投稿日 2011/03/26

ソーシャルメディアで株価は予測できるのか?

ニューヨーク州のペース大学Famecount.comとの共同研究により、フェイスブックと株価に連動性が見られると発表しています。
New study finds link between social media popularity and stock prices|FAMECOUNT
Can Facebook Popularity Predict Stock Prices?|All Facebook

■ソーシャルメディアを活用した株価予測事例

この研究内容の概要は次の通りです。スターバックス、コカ・コーラ、ナイキの3銘柄の株価パフォーマンスと、それぞれの企業のソーシャルメディア上での人気度には関連性があるとのこと。ソーシャルメディアとは具体的には、フェイスブック、ツイッター、YouTubeで、それぞれ、いいね!ボタン、フォロワー数、YouTube閲覧者数を使ったようです。上記記事では今回のデータ結果から、以下のようなコメントを出しています。Data suggests social media popularity may be a lead indicator of stock performance.

日本でも同じような取り組みがあります。ブログなどの口コミ解析サービスなどを提供するホットリンクでは、ビジネスとしてブログなどのソーシャルメディア情報を活用して予測サービスを展開しています。その中の1つに、株式市場変動の予測を行っています。同社のホームページによると、従来のテクニカル分析が中心の金融工学に対して、ソーシャルメディア分析を活用した新しい金融工学という位置づけで、意欲的な取り組みという印象です。課題意識としては、実際の株式の売買は、売買する人々の「今」の思考・感情に基づく判断の需給バランスで決定される面もあることから、ソーシャルメディア上のデータで、「今」の日本中の人々の思考・感情を抽出・分析することで、今後の株式市場の予測をする「ソーシャルメディア分析を利用した新しい金融工学」が生まれると考えている、としています(参考:株式市場変動の予測|ホットリンク)。

では、ホットリンクの取り組み内容です。同社が提供するブログなどのソーシャルメディア分析ツール「クチコミ@係長」を活用し、日経225先物の株価予測の研究を進めているとしています。ブログ記事情報と、過去の日経225出来高と価格情報との関係を、人工知能分野の技術である機械学習技術でコンピュータに学習させる事により、株式市場価格の予測モデルを構築したと発表しています。(検証シミュレーション期間は09年8月1日~10年6月30日、運用成績は純利益:160,720円、運用益:161%)

■実現には多くの参加者が必要

ソーシャルメディアの活用事例としてはおもしろい取り組みだと思う一方で、課題もあると思います。対象銘柄が誰もが知っているスタバ、コカコーラ、ナイキであったり、日経225だという点で、ソーシャルメディアと株価の連動が見られるのは、ある程度、いや相当にメジャーなものでしか表れないのではないか、と思いました。企業銘柄については、上記のようにBtoCでないと、たとえ知名度はあったとしても、フェイスブックやツイッターではあまり出現しないのではないかという気がします。

ところで、江戸時代の徳川吉宗(八代将軍)の時に実行された享保の改革の時に、経済諮問であった大岡越前(大岡忠相)という人がいます。当時は先物は投機的な行動で倫理的によくないという考え方が支配的だったようですが、大岡越前はそれに対して、次のような考えから堂島に米の先物市場を開設したそうです。「そのような投機的な行動をも含めて多くの市場参加者が参加して市場に厚みが出来ることによって、結果的に適切な価格形成がされて、値動きも小さくなる」(参考:大岡越前はケインズだった!|ひふみ便り vol.57

ソーシャルメディアを活用し株価を予測する場合には、ソーシャルメディアでもこれと同じことが当てはまるように思います。すなわち、ソーシャルメディア上でも多くの参加者が参加し情報発信に厚みができることで、結果的に適切な(真実に近い)判断形成がされるということ。これを踏まえれば、株式市場でのその銘柄への市場参加者と、ソーシャルメディア上での出現数という両方である程度のボリュームがないと、予測に耐えうるような連動性が出ないのではないでしょうか。

■塵も積もれば宝になる?

