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シコク メグル キッチン & マルシェ。既存資産を有効活用し、その先の “伏線” となる価値設計

#マーケティング #価値創出 #ビジョン

自社のビジネスは、今ある既存の資産を最大限に活用できているでしょうか?
そして、資産を有効活用することで他にはない顧客価値を生み出せているでしょうか?

今回取り上げたいのは、JR 四国のユニークなセレクトショップとフードコートです。

地元のネットワークと知識を活かし、四国の知られざる特産品を集め、地域の魅力を再発見しました。この事例から学べる3つのポイントを解説します。

シコク メグル キッチン & マルシェ



香川県の玄関口にあたる JR 高松駅に、駅に直結した駅ビル 「TAKAMATSU ORNE (タカマツ オルネ) 」 が2024年3月にオープンしました。

入っているテナントの中でも人気なのは、知られざる四国の食品を集積したセレクトショップとフードコートの 「shikoku meguru kitchen&marche (シコク メグル キッチン & マルシェ) 」 です。2024年3月末までの実績では売上目標の1.6倍を超える好発進を切りました (参考記事) 。

売り場のこだわり

シコク メグル キッチン & マルシェの売場づくりへのこだわりは、四国の人でもなかなかお目にかかれない商品、知らないような魅力あふれる商品を一同に集わせるというのものです。

JR 四国グループの各地の従業員にアンケートを実施し、その結果をもとに四国全域を巡って自身の目と舌で確かめておいしいと思ったものだけを集めたとのことです。

出典: 筒井製菓

たとえば、地元の高松市の豆菓子専門店 「筒井製菓」 のフライ豆です。筒井製菓は、直火で豆菓子を製造する1950年創業の老舗の会社です。

素朴でおいしいものの、廃れつつあった大野豆にスポットを当てて広めている筒井製菓に共感したことがきっかけで、シコク メグル キッチン & マルシェで取り扱うようになりました。

他にも、今まで見逃されてきた存在に光を当て、四国の食材を余すところなく活かすことに力を注いでいます。


もう1つ例あげると、自然農法でおいしく安全な柑橘 (かんきつ) づくりに携わってきた愛媛県西予 (せいよ) 市の無茶々園 (むちゃちゃえん) には 「唯一無二の柑橘ジュースをつくってほしい」 と依頼したそうです。

完成した 「二日酔いの朝専用ジュース」 は、あまり知られていない弓削瓢柑 (ゆげひょうかん) にポンカンをブレンドしたもので、すっきりした味わいが二日酔いの朝におすすめだそうです。

開発の背景

では、シコク メグル キッチン & マルシェの開発背景を見てみましょう。

一般的な駅ナカの食物販への疑問が開発の原点でした。そもそも従来の駅ナカについて食物販のあり方に開発担当者が疑問を抱いていました。

お客さんにとっては何を買えばいいのかわからない陳列で、スタッフも説明できない売場が多すぎるという問題意識です。仕入れは人任せ、商品選びのアドバイスもなく、ただ来店客の選択に委ねてしまっている。これでは店舗の役割を果たしていないという、憤りにも近い思いだったとのことです。

地域産品を "陳列するだけ" にしない

四国全域を知り尽くす JR 四国グループが手がけるお店だからこそ、それを活かすべきだと考え、ただ単に地域産品を陳列する売場にはしないという思いがシコク メグル キッチン & マルシェには反映されています。

全7人のチームメンバーとともに四国各地を奔走し、四国の人でも滅多に出向くことのない地域まで自ら足を運び、おいしい食を探す。自分たちが本当においしいと思った商品をしっかりとお店で紹介する。そこまですることで、駅ナカの食物販ゾーンははじめてお客さんに驚きを届けられるという思いからです。

四国をめぐる玄関に

シコク メグル キッチン & マルシェには2つの基本方針があります。「四国の人も知らない四国を」 と 「ここをゲートに多くの人が四国各地に足を伸ばす契機に」 というものです。

店名に 「メグル」 と入っていますが、シコク メグル キッチン & マルシェに来たお客さんが、店内で四国をめぐるだけではなく、四国各地をめぐる玄関のような存在になることを目指しています。

