出典: PR TIMES
永谷園の 「おとなのふりかけ」 は、1989年 (平成元年) の発売から30年以上もたった令和の今も、スーパー等で売られています。
今回は、常識を変えてロングセラー商品から、商品開発やマーケティングに学べることを解説していきます。
マーケターとしてテンションが上がる時
少し個人的な話です。
これまでの常識を覆すような新しい商品やサービス、マーケティングの考え方と手法に出会った時に、1人のマーケターとしてテンションが上がります。「これまでの常識」 とは、例えば業界やカテゴリーで当たり前のように思われ続いていたことで、誰もそこに疑問の目は持たず前提として存在していたものです。
固定観念が強く根深いほど、ひっくり返した時のインパクトは大きいです。こうした常識を変えた事例を見た時には 「やられた」 とか 「その手があったか」 と思えます。
常識を変えたふりかけ
生まれた背景
「おとなのふりかけ」 のきっかけは、担当者が消費者データでの発見からでした (永谷園の公式サイト) 。
担当者が消費者データを見ていたところ、興味深い事実に気づきました。ふりかけは11歳までの子どもにはほぼ 100% 食べられているものの、12歳から急に需要が減少していました。つまり、消費者にとっては 「ふりかけ = 子ども商品」 というイメージの定着が、データから裏付けられたわけです。
今後ふりかけ市場が成長していくためには 「ふりかけ = 子ども商品」 という既成概念を打ち破らなければいけないとの思いから、永谷園は 「子どもだけではなく、大人も満足できるふりかけ」 をテーマとした新商品の開発プロジェクトを発足させました。
大人に満足してもらうために
商品開発では 「大人が満足するふりかけ」 を実現するために、素材、パッケージ、ネーミングから様々な工夫がされました。
素材では、海苔は、本来の色鮮やかさや独特の風味を残すことにこだわったそうです。パッケージは、大きな白地の窓に商品名を黒字で入れ、高級感を演出しました。
ネーミングは 「おとなのふりかけ」 というストレートな商品名にしました。
発売当時の CM も印象的です。「子どもの目から見た大人の世界」 という構図で描かれています。
学べること
では 「おとなのふりかけ」 から、商品開発やマーケティングに学べることを掘り下げていきましょう。
先入観にとらわれない機会発見
「おとなのふりかけ」 の開発のきっかけは、データを見て12歳以上のふりかけの喫食が11歳以下に比べて明らかに少ないという発見からでした。
消費者データを見てこの状況に課題意識を持った担当者が秀逸だと思います。
というのは、もし 「ふりかけ = 子どもが食べるもの」 という暗黙の了解で常識になっていると、データで12歳以上の人がふりかけを食べていないことがわかっても、気にも留めずに素通りしたはずだからです。事実、当時はそれまでは大人向けのふりかけはどこも出してはいませんでした。
先入観にとらわれないビジネスチャンスを見出せたことが、常識を変えるヒット商品につながったのです。
チャンスを見つける4つの 「みる」
ビジネス機会を捉えるためには、いかにものごとを深く観察できるかです。そのためには4つの 「みる」 を使い分ける意識を持つといいです。
✓ 4つの 「みる」
- 見る
- 視る
- 観る
- 診る
1. 見る
まずはフラットに対象となるものを見ます。先入観を持たずに素直な目で見るようにします。
ご紹介した 「おとなのふりかけ」 の事例では、担当者は常識にとらわれず、年齢層によるふりかけの消費量の違いを素直に受け止めました。
2. 視る
先入観を取り除いて見た後は、観察のための着眼点を持ちます。視点の切り替えを意図的にするといいでしょう。
たとえば、次のような3つの視点です。
- 虫の目: 近い距離の目線。具体を捉える
- 鳥の目: 高い位置から全体を俯瞰する目。全体像を把握する
- 魚の目: 流れを見る目。事象や情報を、世の中の流行や変化など、過去や未来との比較をする
他には、お客さん目線になる、競合の立場で自社商品を捉える、あるいは、現場とマネジメント・経営のように立ち位置の高さを変えることで、1つの視点に固定しないようにするのも有効です。
視ることで得られた着眼点が、仮説への切り口になります。
3. 観る
理科の授業の実験観察のように、意図を持って深く観ます。先ほどの 「視る」 で設定した着眼点から問題意識を高めたり仮説をつくります。