先ほど引用した「ひふみ便り」を発行している、藤野英人氏(年金・投資信託運用のレオス・キャピタルワークスCIO)の著書:ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義 (PHPビジネス新書)に、興味深いエピソードがあったので最後に紹介しておきます(p.177-178)。太平洋戦争の終戦直前の話です。

アメリカ・イギリス・ソ連は日本に無条件降伏を求める「ポツダム宣言」を1945年7月に発表しました。日本政府はその対応策を検討したものの、結論はなかなか出ず、日本海軍を指揮する連合艦隊司令部も政府の真意がわからずにいました。本土決戦なのか、降伏なのか、そこで司令部では参謀らが情報収集に走ったところ、株価にある兆候が見られたそうです。当時、株式市場は閑散としてたものの、8月に入り、突如として「平和株」とされる銘柄が上昇していたというのです。本書には、百貨店の三越、繊維産業の東洋紡、鐘紡など、消費や生活に密着する企業が挙げられています。

この現象は投資家の読みなのか、ポツダム宣言受諾情報がどこかから漏れたのか、その真意はわかりません。これはいわゆる、「噂で買って事実で売る」と言えるかもしれません。噂は期待とも解釈できますが、誰かが、本土決戦か降伏なのかという極限状態でも、終戦から日本にも平和が訪れることを期待して関連銘柄の株を買っていたのでしょう。

ソーシャルメディアを活用すれば、噂をデータ化し情報として活用できるようになるのかもしれません。1つ1つは単なる消費者・生活者のつぶやきのような存在だったにも関わらず、ネットというインフラ、ソーシャルメディアというプラットフォームが整備されることで、これまでは塵だったものが、積もり積もればやがて宝になるのかもしれませんね。


※参考情報

New study finds link between social media popularity and stock prices|FAMECOUNT
Can Facebook Popularity Predict Stock Prices?|All Facebook
株式市場変動の予測|ホットリンク
クチコミ@係長|ホットリンク
大岡越前はケインズだった!|ひふみ便り vol.57
大岡忠相|Wikipedia



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投稿日 2011/03/25

今こそ政治リーダーに求められるものとは

ここ最近の日経新聞の経済教室は、「大震災と日本経済」というテーマで連載が続いています。識者が様々な提言・主張を述べており、毎日記事を楽しみにしているくらい興味深い内容です。

その中でも特におもしろく示唆に富んでいたのが、3月23日の山内昌之東京大学教授の記事でした。記事では、日本で起こった3つの大きな震災を取り上げ、そこから政治リーダーに何が求められるかを提言しています。過去の歴史を振り返ることで得られる知見と、そこから導かれる示唆がとても印象的な記事でした。そこで今回のエントリーでは、備忘録の意味も込めて、3/23の経済教室:「官僚機構、再編し活用せよ」の内容整理を中心に書いています。

■関東大震災と阪神大震災に見るリーダーシップ

記事で取り上げられている3つの大震災は、関東大震災(1923年)、阪神・淡路大震災(1995年)、そして、日本史上最大の災害とも言われる江戸時代に発生した明暦の大火(1657年)。これらの災害を著者が取り上げた意図は、災害後の復興においてその時のリーダーがどういった姿勢・スタンスで臨んだかを見るためです。

関東大震災後の復興には、内務大臣であった後藤新平が強烈なリーダーシップを図ったようです。地震の5日後には「帝都復興の議」を提案しており、賛否両論があったものの東京が焦土と化したこの悲惨な状況を逆に絶好の機会と考えるべきだとの考えのもと、東京の復興を進めたようです(参考:東京が抱える都市問題-長期的プランを目指して-)。

阪神・淡路大震災では、当時の村山首相が官僚などの専門家を信頼し、仕事を任せることで復興に取り組みました。とはいえ、災害発生後の初動は遅かったことで、内閣支持率の急落に繋がりましたが(参考:村山富市|Wikipedia)、ただ、やがて対応の遅れの全貌が明らかになるにつれ、そもそも法制度をはじめとする当時の日本政府の危機管理体制の杜撰さが露呈したようです。

■明暦の大火に見るリーダーシップ

明暦の大火は、近代以降の東京大空襲などの被害を除けば、日本史上最大の災害と言われています。1657年1月18日に発生した大火で、その被害は江戸市街の6割を焼失し、「むさしあぶみ」などによれば死者は10万人を越えたとされています。江戸城も西の丸以外は全焼し、武家方と町方を問わず市中は焦土と化したとのこと。そのうえ、災害後のには急激な気温の低下吹雪によって被災者から凍死者が相次いだというから、悲惨な状況であったはずです。

このような大惨事においてリーダーシップを発揮したのは、4代将軍徳川家綱を補佐した保科正之(会津藩主)でした。経済教室で説明されていた保科正之の対応策は次の大きく2つです。

第一に、将軍を焼失した江戸城から移そうとする意見を退け、焼かれた本丸跡に陣屋を建てて江戸城を動くべきではないと決めたことです。これには、幕府が中央にどっしりと構え政策決定や指揮を一元化する狙いがあり、民衆が混乱している時に最高権力者がみだりに動いては、人心を乱しひいては治安悪化への影響を懸念してのことです。

