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書評: キヤノン特許部隊 (丸島儀一) 。特許は事業を強くするためにある


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今回ご紹介したい本は、キヤノン特許部隊 です。



  • どんなことが書かれている本?
  • 特許とは何のために取るもの?
  • 特許担当者がやるべきことは?

こんな疑問に答える内容でブログを書きました。

以下は、この記事で書いている内容です。

  • 本書の内容。特許は事業を強くするため
  • 特許担当者は源流に入れ
  • 思ったこと


本書の内容


以下は、本書の内容紹介からの引用です。

特許で守り、特許で攻める。キヤノンの卓抜した技術力の背景には絶妙な特許戦略があった。キヤノン入社以降、特許一筋の人生を歩んだ丸島氏が語る。

企業戦略として特許を活用するとは、具体的にどのようなことなのか。

昭和九年生まれの日本人が、朝からステーキを喰うアメリカのビジネスマンたちとどのように渡り合ってきたのか。そして私たち日本のビジネスパーソンは、特許あるいは知的財産権をどのように考え、仕事に生かすべきなのだろうか。

本書の構成については、次のように紹介されています。

第一章は、キヤノンの特許を巡る著者の体験の回顧だ。ハイライトはコピー機を巡る米ゼロックスとの駆け引き。著者はキヤノンの技術者と協力してゼロックスの特許の間隙を突いて新方式によるコピー機を市場に出すことに成功する。この部分は企業小説のような面白さに満ちている。

しかし、より重要なのは企業にとっての特許のあり方や交渉術、さらには日本の国家戦略について語った後半である。

アメリカでの交渉方法、弁護士事務所の選び方といった戦術レベルの話から、相互に特許を提供し合うクロスライセンスを基本に、なにが自社にとって有利な条件かを検討するといった戦略の話に至るまで、過去の経験の精髄を惜しげもなく開陳している。その背景には日本の現状に対する危機感があるのだろう。

最終章では、日本の特許制度と国家戦略の不備と、今後どうするべきかをやわらかく、しかし鋭く語っている。


特許は事業を強くするため


この本からの学びは、企業における特許の位置づけです。

特許は自社商品を守ったり、他社へのライセンス料で稼ぐことだけではありません。


事業を強くするため


特許とは、自社の 「事業を強くするため」 にあります。

理想は、特許を自分たちの事業を守るために独占的に使うことです。特許の範囲と中身を誰にも真似されずに、ライセンスでも使用させないことです。自分たちが事業を独占できます。

しかし、現実はそうはいきません。全てを自前で作り上げることはまず不可能だからです。例えば電子機器の場合、一つの製品の中に様々な技術が複雑に入り込みます。自社技術だけではなく、他から技術的な提携や購入するなど、他社との技術的な関係が生まれます。


特許をいかに活用するか


ここで特許を活用します。

自社の事業を強くするために、相手が持っている有効な技術を手に入れます。相手の特許にライセンス料を支払う、あるいはクロスライセンスによってです。

クロスライセンスとは、ライセンス料を支払う代わりに金銭ではなく、そのライセンスに見合う別の特許を相手に提供することです。お互いの特許が互角であれば無償のクロスライセンスになります。片方が権利的に優位な場合は、差額を金銭で埋めます。

クロスライセンスを戦略的に使い、いかに自分たちの事業を強くする特許をもらうかです。同時に、自社事業を守るために本当のコアの技術は出さずに実現できるかです。

将来の事業を見据えた時に、場合によっては製品ができる前の研究開発段階で他社の特許を調べ、必要だと判断すればこの段階でクロスライセンスで手に入れます。


特許担当者は源流に入れ


本書で印象的だったのは、「特許担当者は源流に入れ」 という言葉です。

源流に入るとは、特許担当者は開発に入り込んで開発の担当者と一体になって特許を取りに行くことです。特許担当者は自分の机に座って仕事をしているだけでは十分とは言えません。担当する技術や製品の開発部分にいかに入り込めるかです。

開発と一緒に事業展開を考えながら特許を目指します。事業の視点で何が発明なのか、取りに行く範囲はどこまでで、あえてクローズにすべきなのはどこか等、特許担当者には現場に入り戦略的な判断が求められます。


思ったこと


本書を読んで考えさせられたのは、特許を戦略的に位置づけることです。

特許は、単に製品のために取り 「商品を守るため」 ではなく 「事業を守るため」 です。いかに視野を広くできるかです。

特許を使ってそれ自体のライセンス料で稼ぐのではなく、あくまで事業を発展させ事業を通じて稼ぐためです。理想は特許によって事業を独占できることです。

また、将来を見越して、今のうちから他社の特許技術をクロスライセンスによって使用の担保を取っておけば、研究開発の自由度が増します。

いずれも、特許の役割は競争を避けるためです。

特許が取れたとしても、ライセンス料を欲しさに他社でも使用できるようにしてしまうと、もしその特許技術が自社のコア領域であれば自社の優位性がなくなります。競争が起こってしまうので、事業を強くするという観点からは逆効果です。

特許の目的はあくまで事業を守ること、事業を強くし事業から稼ぐことが本来です。


まとめ


今回は、キヤノン特許部隊 という本をご紹介しました。

最後に今回の記事のまとめです。

  • 特許は自社の事業を強くするためにある。「商品を守るため」 ではなく 「事業を守るため」 。
    特許の目的はあくまで事業を守ること、事業を強くし事業から稼ぐことが本来

  • 特許を使ってそれ自体のライセンス料で稼ぐのではなく、あくまで事業を発展させ事業を通じて稼ぐためです。理想は特許によって事業を独占できること

  • 特許担当者は源流に入る。特許担当者は開発に入り込んで開発の担当者と一体になって特許を取りに行く


最後に


本書に書かれているのは、企業にとっての特許のあり方です。

交渉術、日本の国家戦略についてを特許の観点から語られています。交渉術では、アメリカでの交渉の体験、弁護士事務所の選び方です。また、相互に特許を提供し合うクロスライセンスを基本に、どうすれば自社にとって有利な条件になるかです。

読み応えのある本でした。



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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。