出典: G-SHOCK
今回のキーワードは、価値認識です。「優先すべきはお客さんの価値認識」 という話です。
おもしろいと思った腕時計を取り上げ、商品開発やマーケティングに学べることを掘り下げます。
✓ わかること
- Z 世代向けの商品開発の成功事例
- 社内の反対意見を押し切って商品化された 「虹色の G-SHOCK」
- マーケティングの格言に見るヒット理由
- 顧客視点になることの本質
よかったら最後までぜひ読んでみてください。
常識破りの商品開発
こちらの記事を読みました。
Z 世代はこうつかめ! - 1. 常識破りの商品開発 2. 「推される」 企業に 3. SNS を常に意識|毎日新聞
記事のタイトル通り、Z 世代に焦点を当てた記事です。
Z 世代の心をつかむためのポイントが3つ書かれていて、
- 常識破りの商品開発
- 「推される」 企業に
- SNS を常に意識
Z 世代が企画した G-SHOCK
ここから掘り下げていきたいのはポイント1つ目の 「常識破りの商品開発」 です。
記事から G-SHOCK の事例を見てみましょう。
Z 世代にブームの再燃を期待するのは、時計業界だ。スマートフォンの普及に伴い、普段、腕時計をしない人が増えており、若者にいかにアピールするかが課題だった。
そうした中、Z 世代が注目する商品がある。カシオ計算機が今年6月に発売した 「G-SHOCK」 の新シリーズ 「IRIDESCENT COLOR (イリデセント カラー) 」 (税込み価格1万4300 ~ 1万8700円) だ。最大の特徴は、無色透明が 「常識」 となっていた文字盤のガラス全面をグラデーションカラーで着色したことだ。
出典: トラベル Watch
文字盤のガラスが虹のようなグラデーションになっているのが特徴的です。
ちなみに商品名にもなっている Iridescent は 「虹色」 「玉虫色」 「さまざまな色に変化する」 という意味があります。
予想以上の反対意見
文字盤のガラスを虹色でグラデーションにする G-SHOCK は、社内の一部の反対を押し切って開発し商品化したとのことです。
商品を企画したのは井ノ本修さん (25) 。Z 世代の一人だ。
現在の若者は腕時計をファッション感覚で身につける人が多い。持ち物が 「他人とかぶりたくない」 と個性を重視する思いも強い。そんな同世代の共感を狙って発案したが、社内の抵抗は予想以上に大きかったという。
「視認性に欠ける商品を販売するのはいかがなものか」 。反対意見の多くはやはりガラス風防の着色に集中した。井ノ本さんは社内の数十人にアンケートをとるなどデータを積み重ね、Z 世代の心に必ず刺さるはずだとアピール。当初計画の1.5倍の売り上げを記録している。
顧客視点になることの本質
では G-SHOCK の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
価値認識の違い
マーケティングへの学びになるのは、腕時計のどこに価値を見出しているかの 「価値認識の違い」 です。
今回の話を整理すると次のようになります。
✓ 価値認識の違い
- 一般的な考え方: 時刻を確認できる
- Z 世代: 手元が映えて個性を出したい (そのためなら時刻の見やすさは犠牲にしても良い)
どちらも間違ってはいませんが、あえて正解を求めるならターゲットのお客さんがどちらを重視するかです。Z 世代を狙うなら Z 世代が時計に何を求めているかが重要です。
Z 世代にとっての腕時計の意味合いは時刻を知る手段としてよりも、手首での自分の個性の表現方法です。時間はスマホでもわかるので、あえて腕時計をすることの価値は個性を発揮し、映えを見せることにあります。
この価値観は上の年代の人には実感としてわかりませんでした。だからカシオ社内で反対の声が強かったわけですが、Z 世代でもある開発担当者の熱意と行動が社内を動かし、計画の1.5倍というヒット商品になったのです。
マーケティングの格言への当てはめ
マーケティングの格言に 「お客さんが買ったのはドリルだが、本当に欲しいのは穴を開けること」 というものがあります。
もともとは英語で、
People don't want to buy a quarter-inch drill. They want a quarter-inch hole.
顧客が欲しいのは 4 分の 1 インチのドリルではなく、4 分の 1 インチの穴を空けることである。
お客さんにとってドリルはあくまで手段であり、ドリルの先に目的とうて 「穴を開ける」 があり、お客さんの本当の望みやニーズを理解する重要性を言っています。
今回の G-SHOCK 「IRIDESCENT COLOR」 に当てはめれば腕時計はドリルです。では穴は何かなんですよね。Z 世代はなぜ腕時計という商品を買い、何のために使いたいかです。
Z 世代にとっては腕時計は自分の個性を見せる手段です。そのためなら時計の文字盤が見えにくくてもいいくらいに思っています。
さらに奥にある心理を汲み取ると、服装や持ち物の全体の中で腕時計という手首のちょっとしたところで人と違う個性を出したい。でも、上着やパンツなどの大きなところでは、あまり違いすぎることをしたくない。腕時計くらいの目立ちすぎない部分で自分らしさを出したいという気持ちでしょう。
本当の顧客視点
顧客視点になるとは、お客さんの立場になり、お客さんと同じものの見方、解釈、価値認識を持ち、お客さんが見ている世界観や景色を見ようとすることです。
価値観や見ている景色が同じでなければガラスが虹色の G-SHOCK を見て 「かわいい・かっこいい」 「個性が出せる」 と思わず、「視認性が悪くいかがなものか」 と全く異なる評価になります。
こうした解釈の違いは無意識にもとらわれてしまっているバイアス (ものの見方や固定観念) からです。
価値認識を変えてみよう
マーケターとして忘れないようにしたいのは、自分たち (作り手・売り手) はお客さんとは違うバイアス、価値認識を持ってしまっていることです。
バイアスに気づき、時には壊すためにも、
- お客さんと異なる価値認識に染まってしまっていないか
- それは具体的にはどんな価値認識やバイアスか
- バイアスを強制的にでも破壊するとどんな景色を見れるか
をあらためて問いてみるといいです。
お客さんと自分たち、つまり買い手と売り手の価値認識の違いを掘り下げて理解することで、商品開発やマーケティングのヒントになります。
まとめ
今回は文字盤のガラスが虹色の G-SHOCK 「IRIDESCENT COLOR」 を取り上げ、マーケティングに学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
✓ お客さんの価値認識にそろえよう
- 顧客視点になるとは、お客さんの立場になり、お客さんと同じものの見方、解釈、価値認識を持ち、お客さんが見ている世界観や景色を見ようとすること
- マーケターとして、自分たち (作り手・売り手) はお客さんとは違うバイアスや価値認識を持ってしまっていることは忘れないようにしよう
- バイアスに気づき、時には壊すと、商品開発やマーケティングのヒントになる
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