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新規ビジネスの転換点。成否をわける PMF 達成後に待ち受ける成長の壁と克服法とは?

#マーケティング #PMF #新規事業

Product Market Fit (PMF) という概念は、新規事業を成功させるカギを握っています。

その一方で、PMF を達成した後のビジネスでも新たな課題に直面します。

今回は、PMF をキーワードに、PMF とは何か、PMF を実現したあとに発生する課題と、それらに対する具体的な解決策を解説します。

新規事業のターニングポイント 「PMF」 


新規での事業を立ち上げていくときに、最初にある分岐点が PMF です。

大げさではなく、ビジネスが生きるか死ぬかのターニングポイントとなります。

PMF とは

PMF は Product Market Fit の略です。日本語に直訳をすると 「プロダクトが市場にフィットしている状態」 です。

マーケティングの観点での PMF の意味合いは、商品やサービスが市場に受け入れられている状況、つまりお客さんからプロダクトが必要とされ、これなしではいられずプロダクトが愛されている状態を指します。

PMF の前提は正しい市場にいることです。ここまでの話を図に表すと以下のようになります。


PMF になる前 vs PMF になった後

PMF を達成した前後で状況は大きく異なります。


PMF 前はさながら重い岩を押しながら山を登っている状態です。

PMF になってない商品は広告を出稿しても申込みはなく、営業パーソンが必死に売り込みをかけても発注をもらうことがなかなかできません。自分たちのプロダクトは PMF になっているかと疑問に思う時点で、そもそも PMF ではないわけです。

一方の PMF 後は、山からの下山で重い岩も勝手に山の斜面を転がっていくイメージです。

PMF となっていれば商品はお客さんに引っ張られるようにどんどん売れていき、引く手あまたな状態になります。お客さんは商品を使い続けてくれ、口コミをして他のお客さんを連れてきてくれたりもします。

PMF の前後ではこれくらい状況が違います。

では、後半のパートでは 「PMF 達成後」 について、詳しく見ていきましょう。

PMF 後の成長の壁 (と対処法) 


PMF が実現すると顧客数が増え、客単価も上がっていき、それにつれて売上が伸びていきます。

そのまま順調にビジネスが拡大していけばいいですが、成長の踊り場が訪れます。

成長を阻害させる立ちはだかる壁と、その解決策を見ていきましょう。

新規獲得だけに頼る成長の限界

新規顧客の獲得だけに依存する成長戦略は、持続可能ではありません。既存顧客のリテンション (継続利用による顧客維持) と LTV (Life Time Value 顧客生涯価値) の向上に焦点を当てるべきです。

ただし、既存顧客の LTV 向上に一辺倒になってはいけません。継続的に商品やサービスを成長させるためには、新規顧客の獲得も進めることが大事です。

どんなに強いブランドでも離反顧客は一定数存在します。既存のお客さんからの満足度を高めてのリテンションへの対応と、新規のお客さんを増やすという両方への対応が必要になります。

顧客解像度が薄れていく

事業が成長するにつれて、「大事にすべき顧客」 が見えなくなりがちです。

既存顧客については、特に LTV の高い顧客を定期的にモニタリングし、顧客像とその変化を追い続けることが重要です。

一方の新規顧客獲得に向けては、当初のターゲット市場に残っている見込み客 (自社商品のことを知っているが買っていない層, 商品非認知の層) だけではなく、未開拓である今の想定市場の外側にいる未顧客 (そのカテゴリー自体がまだ初めての層も含む) にも広げて、顧客理解の解像度を高めます。

そして、顧客層の全体像を再定義し、どの層やどの顧客タイプを優先して取り組むかの優先順位を定めるといいでしょう。

KPI とリソースの分散

KPI (重要業績評価指標) とリソースの分散は、成長段階の企業にとって課題です。

KPI が多すぎると、重要な取り組みへのフォーカスが不十分になります。それがリソース投入の分散につながり、得られる成果が中途半端な状況に陥ります。

ここで大事なのは、売上に直結する KPI 、既存顧客であれば LTV (結果指標) 、LTV を向上させるドライバー (先行指標) に焦点を当てることです。

新規顧客であれば CPA (顧客獲得単価) だけではなく、どれだけ想起を取れているか (特定のシチュエーションで商品のことを思い出してもらえるか) 、新しいお客さんが必要なときに買える状況をつくり出しているかを追いかける指標とします。

