「若者のクルマ離れ」 が言われますが、本当にそうなのでしょうか?
今回はトヨタが提供する車のサブスク 「KINTO (キント) 」 を取り上げます。KINTO は若者に人気なのですが、その裏には緻密なマーケティングがありました。
ぜひ一緒に学びを深めていきましょう。
車サブスク KINTO
出典: トヨタモビリティ東京
トヨタが提供する車のサブスク 「KINTO (キント) 」 が若者に人気です。
KINTO の累計申込者数の4割は20 ~ 30代が占めます。一般的な自動車保有に比べて若年層が高いサービス利用者の構造になっています。世間一般では 「若者の車離れ」 と言われることもありますが、KINTO は明らかに様相が異なります。
トヨタでは定期的に若者の自動車に関する実態調査を行っていますが、調査からわかったのは 「若者でも車へのポジティブな感情はあり、憧れの気持ちが見られる」 というものです。
今の若者である Z 世代は、車のことを 「日常生活の充実に欠かせないもの」 とまではいかないものの、「長く楽しめる趣味」 や 「憧れる」 という思い入れを持っていました。
調査や自動車保有の実態とも合わせて言えるのは、若者は車のことを楽しむ趣味や憧れとしての対象と見ていますが、何らかの理由で買って所有はしていないという現状です。
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ではここまでの文脈を踏まえ、KINTO がなぜ若者から人気を呼んでいるのかをマーケティング視点で見ていきましょう。
KINTO のマーケティング
顧客理解から見出した 「不」
トヨタの自動車サブスク KINTO の成功の裏には、丁寧な消費者調査あります。
車に関する情報だけではなく、それ以外の要素についても徹底的に調査しました。インタビューやアンケート、さらには SNS での情報収集など、多角的にお客さんの生の声を拾い上げています。
若年層は、車を必需品とは見ていないものの、「憧れ」 や 「長く楽しめる趣味」 と捉えていました。
車を買いたいニーズは見られましたが、現実的に購入しにいく心理的・物理的ハードルがありました。
たとえば、車の購入費だけではなく、車検や任意保険など追加でかかる費用です。他には購入までのプロセスの煩雑さです。パンフレットを取り寄せて、何件も自動車販売店をまわり、あとから分からないことがあったら電話して確認する、手続きや申し込みは店頭にまた足を運ぶ……。こうしたフローを面倒に感じていることがわかりました。
非購入ハードルを解消する価値提案
そこでトヨタは、こうしたお客さんの 「不」 を解決するサービスとして KINTO を提案をしています。
価値提案の訴求内容は具体的には2つあり、「楽にプランを選んで、月単位で収支を管理できる」 と 「Web で情報の取得から申し込みまで完結する」 という、お客さん目線でのサービス体験価値を提示しました。
前者の料金プランは、車をサブスクで利用することへのコストを月額制にしました。若年層が他の色々なサブスク利用で慣れている月単位での課金体系にすることによって、分かりやすさを打ち出しました。
後者のサブスクの申し込みについては、KINTO では、車種ごとに受けられるサービスを網羅的にサイト上に記載しています。そして、何カ月後に納車か、どの店舗で受け取るかも Web で確認し、選ぶことができるようにしました。
店頭に行くのは車を受け取るときとメンテナンスのときだけとなりました。
マーケティングコミュニケーション
KINTO は、ターゲットとするお客さんへのコミュニケーションにも、顧客理解にもとづき、車を買ったり保有することへの心理的ハードルを下げる工夫を入れています。
たとえば3つの 「ストレス」 に焦点を当てたウェブ CM です。
3つのストレスとは、「都度、車を借りるのが面倒」 「安い中古車だと故障の修理やメンテナンスが大変」 「子どもの成長に合わせて、車を乗り換えるのが面倒」 というもの。これらはユーザーヒアリングから入手した情報をもとに、ターゲットとするお客さんが感じる車にまつわるストレスです。
KINTO なら 「車にまつわるストレスがナイ!」 とわかりやすく訴求し、いずれの不も KINTO なら解決できるというコミュニケーションを展開しています。
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以上を見ると、KINTO は調査、顧客理解、価値提案と全部がつながっていることがわかります。
お客さんの不や気持ちを理解し、心理的・物理的なハードルを解消しお客さんの望みに応える価値を提案することで、実は車に憧れを持っている若者を引きつけ、「車が欲しい」 「自分の車で運転したい」 という利用意向の気持ちをつくっているのです。
さすがのマーケティングです。
まとめ
今回はトヨタの自動車サブスク KINTO を取り上げ、学べることを見てきました。
最後に学びのポイントをまとめておきます。
- 深い顧客理解: KINTO は若年層への多角的な消費者調査を実施。車を必需品とは考えていないが 「憧れ」 や 「長く楽しめる趣味」 として捉えていること、そして購入に対する心理的・物理的なハードルが存在することを明らかにした
- 具体的な価値提案: 顧客理解をもとにお客さんの 「不」 を解消する価値を提案。料金プランや購入プロセスをわかりやすくした。また、不を具体的なストレスとして描写し、KINTO なら解決できるというコミュニケーションを展開した。若者からの 「自分の車が欲しい」 という気持ちをつくっている
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