今回は、高級チョコレートのゴディバが、世界初のベーカリー店 「ゴディパン」 を日本にオープンしたという話題を取り上げます。
ゴディパンから学べるのは、マーケティングでのブランド戦略です。ぜひ一緒に学びを深めていきませんか?
ゴディバ世界初のベーカリー店
出典: TimeOut
ゴディバは1926年に誕生し、今なおプレミアムチョコレートで存在感があるブランドです。
会社としてのゴディバはベルギーで創業し、ベルギー王室の御用達となましたが、現在はトルコのユルドゥズ・ホールディングの傘下にあり、アメリカ合衆国ニューヨーク州に本社を置く国際的なチョコレートメーカーです。アメリカ合衆国やヨーロッパ、アジアにおいてチョコレートや関連商品の販売を行っています。
そんなゴディバですが、ゴディバ ジャパンが、世界初のベーカリー店 「GODIVA Bakery ゴディパン 本店」 を東京・有楽町にオープンさせました。
初日から人気
2023年8月4日のオープン初日は200人以上が行列をつくりました。その後も人気が衰えることはなく、混雑する時間帯 (11時 ~ 16時まで) には入場券を配布したり、今でも、購入数を1人5点まで (期間限定商品は2点まで) と制限をかけるほどの人気ぶりです。
ゴディパンのコンセプトは 「町のパン屋さん meets ゴディバ」 です。ゴディバの高級感と、地元の温かみや親近感を兼ね備えたパン屋さんになっています。
出典: DTIMES
ゴディパンで販売されている全てのパンは、ゴディバらしくチョコレートやカカオ由来の素材が使われています。
中でも人気があるのは 「コロネ (ショコラ) 」 (税込み453円) です。商品コンセプトは 「日本生まれの菓子パン『チョココロネ』を、ゴディバが作ったら?」 というもので、ダークチョコレートのバーが一本丸ごと入っています。
世界初のベーカリー店を開いた背景
ゴディバがあえて 「ゴディパン」 というパン屋さんを展開する背景を見てみましょう。
なぜゴディバは、日本で 「世界初のベーカリー」 を開くことになったのでしょうか?
結論から言うと、狙いはギフト需要のみからの脱却にあります。ギフト需要から 「日常使い」 へのシフトを図るためです。
ゴディバはもともとギフト需要を受け皿にしたビジネスを展開してきました。高級チョコレートのプレゼントが必要とされる時期やシチュエーションでの購入ニーズが高いのが、ゴディバの特徴です。
そこでゴディバは、バレンタインデーなどの特定のシーズンだけではなく、日常の中でゴディバのチョコレートを楽しんでもらうにはどうしたらいいかを考えました。
「日常使い」 という新しい視点から生まれたアイデアがパンでした。パンは日常的に食べられるもので、ゴディバの強みであるチョコレートとの相性も良いことから、パン屋を展開し、ギフト需要からの脱却を狙ったのです。
ゴディバのブランド戦略
ではゴディバの世界初のベーカリー店 「ゴディパン」 から、学べることを掘り下げていきましょう。
ゴディバの今回の事例からは、ブランド戦略に学びがあります。
そもそもブランドとは
ブランドとは、商品やサービスを超えた、独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによってつくられ、お客さんの心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。
ブランドは特有の "らしさ" を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これ “が” いい」 と選ばれる存在となるわけです。
ブランドが持つ "らしさ" とは、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形作られます。
たとえばゴディバは、高級なチョコレートというモノとしてだけでなく、"ゴディバにしかない至高の味わい" や "上質なチョコレート体験" といった顧客価値を長年にわたって目指してきました。この一貫した活動、すなわちブランドを築くブランディングがお客さんの心の中に "高級チョコの代名詞" という強い認識を生み出しているのです。
ブランドが持つ固有の "らしさ" は、競合他社には簡単に真似のできない、ブランド独自の資産です。ここでゴディパンに話をつなげると、ゴディバがベーカリー店を展開するのは、今まで積み重ねてきた独自ブランド資産を横展開する 「ブランド拡張」 と見ることができます。
ブランド拡張とは
ブランド拡張とは、既存のブランド資産、具体的には知名度や信用を新しいカテゴリーでの商品やサービスに適用するアプローチのことです。
すでにお客さんが知っていて信用しているので、そのブランドから新しいカテゴリーやジャンルの新商品が出たら、期待値が自然と高まり買ってもらえることを期待するわけです。
ブランド拡張の注意点
ただし、ブランド拡張には注意点があります。
ブランド拡張を目指した新商品が既存のブランドイメージから逸脱しすぎると、ブランドを毀損するリスクがあります。
例えば、高級車メーカーが突如としてあまりに廉価な自動車を出した場合です。低価格によって確かに売れますが、それは一時的で長い目で見れば今まで積み上げてきた高級でラグジュアリーなブランドイメージは崩れてしまうでしょう。
ブランドとは本質的にはお客さんの頭の中にある商品やサービスへの価値イメージです。そのイメージが大きく変わると、これまで積み重ねてきたブランド資産を一気に失うことすらあるのです。
今回のゴディバのケースに当てはめれば、高級路線で展開してきたブランドが、親近感のある存在になろうとしても一歩やり方を間違えると、今までのゴディバのブランドイメージを失ってしまう可能性もあったわけです。
ゴディバのブランド拡張
ここまでの文脈を前提にすると、ゴディバが 「ゴディパン」 というパン屋を出店するアプローチはうまくできています。
ゴディパンのコンセプトを 「町のパン屋さん meets ゴディバ」 としました。
パン屋というカテゴリーであれば、チョコからはほどよい距離感があり、親しみやすさを打ち出しても、高級チョコのイメージが崩れることはないでしょう。親しみやすさを感じる店舗デザインや商品ラインアップになっていても、ゴディバの高級イメージを保てます。
ゴディバの主力商品であるチョコを活かせるシナジーが生まれます。あのゴディバが作ったパンが手軽に食べられるという消費者からの 「買いたい」 気持ちをつくることができるでしょう。
もともとのゴディバの課題感であった、ギフト需要から日常使いにも広げたいという意向も満たします。
以上のように、ゴディバはブランド拡張をうまく活用し、既存のチョコでも高級イメージを維持しつつ、新たな市場であるパンに進出しています。この事例は、ブランド拡張の成功例と言えるでしょう。
まとめ
今回は、ゴディバのベーカリー店 「ゴディパン」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランド拡張とは、既存のブランド名やブランドとしての資産 (知名度や信用など) を新しいカテゴリーでの商品やサービスに適用すること
- すでにお客さんに知られ信用されているので、そのブランドから新しいカテゴリーで新商品が出たら、期待値が自然と高まり買ってもらえることを狙う
- 注意点は、新しい領域での商品やサービスが既存のブランドイメージと違いすぎると、積み上げてきたブランドが毀損してしまうこともある
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