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グーグルが米国時間2012年3月29日に、新しいビジネスモデルを発表しました。
Google Consumer Surveys というマーケティング調査アンケートによるマネタイズを狙うものです。さすがグーグルと思ってしまう仕組みです。
今回のエントリーは、Google Consumer Surveys の仕組みと価値、要するに何を意味するのか (So what?) 、課題を書いています。

Google Consumer Surveys のアンケート作成画面
Google Consumer Surveys の仕組み
Google Consumer Surveys (GCS) とは、消費者アンケート調査を、グーグルで簡単に低コストでできるサービスです。
具体的には次のようなプロセスでアンケート調査を行ないます。
- アンケート依頼者は GCS ページでアンケートを作成
- アンケート依頼者はグーグルにアンケート調査費用を支払う
- グーグルがアンケート調査を契約しているウェブサイトに配信
- そのウェブサイト訪問者にアンケートが表示される。訪問者がアンケートに回答
- グーグルがアンケート結果データを集計する。アンケート依頼者は GCS ページで結果を確認
図にすると、次のような流れです。

Google Consumer Surveys の流れ
アンケートはどのようなサイトに表示されるのか
アンケートが表示されるウェブサイトは、有料コンテンツサイトのようです (2012年4月現在) 。
有料サイトである理由は、アンケート回答をすると有料コンテンツが無料で見られる仕組みだからです。
通常、有料会員ではないと、有料コンテンツは見られません。サイトによっては冒頭の一部のみを公開している場合もあります。サイト訪問者が GCS アンケートに回答すると、有料会員ではなくても、アンケート回答完了時に限り、有料コンテンツが有料会員にならなくても見られる仕組みです。
例えば、日経新聞電子版の有料記事は、毎月料金を支払っている有料会員しか閲覧できません。もし日経電子版に GCS が導入されると、無料会員ユーザーでも GCS アンケートに答えれば、その時のみ有料記事を読むことができます。
つまり、訪問者にとっては GCS アンケート回答の対価として有料コンテンツが見られる仕組みです。
Google Consumer Surveys のビジネスモデル
GCS をビジネスモデルの視点で考えてみます。各プレイヤーへの提供価値は以下のようになります。
- アンケート依頼者:GCS でアンケートが簡単に低コストで実施できる。回答結果は早ければその日のうちに返ってくる。クイックに調査をしたい場合に便利
- グーグル:アンケート依頼者からお金を得る
- Google AdSense 広告のマーケティングリサーチ版とも言える、新しいビジネスモデル
- 有料サイト運営者:アンケート表示と回答データを集めた対価として、グーグルからお金を得る。有料会員以外からも収益を得られる
- サイト訪問者 (アンケート回答者) :アンケートに答えると、有料コンテンツを無料で見ることができる
Google Consumer Surveys の詳細
実際に GCS でアンケートを途中まで作ってみた所感と、以下の GCS 情報から、詳細をご紹介します。
以下のホワイトペーパーには、GCS 詳細以外にもデータ検証結果が記載されてます (通常ネット調査や電話調査と比較検証など) 。
- How it works|Google consumer surveys
- Whitepaper: Comparing the Accuracy of Google Consumer Surveys to Existing Probability and Non-Probability Based Internet and Telephone Surveys. (PDF, 631 KB)
Google Consumer Surveys の仕様 (2012年4月現在)
質問数は1問のみ。対象者を絞りたい場合は別途スクリーニング用に2問まで追加可能。つまり最大でも3問 (スクリーニング2問+アンケート1問)(2017年8月追記:2017年現在は最大10問)- アンケート作成は GCS 上で自分で作る。いくつかテンプレートも用意されている
- 実際にいろいろ作ってみた印象は簡単にアンケートが作成できる
- バイアス除去のために回答選択肢をランダム表示させる機能もある
- 料金は1サンプルあたり10セント (1ドル=85円とすると0.85円。1000s で8500円) 。回答者を絞る場合は50セント。
- 絞り込み方法は2つ:
- デフォルトで用意されている属性情報 (性別・年代・地域 (US Westくらいの粗いレベル) )
- 自分でスクリーニング設問を作成する場合 (例: あなたは犬を飼っていますか?) 。回答者数を1000sまでなどと上限指定ができる
- 属性情報はグーグルのクッキーや IP アドレスからユーザーに付与されたもの。クッキーは Google Display Network での DoubleClick 用に使われているもの。つまり性別や年代などの属性データは、アクセス履歴の行動データから判定される
- アンケートが配信されるサイトには、最低回答率が課されている。達成しなければ翌月からはアンケートが表示できなくなるなどの条件がある。アンケート回答の品質を確保するように配慮されている
- アンケート結果はグーグルで処理され GCS ページで確認できる。結果はグラフや数表で表示され、一部にコメント付き。GCS ページ上で属性絞込みなどもできる
- 回答結果データはローデータとウェイトバック集計の両方が提供される。ウェイトはネット母集団調査 (Current Population Survey。おそらく外部データ) と、年代 × 性別 × エリアのセルから作成
- アンケートデータはグーグルによれば 「すべての回答は匿名で、ユーザーの個人情報とひも付けられることはなく、また、後でターゲット広告に利用されることもない」
- 2012年4月現在の GCS サービス対象国はアメリカのみ。調査対象地域もアメリカに限定
GCS 紹介動画は以下です。アンケート作成や回答データ結果確認方法のイメージがわかります。
Google Consumer Surveys: How to create surveys|YouTube
Google Consumer Surveys: How to view your results|YouTube
要するに何を意味するのか (So What?)
