is simple: to give people the most relevant answers to their queries as quickly as possible.

そう言えば今日、あるテレビ番組で次のような言葉を耳にしました。
「人生での無駄な時間は探し物をする時間である。」

探し物が情報である検索にも、この言葉は当てはまるのではないでしょうか。


※参考情報

Finding more high-quality sites in search | Official Google Blog
Search Still Sucks | Techcrunch
Bing expands Facebook “Liked Results” | bing Community
blekko
Blekko Goes Social, Now Lets You Search Sites Your Friends Have ‘Liked’ On Facebook | Techcrunch
Experian Hitwise reports Bing searches increase 21 percent in January 2011 | Experian Hitwise


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投稿日 2011/02/20

リアルタイムウェブとチェックインの可能性を考える

「チェックイン」と言えば、数年くらい前であればホテルへの入館手続きであったり、飛行機への搭乗手続きを表す言葉でした。ところが、ここ最近は、Foursquareなどの位置情報サービスを使って、その場所に訪れたことを指すようにもなってきました。位置情報サービスでは、チェックインをすることでGPSからその場所を特定します。同サービスの特徴は、その情報をツイッターなどのソーシャルメディアを通じて友人に知らせることができたり、訪れたお店にチェックインをすればお店によっては割引クーポンをもらえたりする点、あるいはゲームの要素が取り入れられている点にあります。

■様々なチェックインとその本質

チェックインをするのは場所だけにはとどまりません。チェックインの考え方を応用すれば、例えば自分が買ったものなどにも適用できます。これはすでにSwipelyBlipplyなどのサービスで実現されています。ユニークな存在としては、今飲んでいるビールにチェックインをするというUntappdなんていうのもあります。目の前にあるビールをリストの中から選びチェックインすることで、自分が今ビールを飲んでいることを友人に伝えることができるサービス。実際にUntappdのページを見てみると、たくさんの飲んでいる発信がフィード上を流れています。

では、チェックインという概念の本質はどこにあるのでしょうか。それは、○○に訪れた・△△を買ったという「今自分がしている行為の可視化」だと思います。あるいは趣味嗜好の可視化と言ってもいいかもしれません。

■リアルタイムウェブが成立する3つの要素

それでは、なぜ人はこのようにリアルタイムで情報を発信するようになったのでしょうか。これに関しては、「リアルタイムウェブ-「なう」の時代」(小林啓倫 マイコミ新書)という本で書かれていることが参考になります。この本では情報がリアルタイムに伝わるウェブを「リアルタイムウェブ」とし、リアルタイムウェブが登場した背景には3つの要素があるとしています。3つの要素とは、ウェブ技術の進化、モバイル技術の進化、社会環境の進化(図1)。
出所:書籍「リアルタイムウェブ-「なう」の時代」

ウェブ技術の進化とは、例えば上記のようなFoursquareやSwipelyであったり、あるいはツイッターやフェイスブックもそうです。これらのウェブ技術の進化により、情報発信の速報性は既存のウェブサービスにはないレベルでのリアルタイム性が実現されました。

モバイル技術の進化も大きく寄与しています。いくらリアルタイムで発信できるようなサービスが出てきても、それをリアルタイムで利用できなければ宝の持ち腐れになってしまいます。モバイル技術の進化は、私たちがいつでもどこでもウェブにつながる環境を与えてくれました。位置情報サービスで言えば、その場所でその時に情報を発信することに価値があり、これが家に帰ってからパソコンを立ち上げて「○○へ行ってきた」では遅いのです。モバイルにおいては、スマートフォンによるスムーズな操作性は各種アプリの登場も、リアルタイムの発信を促進したのではないでしょうか。

