2011/08/07

民放5社×電通のネットテレビは普及するのか?期待したいVODを考えてみる

先日、テレビに関してある発表がありました。民放キー局 5 社と電通が共同でインターネットテレビを来春に実用化するというものです。

電通のプレスリリースでは、「インターネットTV上において、民放各社が主体となった有料課金型のVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスを共同で推進していくことに基本合意」とあります。

参考:民放キー局 5 社と電通が共同でVODサービスを推進|電通


民放5社 × 電通の VOD サービスとは


電通によるリリース内容をもう少し見てみます。

この民放VODは、テレビの価値を向上させるという共通認識のもと、視聴者により多くのテレビ番組への視聴機会を提供することで、テレビ番組の視聴者層を拡大し、テレビ番組のファンを増やそうとするものです。

(中略)

民放VODは、簡単で誰でも使いやすいユーザーインターフェイスを開発し提供することを検討しています。

(中略)

この民放VODを、インターネットTVだけではなく、スマートフォン・タブレット端末などマルチデバイスにも広げ、リアルタイム視聴に繋げる流れを作り出すことにより、テレビの価値の最大化を図っていきます。

リリースでは抽象的な表現にとどめている印象ですが、この方向性は正しいと思います。つまり、TV番組視聴者を増やすために、ユーザーインターフェイスに優れ、TVだけではなくスマホやタブレットPCでも視聴可能としていくというのですから。

もう一つ印象的だったのは、電通が民放5社をとりまとめている点。個人的にこれができるのは電通以外に見当たらないのではと思います。

このニュースを上記のリリース前に報じていたのが日経でした。電子版では同日の午前2時頃に、紙媒体でもその日の朝刊に掲載されていました(テレビでネット動画も自在に 民放5社と電通、来春に|日本経済新聞)。

こちらではVODサービスのイメージ(右図は日経から引用)や課金体系など、少し具体的な内容が報じられています。中身を見ると、少し残念な気持ちになりました。そこに書いてあったのはこの方法で本当に普及するのかという内容だったからです。


普及への3つのハードル


有料課金型VODということでその価格体系ですが、1時間番組が1本300円前後となる予定だそうです。

会員登録をすれば銀行からの引き落としなどで課金されるとのこと。300円を払ってでも見たいような番組がどれくらいあるかというのが、1つ目に感じた普及へのハードルです。

もちろん、関連する動画も見られるという付加価値があるので単純には現在の放送内容との比較はできません。しかし、それにしても番組1本で300円というのはかなり強気な価格設定だと感じます。

サービスを実際に見てみないとなんとも言えませんが、個人的には1ヵ月で10本までは無料、見放題は300円/月くらいのイメージ。これでもVODは使わないかもしれません。

2つ目のハードルがコンテンツです。

日経には、「民放5社合計でドラマやドキュメンタリー、スポーツなど過去に放送した動画は6500本あり、今後増えていく。」とありました。

今後は増えていくことに期待はしたいですが、現時点で5局で番組動画数が6500本というのは少ないです。このVODサービスで期待したいのは、上図にあるようにどれだけ関連する動画と連動するかだと思いますが、コンテンツの量が不足する感が否めません。

コンテンツ数を増やすとともに有料の価値に見合う質も求められますが、個人的には現在TVで放送されている番組の質からすると、300円という価値に見合うかというとちょっと厳しいと感じます。

3つ目のハードルについてです。

現在発売されているテレビではこのサービスを受けられないため、家電数社が来春にも対応機器を発売する方向で準備を進めている点です。TVの買い替えが必須というのは普及には相当にハードルが高いです。

この間、エコポイントやアナログ放送終了に伴う地デジ対応TVの買い替えが大量に発生しています。電通のリリースでは14年度の本格運用を目指しているとありますが、TVの平均使用年数は10年以上というデータもあります(家電リサイクル法の施行状況|経済産業省)

例えば、せめてアップルTVのように既存のTVにつなげるだけでOKとかでないと、この有料VODのためにすぐにTVの買い替えが起きるとはなかなか思えません。

以上3つを整理すると、価格(Price)、コンテンツ(Product)、見るために新しいTVが必要(Place)ということで、マーケティング4Pで言うところのうち、普及には3つのハードルが存在します。(残りのPromotionは、日経がフライング気味で具体的に報じたことで特にネット上で否定的な意見が多いように感じるのはうがった見方かもしれませんが)


なぜ電通はVODサービスに取り組むのか


さて、ここであらためて考えてみたいのが、なぜ電通がこの有料課金型VODを推進するのかという論点です。個人的な印象ですが、民放5社のとりまとめは簡単ではなかったように感じます。それをやってでも電通にとって得られるメリットは何なのかです。