散漫になるマーケティング 4P への対処

マーケティングの 4P (Product, Price, Place, Promotion) も、ビジネスが成長するにつれて複雑化します。

  • Product お客さんが多くなることで商品点数が増える
  • Price 価格設定の全体的な整合性がなくなる
  • Place 商品ラインアップや顧客層が広がるにつれて、顧客接点とコミュニケーションの数が多くなり、既存チャネルのパフォーマンスが低減
  • Promotion 顧客層が複数になることで、今までの顧客接点での価値訴求では、結局誰にも響かないコミュニケーションになる


4P への対処法を整理すると、次の通りです。

✓ Product

  • 商品ポートフォリオを定期的に評価する
  • 売上や顧客フィードバックにもとづいて、市場価値のある商品に焦点を当てる。商品開発では顧客ニーズと市場トレンドにもとづいて行う

✓ Price

  • 価格設定は競争力を保ちつつも、利益を最大化するバランスが求められる
  • 価格の見直しは、お客さんからの価値認識の変化やコスト構造の変動に応じて行う必要がある
  • 価格を上げる場合は、原則として 「価値を高めて価格を上げる」 が重要

✓ Place

  • パフォーマンスの低下したチャネルの見直し、新しい販売チャネルへの最適化を目指す
  • 実店舗 (オフライン) と EC (オンライン) の販売チャネルを統合し、顧客体験の一貫性を保つ

✓ Promotion

  • 顧客セグメントごとに、その顧客文脈に応じたコミュニケーションを設計する
  • 各セグメントのニーズと価値観に合わせたメッセージを伝える

施策改善スピードの鈍化

施策改善スピードの鈍化は、多くの定常業務の増加により引き起こされます。

たとえば顧客対応、セールや販促、SNS 運用、データ更新、サイト更新など、各種の定常業務が増えていきます。その結果、やることが増えるにつれ、次第に1つ1つの改善スピードが鈍化してきます。

施策改善スピードの鈍化に対処するには、迅速な意思決定と実行の体制を整えることが大切です。

まず、組織やチームに意思決定と実行への権限を委譲し、各チームが迅速に決断し、施策を展開できるようにします。これにより、早い PDCA のサイクルを生み出し、施策の効果を早期に評価できるようになります。

また、データドリブンでの意思決定のアプローチを取り入れ、リアルタイムでデータを分析し、施策を改善していくことで、市場や顧客のニーズにすばやく対応できます。

そして、失敗を恐れずに挑戦する姿勢を促し、常に学習と改善のサイクルをまわす文化を醸成することが、施策改善スピードを加速させることにつながります。

まとめ


今回は 「PMF」 をキーワードに、前半では PMF を達成するために、後半では PMF 後の成長の踊り場と対処法を考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • Product Market Fit (PMF) とは、商品やサービスが市場に受け入れられ、お客さんから本当に必要とされている状態。正しい市場にいることが PMF 達成の前提条件

  • PMF 達成前は商品は市場から十分に受け入れられず、広告や営業努力にもかかわらず成果が出にくい。しかし、PMF を達成した後は、商品が市場に引っ張られる形で売れ、お客さんに愛される状態になる

  • PMF 達成後には、顧客数の増加とともに売上が伸びるが、新規獲得にのみ焦点を当てた成長戦略は限界がある。持続可能な成長を実現するには、既存顧客の維持と LTV の向上と、引き続き新規顧客の獲得にも注力する必要がある

  • 成長段階においては、顧客解像度の希薄化、KPI とリソースの分散、散漫なマーケティング 4P 、施策改善スピードの鈍化が成長を阻む

  • これらに対処するためには、
    ① ターゲット市場を再評価し、未開拓の顧客層への理解を深め、顧客層の全体像を再定義する
    ② 売上に直結する KPI に焦点を当て、リソースを効率的に配分する
    ③ 商品ポートフォリオの定期的な評価、価格戦略の見直し、販売チャネルの効率化、顧客セグメントにもとづいたプロモーション戦略のカスタマイズ
    ④ 実行組織への権限委譲から意思決定と実行の迅速化を図り、失敗を恐れずに挑戦する文化を醸成し、改善サイクルをまわす


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。