今回のテーマは 「セブン-イレブンの顧客体験マーケティング」 です。
鈴木敏文の CX (顧客体験) 入門 (鈴木敏文, 勝見明) という本から、セブン-イレブンのマーケティングを紐解きます。
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本書の概要
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セブン-イレブンの店舗運営、商品開発、マーケティングについて、創業者の鈴木敏文氏が自らの考えや実践してきたことを語る本です。
マーケティングの観点で一言で表現すれば、「顧客中心の顧客起点の経営」 が書かれています。
コト消費 (顧客体験)
この本では、「モノ消費からコト消費へのシフト」 が強調されています。
モノ消費ではなくコト消費 (顧客体験) を重視
モノ的な価値とは、モノそのものがもっている価値のことです。服でいえば、デザイン、色や柄、素材、丈夫さや体温保持といった機能や性能などの客観的な価値を意味します。
コト消費とは、モノとヒトとの間で、買い手がそのとき・その場でのモノとの関係性に対して感じる主観的な価値です。
服でいえば、その服に共感するところがあり、試着してみて前向きな気分になれたり、購入して着用し、心の高揚感を感じればコト消費という関係性が新たに生まれます。
心理を読み、行動を予測し、体験を予想する
本書で一貫して貫かれているのは、「お客さんの心理を読み、行動を予測し、どんなコト体験を望むのかを常に考えること」 です。ここを徹底してきたところにセブン-イレブンの強さがあります。
たとえば、コンビニでのおにぎりやお弁当の販売は、創業者で著者の鈴木氏が立てた仮説から始まりました。
コンビニでおにぎりやお弁当を買う心理と体験
おにぎりやお弁当は今やコンビニの定番商品で、どのコンビニでも必ず売られています。
しかし、当時に鈴木氏が日本型のファストフードを独自に開発する必要があると考え、それはおにぎりや弁当の販売であると社内で提案すると、まわりからは 「おにぎりやお弁当は家でつくるものだ。売れるわけがない」 と大反対されたそうです。
しかし鈴木氏の考えは周囲とは違いました。根底にあったのは、日本人の生活の中で定着している行為や習慣を、より簡単に、より手軽に実現できるような商品やサービスを提供すれば、必ずお客様に支持されるという見解です。
おにぎりやお弁当は日本人の誰もが食べるもので、大きな需要が見込まれました。それまでは家でつくるのが習慣でしたが、もっとよい材料を使い、味を徹底的に追求して家庭でつくるものと差異化できれば、消費者は 「コンビニでおにぎりやお弁当を必ず買うだろう」 と見立てたのです。
家庭では作れないおにぎりを食べるという新しい体験に、いつでも安く買えるという利便性という価値を加えることで、消費者はきっと買いたいと思い、コンビニで手に取るはずだ。そんな仮説を立てて、セブン-イレブンでのおにぎりや弁当販売に踏み切ったのです。
セブン-イレブン流の仮説検証の経営は、お客さんの心理を読んで、行動を予測し、どんな体験 (コト) を望むかを予想して仮説を立て、実行し、結果を検証するというものです。
顧客起点
この本で印象的だったのは、顧客起点についての考え方です。
「お客さんのために」 ではなく 「お客さんの立場になること」
顧客起点というと、よく 「お客さんのために」 と考えることでしょう。しかし、「お客さんのために」 と 「お客さんの立場になること」 は異なるというのが鈴木氏の指摘です。
お客さんのためにと思っても、根底にあるのは売り手本位ならば、それは本当の意味でのお客さん目線にはなれていません。そうではなく、お客さんの立場になってお客さんの文脈を理解し、相手の目線になることが大事なのです。
消費者が求めるのは 「安いもの」 ではなく 「お得感のあるもの」
「お客さんのために」 と 「お客さんの立場で」 の違いは、たとえば価格設定の例に当てはめるとイメージがしやすいです。
売り手発想
売り手視点で 「お客さんのために」 と考えるなら、商品やサービスの値段は1円でも安いほうがいいでしょう。
たとえば、これはセブン-イレブンではなくイトーヨーカ堂の例ですが、以前にイトーヨーカ堂は 「現金下取りセール」 を実施したことがあります。衣料品の購入金額が合計5000円を超えるごとに、お客さんの自宅にある不要になった衣類を1点1000円で下取りするという企画です。この企画は、リーマンショック後の消費が落ち込む中で開催されました。