電通のリリースでは「テレビ番組の視聴者層を拡大し、テレビ番組のファンを増やす」とありますが、やはりここにはTV広告を拡大させるという意図があると考えるのが自然だと思います。

そもそもこのVODサービスが純粋に視聴者からの60分番組1本で300円という課金だけで成立するのか、課金+広告というビジネスモデルなのかは現時点では不明ですが、電通が絡んでいることを考えると後者となるように思います。では広告をどんな形で入れてくるのか、実はこのVODのニュース発表の数日前にあるリリースを発表しています。

参考:電通とジュピターテレコム(J:COM) VOD サービスにおける新たな広告モデル『CM 割』を開始|電通


中身を要約すると、JCOMのVODサービスで、企業のCMを視聴すると視聴料が割り引きとなる広告モデル「CM割」を9月1日から3か月間試験的に始めるとのことで、割引は105円。このニュースを報じたAdverTimes(アドタイ)によれば、視聴料は60分のテレビ番組で315円とあります。

参考:CM視聴で視聴料105円割り引き 電通とJCOM、VODで新たな広告モデル|AdverTimes(アドタイ)


60分番組が300円程度。これで電通の意図も見えてくるのではないでしょうか。つまり、これは偶然の一致ではなく、民放5社とのVODを考慮した上での広告モデル構築のためのパイロットテストではないかと思います。

JCOMと取り組んでいる試験サービスでは、既存のTVの広告モデルよりもう一歩踏み込んでいる印象があります。というのは、用意されているCMは60秒~180秒の長尺版で(ジャンルの異なる8つのCMの中から見たいものを1つ選ぶ)、ユーザーは視聴後に簡単なアンケートが用意され、その後に番組視聴となるようです。

電通の説明では、「視聴者は複数業種の中から自ら選んだCMを視聴するので好意を持って見てもらえる。また長尺タイプのCMを見てもらうことで、より商品・ブランド理解につながる」とあります。

個人的には、315円から105円の割引があってもまだ高いように気がしますが、広告無しの視聴を追加で課金するのではなく、広告ありを割引するという「引き算」の発想はなかなかおもしろい試みです。


期待したいVODサービス


最後に、VODサービスに関してあらあめて思うことを少し。今回の発表では民放5×電通という組み合わせでしたが、これが電通ではなく例えばニコニコ動画やYouTubeだとどうなったか、これを少し考えてみます。

YouTubeであれば、ユーザー数という規模のメリットがあります。つまり世界中にユーザーがいる。もちろん日本語のTV番組は基本的には日本語なのですが、

Googleには音声翻訳やYouTubeへの自動字幕表示技術があります。もっと技術精度を上げる必要はありそうですが、この当たりをうまく活用すれば日本語番組を自動的にその国の言語で字幕表示させることも可能になることが期待できます。

参考:Google、音声入力で57言語を翻訳できるアプリ『Google Translate』配信開始|Searchina
参考:YouTube、日本語音声を認識して字幕を自動生成・表示する機能を追加|INTERNET Watch

グローバルに日本のTV番組を配信できるとして、アニメなど日本には有力なコンテンツがあります。あるいは四季折々の日本や文化遺産、観光地としてもアピールできるかもしれません。

民放5社、あるいはNHKも含めた日本のコンテンツ資産をグローバルで普及しているYouTubeと組み合わせることで日本の良さを知ってもらえるかもしれません。

あとはYouTube(Google)、TV局、コンテンツプロバイダー、広告主の各プレイヤー間でうまくマネタイズできる仕組みがあり、ユーザーにとっての優れたユーザーインターフェイスがある。これら価値に見合う価格体系。これくらいの構想であればわくわくします。


※ 参考情報

民放キー局 5 社と電通が共同でVODサービスを推進|電通
テレビでネット動画も自在に 民放5社と電通、来春に|日本経済新聞(11年8月3日)
民放5社が新たなインターネットテレビを来春に実用化、専用テレビも同時発売|GIGAZINE
家電リサイクル法の施行状況|経済産業省
電通とジュピターテレコム(J:COM) VOD サービスにおける新たな広告モデル『CM 割』を開始|電通
CM視聴で視聴料105円割り引き 電通とJCOM、VODで新たな広告モデル|AdverTimes(アドタイ)
Google、音声入力で57言語を翻訳できるアプリ『Google Translate』配信開始|Searchina
YouTube、日本語音声を認識して字幕を自動生成・表示する機能を追加|INTERNET Watch

