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日清食品の CM 展開 「スルメサイクル」 がおもしろい。違いをつくって、つなげる

#マーケティング #CM #店頭

自社のビジネスは、参入している市場やカテゴリーで存在感を発揮しているでしょうか?

競争が厳しい今日のビジネスにおいて、ただ商品を競合から差別化するだけでは十分ではありません。もっと深く、消費者の心に響くストーリーを紡ぐ必要があるのです。

今回は、日清食品が展開する卓越したマーケティングコミュニケーション方法の 「スルメサイクル」 を取り上げます。

ストーリーテリングの方法とその秘訣について、日清食品の事例を通じて解説します。

日清食品の広告戦略


即席めんの 「カップヌードル」 などのロングセラーを持つ日清食品ですが、広告戦略がおもしろいです。

日清食品の広告は、CM 総研が実施している毎月の CM 好感度調査において、食品分野で常に上位に入っています。

スルメサイクル



注目したいのは 「スルメサイクル」 と呼ばれる広告フレームワークです。

スルメサイクルは日清食品が採用している方法ですが、「空中 → サイバー → 地上」 と展開するマーケティングコミュニケーションです。消費者の関心を引き、商品の購入につなげ、ブランドへの愛着を高めるプロセスです。

起点はテレビ CM

スルメサイクルはテレビ CM が起点になります。

日清食品が展開する広告を語る上で、テレビ CM の存在は欠かせません。たとえばカップヌードルはマス層に届けたい商品であり、多くの消費者にリーチできるマス広告は変わらず有効だからです。

日清のテレビ CM でのポイントは、CM コンテンツの中に思わず検索や SNS 投稿をしたくなる仕かけを盛り込むことにあります。その後、内容が気になったユーザーは CM についてスマホなどで検索し、自ら発見した CM 内のネタを SNS に投稿するというわけです。

UGC からの話題化メカニズム

こうした消費者のアクションはユーザー生成コンテンツ (UGC) を生み出し、それがさらに SNS 上で共有されたり、SNS のトレンドに入ったりまとめサイトなどに掲載されます。これにより、より多くの人たちへと情報が拡散していきます。

さらには 「Yahoo! ニュース」 のようなポータルサイトに取り上げられることもあります。そして、ネット上で話題になったテーマは最終的にはテレビ番組で紹介され、より大規模な情報露出を得ることになるのです。

購買行動への影響

スルメサイクルからの一連の流れは、ロイヤルユーザー (熱量の高い既存顧客) の共感度を高めるとともに、たまにしか食べないライトユーザー、あるいはノンユーザー (未顧客) の興味を惹き、新たな顧客層へのリーチと獲得につながります。

スーパーマーケットやコンビニ、ドラッグストアなどのお店での売場づくりと組み合わせることで、消費者がブランドのことを身近に感じる体験を提供し、商品購入へと導くのです。

空中 → サイバー → 地上

このようなスルメサイクルは、「空中」 の広告媒体での露出、「サイバー」 のオンラインでの情報拡散、そして 「地上」 の実店舗での体験のかけ算での波及効果から、情報が消費者の間で咀嚼され、広がっていくプロセスです。

まさにスルメは噛むほど味が出るように、消費者が関与する度にブランドへの関心が深まり、その結果として商品の購入につながるという仕かけです。

スルメサイクルから学べること


では、日清のスルメサイクルの事例からビジネスに学べる教訓を考えてみましょう。

 「違いをつくり、つなげる」 

競争が激化する市場において、企業はただ製品を差別化するだけではなく、それをお客さんの心に深く根ざすストーリーへと結びつけなける必要があります。

日清のケースは、「違いをつくり、つなげる」 という競争ストーリーの要諦を鮮やかに示しています。

差異化からの価値提供

まず 「違いをつくる」 とは、単に競合から差異化を図るのではなく、お客さんにとって他にはない価値を生み出すことです。

日清は独自の広告キャンペーンを展開し、消費者の関心を惹くことに焦点を当てています。

たとえばカップヌードルの CM では、従来の広告とは一線を画すクリエイティブなアプローチが取られ、視聴者の好奇心を刺激し、SNS での言及や検索を促す仕かけが盛り込まれています。

その結果、差異化された CM コンテンツ自体がおもしろい、シェアしたいという感情的価値をつくり、消費者に受け入れられ、日清食品を選ぶ理由になっていくわけです。

違いをつなげるストーリー

それぞれの 「違い」 がバラバラに存在するのではなく、ストーリーとして紡がれていくことが重要です。

日清のスルメサイクルでつながっているのは、

  • オフラインからオンライン (リアルとデジタル) 
  • 公式コンテンツ (広告) から UGC
  • 広告から店頭


という3つの異なる要素が連動しています。まるで1つの物語のように消費者にブランド体験をもたらします。

テレビ CM に始まり、消費者がオンラインで反応し、その結果生まれた UGC が他の消費者を動かし、実店舗での購入に結びつくという 「スルメサイクル」 からのムーブメントは、ストーリーテリングを効果的に活用したマーケティングの模範と言えるでしょう。

大切なのは、情報やコンテンツがどのようにしてお客さんに届き、その受け手がどんなふうにそれを共有し、最終的に行動変容に至るかを理解することです。

日清はこの流れを丁寧に設計し、最終的に消費者がコンビニやスーパー等のお店でカップヌードルなど自社商品のことを思い出してもらい、商品を手に取り、購入し、そして楽しむという一連の顧客体験を 創出しています。

ライトユーザーとロイヤルユーザーの態度変容

スルメサイクルのプロセスを通じて、たまにしかカップヌードルなど日清の商品を食べないライトユーザーは、久しぶりに思い出し、あらためて食べるとおいしさに満足し、次にまた購入する機会を見出すでしょう。

一方で、定期的に買うロイヤルユーザーは、新しい CM や SNS での話題によって、ブランドへの愛着や親近感を一層深めてくれることが期待できます。

このように、日清は消費者の購入頻度の多寡に問わず、1人ひとりの心に響くようなマーケティングコミュニケーションを展開しているのです。

ストーリーからの価値創出

日清食品からビジネスにおいて学べることは、単に製品を市場に出し、見える形で差異化するだけでは必ずしも十分ではないということです。

商品が生きるストーリーを生み出し、消費者1人ひとりの体験と価値創出に結びつけることで、真の意味での差異化が達成されます。売上の増加とともに、ブランドと消費者との持続可能な関係の構築につながるのです。

まとめ


今回は日清食品のマーケティングコミュニケーションを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ビジネスでは 「違いをつくり、つなげる」 が大事。市場における激しい競争を勝ち抜くために商品を単に差異化するのではなく、お客さんへの価値を生み出し、それぞれの価値をストーリーとして紡いでいく

  • 日清食品の 「スルメサイクル」 は、テレビ CM が起点となり、オフラインとオンラインの境界を越え、公式コンテンツ (広告) と UGC 、店頭までつながったストーリー展開。消費者にブランド体験を提供する

  • テレビ CM が触発した消費者のオンラインでの行動は、最終的に店頭での購入を促す行動変容へとつながり、マーケティングの効果的なストーリーテリングを実現している

  • 日清のマーケティングコミュニケーションは、消費者がお店でカップヌードルなどの自社商品のことを思い出してもらい、商品を手に取り、購入し、そして楽しむという一連の顧客体験を創出する。ライトユーザーとロイヤルユーザーの両方に対して、それぞれの態度と行動を変容させることを目指している


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。