今回は、IoT 事例をご紹介します。小松建機の KOMTRAX (コムトラックス) という IT サービスです。
コムトラックスは、IoT やビッグデータの活用という点で示唆に富みます。
- コムトラックスとは何?
- どんな IoT 成功事例なのか?
- コムトラックスから学べることは?
こんな疑問に答える内容でブログを書きました。
コムトラックスとは何か
コムトラックスの機能的な特徴は以下です。
- コムトラックスとは、建設機械の情報を遠隔で確認するためのシステム。コマツが1998年に独自開発
- 世界中で稼働するコマツの建設機械に GPS や通信システムなどを搭載し、建設機械の位置情報や稼働状況をデータサーバに送信し集約する
- 収集したデータから、建機の現在位置・稼働時間や稼働状況・燃料残量・故障情報などがわかる
- 建機のモニタリングやエンジンを止めるなどの遠隔制御が可能
- コムトラックスはコマツの建機に標準装備されている。送信される建機データからの情報は無償でお客に提供されている
コムトラックスがもたらす効果
ゼロからの経営戦略 という本に、コムトラックスが経営戦略を学ぶ事例として取り上げられています。
コムトラックスがコマツ建機の標準装備となっているので、全ての自社建機のデータが集まります。どの建機が、どこでどういう稼動状態なのかが把握できるのです。これにより、多様な効果をもたらしています。
本書には6つの効果が説明されています。
1. 盗難防止への貢献
- 盗難された機械は遠隔でエンジンをかからなくできる。GPS で場所を追跡できる
- なお、コムトラックス開発の当初の目的は盗難対策であった
2. 建機の稼働率アップと保守サービス費用の削減
- 稼働状況や各部品の前回交換日から、次の交換時期が正確に予測できる。故障の未然予防も可能に
- 部品交換中や故障で使えない状況を最小限にできるため、稼働率が上がる
- 建機の利用データから、どのように使えば故障が減らせるかがわかり、顧客に故障防止のアドバイスができる
3. 債権回収に活用
- 建機は、それ自体の代金が高額のため支払いは分割ローンの契約が多い。支払いが何度も滞る場合は、警告し遠隔操作で機械を止めることが可能
- 代金を支払わずに使い続けることができないため、債権回収ができないリスクが減少
4. コマツ建機の中古価格の上昇
- コムトラックスで建機メンテナンス履歴データが保存され、中古建機として透明性が高くなる
- 買い手側の不確実性が減り、より高い価格で購入してもらえる (保有者にとっては高値で売れる)
5. サプライチェーン全体の最適化
- コムトラックスの情報を建機の部品生産企業と共有
- 部品の生産リードタイムの短縮ができるなど、サプライチェーン全体で市場への対応を最適化
6. グローバルなマクロ経済動向を予測
- 世界中のコマツ建機の稼働データから、どの地域でどのくらい工事が行われているかがわかる
- 世界経済の先行指標になる。景気の予測にも使えるので、過剰生産による在庫を抱えたり、増加する需要に生産が追いつかないという状況を防げる
コムトラックスから学べること (IoT やビッグデータの観点で)
コムトラックスの事例は、多くの学びがあります。
- 戦略的な無料提供
- IoT データの有効活用
- 情報共有と 「三方良し」
- ブレイクスルーが重なりイノベーションへ
以下、それぞれについてご説明します。
戦略的な無料提供
1つ目は、コマツはコムトラックスを標準装備にしており、コムトラックス自体と収集データから得られる情報を無償でお客に提供していることです。
標準装備をしているので、コマツは全ての建機からデータを収集することができます。もし、コムトラックスを有償とすれば、一部の建機からしかデータが取れません。コマツはコムトラックス自体を有償サービスとして売上から儲けるのではなく、コムトラックスを無料で提供し、そこから得られるデータを有効に活用しているのです。
コムトラックスの場合は、コムトラックスからのデータ収集だけを見ると、コマツ自身がデータを取るコストを持っています。一方で、データ収集コストをお客に負担しないからこそ、全ての建機のデータが手に入ります。損して得取れです。
全数データを取るかがポイントで、コムトラックスを IoT やビッグデータの視点で考えた時に、示唆があります。
IoT データの有効活用
2つ目は、コムトラックスが収集しているデータの有効活用です。
IoT の課題は、収集される大量のデータをどう活用するか、企業であれば最終的に経営レベルでどのようなインパクトをもたらすかです。
コマツは建機というモノを販売して終わっていません。コムトラックスでは、データからわかる知見をお客のメリットに活かすだけではなく、自社の生産計画やサプライチェーンの最適化といった、ビジネスモデルや経営にメリットをもたらしています。
有益情報の共有と 「三方よし」
3つ目は、情報共有です。コムトラックスから得られた有益な情報を、企業内の関係組織やサプライチェーンでの各会社間で共有していることです。
コムトラックスの場合は、情報を自分たちだけで囲わなかったことが、結果的にコムトラックスの価値を上げました。コムトラックスのデータからわかる情報を無償で公開したからこそです。
三方良しが実現しています。コムトラックスはお客 (ユーザー)・サプライヤー (販売代理店や部品供給者)・自社で win-win が成立しています。
ブレイクスルーが積み重なりイノベーションへ
4つ目は、コムトラックスが興味深いのは、0 から 1 を創る開発と、1 を 10 、10 を 100 にする提供価値の拡大の両方が入っていることです。
コムトラックスは当初、建機の盗難防止を目的に開発されました。しかし、コムトラックスから集まる様々なデータが有益な情報として、盗難防止以外にも活用されていきます。
おもしろいと思うのは、コムトラックスの開発時点では、活用範囲がここまで想定されていなかったことです。1つのブレイクスルーが、次々にブレイクスルーにつながっていったのです。
- 建機に GPS や遠隔操作機能を装備させる発想
- 稼働状況のデータ収集範囲の増加
- 有償サービスで一部の建機ではなく、無償サービスとして全ての建機に標準装備をするという決断
- 部署を横断しデータ共有ができるような組織的な運営
- 情報を自分たちだけではなく、建機利用企業 (お客) やサプライヤーに共有
- 情報が経営レベルにインパクトを与えるまで活用
コムトラックスは、1つ1つの積み重ねでデータからイノベーションが起こった事例として興味深いです。