第二に、被災者への食糧配布です。米や、寒さに震える人々におかゆを提供したようです。また、家を失った人々には救助金を与えました。幕府には財政不安を危惧する意見もあったようですが、保科正之はこんな言葉を残しています。「こうした時こそ官の貯蓄は武士や庶民を安心させるものだ。支出もせずに残しているだけでは貯蓄しないことと同じであり、前代未聞のこの状況では、むしろ出費できる力がある国を大いに喜ぶべきである。」

■政治リーダーに求められるのは「決断と責任」

このような保科正之の振る舞いから学ぶこととして経済教室の著者である山内教授は、最高指揮者は指揮所からみだりに動くべきではなく、たとえ善意の督励であっても現場に出かけるには時機を見計らい慎重でなければならないとしています。また、いかに重要であっても個別の事象にのめりこんで他の重要な課題を忘れてはいけない、すなわち、菅首相に問われるのは、政策的総合力と全体判断力であり、そのためにも必要なのはリーダーとしての決断と責任を取ることである、と。

■最後に

3月11日の地震発生後、喫緊の課題は被災者・避難者の救済でした。その後の福島第一原発・一号機で水素爆発が起こってからは、原発からの放射線漏れ対策も緊急かつ重要な課題になりました。

一方で、これらと並行して考えなければいけないのが復興対策です。それも、単に地震以前の状態に戻す復旧ではなく、関東大震災後に後藤新平が進めた東京の復興に見るような、復興のビジョンを示すことだと思います。被災した東北地方を中心にどういった方向で復興を進めていくのかという絵は、最終的にはリーダーである菅首相が描き、そのビジョンの下で、担当大臣や官僚を組織し、さらには復興機関を整えることではないでしょうか。これこそが、リーダーに求められる「決断と責任」なのではないかなと。

短期的には被災者・避難者救済と原発対策、中長期的には復興対策、これらを同時に見ることが、今回取り上げた経済教室が主張する「政策的総合力と全体判断力」だと思います。リーダーシップと一言で言っても、その性格は色々であり、実際に経済教室で取り上げている後藤新平と保科正之、村山富市とでは大きく異なります。ただ、リスクから逃げないこと、決断をすること、責任は自分が負うことなどは共通する点なのではないでしょうか。ぜひ菅さんには国難を乗り切るためにリーダーシップを発揮してほしいところです。木を見て森を見ずというようなことなく。


※参考資料

後藤新平|Wikipedia
関東大震災を振り返る|どこへ行く、日本-日本経済と企業経営の行方
東京が抱える都市問題-長期的プランを目指して-
村山富市|Wikipedia
保科正之|Wikipedia
明暦の大火|Wikipedia
明暦の大火(丸山火事、振袖火事)
明暦の大火による江戸の大改造|シリーズ 江戸建設 開府400年


投稿日 2011/03/21

今だからこそ考えてみたい少女パレアナの「ゲーム」




昨日は以前に読んだ「少女パレアナ」という本を読んでいました。この本に出てくる「ゲーム」のことを思い出し、もう一度読みたくなったからです。

■ 少女パレアナの「ゲーム」

主人公のパレアナは愛する両親を亡くしてしまった11才の幼い少女です。

彼女は孤児になったことで、叔母に引き取られます。このパレー叔母さんは気難しい人で、パレアナの周囲には同年代の子どもも少なく、叔母以外の周りの大人たちも時としてパレアナのことを冷たく扱います。

しかし、パレアナは明るくその素直な性格で、次第に周囲の大人たちを変えていきます。

大人たちの冷たい心を変えていったのには、もう一つ大きな要因があります。それがパレアナが小さい頃からやり続けているゲームでした。パレアナは「何でも喜ぶゲーム」と表現し、どんなこと・状況からでも喜ぶことを探し出す遊びだと言います。

ゲームのやり方は次のようなものです。

パレアナがパレー叔母さんの家にやってきた時、これから使うことになる屋根裏部屋に案内されます。パレアナーは自分一人の部屋を持てることにうれしくなります。イメージは膨らみ、カーテンと絨毯、そして壁にある絵にはきれいな額がかかった、かわいらしい部屋が自分のものになると期待を抱きます。

しかし、案内された部屋はパレアナのイメージとは程遠いものでした。壁にはなんの飾りもなく、屋根裏部屋なので、部屋の向こう側は屋根がほとんど床まで下がっていました。パレアナは息苦しさすら感じます。

