新商品がなかなか売れない、キャンペーンの反応が期待ほどではない……。そんな課題に頭を悩ませていないでしょうか?
問題の根本は 「なぜ, 誰に, 何を」 が明確でないからかもしれません。
今回は 「アサヒ ホワイトビール」 の事例から、成功する商品開発やマーケティングを紐解きます。ぜひ一緒に学んでいきましょう。
アサヒ ホワイトビール
出典: Marketing Native
アサヒ ホワイトビールが若年層やビールのライトユーザーに人気です。
アサヒ ホワイトビールの開発背景を見てみましょう。
アサヒビール 宮西 (引用者注: アサヒビール マーケティング本部 ビールマーケティング部 副主任の宮西桃子さん) 若年層のビール離れが進んでいるとされるなかで、「Z 世代やミレニアル世代へのアプローチが必要」 という危機感のような社内の共通認識があり、新たなユーザーを獲得するために開発したのがアサヒ ホワイトビールです。この商品では、若年層やビールを普段あまり飲まないライトユーザーをメインターゲットとしています。
商品開発にあたっては、若年層にユーザーインタビューを実施しました。これまで発売した商品はビールを好んでよく飲む人がターゲットのものが多かったので、週1回以上はビールを必ず飲むユーザーを対象にユーザーインタビューを行っていたのですが、今回はビールを全く飲まない人、苦手な人にも調査を実施しています。
その結果、ビールを飲まない人や苦手な人のなかにも、「夏にビアガーデンで飲んでいる人たちを見ると羨ましい」 「幼い頃の記憶から、ビールを飲むことができると『大人』という印象を抱いている」 などのビールに対する 「憧れ」 を抱いている方がいるとわかり、そこに商品開発の可能性を感じました。
また、ビールが好きな人へのユーザーインタビューで聞いた 「心がほどける」 という表現にも商品のヒントを得ています。その方は、日々忙しい時間を過ごしていても、ビールを飲む時間だけは忙しさを忘れられるそうで、その瞬間を 「心がほどける」 と表現していたのです。商品を通じて、この 「心がほどける」 という価値を届けられれば、ビールをあまり飲まない若年層の方々にも、ビールの存在をもっと身近に感じてもらえるのではと考え、商品開発を始めました。
成功するマーケティングの流れ
アサヒ ホワイトビールから学べるのは、マーケティングにおいて Why からはじめることの重要性です。
次のように 「Why (なぜ) 」 、「Who (誰に) 、「What (何を) 」 の順に進め、具体的な打ち手である How に入ります。
- 目的の明確化 [Why]
- ターゲット顧客の設定 [Who]
- 地道なインタビュー調査などからの顧客理解 [Who]
- お客さんの理解にもとづく商品コンセプトと価値定義 [What]
- パッケージやマーケティング施策に反映 (やること・やらないことを決める) [How]
それぞれ、順番に詳しく見ていきましょう。
目的の明確化 [Why]
なぜその商品を開発するのか、何のためにマーケティングを展開するのかの目的 (Why) を明確にすることが大事です。
Why という 「なぜ」 が定まっていれば、開発やマーケティングの活動は目的からブレることなく、一丸となって進められます。
アサヒ ホワイトビールの事例では、アサヒ社内で 「Z 世代やミレニアル世代へのアプローチが必要」 という危機感が共通認識としてありました。ビールへのエモーショナル (感情的) な価値をつくり、ビールをあまり飲まない若年層にもビールの存在をもっと身近に感じてもらいたいという想いが Why でした。
ターゲット顧客の設定 [Who]
次に大切なのは、誰にその商品を届けるのかというターゲット顧客の設定です。
アサヒ ホワイトビールでは、若年層の中でもビールを普段あまり飲まないライトユーザーをメインターゲットとしています。
地道なインタビュー調査などからの顧客理解 [Who]
ターゲットとなるお客さんが何を求めているのかを理解するフェーズに入ります。
アサヒは地道なインタビューを行い、ビールに対するお客さんの憧れの気持ちや、心がほどける瞬間といった消費者が普段はそこまでははっきりとは意識したり言語化していない心理を見出しました。
注目したいのは、ビールの調査としてのテーマをビールだけではなく、もっと広く消費者の関心を捉えたことです。そこから、ビールへの認識として 「憧れ」 と 「心ほどける」 という奥にある気持ちを掘り当てました。
こうしたお客さんの心理までの深い理解があったからこそ、次に見ていく商品コンセプトづくりや価値定義につながります。向き合うお客さんを絞ることで顧客像が明確になり、商品開発やマーケティング施策も効果的に行えます。
お客さんの理解にもとづく商品コンセプトと価値定義 [What]
顧客理解から導き出したい、商品コンセプトとお客さんにとっての価値の定義です。
アサヒ ホワイトビールは飲むことで 「心がほどけること」 を商品価値としました。日々忙しい時間を過ごしていても、ビールを飲む時だけは忙しさを忘れ、リラックスでき充実したひと時になることを心がほどける時間と定義したのです。
この捉え方は、前段階で事実として発見したお客さんの理解にもとづいています。
パッケージやマーケティング施策に反映 [How]
ここまでの 「なぜ」 「誰に」 「何を」 を踏まえ、具体的な商品開発やマーケティング施策 (How) に入ります。
アサヒ ホワイトビールでは、パッケージデザインやプロモーション施策に、お客さんの 「心がほどける瞬間」 と連動する要素を反映させました。
プロモーションで SNS を中心としたデジタルマーケティングに注力しています。
具体的には 「日々のふと心がほどけた瞬間や風景」 をテーマに、エモいと思う思い出エピソードをハッシュタグ 「#日々のエモい出」 を付けて X への投稿を呼びかけました。投稿の中から選ばれた作品は、アサヒが公式に映像化しました。
他には、「エモい出シェアスポット」 という、東京と茨城で開催されたイベント企画があります。指定のハッシュタグを付けて SNS に写真を投稿してくれた方に、人気イラストレーターが描き下ろした限定のエモいステッカーを配ったり、思い出に残してもらえるフォトブースを設置しました。また、商品のサンプルも配布しています。
アサヒは顧客理解と商品コンセプトから 「やることとやらないこと」 を明確にしました。エモーショナルな瞬間にマッチする商品であるというメッセージを強調し、若年層に対する認知と興味を高める施策を展開したのです。
* * *
重要なのは、ここまでに至る施策実施の前に 「なぜ」 「誰に」 「何を」 というステップがあったことです。目的という Why からはじめ、ターゲット顧客の設定と理解、価値定義を徹底的に行なったことが、一貫性のある打ち手に結びついたのです。
まとめ
今回は 「アサヒ ホワイトビール」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントとして、Why からはじめるプロセスです。
- なぜ商品を開発するのか、なぜマーケティングを行うのかという Why を明確にする。目的が全ての活動の指針となる
- ターゲット顧客を設定し、インタビューなどを通してお客さんのことを理解する。深い顧客理解から商品価値を定義する
- 目的と顧客理解、価値定義が整い、やること・やらないことを決めたうえで具体的な打ち手に入る。目的から落とし込まれた施策を展開することで、一貫性のある取り組みになる
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