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ニップンと刀の協業。データの奥にある意味を汲み取るマーケターに求められる洞察力

#マーケティング #顧客理解 #価値提案

マーケティング活動において、お客さんの声をどのように扱っていますか?

アンケート結果、他にはお客さんからのレビューをそのまま受け取るだけでは、お客さんから本当に求められている望みを見逃してしまうかもしれません。お客さんの言葉の背後にある本音や心理をどれだけ深く理解できるかが、マーケティングの成功のカギを握ります。

今回は、ニップンとマーケティング支援会社の刀の協業事例を取り上げ、お客さんの声を読み解き、効果的なマーケティングを展開する方法について探ります。

刀とニップンと協業



マーケティング支援会社 「刀」 が、ニップンと2022年10月から協業を開始しました。

両社がタッグを組んだことで、ニップンの家庭用パスタ商品の売上やブランドシェアの向上につながりました。売上の昨対比で見ると、2023年10月 ~ 2024年5月でニップンのオーマイプレミアムの冷凍パスタが 120% と伸長しました (参考記事) 。

新商品と成功要因

刀とニップンの協業後に、新たに発売された主な商品は2つです。

  • [乾燥パスタ] 2024年2月に 「オーマイプレミアム もちっとおいしいスパゲッティ」 を発売
  • [冷凍パスタ] 2024年3月から 「オーマイプレミアム」 の新ラインを展開し、具材のごろっと感を強調


その成功の要因を挙げると、次の3つです。

  • マーケティングの改革: ニップンは刀との協業で、商品企画から開発、製造、営業、広告まで一貫した組織体制へと変えた
  • 消費者理解: パスタの魅力を再確認するとともに、消費者調査からの顧客理解にもとづいた商品の開発とパッケージを刷新した
  • おいしさの追求と訴求: 消費者が本能的に求める 「おいしさ」 に焦点を当てた


こちらの関連動画も興味深かったです。



成功要因の掘り下げ


マーケティングでは、お客さんの声を訊き、言動だけではなく背後にある心理までを理解することが重要です。

ニップンと刀の協業による成功例は、このアプローチの好例です。そこで後半のパートでは、今回の事例をケーススタディとしてお客さんの声の読み解き方について解説します。

少数派からの洞察

ニップンは刀の提言をもとに、徹底的に消費者調査を実施しました。その中で、2023年3月に実施された乾燥パスタに関する調査があります。

この調査では、消費者4000人を対象に実査されたものです。アンケート調査の中に 「パスタのおいしさは、麺よりソースの出来次第だと思うか」 という設問がありました。回答は Yes が 48% 、No が 12% という結果でした。つまり、多くの消費者がパスタ料理においてソースを重要視していることがわかります。

この結果を見て、普通ならソースの改善や強化に力を入れたくなるでしょう。しかし、ニップンと刀は、あえて少数派の意見である No に注目しました。ソースよりもパスタの麺の質を重視する少数派の意見にこそ、潜在的な需要や成長の余地があると見抜いたのです。

この洞察が、乾燥パスタの 「おいしさ」 をあらためて強調する方針につながりました。

調査からの仮説

また、同じ調査からの 「最も好きなパスタが食べられるお店」 を聞いた設問からも興味深い示唆を得ています。

回答で 「個人経営のイタリア料理店」 とした人が 23% だったのに対して、日本で浸透した 「イタリアンチェーンや専門店」 が 51% を占めました。このことから、本場のイタリアで提供されるような麺がアルデンテとなっている歯応えよりも、うどんのような 「もちっとした食感」 を好む日本人が多いのではないかという仮説が生まれました。

洞察の活用

ニップンと刀は、調査結果を直接的に受け取るのではなく、背後にある消費者の心理を読み解きました。

消費者調査などの結果や検討から、ニップンは 「もちっとおいしい」 というコンセプトを立案しました。調査への表面的な回答の裏側にある、消費者の本音や潜在的なニーズを汲み取ることで、新たな商品コンセプトを生み出すことができたわけです。

そしてパスタの魅力を消費者に伝えるために、パッケージデザインを刷新し、シズル感を強調しました。

お客さんの声のとらえ方


マーケティングで大事なのは、お客さん者の声をそのまま鵜呑みにするのではなく、顧客文脈を理解し、解釈を加えることです。

背後の心理を読み解く

多数派の意見に迎合することは必ずしも正しいものではありません。

少数派の声に耳を傾け、そこから新たな可能性を見出す。見出した洞察をもとにお客さんにとっての価値を定義し、商品開発やマーケティングに活かしていく。こうした姿勢を持ちつづけ、このプロセスを丁寧に行うことが、新たな商品開発やマーケティングにつながるのです。

ニップンと刀の取り組みは、お客さんの声をどのように読み解くかへのヒントが隠された事例です。

マーケターに求められること

マーケターには、データの表面的な理解だけでおわらず、奥にある 「データの意味合い」 を汲み取る力が求められます。

お客さんの言葉をそのまま受け取るのではなく、言葉の背後にある真のニーズを探ることが大切です。常にお客さんの立場になるようにし、共感の姿勢を忘れないことがポイントになります。

顧客理解にもとづいた商品開発とマーケティング活動は、新たな市場を切り拓く原動力となります。

このアプローチを心がけることで、競争の激しい市場においてもお客さんにとって本当に価値のある商品を提供することができるのです。

まとめ


今回は、ニップンと刀の協業の話を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • お客さんの声をそのまま受け取るのではなく、顧客文脈を理解し解釈を加えることが大事

  • 多数派の意見に迎合することは必ずしも正しいとは限らない。ときには少数派の声に注目し、得られた洞察によって新たな価値を創出できる

  • データや情報の表面的な理解にとどまらず、奥にある意味合いを汲み取る。お客さんの言葉や行動の背後にある真のニーズを理解し、共感の姿勢を持つ


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。