投稿日 2011/07/10

「ソーシャルメディア実践の書」から得られたノウハウ以上のこと

ここ最近で読んだ本に「ソーシャルメディア実践の書 -facebook・Twitterによるパーソナルブランディング-」があります。

ソーシャルメディアを活用して個人レベルでできるブランディングのヒントがたくさん書かれていました。それ以外にも考えさせられたこともあり、興味深く読めました。

著者である大元隆志氏はソーシャルメディアの最も重要な特徴を次のように表現します。「世界中の人に、あなたというこの世でたった一つの存在を知ってもらうことを実現する最良のメディアである」と。

では、自分のこと、それも「あなたの魅力」をソーシャルメディアで伝えるにはどうすればよいか、これが本書の主題です。

この本では、自分自身のポテンシャル向上方法と、ソーシャルメディア活用し自分の魅力伝える方法の2点が指南されています。

■ ソーシャルメディアを活用する心得

本書の構成は大きくは3つです。

  • ソーシャルメディアとは何か(第一章・第二章)
  • ソーシャルメディアでの実践ノウハウ(第三章・第四章)
  • ソーシャルメディアの未来(第五章)

本書はタイトルが「ソーシャルメディア実践の書」とある通り、ソーシャルメディアで自分の魅力を伝えるためにどう考え、何をすればよいかが具体的に書かれているのが特徴です。

よく、ソーシャルメディアでは絆をつくることが大切であるということが言われます。例えば、企業が消費者と絆を形成することで、自社のブランドや商品のファンになってくれる、これをソーシャルメディアであれば実現できる、というようなことも書かれていたりします。

ただ、肝心の「絆をどうつくるか」はあまりフォーカスされていないような気がします。それが本書では、個人レベルでもできる内容が書かれています。もちろん、著者が言うように本書のノウハウを実践したとしても、成果が出るには早くても半年くらいはかかるとあるように、継続してやるのはそれなりの努力は必要です。

本書で提示されているソーシャルメディアの実践ノウハウは2つに分けることができます。1つがソーシャルメディアのリテラシーで心得、2つ目が具体的な活用ノウハウです。

1つ目の心得ですが、私が印象に残った内容は以下のようなものでした。

  • ソーシャルコミュニケーションの王道は人から尊敬され人望を集めていくこと
  • パーソナルブランディングは目立つことよりも信頼されることを重視するべき

■ ソーシャルメディアの実践

それではソーシャルメディアを使って、人望を集め信頼されるにはどうすればよいのでしょうか。

著者のアドバイスが「実践の書」として書かれていて、一言で表現すると必要なのは「評判を管理していく能力」です。

評判を管理し、自分への信頼を少しずつ積上げていきます。必要な能力は3つだと著者は言います。

  • キューレーション能力
  • 表現力
  • コミュニケーション能力

なぜこの3つなのかというと、それはソーシャルメディア上での自分の魅力を伝えるための活動と関係しています。

つまり、情報をインプットするためには目利きとしてのキュレーション能力が必要になり、インプットした情報をコンテンツ(例.ブログ記事にする)にして自分の魅力を伝えるために表現力が、ソーシャルメディア上で交流するためにはコミュニケーション力が要求されるというものです。このサイクルをまわすことで評判を管理するのです。

詳細は本書に譲りますが、この3つの能力のうち表現力に該当する情報提供について、著者の考え方に共感しました。

例えば、ツイッターやブログで何かをツイート・記事のエントリーをするということは情報を提供することになりますが、その時に重要なのはいかに質の高い情報を発信し相手に貢献できるか、価値を提供できるかという考え方です。ただ読んでもらうだけではなく、そこに自分ならでは視点・考え方をプラスアルファで提示し、共感をしてもらえることを目指します。

ここに著者の哲学がありました。この本の最後の「結び」で、次のようなことが書かれていました。

  • ソーシャルメディアで活躍する最もよい方法は誰かを幸せにすること
  • あなたの隣にいる人を幸せにしたいと願う気持ちが成功の秘訣である

これらが、著者が本書を通じて最も伝えたかったことであり、この本を通じて書かれていた実践の仕方はこの考え方がベースになっていると思いました。

■ ソーシャルメディア時代の4つの絆から考えた本当に大切なもの

ここまでは本書のソーシャルメディア実践の考え方・ノウハウでした。この本に書かれていたことで印象的だったのはノウハウ以外にもありました。

おもしろいと思ったのは、ソーシャルメディア時代には四種類の絆が形成されると書かれていたことです。強い絆、仲間の絆、弱い絆、一時的な絆です。



上図は本書(p.318)からの引用です。

ソーシャルメディアにより、それまでは家族などの強い絆と友人などの仲間の絆という2つだったものが、弱い絆、一時的な絆(ちなみに図では一次となっていますが一時のはずです)が形成されるようになると言います。