2011/07/30

マクドナルドの経営戦略がおもしろい




日経ビジネスで短期連載されていた 「日本マクドナルド原田泳幸の経済教室」 は興味深い記事でした。マクドナルドの経営手法について、原田氏 (社長・会長 CEO を兼任) 本人が語るというものでした。


原田経営の土台は QSC


第一回で紹介されたのが原田経営の考え方でした。2004年に原田氏が CEO に就任した当時、マクドナルドは7年連続で既存点売上高が落ち続けるという状態でした。

その後、結果的には7年連続で同売上が上がり続けることになり、10年12月期決算では経常利益が上場以来最高益を更新するのですが、どん底であった CEO 就任当時にまず取り組んだことが、「マクドナルドらしさに立ち返ること」 だったそうです。

2011/07/17

Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか

それにしてもスケールの大きなニュースです。Ad Age DIGITALによれば、グーグルがウェブデータの取引所を創設する構想を持っているとのことです。
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL

■グーグルが計画中のウェブデータ取引所とは

まずは開発中とされるグーグルのこの取り組みについて見てみます。簡単に言うとグーグルがやろうとしているのは、ユーザーデータが売買できる仕組みおよび場(取引所)を提供するということです。ユーザーデータは、ネットでの行動履歴データで例えば訪れたサイトや検索した時に入力した単語(検索ワード)など。このデータが売買されるわけですが、売り手はウェブサイトなど、買い手は広告主となります。

広告主は何のためにデータを買うかというと、広告をどういう人たちに表示をさせるかというターゲット情報を得るためです。広告の基本は、1.人の集まるところに出す(だからTV広告では視聴率が重宝される)、2.広告を見てほしい人に見てもらう、だと思っていますが、この2点を考えるためにターゲット情報が活用されます。ここで言うターゲット情報というのが、上記のウェブサイトなどから提供される「ネットでの行動履歴」に当たりますが、ネットでの行動履歴というのは、言い換えればその人の興味・関心のデータです。というのは、ネットで何かのサイトや動画を見る、検索をするなどは、そこに何かしらの興味があってのことで、上記のAd Ageの記事では「新車を購入しようとしている人」、「旅行を計画中の人」などの例が書かれていますが、行動履歴を積み重ねるとその人が何に興味を持っているのか、さらにはどういう人なのかもある程度はわかるようになります。

グーグルが開発しているこのデータベースが実現すれば、広告主は自分の広告を表示させたいターゲットを抽出することができ、広告を見てもらいやすくなり購入にもつながることが期待できます。ユーザーデータについて需用と供給が成り立つことで、それに対してグーグルの役割は、あらゆるユーザーデータを一つに集約した巨大データベースを構築し、売り手と買い手の間で円滑にデータが売買されるような仲介役なのです。

■あなたにとってどういう意味があるのか

では、仮にグーグルのウェブデータ取引の仕組みが実現されるとして、その場合に私たちに一体何をもたらすのかということを考えてみます。認識としてあらためて考えてみたいのが、自分たちのまわりにはたくさんの広告であふれているものの、それらのうちどれだけの広告に興味・関心を持ち、さらにはその広告の商品・サービスを買うところまで至ったかという点です。ウェブ上でも多くの広告が表示されますが、個人的には大部分はクリックすることはなく、もっと言えば何の広告かの認識すらしていないこともあります。

この状況を冷静に考えてみると、現在の広告は多くの場合でミスマッチが起こっているのではないでしょうか。つまり、広告が表示されていても、見る人にとってその時点で興味関心は持たれていない、本当に見てほしい人(見てくれる人)に表示されないというミスマッチです。これはあらためて考えてみると残念な状況です。とういのも、ミスマッチが発生しているということは、その広告の広告主・消費者・広告媒体の三者それぞれにとっても望ましい状況ではないと言えるからです。広告出稿費を払ったのに広告の効果が出ない、見たくはない広告が表示される、表示広告に効果が見えにくいと広告媒体としての価値が上がらない、といった感じに。

広告というのは必要な人に適切なタイミングで提供できれば、消費者と広告主の双方にメリットがあるものだと思っています。広告の中には関心を抱くものも多少はあるわけで、広告で存在をはじめて知ったり、ちょっと買ってみようかなと思うこともある。あるいは実際に広告の影響で買うこともあります。

