21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由 という本が興味深く読めたので、ご紹介します。
エントリー内容です
- 本書でのデザイン思考の考え方
- 正反対なデザイナーとビジネスマンの常識
- デザイン思考のリサーチ
本書でのデザイン思考の考え方
本書で紹介されているデザイン思考とは、デザイナーが 0 から 1 を創るために無意識に実践している考え方や仕事の進め方を、ビジネスパーソンが新たな価値を生み出すための方法論としてアレンジしたものです。
日本語においてデザインというと、グラフィックデザインや商品自体の外観のデザイン (意匠) のイメージで捉えられがちです。
一方、英語での design には 「設計 = 創り出す」 という意味があります。デザイン思考でのデザインも同じです。ビジネスマンが生み出す新たな価値とは、新しい事業、商品やサービス、業務プロセスを創ることです。
正反対なデザイナーとビジネスマンの常識
章ごとの最後に、デザイナーの常識とビジネスマンの常識が書かれています。対照的な考え方やものごとの進め方が見られ、興味深かったです。
例えば 「Chapter 1: デザイナーから学ぶハイブリッド知的生産術」 では、以下のような違いが書かれています。
デザイナーの常識
- リサーチはインスピレーションの湧くビジュアルを探す
- 思考はアナロジーを使ってジャンプさせる
- プレゼンは、印象的なストーリーで共感を得る
- サマリーは1枚の絵で表現する
ビジネスマンの常識
- リサーチはファクトだけを集めるべし
- 思考はロジックツリーを使って論理的に
- プレゼンは、正しさで説得する
- エグゼクティブサマリーは3つの要点を
多くの方にとって馴染みがあるのは、ビジネスマンの常識のほうでしょう。私自身もそうでした。だからこそ、本書から学びや気づきは多くありました。
デザイン思考のリサーチ
2016年4月現在、私の仕事の役割は 「マーケティングリサーチ マネージャー」 です。マーケティングリサーチをデザイン思考の視点で考えてみます。
通常、マーケティングリサーチで重視されるのは、代表性や再現性です。代表性は、調査対象となる母集団をどれだけ正確に設計できるかです。再現性は、その調査は他が実施しても同様の結果が得られるかどうかです。
マーケティングリサーチでは、調査対象者をどうやって選ぶか、どういう方法で調査をするかが重要です。
一方のデザインリサーチでは、違う考え方をします。興味深い指摘だったので、本書より引用します。
デザインリサーチのプロセスでは、ユーザーのニーズを理解すること以上に、「ユーザーの気持ちに共感できるようになる」 ことや、「自分とは違う生活をしている人たちの生活文脈を感じる」 ことが大事になります。
いかに 「自分たちの今の世界から飛び出て違う世界を感じるか」 というマインドセットがとても大事です。
自分たちは、どんなことで困っている人の生活をどのようによくしてあげられるのだろうかという具体的なイメージをチーム全員でもてたら、成功といえるでしょう。
ここで注意したいのは、現状を理解しにいって市場に存在するニーズを探ってくるだけではなく、「どんなものをつくったら良いのか」 というイメージのインスピレーションを得られるリサーチ体験を設計することです。
(中略)
デザインリサーチでは 「デザインをする際のヒントを見つけること」 が目的なので、もう少し緩く設定します。
「どういうものを見たら楽しそうか」 という自分たちの直感や、意志などもリサーチの企画の際に入れこむことが大事です。
(引用:21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由)
「カオス」 を楽しむくらいがいい
本書の最後のほうで、ビジネスにデザイン思考を取り入れるときに、あなたが受け入れなければいけないことが書かれていました。
アウトプットやプロセスが 「明確でない」 状態に耐えられるか?という問いです。該当箇所から引用します。
デザイナーと一緒に働いていると、「カオスの状態を恐れるな」 と言われます。
それは、事前にアウトプットやプロセスをガチガチに決めすぎてしまうと、チームを枠にはめてしまい、結果的に事前に想像していたものに 「落とし込む」 形になってしまい、イノベーションの芽を摘み取ってしまいがちになるということです。
この裏返しは 「カオスの状態を恐れず、楽しむ」 状態にあたります。
(引用:21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由)
学びの多い本
この本の特徴は、著者のイリノイ工科大学デザインスクールで実際に行われた授業をもとに、デザイン思考におけるビジネスのやり方が具体的に説明されていることです。図や写真も随所に挿まれ、筆者が携わった事例以外にも IDEO などの世界的なデザインファームの事例が紹介されています。
もちろん、本書で提示されているやり方は、読者の状況によっては必ずしもうまく機能しないかもしれません。
それでも、どういうワークショップのやり方があるかや、デザイナーがやっているプロセスを想像できます。読みながら自分の場合はどういうことに使えそうかをイメージすることができ、学びの多い本でした。