ここまで、Google Consumer Surveys (GCS) とは何か、GCS をビジネスモデルの視点で見てきました。
グーグルが GCS でやろうとしていることは、広告モデルとは異なるビジネスモデルの構築です。GCS には4つのプレイヤーがいて、それぞれの win が成立する仕組みです。
GCS は、4つのプレイヤーの1つであるパブリッシャー向けに、簡易アンケートを使ったコンテンツサイトの収益化の提案と言ってもいいでしょう。
ネット広告に、広告主に対しては AdWords 、パブリッシャーに対しては AdSence という2つのイノベーションを起こしたのがグーグルでした。グーグルは、広告から、自分たちの大部分の利益を稼いでいます。
盤石な収益基盤があるからこそ、これまでのグーグルは一見すると収益に結びつかないような様々なサービスを作り続けることができました。その中からは Gmail などのグーグルの代表的なサービスとして今も多くのユーザーに使われています。
AdWords や AdSence の特徴は低コストとロングテールです。広告とは基本的には人が多く集まるメディアに出稿するものを、たとえ1日に数回のページビューのページでもグーグルは広告メディアに変えました。
GCS は広告でやったことを、ネットリサーチでもやろうとすることです。
既存のリサーチ会社にとっての意味
既存のネットリサーチやリサーチ会社にとって、Google Consumer Surveys (GCS) は脅威なのか、それとも機会なのでしょうか。
企業のマーケターやブランド担当者などにとっては、GCS はリサーチデータ入手の新しい選択肢になります。これまでネットリサーチ会社に依頼していた調査を、GCS で自分でアンケートを作り、スピーディかつ低コストで調査結果が得られます。
その分、リサーチ会社にとっては機会を奪われることになります。
ただし、思うのは GCS はアンケートは最大10問なので、調査できる広さや深さは限定的ということです。従来はリサーチ会社に頼むほどでもなかった調査を GCS でやるという、新しいネットリサーチニーズが生まれるのではないでしょうか。
つまり、既存リサーチ会社とグーグルでパイの取り合いではなく、新しいマーケットができることを意味します。
今後グーグルは、GCS でできること拡張することも十分に考えられます。
GCS プレミアム版では、質問数が増え、複雑なアンケート設計が可能など、調査のニーズに応えるようになると、ネットリサーチ会社が提供するサービスと同等レベルを実現する可能性もあります。
GCS はリサーチ会社でやる場合の人件費等のコストを極力省いている仕組みなので、リサーチ会社よりも低コストで実現されるでしょう。
GCS アンケート回答者にとっては回答負荷が増えますがその分のメリット (インセンティブ) を返せば、アンケートに答えるユーザーは一定数はいるでしょう。そうなれば、既存ネットリサーチ会社にとっては脅威です。
Google Consumer Surveys の課題
GCS の今後の課題についてです。以下、4つの課題をご説明します。
2. 回答者の属性情報の精度
2つ目はアンケート回答者の属性情報 (年代や性別など) です。
あくまでクッキーベースのウェブ上での行動データからの属性情報なので、その精度がどこまで正しいかという問題です。どのようなサイトを見ているかのログデータの積み上げから、「このユーザーは25-34才の男性だろう」 という推測にすぎないからです。
3. 回答者バイアス
3つ目は回答者バイアスです。GCS のアンケート回答者は有料コンテンツに訪問した有料会員ではない人たちです。つまり、ネット利用者の全員ではありません。
コンテンツの内容によっては、訪問する人たちが一部の特殊な人たちという可能性があります。その人たちから得られたアンケート結果に代表性があるのかという問題です。なお、グーグルももちろん認識していて、GCS vs ネット調査 vs 電話調査からなどのバイアス検証をしているようです。
参考:Whitepaper: Comparing the Accuracy of Google Consumer Surveys to Existing Probability and Non-Probability Based Internet and Telephone Surveys. (PDF, 631 KB)
アンケート結果はグーグルから返ってきますが、そのアンケートはどのサイトで表示され回答されたのかがわからないのも気になります。
4. アンケート配信先の多様性
4つ目は、有料サイト自体の数が無料サイトに比べて少なく、アンケート配信先が偏ることです。
アンケート回答者の多様性 (代表性) を考えると、AdSence のように無料サイトで幅広くアンケートが表示されるほうが望ましいです。無料サイトにとっても、収益源として AdSence 以外の選択肢となり得ます。
ただし、ユーザーの立場からすると、無料サイトに訪問したのに閲覧前にアンケートを答えることになるので、回答者メリットがなくなります。
有料サイトではアンケート回答の対価として有料コンテンツの無料閲覧がありましたが、無料サイトではそもそも閲覧はタダなので、単にアンケート回答負荷だけが残ります。有料サイトでは4つのプレイヤーに win が成立するビジネスモデルでしたが、無料サイトではユーザーに win がありません。
最後に
Google Consumer Surveys は、2012年4月現在はアメリカのみのサービスで、アンケート回答対象者もアメリカのみです。
もちろん、ビジネスとして成立することが確認できれば、間違いなくヨーロッパや日本にも展開するでしょう。日本でも使えるようになったら実際に利用してみたいです。Google Consumer Surveys はネットリサーチの破壊的イノベーションとなるのか、注目しています。
※ 参考情報
Google consumer surveys
How it works|Google consumer surveys
Whitepaper: Comparing the Accuracy of Google Consumer Surveys to Existing Probability and Non-Probability Based Internet and Telephone Surveys. (PDF, 631 KB)
米Google、ウェブサイト収益化の新方法 「Consumer Survey」 を発表|INTERNET Watch
Google、調査アンケートと有料コンテンツを組み合わせた 「Consumer Survey」 を発表|RBBTODAY
A new way to access quality content online|Google News Blog
Google Consumer Surveys|YouTube
Google Consumer Surveys: How to create surveys|YouTube
Google Consumer Surveys: How to target custom audiences|YouTube
Google Consumer Surveys: How to view your results|YouTube