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新規事業の生死を分けるターニングポイント。PMF を制する者が新ビジネスを制す

#マーケティング #新規事業 #PMF

新規事業を立ち上げたものの、なかなか軌道に乗らない。広告を出しても反応が薄く、営業をかけても成果が出ないーー。そんな状況に直面したことはないでしょうか?

その原因は 「Product Market Fit (PMF) 」 にあります。PMF を達成できるか否かは、ビジネスの生死を分ける重要なターニングポイントなのです。

PMF とは何か、なぜ重要なのか、そしてどうすれば達成できるのか。今回は、PMF の本質と実現への道筋を紐解きます。

Product Market Fit (PMF) 


新しく事業を立ち上げていくときに、最初にある分岐点が PMF です。大げさではなく、ビジネスが生きるか死ぬかのターニングポイントとなります。

PMF とは

PMF は Product Market Fit の略です。日本語に直訳をすると 「プロダクトが市場にフィットしている状態」 です。

マーケティングの観点での PMF の意味合いは、商品やサービスが市場に受け入れられている状況、つまりお客さんからプロダクトが必要とされ、これなしではいられずプロダクトが愛されている状態を指します。

PMF のニュアンスをもう少し詳しく共有すると、PMF とは、適切な市場を選択し、想定するお客さんから 「お金を払ってでも欲しいとプロダクトである」 、「これがないと困る」 のように自社プロダクトがお客さんに本当に必要とされている状況です。

PMF の前提は正しい市場にいることです。ここまでの話を図に表すと以下のようになります。


PMF の因数分解

PMF をさらに中身を分解すると、次の3つになります。

✓ PMF の因数分解
  • ユーザーに必要とされる
  • 収益化ができる
  • 持続可能性がある


これら3つの要素が成立すると PMF の実現につながります。

では3つそれぞれについて詳しく見ていきましょう。

[要素 1] ユーザーに必要とされる

PMF の1つ目の要素はプロダクトがユーザーに求められていることです。ユーザーから 「あったらいいな」 ではなく、「ないと困る」 「お金を払ってでも欲しい」 と思ってもらえているかです。

ユーザーに必要とされているということは、ユーザーはプロダクトに他にはない価値を感じているということです。

[要素 2] 収益化ができる

2つ目の PMF の要素はお金です。ユーザーへの価値提供から収益化ができている状態です

ビジネスなので、プロダクトからの売上と利益を生めるかです。マネタイズの仕組みが構築されているかの観点で PMF を見極めます。

[要素 3] 持続可能性がある

3つ目の要素は持続可能性です。1つ目と2つ目で見たユーザーから必要とされ収益化ができていても、一過性の現象であれば PMF としては弱いです。

お客さんがプロダクトを利用することによって価値がもたらされます。お客さんへの価値提供によって収益化ができ、ビジネスモデルが中長期で回っていることが事業の観点からは大事です。

PMF を実現するために


ここまで PMF とは何かを因数分解することによって掘り下げてきました。

では、PMF を実現するためには何をすればいいのでしょうか?

PMF の検証

一言で言えば、PMF の仮説を立てて検証を繰り返します。仮説は次のように5つに分解します。

✓ PMF を検証するための仮説のつくり方
  • 顧客仮説 (誰が自分たちの顧客か) 
  • 問題仮説 (顧客が抱えている問題や困りごと) 
  • ソリューション仮説 (問題の解決方法 (= プロダクト) ) 
  • 価値仮説 (プロダクトによって顧客が得る価値) 
  • 収益モデル仮説 (価値提供からの収益化方法) 


5つの仮説はこの順番でつくり検証していきます。新規事業の初期フェーズは、論点を掘り下げ仮説を立てて、お客さんにぶつけ、仮説検証を繰り返しながら、いかに PMF に到達できるかの勝負なのです。

PMF になる前 vs PMF になった後

PMF を達成した前後で状況は大きく異なります。


PMF を達成する前は、さながら重い岩を押しながら山を登っている状態です。

PMF になってない商品は広告を出稿しても申込みはなく、営業パーソンが必死に売り込みをかけても発注をもらうことがなかなかできません。自分たちのプロダクトは PMF になっているかと疑問に思う時点で、そもそも PMF ではないわけです。

一方の PMF を実現した後は、山からの下山で重い岩も勝手に山の斜面を転がっていくイメージです。

PMF となっていれば、商品はお客さんに引っ張られるようにどんどん売れていき、引く手あまたな状態になります。お客さんは商品を使い続けてくれ、口コミをして他のお客さんを連れてきてくれたりもします。