弱い絆は例えばツイッターで2、3回やりとりした、ソーシャルメディアを通じて知り合った人などの相互フォローの関係です。一時的な絆はあるトピックでその時だけ一時的にコミュニケーションをとったことのある関係です。

上図のソーシャルメディア時代の4つの絆について、弱い絆や一時的な絆はソーシャルメディア以前にも存在はしていたと思います。

というのも、ソーシャルメディア以前にも、弱い絆は、例えば会社内で顔と名前は知っているけれども、あまり話したことがない人やメールでしかやりとりをしたことがない人です。一時的な絆は、業界カンファレンスや何かの集まりで会って話したけど、それ以降は特にコミュニケーションが発生していない人などがいたからです。

ただし、ソーシャルメディアの使用以前と以後で大きく違うのは、この関係の人たちから得られる情報です。

弱い絆や一時的な絆からの情報(業界動向、ニュースなど)も、時には有力なものに成り得ると実感するからです。

例えば自分の専門ではない話題(経済、政治など)のニュースや考察などの情報は、ツイッターで流れていることが多く、それは多くの場合弱い絆や一時的な絆である人たちからのものです。あるいは、自分がいる業界の情報も、時にはこうした人たちが情報源になることもあり、情報が入ってくる速さ・頻度・質がソーシャルメディア使用以前よりも明らかに向上しています。

これは絆が弱かったり、一時的だったとしてもソーシャルメディア上でつながっていることが大きいのではと思います。

自分にとって大切なのは家族などの強い絆や友達や一緒に仕事をしている人たちで構成される仲間の絆です。そこに弱い絆と一時的な絆が加わり、様々な関係性が形成されます。

ソーシャルメディアはこうした関係性を充実させてくれるツールだと思いますし、いくらソーシャルメディアの使い方に詳しくてもそこにコミュニティがあるかどうかで楽しさが違ってきます。

本書で書かれているソーシャルメディアの実践も参考になりますが、一方で自分が持つコミュニティは財産とも言え、お金では買えない大切なものだということが本書を読んであらためて考えたことでした。

※参考情報
ソーシャルメディア実践の書 -facebook・Twitterによるパーソナルブランディング-|ASSIOMA:ITmedia オルタナティブ・ブログ


ソーシャルメディア実践の書 ーfacebook・Twitterによるパーソナルブランディングー
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投稿日 2011/07/03

グーグルが新SNSのGoogle+をリリースする2つの意味とわくわく感

ついにGoogleも動いてきました。同社が世界に発表した新しいSNSであるGoogle+です。(11年7月2日現在まだパイロットテスト段階で、一部のユーザー限定で使用が可能)

参考:Introducing the Google+ project: Real-life sharing, rethought for the web|The Official Google Blog

今回のエントリーでは、Google+について以下のような論点で書いています。

  • Google+とは何か?Facebookとの違いは?
  • なぜGoogleはSNSに取り組むのか?
  • Google+が普及するとどうなるのか?そして期待すること
投稿日 2011/06/26

Facebookが計画中のMusic Dashboardの意味を考えてみる

おもしろいニュースが流れていました。GigaOMによれば、FacebookがSpotifyも含めた複数のオンライン音楽サービスを統合し、Facebook上での新しい音楽サービスを計画しているようです。
Revealed: Facebook’s music plans tap Spotify, others|GigaOM

■Facebookが計画中の新しい音楽サービスとは

GigaOMの記事で紹介されていた内容をいくつか抜粋しておきます。計画中の音楽サービスの機能としては大きく2つです。

1つ目が、フェイスブック上で音楽を再生し聴くことができる機能です。フェイスブックの右下にはチャットのアイコンが表示されていますが、ここに再生/停止ボタンが表示される。PCで音楽を聴くには、iTunesやWindows media playerなどがあるかと思いますが、フェイスブック上でも聴けるようになるのです。

2つ目が、自分たちがよく聞いている音楽や好きな曲を友達と共有できるというものです。フェイスブックのサイトの左上(ニュースフィードなどがあるところ)に「Music」が新しく追加され、それをクリックするとMusic Dashboardのページが表示されるようです。Music Dashboard上では具体的には、フェイスブックでの友達がレコメンドする曲やアルバム、友達がよく聞いている曲、あるいは今聴いている曲などが表示されます。

これらのサービスをフェイスブック単独ではなく、すでに存在している例えば音楽ストリーミング配信サービスなどのSpotifyと連携することで、フェイスブック上で実現させようとするものです。