少し前置きが長くなりましたが、グーグルの取り組みが実現されるとこうしたミスマッチが解消していく可能性があると考えます。グーグルが提供している検索連動型広告は検索ワードという興味・関心に連動した広告なわけですが、それよりも幅広いネットでの行動履歴をベースに広告を表示させるターゲットを選んでくることができるからです。これにより、広告が必要な人に適切なタイミングで提供されることが期待できます。ふと○○が欲しいと思った時に向こうから知らせてくれたり、自分の中で完全なニーズになっていないことまで提案してくれる、なんてことが実現できるかもしれません。

■独占とプライバシーの問題

一方で、自分のネットでの行動履歴が使われることに対しての反発も当然起こってくるでしょう。このようなウェブのユーザーデータはクッキーという機能を活用することになるのですが(他にも仕組みはあるのですが)、自分のデータが提供されることがわかっていて許諾が得られている場合はいいとして、ユーザーにとっては自分のウェブデータが活用されていることにも気づいていないケースもあり、このあたりは個人情報やプライバシーの問題が必ず出てくると思います。

それにただでさえグーグルは独占禁止法やプライバシー問題で、アメリカやヨーロッパの独禁・司法当局からの監視の目が増している状況です。そんな中、グーグルが個人のウェブデータを集約し、売買できるようなデータベース・仕組みを構築するとなれば、独占禁止法とプライバシー問題の両方で懸念の声が出てきてしまう恐れがある。その実現は簡単ではないというのが個人的な見解でもあります。
フェイスブック・米当局…グーグル支配に包囲網|日本経済新聞(11年7月7日)
[FT]グーグルに独禁法関連の疑い相次ぐ 今度は欧州で訴訟 |日本経済新聞(11年6月28日)

■グーグルにとってなぜこのプロジェクトなのか

それでもなお、グーグルはこのプロジェクトを前に進めていくのでしょう。なぜなのかを整理するために、ここではグーグルの目的を考えてみます。1つ考えられるのは、ユーザーの行動履歴というウェブデータが集まるデータベースが構築できそこにデータを売る/買うプレイヤーが集まる、こうしたプラットフォームをグーグルが支配することです。支配できれば、課金モデルが構築できます。一定の手数料という形でグーグルにとっては持続的な利益を得ることができる。

この可能性はなくはないのですが、個人的にはグーグルの目的はこのビジネスモデルではないのではと思っています。それはグーグルがアンドロイドOSを無償提供し、あくまでアンドロイドの普及を進めているのと同じで、グーグルにとって大事なのはあらゆるウェブのデータが集まることです。グーグルの目的は、データが集まり、広告主がそのデータベースからターゲットを抽出できる、本当に必要な人に広告が表示でき広告のマッチング精度・効果が上がる、そしてオンライン広告の価値がより向上すること。これがグーグルが描いていることなのではないでしょうか。

冒頭で引用したAd Ageの記事はタイトルにAmbitious Planという表現が入っており、さらに記事ではこのプロジェクトに詳しいグーグルの幹部によれば「one of the most ambitious in Google's march to become a brand advertising giant.」と表現し、グーグルがブランド広告の巨人になるためは最も重要なプロジェクトの1つと指摘しているのです。グーグルの目的はウェブデータ取引所で広告主にデータを活用してもらい、オンライン広告へこれまで以上に投資してもらうこと、ひいてはそれが広告媒体としてグーグルの収益に結びつくという構図です。

■個人データ活用への期待

最後に、このニュースについて自分はどう思うかを少し書いておきます。ウェブのデータ活用にはメリット/デメリットがあるものの、結論としては期待のほうが大きいと思っています。マイナス面としては自分のウェブ上の行動履歴がデータとして誰かに(知らないところで)活用されるという不安がありそうですが、一方でウェブを使い以上はある程度の自分のデータが提供されてしまうのは不可避だと考えます。自分の個人情報をウェブ上に預けることで、利便性を享受できている面もあります。であるならば、データが提供されることを受け入れ、そこから個人データをいかに活用し、どうすれば世の中をもっと豊かにできるかを考えたいというのが個人的な思いです。

※参考情報
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL
データが通貨になる Googleが「ウェブデータ取引所」機能構築へ=米報道【湯川】|TechWave
フェイスブック・米当局…グーグル支配に包囲網|日本経済新聞(11年7月7日)
[FT]グーグルに独禁法関連の疑い相次ぐ 今度は欧州で訴訟 |日本経済新聞(11年6月28日)


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書いている人 (多田 翼)

複数のスタートアップ支援に従事。経営や事業戦略のコンサルティング・アドバイザー・メンター、プロダクトマネージャー、マーケター。前職は Google でシニアマーケティングリサーチマネージャー、現在は独立 (詳細は LinkedIn または Facebook をご覧ください) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。note も更新しています。

内容は個人の見解です。