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イオンのソバーキュリアス向け PB 飲料 「19 Nineteen」 。顧客理解、理解しての商品開発へ

#マーケティング #顧客理解 #価値創出

市場は常に変化しており、消費者のニーズも日々変わっています。

だからこそ、新しいトレンドをいかに早く察知し、それに応じた商品開発やマーケティングを行うことがビジネスの成功を左右します。

今回は、イオンが新たに発売した飲料シリーズの 「19 Nineteen」 を取り上げます。イオンはどのように新たな消費者トレンドを捉え、ターゲット顧客を設定し、商品開発を進めていったのでしょうか?

市場の新しい動きに敏感であることの重要性、深い顧客理解の価値、そしてそれらをもとにした価値創出のプロセスを紐解きます。

イオン PB 「19 Nineteen」 



イオンは、MZ 世代 (ミレニアル世代と Z 世代に該当する20代から30代) をターゲットにした 「19 Nineteen」 シリーズを2023年9月に発売しました (リリース) 。

イオンのプライベートブランド (PB) であるトップバリュからです。「19 Nineteen」 シリーズは、「トップバリュ クラフテル (クラフテルはクラフトとカクテルをかけ合わせた造語) 」 の3つのシリーズラインのうち、第一弾となるものです。

ソバーキュリアス向けドリンク

19 Nineteen はソバーキュリアス向けの飲料です。

ソバーキュリアスとは、健康上の理由などから、あえてアルコールを飲まない新たなライフスタイルで、ここ最近になって注目されているトレンドです。

19 Nineteen は、こうしたソバーキュリアスを嗜好する人に向けた、アルコールでもソフトドリンクでもない、新しい味覚を体験できることを打ち出した飲料です。

開発のプロセス

19 Nineteen の開発には神田外語大学の学生も参加し、学生の意見も取り入れながら商品化が進められました。

また、MZ 世代に対するインタビューを通じた定性調査を行いました。

調査から、特に Z 世代が飲み会の場で不満を感じていることが明らかになりました。具体的には、ノンアルコール飲料への限られた選択肢についての不満で、アルコール飲料を飲まない人からすると、「どうせ私たちはウーロン茶とかコーラでも飲んでおけってことでしょ」 と。

アルコールドリンクを飲まないソバーキュリアスな若年層は、飲み会で肩身の狭い思いをしていました。せっかくの飲み会というハレの日にもかかわらず、ウーロン茶、コーラやオレンジジュースくらいしか飲み物の選択肢がないわけです。

イオンはこうした顧客文脈の理解をもとに、「どんな時も共感し、寄り添う」 ことをテーマに掲げ、Z 世代の感情や体験に合致した 「19 Nineteen」 を開発しました。

 「大人でも子どもでもない曖昧な気持ちやときめき、ワクワク感」 を、様々なスパイスや果実などの素材と組み合わせ、ジュースでは体験できない複雑な味わいと香りで表現したドリンクシリーズを目指しました。

売上への成果

19 Nineteen の発売後、狙い通りに若い人たちから支持されました。

イオンリテールでは MZ 世代のソフトドリンクカテゴリーの購入客数が 104% 増加し、まいばすけっとでは購入客数は 262.7% の増加を見せました (参考記事) 。特に大学近隣の店舗では、19 Nineteen を求める Z 世代の来店が増加したとのことです。

顧客起点のビジネス展開


では、19 Nineteen (イオンのソバーキュリアス向け PB 飲料) から学べることを掘り下げていきましょう。

19 Nineteen は、想定するお客さんを明確にし、設定した顧客像からお客さんのことを深く理解、そして顧客理解にもとづいての商品開発までと、顧客起点で進められたマーケティングのお手本になる事例です。

新しいトレンドの察知

まず、イオンは市場の動向と消費者トレンドを察知することから始めました。

注目したのは、ここ最近でトレンド傾向にある 「ソバーキュリアス」 でした。ソバーキュリアスとは、健康上の理由や個人的な価値観からアルコールを控えるというライフスタイルですが、ソバーキュリアスを嗜好する若者が増えている現象が起こっていました。

イオンはこのトレンドをビジネスチャンスと捉え、ターゲットとする顧客層を明確に定めました。

深い顧客理解

次に、イオンはターゲット顧客のとっている行動や習慣、言動だけではなく、その奥にある心理まで深く理解するように努めました。

イオンが実施した定性調査でわかったのは、アルコールドリンクを飲まないソバーキュリアスな Z 世代は 「ノンアルコール飲料の選択肢の少なさ」 や 「飲み会で肩身の狭い思いをしている」 ということでした。

せっかくの飲み会という 「ハレの場」 や 「特別な時間」 にもかかわらず、ノンアルコール飲料はウーロン茶やオレンジジュース、炭酸飲料はコーラくらいしか選択肢がないという状況でした。想定したターゲット顧客は、「どうせ私たちはウーロン茶でも飲んでおけばということでしょ」 という不満を抱いていたのです。

コンセプト化

こうした顧客理解をベースに、「19 Nineteen」 は開発されました。

商品開発に当たっては、ソバーキュリアス志向やお酒を普段飲まない若者世代のニーズに合致する新しい味覚の探求だけでなく、彼ら・彼女らの感情や体験価値に寄り添うコンセプトにしました。

 「どんな時も共感し、寄り添うこと」 をテーマに掲げ、 「大人でも子どもでもない曖昧な気持ちやときめき、ワクワク感」 への追求です。「共感と寄り添い」 を体現する商品と位置づけました。

顧客理解からの価値創出

イオンの 「19 Nineteen」 から学べるのは、ターゲット顧客の理解を表層的なニーズや行動にとどめないことの重要性です。

背後にある心理や感情を深く理解し、顧客理解にもとづいた商品開発やマーケティングを展開していくことが大事です。このような顧客起点のアプローチは、ビジネスでの成功のカギを握ります。

まとめ


今回は、イオンの PB トップバリュの 「19 Nineteen」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 新しいトレンドの察知と顧客設定: イオンは市場の動向と消費者トレンドを敏感に捉えた。ターゲット顧客層を明確に定めることで、市場における新しいニーズに応える商品開発の出発点となった

  • 深い顧客理解: イオンは定性調査を通じて、ターゲット顧客の行動や習慣だけでなく、その背後にある心理や感情まで深く理解することに努めた。アルコールを飲まない人にとっては飲料の選択肢が限られ、せっかくの飲み会なのに居心地の悪さを感じていることは、商品開発へのヒントになった

  • 顧客理解からの価値創出: イオンの 「19 Nineteen」 の開発は、ターゲット顧客を中心に据え、顧客理解、コンセプト化、価値定義、商品化と進められた


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。