■滞在時間の長いFacebook上で音楽が聞ける

ここからは、計画中のフェイスブックの音楽サービスの意味について考えてみます。まず、上記で1点目として言及したフェイスブック上で自分が聴きたい曲が簡単に再生できる機能ですが、これだけでも魅力的なものだと感じます。フェイスブックの滞在時間がグーグルを抜いたというニュースが以前に話題になったことがありましたが、その後もフェイスブックの滞在時間は増加しているようです。滞在時間の長いサイト上で自分の好きな音楽が簡単に聞けるような仕組みが追加されるのです。

引用:Trend in Share (%) of Time Spent for Top 5 U.S. Web Properties|comScore

■Facebook上で音楽を共有できると何がいいのか

上記2点目で書いた音楽を友達同士で共有するというのも、フェイスブックとすごく相性がいいのではと思います。既存のサービスでも音楽を友達を共有するようなソーシャルのサービスはいくつかありますが、個人的な実感としてはまだあまり普及していない印象があります。例えばAppleがPingというソーシャル機能を去年リリースした時には、期待したのですが、自分自身も今ではほとんど使っていませんし、自分のTLでもたまに流れているくらいの印象です。

これはなぜだろうと考えた時に、友達同士で音楽を共有する場がうまく構築されていない点にあるように思います。確かにツイッターとPingを連携すれば、ツイッター上でおすすめの曲名を表示させたり、iTunesへのリンクをつけることもできます。またツイッター上でも試聴はできるのですが、個人的にはツイッター上のタイムラインでの音楽の共有は限定的なものだと感じます。というのは、TLでは他の情報もたくさん流れておりその中でPingの情報があったとして埋もれてしまったりなど、Pingからの音楽情報もその他多くの情報の1つでしかないからです。

それに比べてフェイスブック上にMusic Dashboardができれば、そこは音楽を共有することを目的とした設計になっているはずで、だからこそ、そこには友達がおすすめする曲以外にも、今聴いている曲なども表示されるような仕組みになっている。さらにはいいねボタンだったりコメントがつけられ、その情報がニュースフィードにアップされ、フェイスブック上でのコミュニケーションがより活性化されていくのではと思います。単に自分の好きな曲を友達にも紹介する以外にも、今自分が聞いている曲を共有できたり、その時の私の気持ちを音楽で共有したりとか、テキストや写真・動画などでのコミュニケーションとはまた違ったやりとりが発生するのではないかなと。

なお、自分の聴いている曲やおすすめする曲も、おそらく公開する範囲が自分で決められるのではないかなと思うので、共有するかどうかやどの音楽を共有したいかはユーザーが自由に選択できるようになり、このあたりのプライバシーの扱いはフェイスブックも慎重にやってくるはず。

このようにフェイスブックというプラットフォームに音楽サービスが乗ることで、ユーザーにとって使い心地のよい環境になるだけではなく、楽曲の提供者側にとっても自分の曲を知ってもらう場ができることが期待できます。このあたりは個人的な憶測にすぎないのですが、知名度が高くないアーティストでも自分たちの音楽をMusic Dashboardを利用してフェイスブック上でアピールすることができ、それがいいねボタンで広がっていく可能性も出てきます。自分たちの活動やPRなどをフェイスブックページでやるだけではなく、実際に視聴してもらったり、さらにはフェイスブッククレジットとかもうまく使えるようになれば、フェイブック上で自分たちの楽曲を売ることだってできる。フェイスブック上の広告も音楽の要素が入ったものができ、そこにフェイブックが持つ最大の強みであるソーシャルグラフ(人間関係)を活用されていくのでしょう。マーケットは世界のフェイスブックユーザーなので、フェイスブック発の世界的なヒット曲というのも将来的には出てくるかもしれません。

GigaOMによれば、Music Dashboardについては2011年8月に開催されるf8開発者カンファレンスで詳細が発表されるのではないかとしています。GigaOmの記事では、情報源は明らかにされていないものの複数の情報筋からのようなのでまだはっきりとは見えていない部分もありますが、フェイスブックでの音楽サービスの話は今後も注目しておきたい動きです。

※参考情報

Revealed: Facebook’s music plans tap Spotify, others|GigaOM
Will Facebook Launch a Music Service in August?|Mashable
Facebook’s Music Dashboard Could Unite the Fractured Streaming Market|Inside Facebook
Facebook May Soon Launch Music Dashboard|All Facebook
Facebook、Spotifyを統合する新しい音楽サービスを計画か--GigaOm報道|cnet Japan
Trend in Share (%) of Time Spent for Top 5 U.S. Web Properties|comScore

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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。