これがプロダクトがお客さんやマーケットにフィットしているという PMF の状態です。PMF の前後ではこれくらい状況が違います。

健康管理アプリの PMF


それでは、架空のサービス事例で PMF について具体的に考えてみましょう。

例として健康管理アプリとして、アプリの名前は 「HealthPal (ヘルスパル) 」 とします。

PMF 達成前の状況

HealthPal は健康管理アプリとして、ユーザーが食事や運動の記録を簡単に行えるよう開発されました。

しかし、PMF を達成する前は以下のような状況で、期待とは裏腹に厳しい状態でした。

  • 広告や営業活動の成果がでない: 広告を出してもアプリのダウンロード数は伸びず、営業チームが企業向けに提案しても契約を獲得できない

  • ユーザーの定着率が低い: アプリをダウンロードしても、継続的に使ってくれるユーザーが少なく、一度使ってしばらくした後はアクセスがなくなり、アンインストールされる

  • ネガティブなフィードバック: ユーザーからは 「操作が難しい」 「使いにくく他のアプリのほうがいい」 といったネガティブなフィードバックが寄せられる

PMF へのターニングポイント

HealthPal が PMF を達成するためのブレイクポイントとなったのは、次のような取り組みでした。

  • ユーザーインタビューの実施: 開発チームは、既存ユーザーと潜在ユーザーに対して徹底的なインタビューを行った。特に、何が使いづらいのか、どの機能が本当に必要とされているのかなどを掘り下げた

  • パーソナライズ機能の追加: インタビューから得た洞察をもとに、ユーザーごとにカスタマイズされた健康アドバイス機能を追加。ユーザーは自分専用の健康プランを受け取れるようになった

  • シンプルな UI/UX の導入: 操作が難しいというフィードバックを受け、ユーザーインターフェースを簡略化。誰でも直感的に使えるようになり、ユーザー体験が向上した

PMF 後の状況

これらの改善を地道に行った結果、HealthPal は PMF を達成し、状況は変わりました。

  • オーガニックなユーザー獲得: 広告を出さなくても、ユーザー同士の口コミで新規ユーザーが増加。ユーザーがアプリの利便性やパーソナライズ機能を友人や家族に紹介するようになり、ダウンロード数が増加した

  • 高いユーザー定着率: 一度ダウンロードしたユーザーが継続的に利用するようになり、アンインストール率が低下。ユーザーにとって HealthPal は毎日の健康管理に欠かせないツールに

  • ポジティブなフィードバック: アプリストアのレビューも高評価が多くなり、特に 「使いやすい」 「自分に合ったアドバイスがもらえる」 といったポジティブなコメントが見られるようになった


以上が HealthPal が PMF を達成するまでの過程と、達成後の状況の変化です。

PMF を達成したことで、サービスはユーザーにとって本当に価値のあるものとなり、自然と市場に受け入れられるようになりました。

初期の 「泥臭く地道な取り組み」 が成否を分ける


最後に少しだけ。

新規事業においては、プロダクト開発の初期フェーズでの PMF の検証においては効率さを優先するよりも、泥臭さや非効率な取り組みが大事です。

1人ひとりのお客さんに直接会いに行き、ユーザーの声に耳を傾け、実際の利用シーンや顧客文脈を観察する。直接的・間接的なフィードバックを貪欲に集める。改善点を見極め、プロダクトに反映する。文章にすると当たり前のことに見えるかもしれませんが、1つ1つを徹底できる企業や人は多くはないでしょう。

だからこそ、開発初期段階での PMF を追求できるかが、市場ニーズに応え、その後の事業の持続可能な成長につながるカギを握るのです。

まとめ


今回は PMF についてでした。

最後にポイントをまとめておきます。

  • Product Market Fit (PMF) とは、お客さんが本当にプロダクトを必要とし、お金を払ってでも欲しいと思われている状態。正しい市場を選択することが PMF の前提になる

  • PMF 達成前はビジネス活動をいくら努力しても成果が出にくい。一方で PMF 達成後は、① ユーザーに必要とされる、② 収益化ができる、③ 持続可能性がある。自然とお客さんが集まり、事業が成長する

  • PMF の達成のためには、初期段階において効率性より 「泥臭く地道な取り組み」 が重要。お客さんのところに行き、声に耳を傾け、利用シーンを観察する。フィードバックを集め、改善点を見極めてプロダクトに反映する


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。