一般的に、性風俗や売春は本当の実態はあまり語られず、なんとなくのイメージで捉えられている世界ではないでしょうか。
- 風俗業界の市場規模はどれくらいなのか?
- 自らの体を売る女性はどういう人たちで、一方の買う男性はどうなのか?どのくらいのお金のやりとりがされているのか?
- 性風俗と売春ではどんな違いがあるのか?
夜の経済学 という本が興味深く読めたのは、夜の世界について、著者らが自らデータを集め、統計的な処理をし、データ分析結果から見えてくることを考えるスタンスにあったからでした。
性風俗や売春の価格のばらつき
本書で、特に興味深いデータであり考察だと思ったのは、性風俗と売春の価格比較についてでした。
性風俗と売春の価格データには共通点がありました。経済水準が高い地域ほど、性風俗も売春の価格は高くなることです。要は、東京や大阪などのエリアは高いという、これ自体には驚きは少ない結果です。
一方で、価格差のばらつきについては、興味深い結果でした。
地域ごと (県別) で、経済水準 (県民所得) の差、性風俗の価格差、売春の価格差を比べると、ばらつきが大きい順番は以下でした。
- 売春の価格差
- 県民所得差
- 性風俗の価格差
1つ目の売春の価格差と、2つ目の県民所得差について、本書によれば厳密には、大きいまたは同程度とのことです。まとめると、ばらつきの大きさは次のような関係にあります。
売春の価格差 ≧ 経済水準の格差 > 性風俗の価格差
地域ごとのばらつきの大きさは、何を意味するのか
ばらつきの違いは何を意味するのでしょうか。
本書での考察のポイントは 「移動」 でした。一般的に、供給者や受給者が移動する場合は、地域間の価格差は小さくなります。
例えば以下です。
- 東京にいる買う側 (受給者) が、より安く買うために安い地方に移動すれば、移動先の安かった地方の価格は上がる
- 逆に、地方の売る側 (供給者) が、今のエリアよりも高い都市エリアで売ろうとすると、それまでは高かった都市での価格は下がる
つまり、供給者と受給者の双方が、より有利な条件を求めて移動する結果、地域間の価格差は小さくなります。逆に、移動が難しいと価格差は大きいままで固定されます。
地域ごとで、売春の価格差・県民所得差・性風俗の価格差の3つの価格差のばらつきが最も大きかったのは、1つ目の売春の価格でした。最も小さいばらつきは性風俗の価格でした。
移動の観点から意味するのは、以下の仮説が得られたということです。
- 売春:買う側と売る側の移動は少ないために価格差が大きい
- 性風俗:移動が活発なために価格差が小さい
調査データからの仮説検証
本書ではこの仮説に対してデータから検証し、なぜ性風俗と売春の価格差に違いがあるのかを考察しています。
自分たちで実施した調査とデータから、売春の供給者 (売る女性) と、受給者 (買う男性) のそれぞれで、移動が困難である実態が見えてきます。性風俗と売春の女性の違い、性風俗を利用する男性と買春をする男性の違いを、調査データに基づいて比較がされています。
データを集めた調査方法は、それぞれ以下の方法からとのことです。
- 性風俗の女性:インタビュー調査
- 性風俗を利用する男性:インターネット調査
- 売春をする女性:インタビュー調査
- 買春をする男性:売春女性に、「自分を買った男性」 にあらかじめ用意した質問項目を聞いてもらう調査方法 (売春女性に調査を依頼)
4つ目の、買春をする男性の調査方法がユニークです。彼らのデータを集めるにはネット調査では難しいと判断し、売春女性に対して 「自分を買った男性」 に調査するという売春女性を経由した方法でした。
これは間接的な調査方法であり、そもそもの調査データとして妥当なものかどうかは突っ込みどころはあるでしょう。データ結果を見る際にはこの点を考慮に入れる必要があります。それでも、個人的には貴重な調査データであり、そこから見えてくることは価値のあるものだと思いました。
検証から仮説が支持された
調査データからの比較の結論として、性風俗に比べて売春における供給者 (女性) と受給者 (男性) のそれぞれで、移動性の低い人たちが多かったという実態でした。つまり、調査結果は仮説を支持するものでした。
ここで言う移動性とは、一時的な移動や引越しなどの住環境を変えることも含め、より魅力的なエリアに移動できるかどうかを指しています。移動性が低いというのは、主にその人の経済/家計事情で、そのエリアにとどまらざるを得ない環境という状況でした。
具体的には、風俗嬢は売春をする女性に比べ、収入は多く、学歴が高い傾向があったようです。
一方の男性側でも、性風俗に行く男性の職種や学歴は一般的な成人男性のそれとあまり変わらない調査結果でしたが、買春をする男性は低学歴であったり職業構成の差が大きく出ていました。
以上のような実態から本書では、売春は経済問題と指摘しています。
最後に
本書を興味深く読めたのは、データや調査をベースに考察し語ろうという一貫したスタンスだったからでした。
データを集めるために、自ら調査設計をし、自分たちの足で直接インタビューもしています。データ集計も自分たちでやっています。
現場やローデータ (生データ) を肌で知っているからこその結果データの見方であったり、考察がされていました。単にデータ集計をして終わりではなく、その結果が意味するものは何か、背景には何があるかまで議論されています。それでいて小難しい印象は受けない点が、読みやすい本でした。
調査については、色々な制約があり、本書でも言及しているように必ずしも厳密な調査設計ではないものもあります。調査や得られるデータが変わったりデータが増えれば、考察や見解もまた変わってくる可能性もあります。
それでも、自分たちでできることをやり、そこから得られた価値は一読に値します。