Free Image on Pixabay
レジの無い食料品店の 「アマゾン・ゴー」 の1号店が、アメリカのシアトルにオープンしました (2018年1月) 。
今回のエントリーは、アマゾン・ゴーが何を意味するのかを書いています。アマゾン・ゴーの本質を、「表の本質」 と 「裏の本質」 の2つに分けて考えます。
最後にまとめとして、表と裏の本質を合わせて俯瞰すると、何が言えるのかを解説します。
アマゾン・ゴーの 「表の本質」
アマゾン・ゴーの表の本質は、ネットでのアマゾンのユーザー体験を、リアル店舗に再現したことです。
表の本質で思ったポイントは3つです。
1. レジ無しというユーザー体験
アマゾンは、アマゾン・ゴーについて 「No lines, no checkout」 と表現しています。レジに並ぶ必要がなく、そもそもレジでの支払いがないことを強調しています。
アマゾン・ゴーでは、お客は棚から買いたい商品を手に取り、そのまま店を出れば自動的に支払いが完了します。
アマゾン・ゴーが不要にしたユーザー体験は、レジというボトルネックの解消です。
- 会計のために一度レジに行く
- 混んで列ができていれば待つ
- レジでは一つ一つバーコードを読み取る
- 合計額をカードや現金で支払う
- 場合によっては、お釣りの受け取りやサインをする
これら一連の手間と時間です。
アマゾン・ゴーは、リアル店舗での買いもの体験を変えます。お金を支払うという行為自体への感覚をも変えるでしょう。
2. 本質はユーザー体験
アマゾン・ゴーは、レジを無くし、店員は商品の入れ替え・年齢確認・支払い間違いに対応するための最低限のスタッフのみです。ただし、これらは表面的に見えている事象です。
重要なのは、ユーザー体験をいかにより良くできるかを、アマゾンがリアル店舗で徹底的に追求していることです。商品を棚から手に取り、選び終われば店を出るだけという購入プロセスです。
レジ無しや最低限の店員配置は、あくまでそのための 「手段」 でしかないのです。
3. 資産を持たないアマゾンだからできること
アマゾン・ゴーの設計は、一般的にすでにあるリアル店舗からの発想からではありません。アマゾンサイトで実現できているワンクリックなどの、いかに便利に買いものができるかを、リアル店舗に落とし込むためにはどうすればよいかという考え方です。
これまでアマゾンはリアル店舗をほとんど持たず、主力はサイトからのオンライン販売だったからこそできます。
ウォルマートなどのメイン販売チャネルがリアル店舗の発想は、今ある店舗をどう便利にするかでしょう。レジの待ち時間をいかに早くするかを考えても、レジそのものを無くす判断は難しいはずです。
なぜなら、すでに保有するレジシステムやレジ店員という資産を否定することになってしまい、資産の負債化が起きてしまうからです。
レジ無しは、資産を持たないアマゾンだからこそ実現できることです。
アマゾン・ゴーの 「裏の本質」
アマゾン・ゴーには、顧客からは見えない 「裏の本質」 があります。裏の本質は、アマゾン・ゴーが顧客のデータを収集する装置ということです。
裏の本質で思ったことは3つです。
1. 店内での客の行動データ収集
アマゾン・ゴーがレジを無くし、スタッフも最小限しかいなくても店舗運用をできるのは、店内での来店客の一人ひとりの行動を把握しているからです。
具体的には、天井に設置されたカメラで顧客の店内行動 (動線) をトラッキングし、商品棚のセンサーで商品の重さを測定し、どの商品が何個取ったかを捕捉しているようです。
アマゾン・ゴーの店内に入る際には専用アプリでログインをします。各商品の支払いもアプリ上で行ないます。
これに、店内での行動データをかけ合わせれば、誰が・どのタイミングで・何を・どれだけ買ったか、店内動線 (どういう順路や順番で買いものをしたか) を把握できます。
顧客一人ひとりのこれらのデータが集まれば、あとは AI を使って分析します。
分析結果からの知見をためれば、アマゾンのネットサイトで実現できているようなレコメンド ( 「この商品を買った人はこんな商品も買っています」 というオススメ) を、リアル店舗でも実現できます。
2. データ収集とインセンティブ
アマゾン・ゴーが、データ収集の観点でうまく設計されていると思うのは、ユーザーにとってデータ収集による利便性が、データ収集への心理的な抵抗感を和らげていることです。利便性とは、レジ無しによる手間を省き、余分な時間をかけなくて済むことです。
もし、ユーザーへの利便性を提供せずに、単に天井に張り巡らされたカメラ等で一人ひとりを追跡するような店であれば、買いもの客にとっては気味が悪く感じるでしょう。
しかし、アマゾン・ゴーの店内に多くのカメラがあることがわかっても、来店客はカメラによってレジが無くなり便利な店が実現できていると認識します。
アマゾン・ゴーでしかできないユーザー体験によって、カメラが多数あることにも違和感を感じないでしょう。自分の店内での行動をデータとして収集され続けることへの抵抗や不気味さを感じさせない仕組みです。
防犯のための監視カメラも、犯罪抑止や犯罪発生時に使われるとわかっているからこそ人々に受け入れられたように、アマゾン・ゴー内のカメラも自然と人々に受け止められ、店の一部として自然に存在するようになります。
アマゾン・ゴーは、ユーザーへの圧倒的な利便性という価値を提供する代わりに、これまでブラックボックスだったリアル店舗での顧客データを収集する仕組みです。これだけでも、仮にアマゾン・ゴー単体で黒字にできなくても、アマゾン全体にとっては、リアル店舗を事業として行なう意味はあるでしょう。
3. 位置情報もデータ収集対象になるか
ここまで、アマゾン・ゴーの裏の本質を、ユーザーデータ収集装置として見てきました。
店内でのユーザーデータの他に、リアル店舗だからこそ収集するデータとして有用だと思うのは、ユーザーの位置情報です。
将来的に、例えば日本ではアマゾンがローソンやファミリーマートと提携、あるいは買収をして本格的にレジ無しコンビニを展開することも十分に考えられます。多くの店舗を持ち、店内に入る際にログインをするので、その際に位置情報も取るような仕組みにすれば、アマゾン・ゴーを通してユーザーの位置情報というデータを収集できます。
先ほどの店内行動データ、購入データ、そして位置データ、これらのオフラインデータに加え、オンラインで収集しているデータを組み合わせれば、ユーザーの一人ひとりをさらに理解できます。結果、レコメンドに活用するなどのユーザー体験を向上させることができます。
まとめ
今回のエントリーは、アマゾン・ゴーの本質は何かを考えました。
- 表の本質:レジ無しで買えるユーザー体験の提供 (ネットのユーザー体験をリアル店舗で再現)
- 裏の本質:客の店内行動というユーザーデータを収集する仕組み (将来的には位置情報も含まれる可能性)
2つを俯瞰すると、表と裏の本質は互いに連動します。つまり、アマゾンでしかできないユーザー体験があるからこそ、客は集まりデータが取れます。収集したデータによって、より良いユーザー体験になります。
ユーザー体験とデータは、文字通りに表裏一体です。
「ユーザー体験」 と 「データ」 、あと加えるとすると 「テクノロジー」 を使ってビジネスを拡大させているのは、アマゾンに限りません。
グーグルやフェイスブック、アリババ、テンセント、ユニコーン企業などに共通することです。