現金下取りセールは理屈上は 「二割引き」 と同じです。5000円を買えば1000円の買い取りなので、実質払った金額は4000円です。
企画が生まれた当初は、社内では 「割引きをしても簡単には売れない状況なのに、割引きもせず、下取りをするだけでは消費者は反応しないだろう」 と疑問視する声があがったそうです。
現金下取りも2割引きも同じと考えた人たちは、どちらも5000円の服を4000円で買う点では同じと考えたわけですが、これは売り手側の発想です。
消費者の心理
しかし、消費者の心理や感覚に目を向けると、異なる見方ができます。
モノ余りで、どの家庭もタンスの中は着なくなった服であふれていることでしょう。着なくなった服は客観的に考えれば価値はありませんが、持ち主にとっては捨てると損をするような気がして自分ではなかなか捨てられないのです。
下取りであれば、着なくなった古い服を買い取ってもらえるという新たな価値が生まれます。さらに捨てずに済むという罪悪感を感じることもなくなるでしょう。ならば、お金に換えて買い物をしようと思うわけです。
人は、損と得を同じ天秤にかけようとせず、通常は 「損して失うもの」 のほうが 「得して得るもの」 より大きく感じてしまうものです。現金下取りなら、服を手放す損失の感覚を上回る喜びが得られるので、利用しようと思うことでしょう。
単に二割引きという安さだけでは、積極的に服を買おうとまでは思わなかったとしても、不要の古い服を下取りに出してお金に換え、新しい服を買うのであれば自分の選択について納得できるし、消費を正当化できます。
現金下取りセールという一連の体験に価値を感じ、消費がイベント性を持つようになるわけで、これが消費者の心理です。
消費者が本当に求めているのは、単なる安さよりも、「お得感のあるもの」 「お値打ちなもの」 なのです。
顧客満足の追求
セブン-イレブンは顧客満足の追求に妥協はありません。
お客さんの満足は、お客さんから飽きられる始まりでもある
最初はどんなに良い商品でも、同じ商品を売り続けているだけでは、お客さんは次第に飽きてしまいます。
お客さんが商品やサービスに満足している状態は、実は 「飽き」 が始まっている状況でもあります。最初の 「満足」 が、次には 「ぎりぎりの及第点」 になり、やがては 「飽きる」 に変わります。
顧客満足は固定的なものではなく、動的です。満足が永続することはないのです。
お客さんが離れていく原因は、売り手側のマンネリです。提供される商品やサービスがマンネリ化して次第に価値を感じなくなり、売り手が気づかないところでお客さんは離れていくわけです。
飽きられないためにも、顕在化したニーズを見るだけではただ過去を追っているだけで、これでは十分とは言えません。潜在ニーズという未来に目を向ける必要があります。常に現在から半歩や一歩先を見据え、お客さんの潜在的なニーズを探り、絶え間ない探求と自らの変化を続けることが大事です。
本当の競争相手は 「変わり続けるお客さんのニーズ」
セブン-イレブンでは、自分たちの競争相手の捉え方にも顧客視点が入っていて、興味深かったです。
本当の競争相手は競合他社ではなく、真に競争する相手は「常に変わり続けるお客さんのニーズ」 であると。業界の常識や他社の動向にとらわれることなく、お客さんが何を求め、何に価値を感じるのかを深く理解し、それに応え続けることが持続的なビジネス成功のカギを握ります。
まとめ
今回は、鈴木敏文の CX (顧客体験) 入門 (鈴木敏文, 勝見明) という本をご紹介しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- セブン-イレブンでは、製品そのものの客観的価値 (モノ消費) だけではなく、顧客体験 (コト消費) に焦点を当て、購入時の感情や体験を重視している
- 顧客の心理を読み、その行動を予測し、求める体験を提供し続けてきることが大事。顧客視点になるためには、「お客さんのために」 ではなく 「お客さんの立場」 になること
- お客さんの満足は、お客さんから飽きられる始まりでもある。そのため顧客の潜在ニーズを見極め、常に少し先を行く探求と変化が必要。本当の競争相手は 「変わり続けるお客さんのニーズ」 である
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