最初はフラットで素直な 「見る」 でしたが、ここでの 「観る」 は筋が良さそうな切り口から特定の領域を深く観察、考察します。
4. 診る
4つ目は 「診る」 です。お医者さんの診断などで使われる 「診」 という字です。観察したことから、それが何を意味するのか、要するにどういうことかの 「So what」 を洞察します。
仮説の解像度を高めたり、分析によって仮説の検証を進め、意思決定やネクストアクションへの示唆を出します。
明確なコンセプトからの商品開発とマーケティング
永谷園は、子どもしか食べないというふりかけの常識に機会を発見し、コンセプトを明確にしました。「大人が満足できる大人向けのふりかけ」 です。
コンセプトが決まり、ターゲット顧客を絞れると、商品開発やマーケティング、販売でやることが明確になります。「おとなのふりかけ」 の場合は、素材、パッケージやネーミング、CM においてコンセプトから一貫性があります。
たとえば素材は海苔にこだわり、味はふりかけでは当時はめずらしい 「わさび」 をつくりました。パッケージは高級感を出し大人向けをアピールしています。ネーミングは 「おとなのふりかけ」 とストレートに訴求しました。
テレビ CM は、小さい子ども目線で、大人 (お父さんとお母さん) が夜にふりかけを美味しそうに食べている様子を羨ましいと思う子どもを描き、大人向けのふりかけであることを印象的に訴求しています (CM の動画はこちら) 。
以上のように、当時のふりかけの常識から振り切りコンセプトを 「大人向けのふりかけ」 と明確にしたからこそ、商品開発やマーケティングで 「やること」 と 「やらないこと」 が定まったのです。
「やらないこと」 を明確にする重要性
多くの企業が失敗する要因、何でもかんでも手を広げすぎることにあります。ブランドイメージが希薄になったり、様々なことをやってコストがかさむばかりで成果が出ない非効率な事業活動になってしまいます。
「おとなのふりかけ」 の事例では、大人向けのふりかけであり、裏を返せば 「 (それまでのメイン喫食者であった) 子ども向けには訴求しない」 というやらないことを明確にしました。
ターゲットが大人であるため、子ども向けのキャラクターを使ったパッケージデザインや、子どもが好むような味付けは採用しませんでした。CM では、大人がふりかけを堪能しているというイメージを強調し、明るく楽しい子ども向けの CM とは一線を画しています。
やらないことが決め事としてあることで、方向性が定まった戦略を練ることができます。また、お客さんから見て企業やブランドが何を目指しているのか理解しやすくなります。明確なポジショニングが、他の商品との差異化要因になるでしょう。
以上が 「やらないこと」 を明確にする重要性です。「やること」 を決めるだけではなく、「やらないこと」 もはっきりと示すことで、戦略はシャープになり、企業としてのリソースも効率的に投入できます。これが、成功への鍵となるのです。
30年以上のロングセラーに
「おとなのふりかけ」 は発売されたのが1989年の平成元年で、当時の常識を覆し 「ふりかけは子どもだけではなく大人も食べたいもの」 に変えました。
令和の今もスーパー等で売られているロングセラーです。
最後に、発売からの 「おとなのふりかけ」 の歴史をつけておきます。
出典: 永谷園
まとめ
今回は 「おとなのふりかけ」 を取り上げ、商品開発やマーケティングに学べることを見てきました。
最後に、今回の学びのポイントをまとめておきます。
✓ 先入観にとらわれない機会発見
- 担当者が12歳以降はふりかけの喫食が少ない消費者データを見て、「ふりかけは子どもが食べるもの」 という常識にとらわれず、むしろビジネス機会だと捉えた
- ビジネス機会を捉えるためには、4つの 「みる」 (見る, 視る, 観る, 診る) を意識するといい
✓ 「やらないこと」 を明確にした戦略と打ち手
- 当時の常識にとらわれず振り切り、コンセプトを 「大人向けのふりかけ」 と明確にした。商品開発やマーケティングで 「やること」 と 「やらないこと」 が定まった
- やらないことを明確にすることで、戦略や打ち手が定まる。お客さんにとっては企業やブランドが目指すことが理解しやすい。明確なポジショニングが、他の商品との差異化要因になる
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