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フィットカットカーブというハサミをご紹介します。商品そのものが良いだけではなく、開発からマーケティングの事例としても興味深かったです。
フィットカットカーブとは
使っていて、今まで家庭で使っていた他のはさみよりも、切れ味がいいです。
紙はもちろん、段ボールや牛乳パックなど、一般のはさみでは切りにくく力を入れる必要のあるものでも、軽く切れます。もともと使っていたはさみには特段なかった切りにくさが、フィットカットカーブを使い始めると実感できました。
ニュースリリース (2011年12月14日) にはよく切れる仕組みが説明されています。

フィットカットカーブ商品ページ|プラス株式会社より引用
根元から刃先まで切断に最適な刃の開き角度 (約30°) を常に保つゆるやかなカーブを持った “ベルヌーイカーブ刃※2” を新開発。刃の角度が常に一定なので刃の根元から刃先まで切る物をしっかりキャッチし、てこの原理を最大限に利用して従来品比約3倍の切れ味の軽さを実現しました。
※2 刃のカーブを設計する際に参考にした、対数螺旋 (らせん) の祖とも言われる研究者ベルヌーイの名前から命名
フィットカットカーブが使いやすいので、実家の母親にも買いました (Amazon から注文して送りました) 。切りやすく台所用はさみとして重宝しているそうです。予想以上に喜ばれ、こういう親孝行もありかなと思いました。
はさみ利用者の調査が、開発の意思決定に使われている
フィットカットカーブの開発にあたり、はさみ利用者の調査結果が参考されたことがわかります。ニュースリリース (2011年12月14日) から引用します。
開発に先立ち、家庭内でのはさみに関する調査を実施したところ、薄い紙を切る機会はわずか 8%。ユーザーの 92% が牛乳パック・段ボールなどの厚紙、プラスチック、布、ビニール、観葉植物など、しっかりとした切れ味が必要な物に使用しており、1番に 「切れ味」 が求められていることが判明しました。
「フィットカットカーブ」 は、力を要する硬い物から通常のはさみでは非常に切りにくかった軟らかい物まで、滑らかな切れ味を実現。多様な使途に対応します。
2014年には 「フィットカットカーブ 洗えるチタン」 が新たに発売されました。ニュースリリース (2014年10月21日) でも、キッチンでのはさみ利用に関する調査結果が触れられています。
- キッチンで食材等を切るために使ったはさみは、衛生さを保つために使用後に洗ったり拭き取ったりする利用者は 96%
- キッチンのはさみで切る対象物はパッケージから食材までと幅広い
- 利用者の60%は台所用はさみをキッチンの引き出しに収納している
こうした台所用はさみの利用状況を踏まえ、はさみを丸ごと洗える、食材もしっかり切れる刃の開発、収納しやすい軽量でコンパクトサイズにしたことが書かれています。
想定ユーザーの具体的な利用シーンからニーズを知り、開発やマーケティングをする
利用者が実際にどう使っているかは、商品やサービス提供側からすると知っているようで把握できていないことがあります。
はさみのケースであれば、開発でフォーカスされやすいのは 「いかに切りやすいか」 でしょう。
はさみが家庭で使われる時に、実際に何をどのくらいの頻度で切っているかです。「はさみ = 紙を切るもの」 と考えている限りは、紙以外に切る利用シーンに沿ったものがつくれません。
紙だけではなく、段ボールやペットボトル、ガムテープを切ることも多いのであれば、その利用に適したはさみが求められます。より固いものでも力を入れずに切ることができ、ガムテープを切った後にテープの粘着剤が刃に着いてしまい、その後の切れ味が悪くなることを防ぐ等です。
はさみの利用を理解するために、切った後にどう使われているかまでを調査されているのも興味深かったです。
キッチン用はさみは、食材を切るので清潔にしたいと思い、使用後に水洗いや拭かれていることです。収納場所は一般のはさみが入るところではなく、台所の引き出しの中という調査結果でした。
はさみで何かを切るという直接の利用シーンだけではなく、使った後の取り扱われ方や収納までを含めて 「利用」 と捉えています。
はさみを使って切るという利用の前後までを視野に入れ、利用者のことを調査から理解する。はさみの使い方から利用者が何に価値を持ってはさみを使っているのか、はさみに求められることは何かを知る。
調査から利用を知るにあたってポイントだと思うのは、利用者に直接、はさみに求めることは何かを聞いての理解ではないことです。
直接聞いてしまうと、返ってくる答えは 「切りやすいはさみ」 でしょう。はさみへのニーズがよほど顕在化している人でなければ、水洗いへの対応や収納スペースにしまいやすいはさみという具体的な回答が得られることはありません。
直接はさみのニーズを聞くのではなく、使っている人の具体的な利用シーンを聞いたり、家庭用品であれば訪問をしての観察調査で、調査をやる側が問題意識を持って観察し、隠れたニーズが初めて発見できます。
調査から学んだニーズに、自分たちができることは何か、それは他社商品と差別化できるか、簡単に真似されにくいかという視点で開発し、ターゲットユーザーにメッセージを出していく。
フィットカットカーブは、マーケティングの観点から興味深く見ることができました。