3点目の社会環境の進化とはなんでしょうか。同書によれば、ポイントは「情報にスピードを求める人々の登場」と「プライバシー意識の変化」。スピードを求めるとはいきつくのはリアルタイムでの情報の送受信です。プライバシーへの意識については、日本でもツイッターやフェイスブックの登場で、それまでなら公にすることはなかった情報まで公開されています。本名、顔写真、経歴、趣味などであり、または自分が訪れた場所、買ったものも然りです。

3つの要素の詳細は本書に書かれていますが、以上のようなリアルタイムでの情報発信・共有ができるウェブサービスの登場、いつでもどこでもウェブにアクセスできるモバイル端末、リアルタイムでの情報共有に価値を見出した人々の増加。こうした条件により、リアルタイムウェブが成立すると、著者である小林啓倫氏は言います。

■メディアチェックイン

チェックインの概念は、まだまだいろんな可能性があると感じます。個人的に興味深いのは「メディアチェックイン」。いずれも海外のサービスですが、テレビ番組へチェックインするというコンセプトのものはいくつか存在します。具体的には、MisoPhiloComcast’s Tunerfishなど。そして最近知ったサービスの「IntoNow」(図2)。これはIntoNowというiPhoneアプリで、テレビを見ている時にアプリ上のボタンを押すことで、音声からアプリが番組を認識し、ツイッターやフェイスブックで共有も可能です。

IntoNowの画面

引用:TechCrunch

■IntoNowの番組認識

IntoNowは、音声からの番組認識がすごいです。同社独自のSoundPrintという技術を使っているようで、簡単に書くとアプリが収集した音声とIntoNow社が独自に構築した番組情報のデータベースと照合し、数秒内に認識させるというもの。このデータベースはリアルタイムで更新され続けており、TechCrunchの記事(IntoNow Can Hear What You’re Watching On TV. The Media Check-In Game Just Changed.)によれば、同社では全米の130チャンネルの番組を24時間365日収集し、そのデータ量は1億4000万分、年に換算すると約266年相当の時間です。このような膨大な量の番組がインデックス化されデータベースに保管されているとのこと。

実名Q&AサイトのQuoraでは、IntoNow社の技術者であるRob Johnson氏が「How does IntoNow recognize shows that are airing live?」(IntoNowは生放送の番組をどのように認識するのか?)という質問トピックに回答しており、その中で、この技術について魔法のようだ(as a little bit of a magic)と表現しています。権利上の問題で新しいDVDの対応はまだのようですが、今後はあらゆる映像コンテンツをその対象としていくはずです。

■メディアチェックインとテレビ

実はテレビとツイッターなどのソーシャルメディアは相性は悪くないと思えるところがあり、というのも、時節ツイッターのタイムラインを見ていると、複数の人がテレビを見ていることや番組内容について、リアルタイムでツイートしている時があります。確かにネットによってテレビ視聴時間は奪われている側面もあると思いますが、一方で、それでも人々がテレビを見る時間は一日あたりでは3時間弱もあります(図3)。
出所:「メディア定点調査 2010」(メディア環境研究所)

また、テレビ広告のマーケットは2009年は1兆7,139億円であり(電通調べ)、減少傾向とはいえ依然として広告費全体の5兆9,222億円の3割弱を占めています。IntoNowは現在のところアメリカだけのiPhone限定アプリですが、メディアチェックインというソーシャル性を活かしTV番組あるいは広告と連動すれば、これまでとは違ったテレビの価値が出てくるかもしれません。もちろん、良質なテレビ番組というコンテンツの提供が大前提ですが。


※参考情報

○ローカルチェックイン
Foursquare

○買ったものへのチェックイン
Swipely
Blipply

○ビールへのチェックイン
Untappd

○メディアチェックイン
Miso
Philo
Comcast’s Tunerfish
IntoNow

○その他
IntoNow Can Hear What You’re Watching On TV. The Media Check-In Game Just Changed.|TechCrunch
How does IntoNow recognize shows that are airing live?|Quora
メディア定点調査 2010|メディア環境研究所
た2009 年(平成 21 年)日本の広告費|電通


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。