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バーガーキング。秀逸な賛否両論コミュニケーションアイデア

#マーケティング #プロダクトアイデア #コミュニケーションアイデア

そのマーケティングコミュニケーションは、本当に自社の商品やサービスの成功に貢献できる内容になっているでしょうか?

商品そのものの魅力がしっかりと相手に伝わらなければ、いくらおもしろい広告を展開しても、お客さんと商品との長期的な関係はつくれません。

今回は、バーガーキングのマーケティング事例から、独自のコミュニケーションアイデアで話題をつくり、いかにして商品やブランドの価値を高めるか、その秘訣を紐解きます。

バーガーキングの巧みなマーケティング


バーガーキングの武器のひとつが、巧みなマーケティングです。

出店先の空き物件を SNS で募集する異色のキャンペーン



予算は少ないが、店舗数は増やしたい――。このバーガーキングの課題に対して、見事な打ち手だったのが 「バーガーキングを増やそう」 キャンペーンでした。

2024年2月5日にスタートしたバーガーキングのキャンペーンでは、「お客さんにバーガーキングの出店先になり得る空き物件を、消費者に見つけて応募してもらう」 というものでした。企画への全応募者にバーガーキングの割引クーポンをもらえ、さらに物件が成約にいたると10万円がもらえる斬新な企画です。

キャンペーンの告知が2024年1月19日に SNS で行われると、リポスト1万1000件、いいね1万3000件という反応を得ました (参考記事) 。

そして実際に応募が正式に開始されると、24時間で応募数は2万件を突破。サイトのサーバーがダウンするほどの反響がありました。キャンペーン終了時には、累計応募数が7万8610件にも達し、東京、大阪、愛知 (名古屋) 、千葉、埼玉などの都市圏から特に多くの情報が集まりました。

奇抜なキャンペーンとしてバーガーキングが話題を集めただけでもキャンペーンは成功したと言えますが、それ以上の価値があります。

集まった膨大な出店先候補データは、そこにバーガーキングがあってほしいという消費者からの希望と言えます。バーガーキングが日々利用される商圏のヒートマップと重ね合わせることで、未開拓の出店エリアがわかり、ビジネスの成長ポテンシャルを見出す参考情報になります。

このキャンペーンからは、バーガーキングは企画に投じた金額以上のリターンを得たのは間違いないでしょう。

閉店するマック店への感謝ポスターに隠されたメッセージ



他にもバーガーキングのユニークなマーケティングがあります。

2020年1月末に 「バーガーキング秋葉原昭和通り店」 の店先に張り出されたポスターです。

当時、バーガーキングの2軒隣のマクドナルド店が閉店するのを受けて、バーガーキングは 「22年間、たくさんのハッピーをありがとう。」 というタイトルの感謝のメッセージを掲示した。一見すると、去り行くライバルを見送る温かいエピソードです。

しかし、6段にわたって書かれた感謝を伝える文章の頭の1文字目を縦読みすると、そこにはバーガーキングの真のメッセージが書かれていました。「私たちの勝チ」 と読める仕掛けが隠されていたのです。

バーガーキングが狙うメッセージのさじ加減

競合相手に勝ち誇り、挑発とも取れるバーガーキングのポスターの内容に X ユーザーからの評価は賛否両論でした。

これもバーガーキングが狙っていた展開なのでしょう。賛成と反対のちょうど真ん中にピンを刺すと、賛否の両サイドからの注目を集められます。賛成側にピンを置いた無難な施策は、炎上もしないが、ここまでのバズりも起こらないでしょう。

* * *

さて、ここで少し話を変えます。

プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデア


ここまで見てきたバーガーキングのマーケティングからの学びを掘り下げるために、まずは補助線として使う切り口をご紹介します。

二種類のアイデア

アイデアには、プロダクト自体の提案につながる 「プロダクトアイデア」 と、プロダクトアイデアをどう伝えるかという 「コミュニケーションアイデア」 の2つがあります。

出典: MarkeZine

プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアのそれぞれで、「独自性」 と 「便益」 があることが大事です。

具体的には、

✓ プロダクトアイデア

  • 独自性: 競合商品からの優位性
  • 便益: 使って得られる価値

✓ コミュニケーションアイデア

  • 独自性: 他にはない伝え方 (例: 見たことがない広告映像) 
  • 便益: おもしろい, 好き, 共有したくなる内容

メインはプロダクトアイデア

プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアの関係は、主従関係にあります。

先ほどの図で左側のプロダクトアイデアからコミュニケーションアイデアの矢印が出ているように、プロダクトアイデアが 「主」 、コミュニケーションアイデアが 「従」 です。