パレアナはそんな状況でも喜びを見出します。

鏡のない部屋だから(自分が気にしている)ソバカスを見ないで済む、壁に絵がない代わりに窓からは、教会や木々・川が流れている景色を喜びます。そして、叔母さんがこの部屋をくれたことをうれしいと言ったのです。

これ以外にも、病気で長く閉じこもりがちな夫人を元気づけたり、足を骨折した町の誰とも話さないペンデルトンという男性の性格も変えていきます。

こうして周囲の人たちから愛される存在となったパレアナですが、ある時、自動車事故に巻き込まれてしまいます。そして、それが原因で腰から下が全く動かない下半身不随になってしまうのです。

どんなことにも喜びを探し出すことが得意なパレアナですが、この状況では何一つとして喜ぶことが思いつかなくなり、ただただ泣くばかりです。

そんなパレアナを心配した多くの人たちがパレアナを元気づけようとお見舞いに来ます。今ではパレアナのゲームは町中に広まっていました。だから今度は、自分たちを前よりも幸福にしてくれたゲームのことをパレアナに思い出してもらおうとしたのです。

ストーリーの最後ではパレアナはこの状況でも喜びを見つけ、うれしい気持ちを綴った手紙を書きます。ネタばれになってしまうので詳細は「少女パレアナ」に譲ります。

■ パレアナのゲームから考えたこと

この何でも喜ぶゲームは、もともとは亡くなったパレアナのお父さんが思いついたものでした。ある時、パレアナはお人形を欲しがったものの、手に入ったのは松葉杖というのが本書の設定でした。

しかし、悲しむパレアナにお父さんはこのように諭します。自分が松葉杖を使わなくていい状況がうれしいことだ、と。

このゲームは見方によればプラス思考にすぎないかもしれません。ただ、今回この物語を読んで感じたのは、単純にプラス思考とは言えないのではないかと思っています。

以下、2つほど、パレアナのゲームから思ったことを書いておきます。

1つ目が、このゲームは自分にとって不都合なことや悲しいことを受け入れた上で、喜びを見出していると感じた点です。例えば、パレアナの次のような言葉が出てきます。

なにかしら喜ぶことを自分のまわりから見つけるようにするのよ。だれでも本気になってさがせばきっと自分のまわりには、喜べることがあるものよ。(p.60)

これは目の前に起こったことをまずは受け入れて、その上で自分のまわりから喜べることを見出しているように思えます。

つまり、自分にとって幸せではないことから目をそらすのではなく、不都合なことに正対することをちゃんとしている。やや私の拡大解釈かもしれませんが、これがパレアナのゲームの大切な点だと思いました。

2つ目が、喜びを探す時の比較対象が他人ではないという点です。

このことを象徴していると思ったパレアナの言葉がこれです。

どうも、あたしはそういう考えかたが好きではないの。ほかの人たちが病気で自分が病気でないのを喜ぶっていうのはほんとうじゃないわ。(p.138)

このセリフは、パレアナの住む家のメイド・ナンシーがお医者さんをうれしい仕事だと思う理由を「自分は健康で、診察する病人のようでないことを喜べる」と言ったことに対するパレアナの言葉です。すなわち、病人・けが人の人たちと比べて喜ぶことに対して、パレアナは「ほんとうではない」と言ったのです。

パレアナのこの考え方は、なかなかに示唆に富むものだと思います。

というのも、私たちはどうしても、(自分よりも幸せではないように見える)他人と比較して、自分のほうが幸せであると考えてしまうのではないでしょうか。

しかし、そもそも、自分のほうその人よりも幸福だと思っても、実はそう見えるだけでその人は自分が認識したよりもずっと幸せかもしれません。また、こうした比較からの幸福感は相対的なものであり、比較対象が自分より幸せそうに見える人になれば、たちまち劣等感に変わってしまいます。

であれば、こうした他人比較から喜び・幸せを見出すことは果たして良いことなのか、それを言っているのがパレアナの上記の言葉なのではないでしょうか。

■ 最後に

少女パレアナ由来の言葉に「ポリアンナ症候群」というものがあります。現実逃避の一種で、楽天主義の負の側面を表す心的疾患のようです。Wikipedia には特徴として、「直面した問題の中に含まれる(微細な)良い部分だけを見て自己満足し、問題の解決にいたらないこと」と書かれています。

確かに、パレアナあるいはこのゲームについて、うがった見方をすれば単なる楽天主義とも言えるかもしれません。ただ、東北関東大震災の影響が依然としてある今、パレアナの姿勢は何か大事なことを考えさせてくれるように思います。


※参考情報

ポリアンナ症候群|Wikipedia


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。