地元客に愛されてこそ、旅行客にも人気になる

シコク メグル キッチン & マルシェの想定利用者として注目したいのは、四国への旅行客以上に 「地元客」 を重視していることです。

地元に暮らす人たちが振り向く商品が売れられている、地元客がリピート買いするような人気商品があるからこそ、旅行客からも好反応を得られるという考え方からです。

シコク メグル キッチン & マルシェのオープン当日に来店した高松市内に住む女性は 「初めて見たものも多く、仕事帰りに立ち寄るのが楽しみになった」 とうれしげだったとのことです。

学べること


では JR 四国の 「シコク メグル キッチン & マルシェ」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。

次の3つの学びが得られます。

  • 既存資産の有効活用
  • 他にはない顧客価値の創出
  • ビジネス構想の絵を大きく描くこと


順番に見ていきましょう。

既存資産の有効活用

まず、この事例から学べるのは 「既存資産の有効活用」 です。

JR 四国は地元とのネットワークや情報、地元に関する知識を活用して、四国の知られざるおいしい食べものや飲みものを一同に集めました。JR 四国グループの各地の従業員にアンケートを実施し、得られた情報をもとに自分たちの足で四国全域をまわり、取り扱う商品を選び抜いたのです。

従業員の知識と経験を最大限に活かし、地元の魅力を再発見し、お店での商品提供に活用しています。

また、地元の四国の人でもなかなかお目にかかれない商品を取り扱うことで、地域の特産品の価値を再認識し、地域経済の活性化にも寄与しています。

他にはない顧客価値の創出

次に、他にはない 「顧客価値の創出」 です。

シコク メグル キッチン & マルシェは、コアターゲット顧客を地元客に設定しました。もちろん、四国を訪れる旅行客もターゲットのお客さんに含まれていますが、重視しているのが地元客です。

地元の人たちが初めて目にするような四国の名産や一品を集めることで、四国でも他にはない、そこでしか買えないお店を目指しています。

この戦略の背後にある狙いは、地元のお客さんがリピート買いするくらい人々に愛される商品を取り扱うことで、旅行客にも価値のあるお店となり、好評を得ることができるという考え方です。

ビジネス構想の絵を大きく描くこと

3つ目に学べるのは、「ビジネス構想の絵を大きく描くことの重要性」 です。

シコク メグル キッチン & マルシェの開発の原動力となったのは、一般的な駅ナカの商売への疑問や憤りでした。従来の駅ナカの食物販は、商品の説明が十分にされず、陳列もわかりにくく、来店客には親切なつくりになっていないという問題意識からです。

そこで、JR 四国はターゲット顧客を地元客とし、地元の人たちが本当にほしいと思うものを提供することを目指しました。さらに、商品をただ売るだけでなく、四国のめずらしい品々をお店で知ってもらい、その後に実際に四国各地をめぐってもらうというシナリオを描いています。

このように、お店を商品販売の場所にとどめず、四国での顧客体験を通じて地域への関心や郷土愛を高め、そして旅行客からも四国への愛着を深めるという大きなビジョンが、シコク メグル キッチン & マルシェの土台になっているのです。

まとめ


今回は、JR 四国の高松駅にあるセレクトショップとフードコートの 「シコク メグル キッチン & マルシェ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 既存資産の有効活用: JR 四国は地元のネットワークと知識を活用し、知られざる四国の特産品を一同に集めた。従業員のアンケート結果をもとに四国全域をめぐり選び抜いた商品を提供。地域の魅力を再発見し、シコク メグル キッチン & マルシェは経済の活性化に貢献している

  • 他にはない顧客価値の創出: シコク メグル キッチン & マルシェは、地元客をコアターゲットに設定し、地元の人たちが初めて目にするような四国の名産品を扱っている。地元客がリピート買いする人気商品を取り扱うことで、旅行客にも魅力になることを狙う

  • ビジネス構想の絵を大きく描くこと: ターゲット顧客を地元客とし、シコク メグル キッチン & マルシェが玄関となり四国全体への興味や愛着を高めるビジョンを描く。商品販売だけでなく、地域への関心と郷土愛を高めることを目指している


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。