プロダクトアイデアがメインということは、まずプロダクトアイデアを強固にしないと、いくらコミュニケーションアイデアで注目を集めても、プロダクトは持続可能ではないということを意味します。

プロダクトアイデア自体が筋の良いものでなければ、コミュニケーションから一度は買ってもらえても、プロダクトへの満足度が高まらず、その結果リピートはされないために、そのプロダクトはいずれは消えてしまうでしょう。

プロダクトアイデアがあってのコミュニケーションアイデア

広告はおもしろいけれど買われない、というのはありがちなことです。

広告の表現がいくらおもしろくても、その広告を扱う商品・サービスが何だったかは覚えていないというケースもあるでしょう。

その要因は、展開するコミュニケーションにプロダクトのアイデアが落とし込まれていないか、そもそもプロダクトアイデアに独自性や便益がないかことが原因です。

試しに買ったとしてもプロダクトに満足しなければ、リピートにつながらず、それどころか悪い評価や口コミが立ってしまったら、コミュニケーションがマイナスに働いてしまいます。

バーガーキングへの当てはめ


ではここまでを踏まえ、「コミュニケーションアイデア」 と 「プロダクトアイデア」 をバーガーキングの事例に当てはめてみましょう。

まずはバーガーキングのコミュニケーションアイデアから見てみます。

バーガーキングのコミュニケーションアイデア

バーガーキングのキャンペーンにある 「コミュニケーションアイデア」 は、他にはないユニークさが特徴的です。

バーガーキングのコミュニケーションアイデアを独自性と便益に分けると、次のようになります。

独自性は、X ユーザーにバーガーキングの出店場所を募集したり、競合ライバル店舗の閉店に感謝を伝えるポスターの中に実は隠れた勝利宣言メッセージを潜ませるなど、他社がやっていない様々なコミュニケーションを打ち出しています。

便益は、店舗の出店先の空き物件を募集するキャンペーンでは、物件が成約すれば10万円がもらえるといった金銭的にメリットを応募者に対して提示しました。成約に至らなくても、商品クーポンがもらえ、キャンペーンへの参加者の1人として楽しめます。

また、バーガーキングのポスター内に 「私たちの勝チ」 と入っていることを見つけて思わず SNS でシェアしたくなるなどの、キャンペーン自体に楽しい顧客体験 (便益) があるコミュニケーションアイデアになっています。

バーガーキングのプロダクトアイデア

バーガーキングの異色なキャンペーンはどれも目立つ施策ですが、こうした 「コミュニケーションアイデア」 が機能するのも、バーガーキングの 「プロダクトアイデア」 が土台としてあるからです。

バーガーキングのプロダクトは、直火焼きの 100% ビーフパティを使用したハンバーガーです。

バーガーキングの味を一度でも知ってもらえれば、ファンになってもらえるという自信、主力商品の 「ワッパー」 というプロダクトが土台にあるからこそ、バーガーキングは賛否両論を呼び奇抜なキャンペーンを打ち出すことができるわけです。

魅力的な商品 (プロダクトアイデア) と、起爆力のあるマーケティング施策 (コミュニケーションアイデア) 。バーガーキングはこの両輪で独自性と便益を提供し続け、ファンを増やしているのです。

まとめ


今回はバーガーキングのマーケティングを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデア: 「プロダクトアイデア」 はプロダクト自体の魅力を生み出し、「コミュニケーションアイデア」 はプロダクトの価値を伝えるもの。それぞれに独自性と便益があることが大事。プロダクトアイデアとコミュニケーションアイデアは相互に依存しながらも、プロダクトアイデアが土台となる

  • バーガーキングの 「コミュニケーションアイデア」 : 出店の空き物件を SNS で募集することで消費者の直接的な参加を促し、エンターテインメントとしても機能した。他には、閉店する競合店への感謝メッセージを伝えたポスターには隠れた勝利メッセージを入れ込み、思わず人に言いたくなる楽しさをつくり話題を集めた

  • バーガーキングの 「プロダクトアイデア」 : バーガーキングのプロダクトは、質の高い直火焼きの 100% ビーフパティを使用したハンバーガー。異色なキャンペーンというコミュニケーションアイデアが機能するのも、バーガーキングのプロダクトアイデアが土台としてあるから


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。